25 / 58
第一部・一章
閑話 その2 神父ディミアンという謎
しおりを挟む「<支配者>の能力を完璧に言い当てていたか」
王城内、白鉄騎士団詰め所、団長室。
ライヤはそんな自室とも言える部屋で、先日アレクセイを送り届けた教会で見た初老の男について考えいた。
あの神父ディミアンだ。
見かけの印象は、良くも悪くも教会関係者らしくないといったところだった。
皺の刻まれた初老の顔は飄々としていてつかみどころがなく、信仰の厚い者にありがちなどこか自分の正しさを信じているような雰囲気も薄い。かといって、目の奥に野心を秘めているような、そんなタイプでもない。
何者か分からない薄気味悪さを感じられた。
その日の内にサーシャから聞いた話では、アレクセイに父親代わりの男が<支配者>の力を話していたらしい。サーシャはその男に能力について見られたことはないと言っている。
アレクセイが聖山での土壇場で命を賭けた真実だ。余程の確信をもって話していただろうことは、想像に難くない。
「あの男只者ではない、そういうことか」
そもそもこうして神父ディミアンを気にするきっかけからして、本来であればありえない話なのだ。
禁忌である能力をもつアレクセイを、自分の教会で匿い続けたのだから。
宗教において教会という価値観は絶対だ。
それは時に神を超えた価値になるものなのだ。
だが、この神父ディミアンは教会という組織に所属していながら、その精神はその枠内におさまろうとしない。
アレクセイには教会から異端審問の査定が入っている。
それ故に、ライヤは彼の近くにいる教会関係者を調べていた。
今、この神父ディミアンの経歴が記された資料を手に持っている。
30代半ばになってから教会に籍を置き、神職についた。今の時代ではない話ではないという程度のことで、この時点で相当の変わり者だ。
「これならば……」
人生に転機が訪れた、なにか思い直すことがあり教会へ救いを求めに行ったなど、納得のいく理由があってしかるべきなのだが。
それを示すものが何一つない。
どの資料にも教会に籍を置くまでの30余年の経歴が記されていないのだ。
この事実にライヤの肩が震える。
教会にいながら、何もかも教会の価値に染まらない。
そんな男が教会に入るまで、30年以上も経歴が見当たらない。
「この男にはきっとなにかある――」
ないのである。
ライヤが思うようなことは、この男には一切ないのである。
ディミアン青年にあったことといえば、ただただ、ただれた生活だけだった。
ただただ、ふらふらしてて、その内に偶然ギャンブルで大きくあてて、それはそれは世俗の欲望にまみれまくった生活をしてきたのだが、教会としてもそんな男の過去など資料に残しておきたくなかっただけだ。
無論そんな生活を30代半ばまで続けられたという時点で、それはそれですごいことなのかもしれないが、彼が教会の門戸を叩いたきっかけは、金の切れ目が縁の切れ目となって、あっさり女達に愛想をつかされたからである。
そこで彼は考えた。
――私のことを誰も知らない王都にでも行って、貧乏人の最大の味方である教会に養ってもらおう。
そんな最低な動機で教会の門をたたき、そのまま神職についてしまったのである。
尚、そんなディミアン青年は世話になった神父に、しれっと「私はこれまでもこれからもずっと清い身のままです」と言い放つ始末だった。
そういう意味ではよく言えば剛胆――真実を言ってしまえば、厚顔無恥なために見る人が見ればなにかすごい人なのかもしれないと感じることもある。
「あの飄々とした顔の裏にあるのものが、我々にとって光となるか闇となるか……」
真剣な目で資料を見つめているところ気の毒だが、その男にせいぜいあるのは、いつもなんか能天気で明るいくらいの光である。
だがライヤはそんなことは知らない。
「いや、待て……」
ライヤはふと思い至った。
アレクセイの剣はあのサーシャにさえ、「よかった」と言わしめた。誰か優秀な師がいたに違いない。
その師というのはおやっさんこと冒険者のイゴールだということを知らないライヤは、自然と彼女の記憶の中における剣の最上の存在に行き着いた。
時期的に重なる。この男が教会の扉を叩く少し前に、行方不明になっているじゃないか。
まさか。
すぐに<遠い耳>を使い、詰所にいる事務方に話をつなぐ。
「すまない。かの“剛の剣の猛者“についてすぐに調べてくれ。今、私はあの生きる伝説と言われた達人の真実に迫っているかもしれない」
まったくの赤の他人である。迫りどころを間違えすぎだ。
だいたい行方不明者というのは、いつの時期だってそれなりの数いるものなのだ。
「この男が何者であろうと、只者ではないことだけは確かなようだな」
ライヤはその資料をファイルにまとめて、そっと本棚へとしまった。
あえて言おう。
只者である。そしてこれでもかというくらいの俗物である。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる