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第二部 極北の修道院編

47 意外な人物の来訪

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 サラから告げられた来訪者の名前は、意外な人物だった。
 
「勇者パーティで仲間だったというフィアルさまがお見えですが、お通ししてもよろしいでしょうか」
 
 先日、酒場で会って別れたきりだ。あの時のフィアルの最後の慌てぶりは、ロウが大魔法使いさまだと気づいたからだったのよね。彼の勘は鋭いから。
 
 私の窮地を知って、わざわざ会いに来てくれたのだろうか。特に面会を断る理由もない。
 
「フィアルね。いいわ。通してください」
「承知いたしました」

 リビングルームの扉を開けると、フィアルが立って待っていた。
 
「用事があって近くまで来たので、寄らせていただきました。ロザリーが捕まったと聞いて、居ても立ってもいられなくなったんです。何か僕にできることはありませんか?」
「……せっかくの申し出だけど、今のところ大丈夫よ。大魔法使いさまが動いてくれているから心配ないわ」
 
 私はやんわりと断る。
 まだ三日あるのだ。妖精占いで調査の進展がないと知って心配しているけれど、ロウとの約束だから大人しく待とうと決めた。
 
「今回の件で、国の奴らは信用できないことがよく分かりました。英雄と呼ばれるロザリーを捕まえるとは、何かの間違いに決まっています!」
「……そうね。私も全く身に覚えがないから、証拠が見つかって早く解放されたいわ」
「え? 身に覚えのないことで捕まった!? それはなおさら許せないです!」
 
 フィアルは私が捕まった理由を知らなかったようだ。
 彼は拳を振るわせて、私以上に怒ってくれた。その気持ちだけで十分だ。
 
「フィアルが私のために怒ってくれるのは嬉しいわ。ありがとう」

 そう説得しても、フィアルは納得しなかった。
 彼が口を開いて出てきたのは、思いがけない提案だった。
 
「僕と一緒に遠くの町へ逃げませんか。二人で転移魔法を使えば、地の果てまでも行くことが可能です。幸いにして、この部屋は魔法が使えるようですし」

 フィアルと遠くの町へ逃げる!?
 大魔法使いさまが証拠を見つけられなければ、最悪の場合、極刑を受けることになる。それよりはマシだと言いたいのだろう。
 しかし、逃げるというのは、犯人だと暗に認めたようなものだ。今はまだ調査の結果を諦めたくないし、ロウとの信頼関係を壊すことはできない。
 
「それはできないわ。大魔法使いさまの計らいでこの部屋に移ることができたの」
「……わかりました。ロザリーなら断ってくると思っていました」

 私の返答は彼の予測範囲内だったらしい。しかし、私が逃亡したいと望んだとしても、それを喜んで叶えてしまうだろうという怖さもあった。

「そういえば、僕がこの部屋に入れた理由ですが――」
  
 そう言ってフィアルが取り出してきたのは王城の通行証だった。
 見覚えがある。勇者パーティ時代に私も持っていたものだ。

「それは通行証よね?」 
「はい。勇者パーティを辞めるときに返却するはずだったんですが、バタバタしていて持ったままになっていたんです。この通行証で王城に入れてしまって、メイドに声をかけたらこの部屋を案内されました」

 王城には基本、通行証がないと入ることができない。王国騎士団も物を売りに来る行商もそれぞれ持っている。大魔法使いさまだったら、顔パスなんだろうけど。
 
 勇者パーティに在籍していたからってホイホイ王城に入れるようでは、セキュリティに問題があるし、変な話それこそ王族の暗殺に使えてしまう。
 それほど大切な通行証が野放しになっていたとは大問題だ。回収責任は勇者パーティのリーダーである第四王子にある。今は地下牢に幽閉されているけれど。
 
「通行証が使えてしまうなんてね。本当に第四王子は詰めが甘いわよね」
「今回限りで通行証は返却しますが、まさか今も使えるとは驚きました」

 通行証の差し止めもできたはずなのに、第四王子は本当に詰めが甘い。呆れるばかりだ。

「では、僕は行きます」
 
 そう言って、フィアルは腰を上げる。私は思わず、「フィアル」と呼び止めた。
 
「どうしましたか?」
「フィアルは……これからは一人の冒険者としてやっていくの?」
「僕はロザリーのようには強くないので、一人きりの冒険者は無理そうです。どこかのパーティに所属している方が性に合ってます。というのは……この前、一人で道を歩いていたら、強盗に襲われそうになったんです。見た目が日弱そうだからでしょうか。すぐに魔法で倒しましたけど」
 
 きっと強盗には容赦なく魔法攻撃をしたのだろう。
 私はクスッと笑って「それはフィアルらしいわね」と言った。
 
「ロザリー、どうかお元気で」
「フィアルもお元気で」
 
 手を差し出されて、私は握り返した。
 冒険者をしていれば会う機会があるけれど、偶然でもなければ会うこともないだろう。そんな別れだった。
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