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第四章 狂騒編
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今年の梅雨時は例年と比較して遅いらしい。おまけに天候不順で、昼間は晴れだったのに、急に悪天候になって雨が降るときもあるのだとか。
そろそろ女子テニス部の活動も終わる頃かなってぐらいに勉強の切りを上げて図書館から外に出ようとすると、雲行きが怪しくなっていた。
雨、降るかもしれないな。
僕は先月のラブホ事件のことを思い出し、なぜか背筋に悪寒が走った。
「傘、買うか」
僕は購買部に行って五百円のビニール傘を購入した。その後、あれ?そういえばこういう日に備えて折り畳み傘を持ってたんじゃなかったっけ?と思い出して鞄を見れば、折り畳み傘があった。
…お金を無駄に使ってしまった。
いや、もしかしたら壬生さんも傘を持ってないかもしれないじゃないか。もしそうなら、傘を一本余分に買うことで壬生さんを雨に濡らさずに済むわけだし、無駄ってわけじゃないよね!
… 一応、確認しておくか。
『壬生さん、雨降りそうだけど、傘持ってる?』
スマホでメッセージを送ってからしばらくすると、ぽつぽつと雨が降り始めた。あ、これはめっちゃ降りそう。
普段は予言なんてあたらないのに、こういう悪い予感に限って的中するもので、やがて黒い雨雲から大雨が校庭に降り注いだ。
ざーと突然の豪雨に生徒たちがきゃあきゃあと悲鳴をあげていた。。屋外で活動していた生徒たちは突然の雨から逃げるべく、脱兎のごとく走り出して校舎へと駆け込む。
ぴろん♪
壬生さんからメッセージが来る。
『うん、持ってるよ』
流石は壬生さんだ。こんな突発的なゲリラ豪雨の対策まできっちりしてるんだ。
余計な傘を買ってしまったな。かといって使わないと負けた気分になるので、僕は新品のビニール傘を使うことにした。そしてスマホでメッセージを送る。
『迎えに行こうか?』
『うん。部室棟に避難してるから、着いたら教えてね』
『了解でーす』
はあ、こうやって普通にやり取りする分には本当にただの恋人同士みたいだな。なんでこの普通のやり取りが僕らはできないのだろう?
なんかついてないな。
いや、僕も壬生さんの奇行を楽しんでいるわけだから、心底から嫌がってるわけではないんだけどね。
壬生さんが寝取られるかもしれないという時、僕の体が悲鳴をあげる一方で、喜びの声をあげているのもまた事実だ。
そう、結局のところ、僕もこの異常ともいえる状況を楽しんでいるのだ。だから壬生さんだけが悪いということはない。むしろそう仕向けている僕の方が悪の親玉なところあるよな。
それはわかっている。わかっているのだが、ただほら、最近さあ、頻度が多いから。いくら楽しいからといって、こんな刺激的なことをしょっちゅうやられると流石に脳の修復も追いつかないよ。
僕の脳を破壊するのは良い。ただ回復期間も設けてほしいかな、と思うだけなのだ。
まあここ最近は壬生さんも過激な行動を控えているので、そこまで脳が破壊されることはなかったんだけどね。
…妙だな。あの壬生さんが行動を控えているだと?
なにかの企みに対する準備期間とかじゃないよね?
だ、大丈夫だよ。壬生さんだってそんな暇じゃないし。むしろ忙しいし。ただでさえテニス部と受験勉強に加えて、最近は中間テストまであったじゃないか。こんな忙しい時期になにか企てるだなんて、いくら才女の壬生さんでも無理でしょ!
…あ、そういえば中間テスト、もう終わったんだ。じゃあ今までほど忙しくはないのかな?
