たとえば禁忌からはじまる小さな英雄譚

おくり提灯LED

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第一部・二章

俺、愛されていたんだ。

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 アレクセイは自分が涙をこぼしていることにも無自覚に、ライヤとイゴールを見ていた。
 どうやら二人に騙されていたらしい。
 ひどい嘘だ。もっとうまいやり方だってあったかもしれない。だが、多くを検討する時間がない中、全員の安全を考えてイゴールは解雇を選んだ。
 こうしてアレクセイもイゴール自身も傷つくと分かっていても――。

 ライヤもずっとイゴール達を悪者にした状態で、アレクセイと接するのは心苦しかっただろう。打ち明けてしまいたかったはずだ。

 だが、今はそのことよりも……。

「え、じゃあ、俺の力とか知ってたんだ……? 邪魔だから追放したわけじゃなかったんだ……」
「当たり前じゃねえか。俺やうちの連中が気づかねえ訳ねえだろう。どれだけ一緒にいて、どれだけ一緒に命張ってきたと思ってんだ。本当は誰も追い出したりしたくなかった。だが、俺らじゃ力になってやれないところまできちまってた……」

 ここにきて初めて気づいた。

 ――俺、愛されてたんだ。

「おやっさん、すみません、俺……。そんなこと知らずに……。おやっさんのこと、ちょっと恨んで……」
「バカ野郎……。謝るのは俺らの方なんだよ。すまねえな、アレクセイ……」

 そして少年は大声をあげて泣いた。
 誰もが納得のいった顔をして、アレクセイの周りに集まった。ライヤとイゴールが苦笑に似た笑顔で、それでいてどこかお互いを認め合っているような距離感でうなずき合う。
 そんな中、サーシャだけは、普段泣く子供をあやしているアレクセイが大泣きしたのを見ておろおろとしていた。


 そうしてひとしきり泣いた後、

「改めてイゴール殿、そしてアレクセイ。私の力不足であなた方を傷つけてしまったことをお詫びする。本当に申し訳ない」

 ライヤがまた改めて深々と頭を下げた。

「まだ完全には納得はできないです。嘘つかれていたこともショックでしたし、それよりずっとおやっさん達を悪く思ってしまったこと、これがすっごく嫌な気持ちでつらかったです。でも、全部俺のためにしてくれたことなんですよね。これでよかったってことで終わりましょう。頭をあげてください」

 ライヤが「ありがとう」と礼を言って、頭を上げたのを見た後、ふとアレクセイは受付嬢ダリヤの言っていたことを思い出した。
 あの時は気づかなかったが、思い出してみると妙な話だ。

「Aランク昇格は嘘だったんですよね。じゃあ、なんであんなに重苦しい空気だったんです?」
「それは、まあ、ほら、なぁ」
「まあ、うん」
「ああ、なんつうか、あれだしなぁ」
「うん。まあなぁ」

 冒険者達はその話題から逃げるように、隣の仲間に話を振り、アレクセイから目をそらしはじめた。
 そんな仲間達を見て苦笑したイゴールが、

「おめえをクビにするって言ったら、どいつもこいつも親の葬式でもそんな顔しねえってぐらい、しょんぼりしちまいやがったんだよ。だから、咄嗟に昇格が流れたなんて嘘をついたんだ」

 アレクセイは思わず笑ってしまった。
 役立たずをクビにする。それだけのこととしなければならないのに、それであんな重苦しい空気ではだいぶ怪しい。
 本当にこの人達は――そう思うと素直に嬉しかった。

 と、更にもう一つ疑問がわく。

「ライヤさん、どうしてサーシャにだけ、俺のこと話さなかったんですか?」
「いや、サーシャにも話したはずだぞ」

 おや?
 サーシャに視線が集まった。

「ん? きっと、光合成してて聞いてなか、った」

 まあ、うん、光合成ならしかたない。人類にはできない大事なことだしね。
 いや、感覚が分からな過ぎて、どう言っていいのやら……!

 そうして疑問がなくなったところで、アレクセイは自分の腰の剣に一度目をやってから、イゴールに振り返った。

「んじゃあ、おやっさん。改めて――」
「おう」

 二人が頷き合う。冒険者達から大きな歓声が上がった。

「決闘だ――!」
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