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第二部 極北の修道院編
48 ソニアの暗躍
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※胸糞展開あり。苦手な方はこのページを読み飛ばし推奨します。
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我はソニアであって、ソニアでない。だが、ソニアの感情は手を取るように分かる。
今の彼女は奥底で眠っているが、心の声が聞こえてくるのだ。要求ばかりしてくる強欲な娘よ。
我の名は魔獣、ネアトリアンダー。
大魔法使いとロザリーという娘によって、我の体は滅びた。
そうだ、今の我には実体がない。大魔法使いへの憎しみによって出来上がった思念体とでも呼んでもらおうか。
我の目的はただ一つ。大魔法使いを苦しませてから殺すことだ。
ただ殺すだけでは面白くない。
大魔法使いはロザリーを愛しているらしい。
そこで思いついた。
ロザリーに「毒を送られた」とでも吹聴して罪を着せれば、彼女を救うために大魔法使いはこの修道院に来ざるを得ない。修道院にまんまとやってきた大魔法使いを苦しめて、苦しみ抜かせてから息の根を止めるとしよう。
面白い計画ができた。思わず笑みがこぼれる。
廊下で立ち止まっていたら、目くじらを立てて近づいてくる中年の女がいた。
「ソニア、そんなところで仕事を怠けて! 頼んであった廊下の掃除は終わったの?」
ギャアギャアうるさい女だな。
年齢と上等な服装からして修道院長というのはこの女のことか。
頭ごと吹き飛ばし、絶命させることも可能だが、役に立つことがあるかもしれぬ。今は言うことを聞いたふりでもしておこう。
「ああ……廊下の掃除……これでよろしいですか?」
人差し指を軽く振ると、床の埃がすっかりなくなった。
これくらいの初級魔法、我にしてみれば造作もない。
「あなた……魔法が使えた……の?」
絶望の入り混じった驚愕の目……我の好物の顔をした修道院長に向かってニッコリと笑う。
「魔法が使えて不都合でもございましたか?」
「いいえ、そんなことは……」
唇が細かく震えている。実体があれば美味しい餌となったものを……とても残念だ。
ちなみにこの魔法は、ソニアから奪った聖女の力を一時的に戻して、我の力によって魔力を増幅している。それなりの代償はあるが、彼女が望んだことだ。
「そうだ――」
我の声に、修道院長の肩がビクリと震えた。
そうだ、ソニアの望みの一つを叶えてやろう――。
「私の部屋に暖炉を入れてもらえませんか?」
「それは、修道女の部屋には暖炉を使わない決まりになっていて……」
我らの要求を拒否するとは、図々しいにも程がある。
しかし、魔獣を超えた存在になったのだ。魔獣としての、この女の首を真っ二つにしたい衝動を抑え込んだ。
「え? でも、修道院長の部屋には暖炉が入ってますよね?」
ソニアの動作を真似して、可愛らしく首をコテンと傾ける。
我は絶大なる力の持ち主。修道院長と同じ、もしくはそれ以上の待遇でなくてはな……。
「そ、それは……」
修道院長は何も言えなくなったようだ。
「部屋で凍えるんじゃあ、私の癒しの手がしもやけになっちゃう。暖炉を入れるのが難しいようでしたら、修道院長の部屋と交換していただいてもよろしいんですよ?」
「……分かりました。暖炉を入れさせてもらうわ」
「最初からそう言ってくださればよかったのに! これじゃあ、私が脅したみたいじゃないですか!」
パンと両手を合わせて、嫌味を込めて目元に笑いを滲ませる。
すると、修道院長は屈辱の表情を浮かべた。ああ……とても良い表情だ。
「……あなたは何を望んでいるの?」
修道院長は負けじと言い返してきた。
活きの良い獲物は嫌いではない。
「私の言うことをよく聞いてほしいんですの。あなたが命の次に大事にしている修道院長の座を守りたいのであれば、ね」
我は満足とばかりに唇の端を吊り上げた。
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我はソニアであって、ソニアでない。だが、ソニアの感情は手を取るように分かる。
今の彼女は奥底で眠っているが、心の声が聞こえてくるのだ。要求ばかりしてくる強欲な娘よ。
我の名は魔獣、ネアトリアンダー。
大魔法使いとロザリーという娘によって、我の体は滅びた。
そうだ、今の我には実体がない。大魔法使いへの憎しみによって出来上がった思念体とでも呼んでもらおうか。
我の目的はただ一つ。大魔法使いを苦しませてから殺すことだ。
ただ殺すだけでは面白くない。
大魔法使いはロザリーを愛しているらしい。
そこで思いついた。
ロザリーに「毒を送られた」とでも吹聴して罪を着せれば、彼女を救うために大魔法使いはこの修道院に来ざるを得ない。修道院にまんまとやってきた大魔法使いを苦しめて、苦しみ抜かせてから息の根を止めるとしよう。
面白い計画ができた。思わず笑みがこぼれる。
廊下で立ち止まっていたら、目くじらを立てて近づいてくる中年の女がいた。
「ソニア、そんなところで仕事を怠けて! 頼んであった廊下の掃除は終わったの?」
ギャアギャアうるさい女だな。
年齢と上等な服装からして修道院長というのはこの女のことか。
頭ごと吹き飛ばし、絶命させることも可能だが、役に立つことがあるかもしれぬ。今は言うことを聞いたふりでもしておこう。
「ああ……廊下の掃除……これでよろしいですか?」
人差し指を軽く振ると、床の埃がすっかりなくなった。
これくらいの初級魔法、我にしてみれば造作もない。
「あなた……魔法が使えた……の?」
絶望の入り混じった驚愕の目……我の好物の顔をした修道院長に向かってニッコリと笑う。
「魔法が使えて不都合でもございましたか?」
「いいえ、そんなことは……」
唇が細かく震えている。実体があれば美味しい餌となったものを……とても残念だ。
ちなみにこの魔法は、ソニアから奪った聖女の力を一時的に戻して、我の力によって魔力を増幅している。それなりの代償はあるが、彼女が望んだことだ。
「そうだ――」
我の声に、修道院長の肩がビクリと震えた。
そうだ、ソニアの望みの一つを叶えてやろう――。
「私の部屋に暖炉を入れてもらえませんか?」
「それは、修道女の部屋には暖炉を使わない決まりになっていて……」
我らの要求を拒否するとは、図々しいにも程がある。
しかし、魔獣を超えた存在になったのだ。魔獣としての、この女の首を真っ二つにしたい衝動を抑え込んだ。
「え? でも、修道院長の部屋には暖炉が入ってますよね?」
ソニアの動作を真似して、可愛らしく首をコテンと傾ける。
我は絶大なる力の持ち主。修道院長と同じ、もしくはそれ以上の待遇でなくてはな……。
「そ、それは……」
修道院長は何も言えなくなったようだ。
「部屋で凍えるんじゃあ、私の癒しの手がしもやけになっちゃう。暖炉を入れるのが難しいようでしたら、修道院長の部屋と交換していただいてもよろしいんですよ?」
「……分かりました。暖炉を入れさせてもらうわ」
「最初からそう言ってくださればよかったのに! これじゃあ、私が脅したみたいじゃないですか!」
パンと両手を合わせて、嫌味を込めて目元に笑いを滲ませる。
すると、修道院長は屈辱の表情を浮かべた。ああ……とても良い表情だ。
「……あなたは何を望んでいるの?」
修道院長は負けじと言い返してきた。
活きの良い獲物は嫌いではない。
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我は満足とばかりに唇の端を吊り上げた。
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