そんな取り留めのないことを考えながら歩いていると、部室棟に到着した。いまだ雨は止まず、ビニール傘をぱちぱちと雨の雫が打ち鳴らしている。
校庭は雨に濡れ、雨雲によって太陽の光が遮られているので周囲は暗く、湿っぽい。
ちょっと冷えるな。早く壬生さんに会いたい。
「うん?」
部室棟の校舎に近づくと、知っている人がいた。っていうか、さっき会ったばかりの人、百崎瑞樹さんだ。
誰かを待っているのだろうか?急な雨に濡れたせいで、彼女の制服が濡れている。髪も雨に濡れていて、百崎さんの綺麗な肌に黒い髪が張り付いていた。
「はあ、なんでだよ…」
さきほどの明るい態度とは一転して、なんだか機嫌が悪そう。というか意気消沈しているように見えた。
ていうかもうちょっと後ろに下がらないと、雨に濡れますぜ?
百崎さんは部室棟の屋根の影に避難はしているのだが、誰かを待っているのか、しきりに校舎の庇から少し外に出て周囲を窺っている。
そんなことしたら濡れるだろ。傘、持ってないのかな?
…うーん、どうしよう?
まあ傘一本余ってるし、貸してあげようかな?知らない仲でもないし。
…はあ。まあいいか。
百崎さんはきょろきょろと外を窺っている。僕はそんな彼女の上にそっと傘を差し出して、
「濡れますよ」
と言ってみた。
「うん?あれ、お前さっきの…えーっと、司じゃねえか!こんなとこでなにしてんだ?」
「あの、ちょっと用があって。それより濡れますよ。よかったら傘、入ります?」
「おう、ありがとよ。へへ、お前、優しいな」
百崎さんは雨に濡れて寒いのか、両腕を組んでせわしなく足を揺すっている。
「突然降ってきたけど、傘とか持ってない感じ?」
「そうなんだよ、急に降るからさあ。はあ、参ったよ。…あいつこねえし」
「え?」
「なんでもねえ」
誰のことを言っているのか、最後の方はちょっと不機嫌だった。
「良かったら傘、貸そうか?」
「え?うーん、いや、いいよ。それ俺に貸したらお前の傘がなくなるじゃねえか」
「大丈夫、実は二本持ってるから」
「お、そうか?ならお言葉に甘えて…って、なんで二本持ってるんだ?」
うっ、それはあまり言いたくないのだが。
「いや、折り畳み傘を持ってないって勘違いしてて、間違えて買っちゃったから」
「はあ?なんだそれ、くく、進学科の一組って頭良いって聞いてたけど、実はドジだな」
「はは、本当だよ」
さきほどまでテンションが低かったのだが、僕の失敗談が面白かったのか、百崎さんは機嫌が良さそうに笑ってくれた。
「そういうわけで傘は余ってるから、使ってくれてぜんぜん大丈夫だよ。これ以上濡れたら風邪ひくよ?」
「くく、ああ、ありがとよ。ありがたく使わせてもらうわ」
よほどツボにはまったのか、まだ笑ってる百崎さんに傘を渡した。
まあ、失敗談といえば失敗談だけど、人の役に立つ失敗談なら別に良いか。
ぶーぶー。スマホが振動していた。スマホを取り出して見れば、壬生さんから通話が着ていた。しかしすぐに切れてしまう。
…あれ?どうしたんだろう?
「根東くん」
背後から声がかかる。
「瑞樹とずいぶん仲が良さそうだけど、知り合いだったのかな?」
これは壬生さんの声だ。しかしなぜだろう、その声を聞いた途端、背筋に悪寒が走り、ぞくりとした。これはきっとあれだ。雨で気温が下がったせいに違いない。
「え、あの、壬生さん!なぜここに!」
「根東くんはおかしなこというね。さっきスマホで部室棟にいるといったはずだけど?」
そうだった。僕は彼女に会いに来たんじゃなかったっけ?本人がここにいて何が悪いのさ?なにもおかしくないよ!
「おう、来沙羅。あれ、お前、司と知り合い?」
「彼氏だよ」
「え?ああ、そうなんだ。…え?また彼氏変えたのか?っていうか、司、お前、来沙羅の彼氏なん?」
なんかすごい驚かれた。まあそうかもな。
「うん。そうだよ」
「へぇ、お前がねえ、来沙羅のねえ」
――今回はどれくらいもつのやら、といたずらっ娘みたいな笑みを浮かべて百崎さんは揶揄ってくる。
「心配無用よ。今回は本気だから」
お、壬生さんから援護射撃がきた。もう機嫌直ったのかな?
