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第一部・二章
そっちは頼んだ――いつか仲間とまた呼ぶ彼らへ
しおりを挟む『龍確認。場所は王領シミナイストーリア……』
報告の後、ライヤのつけた<遠い耳>から生唾を飲み込む音が聞こえた。緊迫感に嫌な予感がする。
その予感は――。
『領都カシャチイーダ上空で旋回中』
当たってしまった。
できれば人の住んでいない場所に現れて欲しかった。だが、唯一の救いはすぐに急降下されていないことだろう。
「よりによって一万人都市か、このまま去ってくれればいいが」
ライヤはこの場の全員に向き直った。
「王弟殿下のお膝元に龍出現だ。現在上空。全員、都市災害用装備をもって<門>の前に移動しろ」
「イエスマムッ」
そういった装備は普段から整備されている。龍が確認されたことで詰め所に集合を命じられ、すぐに集まった騎士達によって大規模災害用の各装備の準備はすませてある。
<門>さえ開けばすぐに現地に行ける状態だ。
「ライヤ団長待ってくれ! 龍と聞いたら引く理由はねえ。俺達も連れて行ってくれ。必ず役に立つ」
イゴールが動き出した騎士の後ろから大声を上げた。全員に発破をかけているライヤが振り返る。
「悪いが、我々は龍と戦いにいくわけではない。誉れ高い死に場所のためというならお断りする」
「いや、そちらの手伝いがしたい。人命救助の邪魔になるリュウガニ共の駆除は俺達に任せてくれ」
「そういうことならば、こちらからお願いしよう。冒険者クラン“龍へと至る道”に協力を要請する。緊急により冒険者ギルドには事後報告とする」
イゴール達冒険者は全員がうなずいた。
龍と言われても現場に行きたがる者が、果たして世界にどれくらいいるのだろうか。龍がいる、ただそれだけでこの地上のあらゆる生物にとって、そこはまさに死地だ。
彼らが“龍へと至る道”と名乗っているのは、やはり伊達ではない。
と、その時、明かり取りに開け放たれている窓から、一羽の灰色の鳥が舞い込んできた。
「ヒトリツガ、イのかたわ、れ……」
サーシャがその鳥を見てつぶやく。
滅多に見ることのできない鳥だ。一羽であり二羽であるという奇妙な特徴をもつ。生まれてくる時にすでにツガイとなる相手と融合していて、一生の内のほとんどを二羽がくっついたまま過ごす。が、緊急時にのみ融合した体が分離して逃げ、後にマナで意思の疎通をしながら合流すると、また融合するという。
このヒトリツガイは分離している一羽だ。
その鳥はある冒険者の腕に止まった。サーシャ程の力はないが、調教に関する<古い言葉>を扱う猛獣使いで、いくつもの動物を手なずけ、ダンジョン探索に貢献している。
ヒトリツガイの融合と分離の特性を利用し、諜報や連絡に使っているのだが、今回はあの聖堂騎士コンスタンティンを張っていた。
猛獣使いはイゴールに耳打ちする。イゴールの顔色が変わった。
「聖堂騎士と異端審問官が府主教庁へ、アレクセイの件で向かっている」
「なんで、こんな時に……」
こんな時でなくてもアレクセイには止めようはないのだが、やはりそう思ってしまう。
「この件は俺達の仲間に任せろ。もう一羽の方が仲間の元に向かっているからな」
そのもう一羽が仲間の元に着けば、ここにいるヒトリツガイに覚えさせた伝言を届けられるという。
その話を聞いたライヤが、改めてイゴールに向かい合った。
「守ると言いながら、重ね重ね……」
「いや、もうこれ以上は謝らないでくれ。団長さんが教えてくれなかったら、奴らの動きすら知れなかった。むしろ、うちの連中にやらせてくれると助かる。聖堂騎士がやってきてから、どいつもこいつも事の発端のあいつらが許せずにうずうずしてやがったからな」
「そうか。ならばこう言おう。ありがとう」
「ああ。こちらこそな」
ライヤとイゴールがお互いの拳を合わせて頷き合う。すぐにイゴールはアレクセイに向き、
「アレクセイ、向かってるのはお前の元同僚の三人だ。あいつらを信じてくれ」
「あ、そうか。うんッ」
かつて一緒に部屋を借りて住んだ仲間達だ。セダンチェアーに受付嬢ダリアを乗せた日、彼らが腕に遠征用の腕章をつけている姿を見た。
あの時は考えもしなかったが、彼らの遠征の目的はその聖堂騎士の邪魔をすること――アレクセイのためだったのだ。
辛い思いをしていたのはお互いだったのだと改めて知る。
アレクセイは胸の内で「そっちは頼んだ」とつぶやき、サーシャと一緒に<門>へと向かって移動をはじめた。
「よかった、ね」
「うん。本当にいいヤツラなんだ。でも、今は――」
アレクセイとサーシャは早足で歩きながら、頷き合い、前に向き直った。
龍がいる――。
その絶望へと向かう。
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