たとえば禁忌からはじまる小さな英雄譚

おくり提灯LED

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第一部・二章

人類はこれまで一度たりとも龍を退けたことすらないのだ

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 王城内にも王領の領都に龍が現れたことは知れ渡っていた。
 いつになく空気が張り詰めている。
 いや、ここだけではない。
 龍が現れた、ただそれだけで、この世界一の力をもつ国が緊張している。

 国民の多くも分かっていることだが、龍による被害は他の理の外と比べると実は大きくはない。
 過去最も被害が大きかったのはキズビトの戦争で、これは例外中の例外だ。
 その次はチテイキョウヒョウイナゴによる蝗害だろうと言われている。この蝗害は嵐と共に現れ、草から生物、金属に至るまであらゆるものを喰らいつくし、あの高くそびえたつ山脈も、世界一の大きさのアスタンキ湖も、嵐に乗って飛び越えてくる。まさに最大規模の災害だ。
 比べて龍は通常は遥か上空を飛び、降り立った場所にしか被害を出さない。

 では、なぜこうも龍に対して恐れるのか。

 一つは絶対強者という、生物としての圧倒的な格の差。
 もう一つ、実質的な理由がある、

 抗う術がまったくない。
 あのポイ捨ての炎も燃え移るものをなくすという対処法がある。蝗害もイナゴの数を減らすことは可能だ。決死の覚悟があれば、完全に増え切る前に何かできるかもしれない。

 だが、龍は現れたらその地は破壊される以外になく、一切の希望はないのだ。



 <門>の前に白鉄騎士団と冒険者クラン“龍へと至る道”が集合した。
 騎士達はいつも通り整列し、ライヤからの号令を待つ。冒険者達は集まっているだけでバラバラのように見えるが、その実イゴールを筆頭として彼らもまた一致団結していた。

『龍は依然、上空を旋回』

 このまま街に降下せず去ってくれ。
 願い。祈り。
 もし、一万人都市に龍が舞い降りたりしたら……。
 アレクセイは緊張でわずかに吐き気がしてきた。唾を飲み、小さくせきをする。

『龍急降下。カシャチイーダの中心』

 誰もが望んでいなかったことが起きてしまった。

 だが、まだ動けない。
 龍を相手にする場合は、何もできないが原則だ。
 誰一人、その動きを止められるものなどいない。龍退治などという、そんなただの無駄死になどは誰にも許されていないのだ。

 龍は一度に長距離を飛ぶ性質がある。彼らにはそれこそこの地上の世界すら狭い。それ故に、一度飛べば同じ場所に戻ってくることはほとんどない。
 だから、被害が出た場所に赴くは龍が離れた後だ。
 そうなってはじめて迅速に人命救助を含む、復旧作業に従事できる。

 それが龍との戦いだ。

 この瞬間にも失われた命があるというのに、まだ何もできない現実。
 分かっているからといって、何も感じないというわけではない。
 アレクセイの胸の奥で、言葉にしづらい感情がうずまく。
 それは誰もが同じだった。

 技術者が<門>を開く場所を、<大きな目、小さな目>を使って細かい指定を終えた。
 それと同時に、再び連絡が入った。

『龍再び浮上。街は壊滅。龍再び<大きい目>を超え、遥か上空。見失いました』

 ライヤは奥歯をギリッと音を立てて噛みしめる。

「白鉄騎士団出るぞ」
「イエスマムッ」

「いくぞ、てめえら。仕事だ」
「おうッ!」

 今、二つの団体が龍が破壊した街へ向かうため、<門>へと入った。



 この場の誰も、いや、この王国でも誰一人として気づいていない。
 龍は<大きい目>よりも高い空で、再び旋回していることを。
 その目は再び破壊した都市へと向けられていることを。


 人類が文明をもつようになってから、数千年という時間が経過している。
 だが、その歴史の中で、龍を退治もしくは撃退させたことは一度たりともない。

 あえて繰り返す。

 人類はこれまで一度たりとも龍を退けたことすらないのだ。
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