「まあ根東くんの行動次第ではわからないけど」
と言ってこちらをじと目で睨む壬生さん。あれれれー、機嫌直ってねえや。
「へえ、じゃあ賭けるか?一ヶ月以上もったらジュース奢ってやるよ」
「あら、いいわね。その賭け乗ったわ」
「よし、決まりだな!」
勝手に人の破局期間を賭けの対象にしないで欲しい。っていうかあれ?一ヶ月ってもう経過してるよな?
「じゃあ賭けスタートね。はい、本日の時点ですでに一ヶ月経過したから私の勝ち」
「あ?嘘つけよ。だってお前、先月…」
「本当よ。そうだよね、根東くん」
「うん」
なんやかんやもう壬生さんと恋人同士になってから一ヶ月以上は経過している。っていうか、百崎さんは何を言いかけたんだ?
あれ、おっかしいなあと怪訝そうな表情で壬生さんを見る百崎さん。一体なにが腑に落ちないのだろう?
「とにかく賭けは私の勝ちね」
「チッ、しょうがねえな」
「ジュース一年分を奢ってもらおうかしら」
「え?一本じゃねえの!」
「一本だけなんて一言も言ってなかったでしょ?」
「一年分とも言ってないだろ!」
奢りは一本だけだ、と百崎さんは壬生さんに反論する。それを受けて、はいはい、じゃあ一本ね、と壬生さんは返す。なんだか仲が良さそうだな。
「それじゃあ、そろそろ帰ろうかしら?」
「うん、そうだね」
そう言うと壬生さんは百崎さんの目の前だというのに僕に近づいて腕を組んだ。
「根東くん、私、今日疲れちゃった。私の代わりに傘、さしてくれる?」
「うん、いいよ」
「お前ら、本当に仲が良いんだな」
僕は壬生さんから傘を受け取ると、百崎さんがなんだか羨ましそうな目でこちらを見ていた。
そういえば、百崎さんって彼氏いたよな。
あの合宿の件を思い出す。同じ合宿に参加してたってことは、男子テニス部の部員が彼氏なのかな?
「私たちはこれで帰るけど、瑞樹はどうするの?」
「あん?ああ、俺は…もうちょっと待ってみるよ」
「…そう。ならまた明日ね」
なんだか妙な空気だったな。百崎さんは雨に濡れて寒いのか、辛そうだ。
僕が「また今度ね」と言うと、百崎さんは「おう、明日、傘返すからな」と答えてくれる。
「行こう、根東くん」
「う、うん」
なにかが引っかかる。後ろ髪をひかれるような気分とはまさにこのことだな。
僕たちは百崎さんに見送られる形で、相合傘で校門を出た。
「根東くん、勉強は捗った?」
そうだった。壬生さんから参考書を渡されていたんだ。
雨は激しく、ザーザーとしつこく音が鳴っている。壬生さんはそれほど大きい声ではないのに、この雨音の中で彼女の声はやけにはっきりと耳に届いた。
「え、うん、今読破してるところだよ!」
「そう?なら途中で喫茶店に寄ろうよ。一緒に勉強しよ」
「うん、いいよ!」
今日はいろいろあったけど、とりあえずなんとかなりそうだな。僕たちは通学路の途中にあった喫茶店に立ち寄り、そこで一緒に勉強することにした。
「それで」
アイスコーヒーを注文し、僕らは席につく。そこで壬生さんは僕の方をじっと見つめながら、質問した。
「どういう経緯で瑞樹と知り合いになったのかしら?」
あ、やっぱりそれ聞くんだね。てっきり誤魔化せたと思ってたよ!
