47 / 98
第二部 極北の修道院編
47 意外な人物の来訪
しおりを挟む
サラから告げられた来訪者の名前は、意外な人物だった。
「勇者パーティで仲間だったというフィアルさまがお見えですが、お通ししてもよろしいでしょうか」
先日、酒場で会って別れたきりだ。あの時のフィアルの最後の慌てぶりは、ロウが大魔法使いさまだと気づいたからだったのよね。彼の勘は鋭いから。
私の窮地を知って、わざわざ会いに来てくれたのだろうか。特に面会を断る理由もない。
「フィアルね。いいわ。通してください」
「承知いたしました」
リビングルームの扉を開けると、フィアルが立って待っていた。
「用事があって近くまで来たので、寄らせていただきました。ロザリーが捕まったと聞いて、居ても立ってもいられなくなったんです。何か僕にできることはありませんか?」
「……せっかくの申し出だけど、今のところ大丈夫よ。大魔法使いさまが動いてくれているから心配ないわ」
私はやんわりと断る。
まだ三日あるのだ。妖精占いで調査の進展がないと知って心配しているけれど、ロウとの約束だから大人しく待とうと決めた。
「今回の件で、国の奴らは信用できないことがよく分かりました。英雄と呼ばれるロザリーを捕まえるとは、何かの間違いに決まっています!」
「……そうね。私も全く身に覚えがないから、証拠が見つかって早く解放されたいわ」
「え? 身に覚えのないことで捕まった!? それはなおさら許せないです!」
フィアルは私が捕まった理由を知らなかったようだ。
彼は拳を振るわせて、私以上に怒ってくれた。その気持ちだけで十分だ。
「フィアルが私のために怒ってくれるのは嬉しいわ。ありがとう」
そう説得しても、フィアルは納得しなかった。
彼が口を開いて出てきたのは、思いがけない提案だった。
「僕と一緒に遠くの町へ逃げませんか。二人で転移魔法を使えば、地の果てまでも行くことが可能です。幸いにして、この部屋は魔法が使えるようですし」
フィアルと遠くの町へ逃げる!?
大魔法使いさまが証拠を見つけられなければ、最悪の場合、極刑を受けることになる。それよりはマシだと言いたいのだろう。
しかし、逃げるというのは、犯人だと暗に認めたようなものだ。今はまだ調査の結果を諦めたくないし、ロウとの信頼関係を壊すことはできない。
「それはできないわ。大魔法使いさまの計らいでこの部屋に移ることができたの」
「……わかりました。ロザリーなら断ってくると思っていました」
私の返答は彼の予測範囲内だったらしい。しかし、私が逃亡したいと望んだとしても、それを喜んで叶えてしまうだろうという怖さもあった。
「そういえば、僕がこの部屋に入れた理由ですが――」
そう言ってフィアルが取り出してきたのは王城の通行証だった。
見覚えがある。勇者パーティ時代に私も持っていたものだ。
「それは通行証よね?」
「はい。勇者パーティを辞めるときに返却するはずだったんですが、バタバタしていて持ったままになっていたんです。この通行証で王城に入れてしまって、メイドに声をかけたらこの部屋を案内されました」
王城には基本、通行証がないと入ることができない。王国騎士団も物を売りに来る行商もそれぞれ持っている。大魔法使いさまだったら、顔パスなんだろうけど。
勇者パーティに在籍していたからってホイホイ王城に入れるようでは、セキュリティに問題があるし、変な話それこそ王族の暗殺に使えてしまう。
それほど大切な通行証が野放しになっていたとは大問題だ。回収責任は勇者パーティのリーダーである第四王子にある。今は地下牢に幽閉されているけれど。
「通行証が使えてしまうなんてね。本当に第四王子は詰めが甘いわよね」
「今回限りで通行証は返却しますが、まさか今も使えるとは驚きました」
通行証の差し止めもできたはずなのに、第四王子は本当に詰めが甘い。呆れるばかりだ。
「では、僕は行きます」
そう言って、フィアルは腰を上げる。私は思わず、「フィアル」と呼び止めた。
「どうしましたか?」
「フィアルは……これからは一人の冒険者としてやっていくの?」
「僕はロザリーのようには強くないので、一人きりの冒険者は無理そうです。どこかのパーティに所属している方が性に合ってます。というのは……この前、一人で道を歩いていたら、強盗に襲われそうになったんです。見た目が日弱そうだからでしょうか。すぐに魔法で倒しましたけど」
きっと強盗には容赦なく魔法攻撃をしたのだろう。
私はクスッと笑って「それはフィアルらしいわね」と言った。
「ロザリー、どうかお元気で」
「フィアルもお元気で」
手を差し出されて、私は握り返した。
冒険者をしていれば会う機会があるけれど、偶然でもなければ会うこともないだろう。そんな別れだった。
