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第一部・二章
晴れての決闘、そして――
しおりを挟む騎士団詰め所で冒険者達が輪になって、アレクセイとイゴールを囲む。
誰かがドンと強く足を踏み鳴らすと、他の誰かも踏み鳴らし始め、次第に同じ足音が重なっていく。ドン、ドンドンドン、ドン、ドンドンドンと冒険者達が一定のリズムを刻む。
これが彼ら流の決闘様式だ。
騎士の決闘とはずいぶんと趣が違うものだな、とライヤは思う。
だが、そもそもの部分がライヤには分からない。
「なあ、エヴゲーニー卿、どうして決闘なんだ? さっきの話でお互い納得できたはずだろう」
「元々が技師の団長には分からないかもしれないですが、決闘と言ったら後には引けない、そんな愚かな人間がいるものなのです」
――なるほど、やはり分からない。だが、龍が再び現れるまでの間、張り詰めっぱなしというよりはいいかもしれないな。いや特に文句はないがそもそも決闘は私が預かったと言ったはずなのにどうして断りもなしにはじまるのかまずはそこから問題で……
と、ライヤはそんなことを考えていたが、イゴールが抜いた剣に目と思考を奪われた。
「まさか、あれは、ドヴェルグが打った剣か……?」
ライヤのつぶやきに騎士達がどよめく。
アレクセイもその剣を見て、つい感嘆のため息をもらしてしまった。
刀身が透明感のある黒、だが、うっすらと青く発光しているような曲刀。
ドヴェルグとは、人間では到底入れない険しい山の洞窟で暮らす夜の妖精だ。陽気な小人、肘が地面につく程に腕が長い、日光を浴びると石になる、そんな色々な言い伝えがあるが、今肝心なのはそういったことではない。
大陸北西部の土着神話では、彼らが神々の武器を作ったとされていることだ。
これぞ“龍へと至る道”の仲間でも滅多に見ることのない、イゴールのとっておきだ。
「おやっさん、それもってきたんですか」
「ああ。白鉄と本気でやりあうつもりだったからな」
更に騎士達は驚きの声をあげた。
まさか本気で自分達を潰すために、王城に乗り込んできたとは――。
「さあ、構えろ、小僧」
そう言ったイゴールがとても大きく見えた。
もともと敵うような相手ではない。でも、ここまでとは……。
対峙して分かる。こんなにも静かで重い圧があるとは思っていなかった。
<速く駆けろ>
<強く打て>
アレクセイは騎士団で訓練した体を強化する古い言葉にマナをのせる。自分の魂の中のマナが、肉体へと宿る。
だが、まだ肉体にはできても、武器にマナをのせることまではできるようになっていない。
アレクセイは改めて剣を意識した。
あの日、イゴールにゲンが悪いと突っ返された剣だ。
体の中の息をゆっくりと吐きだす。冒険者達が刻むリズムが少しずつ早くなっているのが分かった。
新しい空気を体にゆっくりと取り込む。
右手で握り、左手は添えるのみ。
剣を上段へ。
耳の横で止める。
相手はこの構えを教えてくれた師匠イゴールだ。
対照的に下段に構える姿を、視界全体にとらえる。
構えは成った。
「――ッ!」
アレクセイが踏み込む。
目の前の男にこれだけ覚えろと言われ、ただただ愚直に繰り返してきたその型に、今の自分を全てこめて――。
イゴールはアレクセイの動きの後に下段から剣を跳ね上げた。
上下から刃が交わる。
いつの間にか足を踏み鳴らす音は消えていた。
お互い一切の迷いのない美しい軌道を描く剣だった。
誰もが息を飲み、この決闘を見守り、その決着に目を見張る。
アレクセイの剣が宙へと舞い上がった。回りながら落下してゆく。
サーシャが目の前に落ちてくる剣を空中でうまくつかんだ。
黒に薄く青がのる切っ先が、アレクセイの眼前につきつけられた。
「アレクセイ、ただ愚直に振り続けて5年か。今のはいい剣だったぜ。だがよ、俺は25年だ。その差が出たな」
イゴールがにやりと笑って見せた。アレクセイは体から力が抜けてしまい、
「ホント、強いなぁ……」
つい真っ正直につぶやいていた。
イゴールはマナすら使わず、ドヴェルグの剣は一切勝敗に関係がない。完全に腕の差。ただただ完敗だ。
「確か、決闘の理由は俺の言うことを聞けだったな」
騎士全員の目の色が変わった。ここで「アレクセイ、帰ってこい」なんて言おうものなら、本当にこの場の白鉄騎士団全員を相手にすることになりそうだ。
実際に副団長のエヴゲーニーが腰の剣に手をかけ、今にも「次は自分だ」と言い出しそうな雰囲気だ。
イゴールの嬉しさが、口許の端を吊り上がりに表れた。
「必ず立派な騎士になれ。おめえならやれる」
そう言ってアレクセイの肩を叩き、囲まれた輪の外へと出て行く。
「はいッ! ありがとうございましたッ!!」
アレクセイはまるで父親のような大きな背に深々と頭を下げた。
その時、ライヤの耳につけた<遠い耳>へ一つの連絡が届いた。
『<大きい目>で確認。龍飛来。繰り返します。龍飛来――』
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