「いや、あの、今日図書館で勉強してんだよ。そしたら、たまたま隣の席に百崎さんがいて、なんか補習でわからないところがあるって困ってたみたいだから、教えてあげたんだ」
そう、それだけなんだよ。他意はなく、本当に偶然知り合っただけなんですよ、壬生さん。
「それだけ?杏以外の女の子を口説きたくなったとかじゃないの?」
「違うよ!僕が一番口説きたいのは壬生さんだけだよ!」
「ふーん、そうなんだあ」
壬生さんはアイスコーヒーを一口飲む。カランとコップの中の氷が揺れる。
「私の参考書より、瑞樹との勉強の方が大事なんだ」
あれれー?おっかしいなあ、そういう展開になっちゃう?
「いやいや、決してそういうわけではないんだよ!ただほら、本当に困ってたみたいだから、ちょっとお手伝いしただけで、壬生さんを蔑ろにしたわけではないんですよ!お願いだから信じてほしいな!」
「そう?根東くんは瑞樹と私、どっちが大事なの?」
「え、それは壬生さんだよ。当たり前でしょ!」
「ふーん?ならいいよ。私が一番なら、ぜーんぶ許してあげる」
そういうと、壬生さんの冷たい眼差しが少しだけ溶けた気がする。
そのあとは今のことを水に流してくれたのか、特に話題に上がることはなく、僕らは受験勉強に勤しんだ。
「根東くん、次はこっちの問題を解いてみようか」
「え、これ難しすぎな…」
「解いてみようか」
「あ、はい。やってみます」
今日の壬生さんはいつもよりちょっとだけ厳しく感じた。
勉強は厳しく、辛いものかもしれない。ただ彼女と一緒にいると、勉強することもそれほど悪いことではないようだった。たとえ勉強を教えるときの壬生さんがスパルタ気味だったとしても。
壬生さんと一緒に喫茶店で勉強をすること数時間。外はすっかり真っ暗になっていた。いまだに雨は降り続けている。しかしこれ以上長居をすると、他のお客さんにも迷惑がかかりそうな時間帯だ。
「そろそろ切り上げましょう」
そんな気配を察知したのか、壬生さんが終了を告げてくる。僕もそれにならって片付けを始めた。
喫茶店から出て、僕が傘をさすと、壬生さんがその中に入ってくる。
もうここが壬生さんの定位置だといわんばかりだ。そして実際、そうなのだろう。僕の隣にはいつも壬生さんがいる。それが嬉しくてたまらない。
そういえばこの傘は壬生さんの傘だった。百崎さんに傘を貸したところで、やっぱり傘は一本余ったままだったな。
「ん?」
「お、また会ったな」
壬生さんと相合傘で一緒に帰り道を歩いていると、赤信号の交差点で百崎さんに会った。
「あれ?だいぶ前に帰ったよな?今までなにしてたんだ?」
「瑞樹こそ、今までなにしてたの?部活はだいぶ前に終わったでしょ」
「ああ、うん、そうだな。…ホント、なにやってんだろうな、俺」
なんだか落ち込んでいるように見えた。図書館で会ったときは元気溌剌って感じのスポーツ女子だったのだが、今の百崎さんは覇気がない。
彼女のこちらを見る目がなんだか暗い。まるで嫉妬でもされてるみたいだ。
百崎さんは、見た感じ、そんな人を羨むようなタイプには見えないんだけどな。健康的でしなやかな体をしている彼女は、顔も整っていて美人系の女子だ。ちょっと男勝りな口調だけど、それは決して悪い意味ではない。むしろ百崎瑞樹という女子を魅力的にするファクターの一つだろう。
要するに、百崎さんは決して他人を羨むほど落ちぶれるようなタイプではなさそうなのだ。しかし今の彼女は僕らを嫉妬まじりで見ている気がした。
「…なんでこうも違うんだろ」
百崎さんは小声でなにかを呟く。
交差点の信号が青になる。
「じゃあ俺、こっちだから、またな」
百崎さんは僕の傘をさして別方向へ歩き出す。彼女の後ろ姿にはなんだか哀愁が漂っていた。
なんだろう?なにか嫌なことでもあったのかな?
「ねえ、根東くん」
「え、なに?」
「瑞樹のこと、寝取ってみない?」
…なんですと?