「勇者パーティで仲間だったというフィアルさまがお見えですが、お通ししてもよろしいでしょうか」
先日、酒場で会って別れたきりだ。あの時のフィアルの最後の慌てぶりは、ロウが大魔法使いさまだと気づいたからだったのよね。彼の勘は鋭いから。
私の窮地を知って、わざわざ会いに来てくれたのだろうか。特に面会を断る理由もない。
「フィアルね。いいわ。通してください」
「承知いたしました」
リビングルームの扉を開けると、フィアルが立って待っていた。
「用事があって近くまで来たので、寄らせていただきました。ロザリーが捕まったと聞いて、居ても立ってもいられなくなったんです。何か僕にできることはありませんか?」
「……せっかくの申し出だけど、今のところ大丈夫よ。大魔法使いさまが動いてくれているから心配ないわ」
私はやんわりと断る。
まだ三日あるのだ。妖精占いで調査の進展がないと知って心配しているけれど、ロウとの約束だから大人しく待とうと決めた。
「今回の件で、国の奴らは信用できないことがよく分かりました。英雄と呼ばれるロザリーを捕まえるとは、何かの間違いに決まっています!」
「……そうね。私も全く身に覚えがないから、証拠が見つかって早く解放されたいわ」
「え? 身に覚えのないことで捕まった!? それはなおさら許せないです!」
フィアルは私が捕まった理由を知らなかったようだ。
彼は拳を振るわせて、私以上に怒ってくれた。その気持ちだけで十分だ。
「フィアルが私のために怒ってくれるのは嬉しいわ。ありがとう」
そう説得しても、フィアルは納得しなかった。
彼が口を開いて出てきたのは、思いがけない提案だった。
「僕と一緒に遠くの町へ逃げませんか。二人で転移魔法を使えば、地の果てまでも行くことが可能です。幸いにして、この部屋は魔法が使えるようですし」
フィアルと遠くの町へ逃げる!?
大魔法使いさまが証拠を見つけられなければ、最悪の場合、極刑を受けることになる。それよりはマシだと言いたいのだろう。
しかし、逃げるというのは、犯人だと暗に認めたようなものだ。今はまだ調査の結果を諦めたくないし、ロウとの信頼関係を壊すことはできない。
「それはできないわ。大魔法使いさまの計らいでこの部屋に移ることができたの」
「……わかりました。ロザリーなら断ってくると思っていました」
私の返答は彼の予測範囲内だったらしい。しかし、私が逃亡したいと望んだとしても、それを喜んで叶えてしまうだろうという怖さもあった。
「そういえば、僕がこの部屋に入れた理由ですが――」
そう言ってフィアルが取り出してきたのは王城の通行証だった。
見覚えがある。勇者パーティ時代に私も持っていたものだ。
「それは通行証よね?」
「はい。勇者パーティを辞めるときに返却するはずだったんですが、バタバタしていて持ったままになっていたんです。この通行証で王城に入れてしまって、メイドに声をかけたらこの部屋を案内されました」
王城には基本、通行証がないと入ることができない。王国騎士団も物を売りに来る行商もそれぞれ持っている。大魔法使いさまだったら、顔パスなんだろうけど。
勇者パーティに在籍していたからってホイホイ王城に入れるようでは、セキュリティに問題があるし、変な話それこそ王族の暗殺に使えてしまう。
それほど大切な通行証が野放しになっていたとは大問題だ。回収責任は勇者パーティのリーダーである第四王子にある。今は地下牢に幽閉されているけれど。
「通行証が使えてしまうなんてね。本当に第四王子は詰めが甘いわよね」
「今回限りで通行証は返却しますが、まさか今も使えるとは驚きました」
通行証の差し止めもできたはずなのに、第四王子は本当に詰めが甘い。呆れるばかりだ。
「では、僕は行きます」
そう言って、フィアルは腰を上げる。私は思わず、「フィアル」と呼び止めた。
「どうしましたか?」
「フィアルは……これからは一人の冒険者としてやっていくの?」
「僕はロザリーのようには強くないので、一人きりの冒険者は無理そうです。どこかのパーティに所属している方が性に合ってます。というのは……この前、一人で道を歩いていたら、強盗に襲われそうになったんです。見た目が日弱そうだからでしょうか。すぐに魔法で倒しましたけど」
きっと強盗には容赦なく魔法攻撃をしたのだろう。
私はクスッと笑って「それはフィアルらしいわね」と言った。
「ロザリー、どうかお元気で」
「フィアルもお元気で」
手を差し出されて、私は握り返した。
冒険者をしていれば会う機会があるけれど、偶然でもなければ会うこともないだろう。そんな別れだった。
151
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる