きつく縛って、キスをして【3】

青森ほたる

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門限破り

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お風呂をすませて髪を乾かして歯を磨いて寝室の大きなベッドのシーツにくるまって、私は睡魔と戦いながらなんとか俊光様の帰りを待っていた。

何度か寝落ちしかけたのち、寝室の扉が開いて廊下の明かりが室内にさしこんだとき「俊光さま……っ」と、声をあげて上半身をおこす。

「まだ起きてたのか」

ベッドに歩み寄ってきた俊光様はまだコートを着たままで、今ちょうど帰ってきたばかりだとわかる。

「おかえりなさい」

両手を伸ばして、ぎゅっと俊光様の首に抱きつき、外の匂いと俊光様の匂いがまじった匂いをいっぱいに吸う。すごく幸せな気持ちになる私の大好きな匂いだ。

頬をあわせて、唇を重ねる。何度かキスをして、吐き出した息と一緒に俊光様が「千尋」と笑う。

「さっそくご機嫌とりか? 門限破りのことならもう佐久間から聞いたぞ」

佐久間さんのことだからすでに報告されているだろうとは思っていた。でも、おかえりなさいのキスに応えてくれたから、そこまで怒っていないはず……。

「俊光様、ごめんなさい。本当にうっかりしていて、あのすごく頑張って走ったんですけど3分だけ間に合わなくて」

ぎゅうっと俊光様の首に抱きついたまま、『3分』のところを強調した。俊光様が両腕で私の体を抱きかかえる。

「時間の管理ができない秘書へのお仕置きはなんだったかな」

俊光様の右手が私のお尻のあたりを掴む。俊光様が言っているのは、私たちが出会ってすぐの頃の会社に遅刻したときのことに違いない。タイマーを5分にセットして、定規やらパドルやらで叩かれたあとに、浣腸までされた。

「え、あの……っで、でも、それはっ仕事の話でっ」

口ごもる私に俊光様が「たしかに、そうだな」と言ったので安心したところを、寝間着のズボンと下着を一緒に引きずり下ろされて、すっとお尻が冷える。

「仕事での失態はもちろん容赦しないが……。恋人として、門限を約束を破ったお仕置きはしておかないとな」

俊光様が、肩に私を担ぎ上げるようにした途端、無防備なお尻にバチンッと平手が落ちてくる。

「いぃぃぁぁっ!!!」と、俊光様の首に抱きつく。

「と、俊光さまっ……ぁぁあっ!!!」

バシンッ、バシンッ、と俊光様は私を片腕で抱えたままでも難なく片手を大きく振りかぶって強い平手を打ち付けてくる。

「いっっっ…!!!ぁっぁぁ!!!っっぁぁっ!!!」

体を丸ごと抱えられているせいで、一切逃げられなくて、俊光様にしがみつくようにしてただただ痛みに耐えることしかできない。

「それに、今日は、佐久間に口答えもしたらしいな」
「そ、それは……っ」

しっかり告げ口されている。

ぎゅぅぅっと、お尻を抓られて「あっっぁっ!!!ごめんなさぃぃ!!!」と身を捩る。

「簡単な門限の約束も守れないなんていつまでも子どもだな。お尻が痛くなくなったらすぐ忘れてしまうらしい」

だからずっと見ていてほしいのだ。ずっと手綱を繋いでいてほしいのだ。

「ひぃっっっ……っ!!」

「まったく……」

バシィンッと最後に一回叩かれて、ベッドの上にほとんど放り投げるように降ろされる。お仕置きはされたことにはされたけど、平手だけでだいぶ軽く済んだことにほっとする。

「あと明日から二週間外出禁止だな」
「ええっ!?」

あんまり怒ってないと思ったのに。
結局、また外出禁止なんて。思わず大声で反応する私に、俊光様が「なにか不満なのか?」と問う。

そんなの、言ってしまえば不満しかない。だって、仕事終わりにこのだだっ広い家に一人でいるなんて……。

「つまらないんです。飲みにいけないなんて。俊光様もいないし」
「門限を破った罰なんだ。これくらいちゃんと受けろ」

俊光様に言い返されるが、もう門限破りのお仕置きはもう終わったという安心感からつい軽はずみなことを口にしてしまう。

「二週間の外出禁止になるくらいならお尻を叩かれるほうがマシです……」

俊光様が眉をつり上げてベッドの上の私を見下ろす。

「なるほど、お尻を叩かれるほうがマシなんてさっきのお仕置きじゃ優しすぎて効いていないということだな」

えっと、そういうことではなく……。

「甘やかすとよくないな」と呟く俊光様に嫌な予感がする。俊光様がズボンのベルトを抜いて、二つ折りにしてパシンと手に打ちつける。

「千尋、うつ伏せになれ」

ベルトでお仕置き!?

