たとえば禁忌からはじまる小さな英雄譚

おくり提灯LED

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第一部・二章

悪い予感程よく当たる

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 龍の口の周りにマナが集まる。

「あれは無、理!」
「俺がやってみる!」

 アレクセイは一度人形の指を見た。自分の血とマナが使われているからか、この人形のできることが魂を通じて分かる。
 牽制のための憑依を試みようと、神鳥から飛んだ。魂だけ飛ばすこともちらりと頭に浮かんだが、それではサーシャに人形を支えていてもらわなくてはならない。龍へと飛び移る。その巨大な鱗の端に指をかけると、そのままロックした。
 さすがに龍を想定して作られていたわけではないが、憑依を使った時に人形が崩れ落ちないための装置だ。
 アレクセイはライヤに感謝をして、龍の魂へとダイブした。

 蟻が世界の大きさを感じられないように、アレクセイには龍と自分の魂の差を知りようもなかった。もはや何人分などという話ではない。
 あっという間にアレクセイの魂は意識と共に溶けそうになる。

 だが、先に龍が反応した。
 圧倒的な差があるというのに、これまであらゆる生物がこの憑依に対して行った反応を、龍もまた見せた。

 様子のおかしい声が空気を震わせる。

 ダンジョン“王都西の森四番”にいたあの霧の化物や、聖山での神様のポイ捨て、これらの理の外の災害も示した反応だ。
 理解不能な嫌悪。存在の根源とも言うべき、魂に直接手を入れられる恐怖。

 この小さな少年に、人間が蜂を恐れるような感覚を確かに覚えていた。

 ――ダメだ、飲み込まれる!

 アレクセイは龍からの強烈な嫌悪を感じて正気に戻った。すぐに飛び出して人形へ戻る。
 ほんのわずかの間だが、意識をなくしていたことに気づく。龍の魂という世界に組み込まれそうになっていた。

 龍が身を震わせた。アレクセイを振り払おうと荒れ狂う。これまでの雄大な王者の様相はなく、狂暴な野生のままに暴れた。
 少し先で小型<門>が開かれた大きなマナの動きすら見逃すほどに、魂をいじられた龍は冷静ではなかった。

「っ……!」

 アレクセイは鱗に手をかけて耐えながら、神鳥の位置を確認した。飛び出してその背に乗ることはできないかと思ったが、ここで落ちたら龍の過剰な動きに神鳥が弾かれてしまいそうだ。
 そう思った時、龍の表面をマナが雷のようになって走った。完全な意識外からの衝撃が、アレクセイの手から力を奪う。

 まずい、と思った時にはもう遅かった。暴れる巨体がアレクセイを弾き飛ばし舞い上げる。
 アレクセイは凄まじい衝撃に声をもらした。人間の体だったら軽く死んでいただろう。

「サーシャ……」

 そう助けを求めようとした時、龍が自分に向かって口を開いたことに気がついた。

 龍の息に込められたマナが、一直線に解き放たれる。
 空間を黒く焼くほどの熱がアレクセイに直撃した。


 騎士も冒険者も、アレクセイならば大丈夫だと思った。
 いざとなれば魂だけ抜けだして逃げてくる。
 その為の人形でもあり、そういう作戦なのだから。
 だが――

「あ、あ、あぁぁああああ!」

 サーシャが取り乱して絶叫した。

「ア、アレ……アレクセ、イ……! アレクセイ!」

 魂について一番分かっているサーシャが、ありえない程に取り乱し、神鳥から落ちそうになる。


 サーシャの絶叫はライヤにまで届いた。一般人を小型<門>から王城へ向かうように誘導している最中に、龍へと目を向ける。
 嫌な予感がする。

「まさか、龍のあの息は魂まで焼くのか……」

 いつだって当たって欲しくない予感程、的中してしまうものだ。
 今回もそうだ。
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