「で、私が瑞樹の彼氏を逆寝取りするの。どっちが先に寝取れるか、競争しようよ」
雨が降る暗い夜道で、壬生さんと僕の狂騒劇が幕を上げた。
そろそろ女子テニス部の活動も終わる頃かなってぐらいに勉強の切りを上げて図書館から外に出ようとすると、雲行きが怪しくなっていた。
雨、降るかもしれないな。
僕は先月のラブホ事件のことを思い出し、なぜか背筋に悪寒が走った。
「傘、買うか」
僕は購買部に行って五百円のビニール傘を購入した。その後、あれ?そういえばこういう日に備えて折り畳み傘を持ってたんじゃなかったっけ?と思い出して鞄を見れば、折り畳み傘があった。
…お金を無駄に使ってしまった。
いや、もしかしたら壬生さんも傘を持ってないかもしれないじゃないか。もしそうなら、傘を一本余分に買うことで壬生さんを雨に濡らさずに済むわけだし、無駄ってわけじゃないよね!
… 一応、確認しておくか。
『壬生さん、雨降りそうだけど、傘持ってる?』
スマホでメッセージを送ってからしばらくすると、ぽつぽつと雨が降り始めた。あ、これはめっちゃ降りそう。
普段は予言なんてあたらないのに、こういう悪い予感に限って的中するもので、やがて黒い雨雲から大雨が校庭に降り注いだ。
ざーと突然の豪雨に生徒たちがきゃあきゃあと悲鳴をあげていた。。屋外で活動していた生徒たちは突然の雨から逃げるべく、脱兎のごとく走り出して校舎へと駆け込む。
ぴろん♪
壬生さんからメッセージが来る。
『うん、持ってるよ』
流石は壬生さんだ。こんな突発的なゲリラ豪雨の対策まできっちりしてるんだ。
余計な傘を買ってしまったな。かといって使わないと負けた気分になるので、僕は新品のビニール傘を使うことにした。そしてスマホでメッセージを送る。
『迎えに行こうか?』
『うん。部室棟に避難してるから、着いたら教えてね』
『了解でーす』
はあ、こうやって普通にやり取りする分には本当にただの恋人同士みたいだな。なんでこの普通のやり取りが僕らはできないのだろう?
なんかついてないな。
いや、僕も壬生さんの奇行を楽しんでいるわけだから、心底から嫌がってるわけではないんだけどね。
壬生さんが寝取られるかもしれないという時、僕の体が悲鳴をあげる一方で、喜びの声をあげているのもまた事実だ。
そう、結局のところ、僕もこの異常ともいえる状況を楽しんでいるのだ。だから壬生さんだけが悪いということはない。むしろそう仕向けている僕の方が悪の親玉なところあるよな。
それはわかっている。わかっているのだが、ただほら、最近さあ、頻度が多いから。いくら楽しいからといって、こんな刺激的なことをしょっちゅうやられると流石に脳の修復も追いつかないよ。
僕の脳を破壊するのは良い。ただ回復期間も設けてほしいかな、と思うだけなのだ。
まあここ最近は壬生さんも過激な行動を控えているので、そこまで脳が破壊されることはなかったんだけどね。
…妙だな。あの壬生さんが行動を控えているだと?
なにかの企みに対する準備期間とかじゃないよね?
だ、大丈夫だよ。壬生さんだってそんな暇じゃないし。むしろ忙しいし。ただでさえテニス部と受験勉強に加えて、最近は中間テストまであったじゃないか。こんな忙しい時期になにか企てるだなんて、いくら才女の壬生さんでも無理でしょ!
…あ、そういえば中間テスト、もう終わったんだ。じゃあ今までほど忙しくはないのかな?
そんな取り留めのないことを考えながら歩いていると、部室棟に到着した。いまだ雨は止まず、ビニール傘をぱちぱちと雨の雫が打ち鳴らしている。
校庭は雨に濡れ、雨雲によって太陽の光が遮られているので周囲は暗く、湿っぽい。
ちょっと冷えるな。早く壬生さんに会いたい。
「うん?」
部室棟の校舎に近づくと、知っている人がいた。っていうか、さっき会ったばかりの人、百崎瑞樹さんだ。
誰かを待っているのだろうか?急な雨に濡れたせいで、彼女の制服が濡れている。髪も雨に濡れていて、百崎さんの綺麗な肌に黒い髪が張り付いていた。
「はあ、なんでだよ…」
さきほどの明るい態度とは一転して、なんだか機嫌が悪そう。というか意気消沈しているように見えた。
ていうかもうちょっと後ろに下がらないと、雨に濡れますぜ?