「俊光さま!!」
「うつ伏せになれといったんだ。さっさとお仕置きの準備をしろ。自分でできないなら、お仕置き部屋に連れていくぞ」

最悪だ!!
私はさっき平手で叩かれたばかりでひりひり痛むお尻をさすりながら、うつ伏せに横になる。

「手は前」

なぜ、こんなことに……!

ひゅん、とベルトが空気を切る音から、身が縮むような思いがする。
バチィィィンッッ!!とお尻に弾けて「ひぃぃいいいんっ」と、シーツを握りしめる。

バチィィィンッッ!!バチィィィンッッ!!バチィィィンッッ!!と、ベルトが次々振り下ろされて、痛みに背中がそり上がる。

「ごめんなさいぃぃっ!!!ごめんなさぃぃっ!!おしり痛いっいいいたいっですっ!!!!」 

「千尋。足」

跳ね上がった足のふくらはぎのところを寝巻き越しだが、バシィィィンッと思いきり叩かれて、痛みに息がつまる。

「……っぅうぅうっっ!!!もうっもうっ。反省しましたっ!!!!」

バチィィィンッッ!!バチィィィンッッ!!と、思いきりベルトが振り下ろされて、

「まったく、こんな深夜にお仕置きされるようなことをするんじゃない。明日も仕事なんだから早く寝ろ」

と、真っ赤な線状にベルトの痕のついているであろう腫れたお尻をぞんざいに仕舞われた。

「ごめんなさぁぃ……」
「早く寝ろ」

もう一度、鋭く釘を刺されて「はぃ……おやすみなさぃ……」と、私はしぶしぶこたえた。
ベルトで叩かれたお尻はじんじんと痛んだが、お仕置きされたせいで疲れたせいか、それから私はすとんと眠りに落ちた。





ベルトで叩かれたお尻は、うっすらと痣になっていて、翌日の仕事中も椅子に座るたびにずきずきと痛んだ。
私が座るたびに顔をしかめようと、秘書課の人たちは、先輩も後輩ももう誰も気にしない。
一日の業務を終えて、私は俊光様の様子を伺いに一度社長室を覗きにいく。

きちんとノックをして、扉を開けると、執務机に座っている俊光様が顔をあげる。

「俊光様。一緒に、帰れますか?」
「先に帰っていろ」

正直、これは最近はいつものことだ。いつもダメ元で聞くので別にいちいち落ち込むこともなく「わかりました」と、社長室をでる。

「千尋さん。お家まで、お送りします」
佐久間さんがすっと音もなく追いかけてきて、自然に私の鞄を持とうとする。

「あ、今日は買い物に寄ってから帰ろうかなと……」

鞄を取り返そうとした私の手を制して、佐久間さんは「千尋さん。あなた、外出禁止ですよね?」と眉をひそめる。

「えっ?!」

私は社長室にとって返して、扉から首だけつっこんで「私、外出禁止なんですか?」と尋ねると、俊光様は手元の資料から顔も上げず

「ああ、そうだ。二週間の外出禁止だと昨晩そう言っただろ?」

と返してくる。

あれ、でもそれは、そのあとさらにベルトでお仕置きされたことでなしにはなって……ないのか。外出禁止になるくらいなら、お尻を叩かれた方がましだと言って……ベルトで叩かれて……。

「千尋、まだ不満があるのか?」

俊光様が両手に持っていた資料を机に置いて、脅すような声で尋ねてくるので、私は慌てて背筋を伸ばす。

「ない、です!!お仕事、がんばってください!!!」

「今日はなるべく早く帰る。いい子で待っていろ」

胸が、きゅんっと高鳴る。「はいっ」と返事をする自分の声が、わかりやすく浮かれていた。

俊光様の口から発せられる『いい子』が好きすぎる。こんな私だって、いい子でいようと思っているのだ。
だって、俊光様にでろでろに甘やかされるのは好きだから。
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