たとえば禁忌からはじまる小さな英雄譚

おくり提灯LED

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第一部・一章

全員で帰るんだ

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 ひとしきり胴上げに大盛り上がりをした後、騎士達は使った道具の回収や片づけをしはじめた。
 ライヤはこのあとの現場は領内の役所に任せると本国に<遠い耳>で連絡を入れ、その引継ぎの為に騎士を二人、領主の元へ行くように命じた。
 ぶっ倒しました、はい、終わり――というわけではないのだなぁ、とアレクセイは騎士達と一緒に砲網を回収しながら考えていた。

 そんな中、サーシャは巨鳥から落ちずに、こちらに先に送られてきた少年兵達に囲まれていた。どうやら救出劇は相当にサーシャが格好良かったようで、少年達に大人気だ。
 アレクセイは見ながら、最初は微笑ましく感じていたが、ふと表情を曇らせた。

「でも、他の子達は……」

 燃え尽きたんだよなと言いそうになって、口をつぐむ。
 誰もが最善を尽くした。結果は選べることではない。
 そう自分に言い聞かせようとした時、

「白鉄騎士団、団長のライヤだ」

 と、ライヤが<遠い耳>に届いた声に返事をした。本国と連絡をしていた時とは声の色が違う。わずかに侮蔑や怒気が混じっているように感じる。

「合流に失敗した点に関しては、規定通りの対応をするつもりだ」

 どうやら、ここにきていなかった駐屯軍の人間が相手のようだ。まさか騎士団がやってきて数時間程度で理の外の炎が鎮火するなんて、誰も想像できなかっただろう。

 どうせ理の外相手では何もできないのだから、兵を危険にさらさずに捕虜の少年兵だけを現場に捨てるように届け、本隊は様子を見るつもりだった。が、鎮火を確認してあわてて連絡をしてきた――というところだ。

「捕虜? 捕虜ねぇ」

 ライヤはサーシャになついている少年兵に目を向けた。
 その視線だけで少年達は黙る。顔つきが不安になる。生き残ったことを喜んでいたが、ここは敵国だと思い出したようだった。
 自分達は殺されるために、この山に送られてきたのだと――。

「その捕虜とやらは、おそらく全滅だろう。まあ、現場の指揮はこちらにあるのだから、捜索と死体の処理くらいできるが、いかがか?」

 ライヤの<遠い耳>から笑い声が聞こえた。うっすらと『ではお願いしよう』と続き、お互いが軽い挨拶をして会話は終わった。

 アレクセイは何か嫌な予感がした。
 軍が見捨てた捕虜だ。アレクセイには政治的なことは詳しく分からないが、この存在が明らかになると、隣国との関係になにか問題があるのかもしれない。

 ライヤは今の口ぶりからすると軍とはあまり仲良くないようだが、だが、彼女が国に属する騎士団の長であるのも事実だ。
 もし、この捕虜の子供達の存在が邪魔だとしたら……。

「死んでいた方がお互い都合がいい」

 ライヤの声は淡々としていた。
 そう言えばライヤはサーシャの心配はしても、彼らについては「それはいい」でばっさりと切り捨てていた。

「サーシャ、すぐに制圧しろ。死体は燃え尽きていて、発見できなかったとする」
「ん、了解」

 青ざめる少年兵達を見て、アレクセイは「そんな……!」と否定的に声を出した。
 だが、ライヤは、

「キミは黙っていてくれ」

 とその肩を軽く叩いた。
 ダメだ。サーシャを止めようと振り返った。

「あ……」

 と、ついつぶやいてしまった。
 ライヤがそのアレクセイに向かって、人差し指を唇に添えて見せる。声には出さないが、しぃーの合図だ。

 そうか、そうだよな、と心の中でつぶやく。一瞬でもライヤ達を疑ってしまったことが恥ずかしい。
 今、ポイ捨てはどこにいるか、王都でサーシャと会った時、突然現れたあの巨鳥はどこにいたか、それを考えれば答えは簡単じゃないか。
 でも、一体どうして黙っているんだろう?
 そんな疑問をもった時、騎士の一人がアレクセイの肩をちょんちょんと指で叩いた。

『おそらくここは盗聴されているので』

 騎士が見せてくれた紙にそう書かれていた。
 なるほど。思わず笑いだしそうになってしまった。

「制圧完、了」

 サーシャが少年達と<結び>終えた。
 そこで分かった。サーシャを救出した時のアレクセイの訴えを、ライヤが「それはいい」と流してしまった理由が。
 そっか。
 あの時に燃え尽きたと思った少年兵達も――。

「よし。この現場でも作戦終了。帰路につく。ただし、ポイ捨ての短期鎮火など過去に例のないことだ。周囲の様子を確認してから、小型<門>を使用する。国境付近まで移動することになるが、この程度で弱音を吐く人間はまさかうちにはいないな?」
「イエスマム!」
「では、帰るぞ。帰るべき場所へ全員で――」

 その全員という言葉に、サーシャの持つ宝石の中から、八人の喜びの声がかすかに漏れ出たのを、アレクセイは確かに聞いた。

「では、国境までの間、白鉄全員でキミを口説くとするか。なあ、アレクセイ」

 あの勧誘は嘘でも冗談でもない。
 そう言ったライヤの言葉を思い出した。
 隣ではサーシャが笑っている。騎士達もいい顔で、こちらを見ている。

 ここから国境までだいたい一日。
 だが、そんなに時間をかける必要はない。
 騎士達に見送られてサーシャ救出に飛んだことを思い出す。戻ってきた時、誰もが禁忌なんか気にせずに胴上げをしてくれたことも。
 もうアレクセイにも答えが出ているようなものだった。
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