百崎さんは部室棟の屋根の影に避難はしているのだが、誰かを待っているのか、しきりに校舎の庇から少し外に出て周囲を窺っている。
そんなことしたら濡れるだろ。傘、持ってないのかな?
…うーん、どうしよう?
まあ傘一本余ってるし、貸してあげようかな?知らない仲でもないし。
…はあ。まあいいか。
百崎さんはきょろきょろと外を窺っている。僕はそんな彼女の上にそっと傘を差し出して、
「濡れますよ」
と言ってみた。
「うん?あれ、お前さっきの…えーっと、司じゃねえか!こんなとこでなにしてんだ?」
「あの、ちょっと用があって。それより濡れますよ。よかったら傘、入ります?」
「おう、ありがとよ。へへ、お前、優しいな」
百崎さんは雨に濡れて寒いのか、両腕を組んでせわしなく足を揺すっている。
「突然降ってきたけど、傘とか持ってない感じ?」
「そうなんだよ、急に降るからさあ。はあ、参ったよ。…あいつこねえし」
「え?」
「なんでもねえ」
誰のことを言っているのか、最後の方はちょっと不機嫌だった。
「良かったら傘、貸そうか?」
「え?うーん、いや、いいよ。それ俺に貸したらお前の傘がなくなるじゃねえか」
「大丈夫、実は二本持ってるから」
「お、そうか?ならお言葉に甘えて…って、なんで二本持ってるんだ?」
うっ、それはあまり言いたくないのだが。
「いや、折り畳み傘を持ってないって勘違いしてて、間違えて買っちゃったから」
「はあ?なんだそれ、くく、進学科の一組って頭良いって聞いてたけど、実はドジだな」
「はは、本当だよ」
さきほどまでテンションが低かったのだが、僕の失敗談が面白かったのか、百崎さんは機嫌が良さそうに笑ってくれた。
「そういうわけで傘は余ってるから、使ってくれてぜんぜん大丈夫だよ。これ以上濡れたら風邪ひくよ?」
「くく、ああ、ありがとよ。ありがたく使わせてもらうわ」
よほどツボにはまったのか、まだ笑ってる百崎さんに傘を渡した。
まあ、失敗談といえば失敗談だけど、人の役に立つ失敗談なら別に良いか。
ぶーぶー。スマホが振動していた。スマホを取り出して見れば、壬生さんから通話が着ていた。しかしすぐに切れてしまう。
…あれ?どうしたんだろう?
「根東くん」
背後から声がかかる。
「瑞樹とずいぶん仲が良さそうだけど、知り合いだったのかな?」
これは壬生さんの声だ。しかしなぜだろう、その声を聞いた途端、背筋に悪寒が走り、ぞくりとした。これはきっとあれだ。雨で気温が下がったせいに違いない。
「え、あの、壬生さん!なぜここに!」
「根東くんはおかしなこというね。さっきスマホで部室棟にいるといったはずだけど?」
そうだった。僕は彼女に会いに来たんじゃなかったっけ?本人がここにいて何が悪いのさ?なにもおかしくないよ!
「おう、来沙羅。あれ、お前、司と知り合い?」
「彼氏だよ」
「え?ああ、そうなんだ。…え?また彼氏変えたのか?っていうか、司、お前、来沙羅の彼氏なん?」
なんかすごい驚かれた。まあそうかもな。
「うん。そうだよ」
「へぇ、お前がねえ、来沙羅のねえ」
――今回はどれくらいもつのやら、といたずらっ娘みたいな笑みを浮かべて百崎さんは揶揄ってくる。
「心配無用よ。今回は本気だから」
お、壬生さんから援護射撃がきた。もう機嫌直ったのかな?
