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第一部・二章
ダッシュ&キャッチ!
しおりを挟むアレクセイはこの数日、騎士団で繰り返し訓練してきたマナによる体の強化を使い、瓦礫の上を駆け抜ける。
「今! いく! からッ!」
サーシャの大きな体が落下してくる。意識はあっても体を上手く動かせないようだ。それでもアレクセイに目を向けて、わずかに首を横に振って見せた。
あぶない、助けなくていい、そんな意思表示だろう。
……そんなこと知るか!
アレクセイは更にむきになって、落ちてくるサーシャの元へと走った。
龍の体の影へと入った。一段明るさの落ちたその場所に、サーシャが――きた。
「サーシャぁあ!」
飛びつくようにして、サーシャの体へ。
なんとか間に合った。
その体を必死に支える。あまりよくない体勢で大きな衝撃がくる。それでも体を強くする<古い言葉>のお陰で、潰されそうになりながらも、なんとかサーシャを抱えられた。
「サーシャ、ダメだよ。助けさせてくれなきゃ」
「ん……。また助けられ、た」
サーシャはアレクセイの腕の中で小さくうなずく。
先に龍に向かって無謀なことをして助けてくれたのはサーシャなのに、助けなくていいなんて、そんなこと認められるわけないじゃないか。まったく。
そのすぐ後に、神鳥は体の自由を取り戻し、翼を広げて落下の勢いをやわらげて降り立った。
神鳥まではさすがに助けられないので、自力でなんとかしてくれてよかった。
アレクセイはサーシャ達が無事だったことに、ほっと胸を撫でおろした。
そんなアレクセイをサーシャは不思議そうに見つめ、
「なんで、動けた、の?」
「そりゃサーシャを助けなきゃって思って。怖かったけど」
サーシャはその答えに「ん?」というような顔をした。するとアレクセイの方が「なにか変なこと言った?」という風になり、ふと辺りを見渡した。
この時初めて立っているのが自分一人だと気づいた。一瞬、皆死んでしまったのかと思ったが、うめき声が聞こえて安心する。
「皆あの大声、で倒れ、た」
アレクセイは改めてサーシャが言ってくれた“魂が綺麗”という言葉を思い出した。
「俺、普段から魂そのものを使ってるから、ああいう圧し潰されるような感じには慣れてるんだ。今のはすっごくびりびりしたけど」
サーシャはそんなことを普通に話すアレクセイに驚いて目を丸くした。
人間が龍の圧の前で動けるなんて、そんな話は聞いたことがない。
あの咆哮は決して耐えられるはずのない魂への圧だった。
だが、それは魂が常日頃から、体やマナに守られている状態の生物にとってのこと。
アレクセイが憑依を使う時、剥き出しの裸のままの魂で、自分よりも格上の生物、何倍もの力をもつ魂と戦ってきた。
その状態でかかる魂への圧力は、並大抵のものではない。
さっきの咆哮はすごかった。万物の動きを封じる圧力だった。
だが、魂そのものを鍛え続けてきたアレクセイだけは例外だった。
「とは言っても、体の中にいて、あれ程強かったのは初めてだよ。あ、いや、魂剥き出しの状態でもなかったかも」
「……すごい、よ。アレクセイ」
アレクセイは褒められて誇らしかった。が、
「いや、すごいのはサーシャの方じゃ……」
なにせ龍に殴りかかったのだから。
そんなサーシャも体が動かせるようになったようで、アレクセイの腕の中から降りた。
龍は不思議と動かないままだった。ただ小さな者を見ている。
先程の攻防でも戦っているという印象すらないのかもしれない。
その心境は、踏みつけた蟻が生きているのを不思議そうに眺める子供に似ていた。
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