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第三部 竜の棲む村編

77 ロウの水中無双

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「ロウはどうやって竜の宮へ来たの?」

 私はこの竜の宮から帰る前に、ロウへ確かめた。
 おそらく、ロウのやってきた方法で帰ることになるだろう。
 
「泳いで来た。防水の魔法をかけて、ロザリーの魔力の気配を探しながら。竜の宮の全体にバリアが張られてたから、ロザリーの魔力は途切れて、見つけるのは苦労した」

「……大変だったのね。私のために助けに来てくれてありがとう」

「どういたしまして。まあ、ロザリーのためなら、どこでも助けに行くが」

「頼もしいわね」

 その気持ちが嬉しくて、感謝を込めて言った。

 ロウは最強のパートナーで、最強の守り神だ。
 でも、助けてもらってばかりではいられない。ロウが困っていることがあったら助けたい。
 そう決意を新たにすると、私たちを静かに見守っていた竜神さまが口を開いた。

「……二人は悔しいぐらいにお似合いですね」

「ようやくわかったか。竜神さま」

 竜神さまの言葉に素早く反応したロウが、喧嘩を売ってきた。

 もう! どうしてそこで喧嘩が始まるのよ!

「そろそろ地上へ行きましょう。きっと村の人たちも心配しているわ」
「……そうだな」

 話を現実に戻すと、ロウはその気になってくれた。
 そう、二人は引き離すのが一番ね。顔を合わせるとすぐに喧嘩が始まってしまう。

 ドジョウたちの手も借りて身支度を整えると、私たちと竜神さまの三人で、竜の宮の玄関まで歩いた。
 
「竜神さま、さようなら」

 私が竜神さまを見上げると、彼はまっすぐに見返してきた。

「ロザリー、また竜の笛で呼ばれるのを楽しみにしています」
「……竜の笛は、俺が使わせない!」

 竜神さまの一言に、ロウはすぐに反応した。
 それくらいの軽口は、竜神さまに言われても良かったのに。ロウはそれさえも許せないと断固反対した。

「竜の笛は、私が使いどきを決めるってことで良かったわよね、ロウ?」
「クッ、ロザリーがそこまで言うのなら仕方がない……」

 悔しそうにしながらも、ロウは納得してくれた。

「じゃあ、私たち行くわね」
「じゃあな」
「ロザリー、さようなら。どうかご無事で」

 竜神さまは玄関を出た入り口まで見送ってくれて、手を振った。

 私たちは手を繋いで一歩を踏み出し、湖の水中を泳ぎ出す。
 振り返ってはいけないような気がして、前の水中だけを見つめた。
 
 
 ロウから防水の魔法、それに加えて呼吸の魔法をかけてもらったから、水の中は快適だ。魚のように泳げるので、地上を歩くよりも楽だった。
 
 さらに快適なのは、魚たちが私たちの気配を感じると、あちらから避けてくれるのだ。魚は警戒心の強い生き物だからだろうか。
 行きたい方向へ進めて、ありがたいけれど。
 
 と、黒い影が見えた。
 こっちに近づいてくる。
 人喰いワニだ! 竜神さまが遭遇すると心配してた生き物。
 全長は大きく、私の二倍はあるだろう。
 
「無理に動くな。じっとしていろ」

 ロウは短くそう言った。
 ちなみに、ロウの防水魔法は便利なことに会話ができる。

 握ってくれるロウの手の感触を信じて、私はその場に止まった。
 変に刺激をしないでやり過ごす作戦かしら。
 
 それでも、ワニも私たちに気づいたようで、バッチリと目が合ってしまった。
 
 野生動物と目が合ったら、戦闘のサインと言うじゃない……?
 これは討伐するしかない?

 どうやら水中での戦闘は避けられないみたいね。
 横にいるロウを見ると、いつでも魔法を発動できるように、耳のイヤリングの魔道具に指先で触れた。

 緊張感が高まったが、対峙したまま戦闘が始まる気配はない。
 驚いたことに、ワニは降参とばかりに首を一つ振ると、私たちから逃げるように泳いでいった。
 私は呆気に取られて口を開いた。
 
「ワニが逃げた……?」
「ああ。竜の宮へ行く途中で、襲いかかってきたワニを数匹討伐してきたんだ。ワニの間で、戦ってはいけないと噂にでもなっているんだろう」

 かなり強そうなワニだったけれど……なるほどそういうことね。
 ロウは湖の水中で無双してきたに違いない。敵から怯えて逃げられてしまうほどに。
 おそらく小魚が逃げていくのも、きっと同じ理由……。

「ん、なんだ?」

 私の見つめる視線に、ロウはおどけて言った。

「本当に頼もしいって、そう思ったのよ」

 ロウは小さく「そうか」と呟いて、地上に向かって泳いでいく。
 やがて白い光が見えてきて、待ち望んでいた地上がそこにあった。
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