「まあ根東くんの行動次第ではわからないけど」
と言ってこちらをじと目で睨む壬生さん。あれれれー、機嫌直ってねえや。
「へえ、じゃあ賭けるか?一ヶ月以上もったらジュース奢ってやるよ」
「あら、いいわね。その賭け乗ったわ」
「よし、決まりだな!」
勝手に人の破局期間を賭けの対象にしないで欲しい。っていうかあれ?一ヶ月ってもう経過してるよな?
「じゃあ賭けスタートね。はい、本日の時点ですでに一ヶ月経過したから私の勝ち」
「あ?嘘つけよ。だってお前、先月…」
「本当よ。そうだよね、根東くん」
「うん」
なんやかんやもう壬生さんと恋人同士になってから一ヶ月以上は経過している。っていうか、百崎さんは何を言いかけたんだ?
あれ、おっかしいなあと怪訝そうな表情で壬生さんを見る百崎さん。一体なにが腑に落ちないのだろう?
「とにかく賭けは私の勝ちね」
「チッ、しょうがねえな」
「ジュース一年分を奢ってもらおうかしら」
「え?一本じゃねえの!」
「一本だけなんて一言も言ってなかったでしょ?」
「一年分とも言ってないだろ!」
奢りは一本だけだ、と百崎さんは壬生さんに反論する。それを受けて、はいはい、じゃあ一本ね、と壬生さんは返す。なんだか仲が良さそうだな。
「それじゃあ、そろそろ帰ろうかしら?」
「うん、そうだね」
そう言うと壬生さんは百崎さんの目の前だというのに僕に近づいて腕を組んだ。
「根東くん、私、今日疲れちゃった。私の代わりに傘、さしてくれる?」
「うん、いいよ」
「お前ら、本当に仲が良いんだな」
僕は壬生さんから傘を受け取ると、百崎さんがなんだか羨ましそうな目でこちらを見ていた。
そういえば、百崎さんって彼氏いたよな。
あの合宿の件を思い出す。同じ合宿に参加してたってことは、男子テニス部の部員が彼氏なのかな?
「私たちはこれで帰るけど、瑞樹はどうするの?」
「あん?ああ、俺は…もうちょっと待ってみるよ」
「…そう。ならまた明日ね」
なんだか妙な空気だったな。百崎さんは雨に濡れて寒いのか、辛そうだ。
僕が「また今度ね」と言うと、百崎さんは「おう、明日、傘返すからな」と答えてくれる。
「行こう、根東くん」
「う、うん」
なにかが引っかかる。後ろ髪をひかれるような気分とはまさにこのことだな。
僕たちは百崎さんに見送られる形で、相合傘で校門を出た。
「根東くん、勉強は捗った?」
そうだった。壬生さんから参考書を渡されていたんだ。
雨は激しく、ザーザーとしつこく音が鳴っている。壬生さんはそれほど大きい声ではないのに、この雨音の中で彼女の声はやけにはっきりと耳に届いた。
「え、うん、今読破してるところだよ!」
「そう?なら途中で喫茶店に寄ろうよ。一緒に勉強しよ」
「うん、いいよ!」
今日はいろいろあったけど、とりあえずなんとかなりそうだな。僕たちは通学路の途中にあった喫茶店に立ち寄り、そこで一緒に勉強することにした。
「それで」
アイスコーヒーを注文し、僕らは席につく。そこで壬生さんは僕の方をじっと見つめながら、質問した。
「どういう経緯で瑞樹と知り合いになったのかしら?」
あ、やっぱりそれ聞くんだね。てっきり誤魔化せたと思ってたよ!
「いや、あの、今日図書館で勉強してんだよ。そしたら、たまたま隣の席に百崎さんがいて、なんか補習でわからないところがあるって困ってたみたいだから、教えてあげたんだ」
そう、それだけなんだよ。他意はなく、本当に偶然知り合っただけなんですよ、壬生さん。
「それだけ?杏以外の女の子を口説きたくなったとかじゃないの?」
「違うよ!僕が一番口説きたいのは壬生さんだけだよ!」
「ふーん、そうなんだあ」
壬生さんはアイスコーヒーを一口飲む。カランとコップの中の氷が揺れる。
「私の参考書より、瑞樹との勉強の方が大事なんだ」
あれれー?おっかしいなあ、そういう展開になっちゃう?
