44 / 58
第一部・二章
人類はこれまで一度たりとも龍を退けたことすらないのだ
しおりを挟む王城内にも王領の領都に龍が現れたことは知れ渡っていた。
いつになく空気が張り詰めている。
いや、ここだけではない。
龍が現れた、ただそれだけで、この世界一の力をもつ国が緊張している。
国民の多くも分かっていることだが、龍による被害は他の理の外と比べると実は大きくはない。
過去最も被害が大きかったのはキズビトの戦争で、これは例外中の例外だ。
その次はチテイキョウヒョウイナゴによる蝗害だろうと言われている。この蝗害は嵐と共に現れ、草から生物、金属に至るまであらゆるものを喰らいつくし、あの高くそびえたつ山脈も、世界一の大きさのアスタンキ湖も、嵐に乗って飛び越えてくる。まさに最大規模の災害だ。
比べて龍は通常は遥か上空を飛び、降り立った場所にしか被害を出さない。
では、なぜこうも龍に対して恐れるのか。
一つは絶対強者という、生物としての圧倒的な格の差。
もう一つ、実質的な理由がある、
抗う術がまったくない。
あのポイ捨ての炎も燃え移るものをなくすという対処法がある。蝗害もイナゴの数を減らすことは可能だ。決死の覚悟があれば、完全に増え切る前に何かできるかもしれない。
だが、龍は現れたらその地は破壊される以外になく、一切の希望はないのだ。
<門>の前に白鉄騎士団と冒険者クラン“龍へと至る道”が集合した。
騎士達はいつも通り整列し、ライヤからの号令を待つ。冒険者達は集まっているだけでバラバラのように見えるが、その実イゴールを筆頭として彼らもまた一致団結していた。
『龍は依然、上空を旋回』
このまま街に降下せず去ってくれ。
願い。祈り。
もし、一万人都市に龍が舞い降りたりしたら……。
アレクセイは緊張でわずかに吐き気がしてきた。唾を飲み、小さくせきをする。
『龍急降下。カシャチイーダの中心』
誰もが望んでいなかったことが起きてしまった。
だが、まだ動けない。
龍を相手にする場合は、何もできないが原則だ。
誰一人、その動きを止められるものなどいない。龍退治などという、そんなただの無駄死になどは誰にも許されていないのだ。
龍は一度に長距離を飛ぶ性質がある。彼らにはそれこそこの地上の世界すら狭い。それ故に、一度飛べば同じ場所に戻ってくることはほとんどない。
だから、被害が出た場所に赴くは龍が離れた後だ。
そうなってはじめて迅速に人命救助を含む、復旧作業に従事できる。
それが龍との戦いだ。
この瞬間にも失われた命があるというのに、まだ何もできない現実。
分かっているからといって、何も感じないというわけではない。
アレクセイの胸の奥で、言葉にしづらい感情がうずまく。
それは誰もが同じだった。
技術者が<門>を開く場所を、<大きな目、小さな目>を使って細かい指定を終えた。
それと同時に、再び連絡が入った。
『龍再び浮上。街は壊滅。龍再び<大きい目>を超え、遥か上空。見失いました』
ライヤは奥歯をギリッと音を立てて噛みしめる。
「白鉄騎士団出るぞ」
「イエスマムッ」
「いくぞ、てめえら。仕事だ」
「おうッ!」
今、二つの団体が龍が破壊した街へ向かうため、<門>へと入った。
この場の誰も、いや、この王国でも誰一人として気づいていない。
龍は<大きい目>よりも高い空で、再び旋回していることを。
その目は再び破壊した都市へと向けられていることを。
人類が文明をもつようになってから、数千年という時間が経過している。
だが、その歴史の中で、龍を退治もしくは撃退させたことは一度たりともない。
あえて繰り返す。
人類はこれまで一度たりとも龍を退けたことすらないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
Chivalry - 異国のサムライ達 -
稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか?
これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる