たとえば禁忌からはじまる小さな英雄譚

おくり提灯LED

文字の大きさ
22 / 58
第一部・一章

全員で帰るんだ

しおりを挟む



 ひとしきり胴上げに大盛り上がりをした後、騎士達は使った道具の回収や片づけをしはじめた。
 ライヤはこのあとの現場は領内の役所に任せると本国に<遠い耳>で連絡を入れ、その引継ぎの為に騎士を二人、領主の元へ行くように命じた。
 ぶっ倒しました、はい、終わり――というわけではないのだなぁ、とアレクセイは騎士達と一緒に砲網を回収しながら考えていた。

 そんな中、サーシャは巨鳥から落ちずに、こちらに先に送られてきた少年兵達に囲まれていた。どうやら救出劇は相当にサーシャが格好良かったようで、少年達に大人気だ。
 アレクセイは見ながら、最初は微笑ましく感じていたが、ふと表情を曇らせた。

「でも、他の子達は……」

 燃え尽きたんだよなと言いそうになって、口をつぐむ。
 誰もが最善を尽くした。結果は選べることではない。
 そう自分に言い聞かせようとした時、

「白鉄騎士団、団長のライヤだ」

 と、ライヤが<遠い耳>に届いた声に返事をした。本国と連絡をしていた時とは声の色が違う。わずかに侮蔑や怒気が混じっているように感じる。

「合流に失敗した点に関しては、規定通りの対応をするつもりだ」

 どうやら、ここにきていなかった駐屯軍の人間が相手のようだ。まさか騎士団がやってきて数時間程度で理の外の炎が鎮火するなんて、誰も想像できなかっただろう。

 どうせ理の外相手では何もできないのだから、兵を危険にさらさずに捕虜の少年兵だけを現場に捨てるように届け、本隊は様子を見るつもりだった。が、鎮火を確認してあわてて連絡をしてきた――というところだ。

「捕虜? 捕虜ねぇ」

 ライヤはサーシャになついている少年兵に目を向けた。
 その視線だけで少年達は黙る。顔つきが不安になる。生き残ったことを喜んでいたが、ここは敵国だと思い出したようだった。
 自分達は殺されるために、この山に送られてきたのだと――。

「その捕虜とやらは、おそらく全滅だろう。まあ、現場の指揮はこちらにあるのだから、捜索と死体の処理くらいできるが、いかがか?」

 ライヤの<遠い耳>から笑い声が聞こえた。うっすらと『ではお願いしよう』と続き、お互いが軽い挨拶をして会話は終わった。

 アレクセイは何か嫌な予感がした。
 軍が見捨てた捕虜だ。アレクセイには政治的なことは詳しく分からないが、この存在が明らかになると、隣国との関係になにか問題があるのかもしれない。

 ライヤは今の口ぶりからすると軍とはあまり仲良くないようだが、だが、彼女が国に属する騎士団の長であるのも事実だ。
 もし、この捕虜の子供達の存在が邪魔だとしたら……。

「死んでいた方がお互い都合がいい」

 ライヤの声は淡々としていた。
 そう言えばライヤはサーシャの心配はしても、彼らについては「それはいい」でばっさりと切り捨てていた。

「サーシャ、すぐに制圧しろ。死体は燃え尽きていて、発見できなかったとする」
「ん、了解」

 青ざめる少年兵達を見て、アレクセイは「そんな……!」と否定的に声を出した。
 だが、ライヤは、

「キミは黙っていてくれ」

 とその肩を軽く叩いた。
 ダメだ。サーシャを止めようと振り返った。

「あ……」

 と、ついつぶやいてしまった。
 ライヤがそのアレクセイに向かって、人差し指を唇に添えて見せる。声には出さないが、しぃーの合図だ。

 そうか、そうだよな、と心の中でつぶやく。一瞬でもライヤ達を疑ってしまったことが恥ずかしい。
 今、ポイ捨てはどこにいるか、王都でサーシャと会った時、突然現れたあの巨鳥はどこにいたか、それを考えれば答えは簡単じゃないか。
 でも、一体どうして黙っているんだろう?
 そんな疑問をもった時、騎士の一人がアレクセイの肩をちょんちょんと指で叩いた。

『おそらくここは盗聴されているので』

 騎士が見せてくれた紙にそう書かれていた。
 なるほど。思わず笑いだしそうになってしまった。

「制圧完、了」

 サーシャが少年達と<結び>終えた。
 そこで分かった。サーシャを救出した時のアレクセイの訴えを、ライヤが「それはいい」と流してしまった理由が。
 そっか。
 あの時に燃え尽きたと思った少年兵達も――。

「よし。この現場でも作戦終了。帰路につく。ただし、ポイ捨ての短期鎮火など過去に例のないことだ。周囲の様子を確認してから、小型<門>を使用する。国境付近まで移動することになるが、この程度で弱音を吐く人間はまさかうちにはいないな?」
「イエスマム!」
「では、帰るぞ。帰るべき場所へ全員で――」

 その全員という言葉に、サーシャの持つ宝石の中から、八人の喜びの声がかすかに漏れ出たのを、アレクセイは確かに聞いた。

「では、国境までの間、白鉄全員でキミを口説くとするか。なあ、アレクセイ」

 あの勧誘は嘘でも冗談でもない。
 そう言ったライヤの言葉を思い出した。
 隣ではサーシャが笑っている。騎士達もいい顔で、こちらを見ている。

 ここから国境までだいたい一日。
 だが、そんなに時間をかける必要はない。
 騎士達に見送られてサーシャ救出に飛んだことを思い出す。戻ってきた時、誰もが禁忌なんか気にせずに胴上げをしてくれたことも。
 もうアレクセイにも答えが出ているようなものだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵
ファンタジー
 異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。  魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。  そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。  自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。  後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。  そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。  自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...