「いやいや、決してそういうわけではないんだよ!ただほら、本当に困ってたみたいだから、ちょっとお手伝いしただけで、壬生さんを蔑ろにしたわけではないんですよ!お願いだから信じてほしいな!」
「そう?根東くんは瑞樹と私、どっちが大事なの?」
「え、それは壬生さんだよ。当たり前でしょ!」
「ふーん?ならいいよ。私が一番なら、ぜーんぶ許してあげる」
そういうと、壬生さんの冷たい眼差しが少しだけ溶けた気がする。
そのあとは今のことを水に流してくれたのか、特に話題に上がることはなく、僕らは受験勉強に勤しんだ。
「根東くん、次はこっちの問題を解いてみようか」
「え、これ難しすぎな…」
「解いてみようか」
「あ、はい。やってみます」
今日の壬生さんはいつもよりちょっとだけ厳しく感じた。
勉強は厳しく、辛いものかもしれない。ただ彼女と一緒にいると、勉強することもそれほど悪いことではないようだった。たとえ勉強を教えるときの壬生さんがスパルタ気味だったとしても。
壬生さんと一緒に喫茶店で勉強をすること数時間。外はすっかり真っ暗になっていた。いまだに雨は降り続けている。しかしこれ以上長居をすると、他のお客さんにも迷惑がかかりそうな時間帯だ。
「そろそろ切り上げましょう」
そんな気配を察知したのか、壬生さんが終了を告げてくる。僕もそれにならって片付けを始めた。
喫茶店から出て、僕が傘をさすと、壬生さんがその中に入ってくる。
もうここが壬生さんの定位置だといわんばかりだ。そして実際、そうなのだろう。僕の隣にはいつも壬生さんがいる。それが嬉しくてたまらない。
そういえばこの傘は壬生さんの傘だった。百崎さんに傘を貸したところで、やっぱり傘は一本余ったままだったな。
「ん?」
「お、また会ったな」
壬生さんと相合傘で一緒に帰り道を歩いていると、赤信号の交差点で百崎さんに会った。
「あれ?だいぶ前に帰ったよな?今までなにしてたんだ?」
「瑞樹こそ、今までなにしてたの?部活はだいぶ前に終わったでしょ」
「ああ、うん、そうだな。…ホント、なにやってんだろうな、俺」
なんだか落ち込んでいるように見えた。図書館で会ったときは元気溌剌って感じのスポーツ女子だったのだが、今の百崎さんは覇気がない。
彼女のこちらを見る目がなんだか暗い。まるで嫉妬でもされてるみたいだ。
百崎さんは、見た感じ、そんな人を羨むようなタイプには見えないんだけどな。健康的でしなやかな体をしている彼女は、顔も整っていて美人系の女子だ。ちょっと男勝りな口調だけど、それは決して悪い意味ではない。むしろ百崎瑞樹という女子を魅力的にするファクターの一つだろう。
要するに、百崎さんは決して他人を羨むほど落ちぶれるようなタイプではなさそうなのだ。しかし今の彼女は僕らを嫉妬まじりで見ている気がした。
「…なんでこうも違うんだろ」
百崎さんは小声でなにかを呟く。
交差点の信号が青になる。
「じゃあ俺、こっちだから、またな」
百崎さんは僕の傘をさして別方向へ歩き出す。彼女の後ろ姿にはなんだか哀愁が漂っていた。
なんだろう?なにか嫌なことでもあったのかな?
「ねえ、根東くん」
「え、なに?」
「瑞樹のこと、寝取ってみない?」
…なんですと?
「で、私が瑞樹の彼氏を逆寝取りするの。どっちが先に寝取れるか、競争しようよ」
雨が降る暗い夜道で、壬生さんと僕の狂騒劇が幕を上げた。
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手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
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