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第三部 竜の棲む村編
76 竜の笛
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竜神さまは白銀のまつげを数回瞬き、口を開いた。
「ロザリー……」
「落ち着いてきたみたいね」
「ご迷惑をかけてすみませんでした。また暴走して、ロザリーを傷付けるところでした……」
まず出てきたのは謝罪の言葉。
竜神さまの反省の色は濃い。すっかり正気に戻ったようだ。
二度目の暴走があったら、さすがの私でもロウと一緒に邪神として討伐するところだったわ!
そうならなくて本当に良かった。
「弟が泣いたときは、よくこうやって背中を撫でたの」
「弟、ですか……」
私は種明かしするように言って、竜神さまからそっと離れる。
竜神さまは私の言葉に、ショックを受けた様子だった。
きっと竜神さまは私たちよりもずっと長く生きているはずなんだけど、どうも弟の姿とダブってしまうのよね。冷静になろうとしているけれど、すぐ感情的になってしまうからかしら。
「いつまでロザリーを独占するつもりだ。彼女を返してもらおうか」
ずっと我慢してくれたのだろう、ロウは竜神さまに睨みを効かせた。
ありがとう。信頼して待ってくれて。
私はロウのもとに駆け寄る。
「ロウ、お待たせ。二人で地上へ帰ろう」
「ああ」
帰ろうとした私たちを、竜神さまは慌てた様子で止める。
「湖の中には人喰いワニもいます。危ないので私に案内させてください」
「俺たちを誰だと思っている? 俺は大魔法使いさま、ロザリーは英雄さまと呼ばれている。人喰いワニくらい敵じゃない」
「えっ、大魔法使いさまと英雄さまだったんですか……」
竜神さまは目を見開く。世間の私たちの評判を知らなかったようだ。
人間の世界とは別で生きているんだもの、情報が入って来ないのは仕方がないわよね。
「ロザリーは昔から魔力が強いと思っていましたが、ロウも戦い慣れしている印象でした。どうりで、ロウはこの竜の宮へ入って来られたんですね……」
「やっとわかったか。竜神さまの助けは必要ない」
「……でしたら、ロザリー。これを受け取ってください」
竜神さまが胸元から何かを取り出した。
彼の手のひらに乗っていたのは、小指のサイズくらいの笛だった。
「私の幼少期に抜けた竜の角で作られた笛です。これを吹いたら、どんなときでも駆けつけて、私の竜の背中に乗せましょう」
「それなら……俺たちの結婚式の見せ物として呼ぼうか」
ロウは話に割って入って、意地悪な微笑みを浮かべた。
結婚式⁉︎ ちょっと……というか大きく話が飛躍しすぎじゃない⁉︎
「それはショックが大き過ぎるのでやめてください」
結婚式の見せ物は……さすがの竜神さまも断ってきた。
ふうん? とロウは竜神さまに詰め寄る。
「どんなときでもって話は嘘なのか?」
「そ、それは……」
うん。本格的なイジメが始まってしまいそうなので、仲裁に入ろう。
「二人とも喧嘩しない! お守りがわりにもらうわ。もらったのは私だから、使い道はしっかり考えます。竜の笛を吹く状況がないのが一番だけど、もしそうなったら誰かを助けるために使うわ」
これで文句はないわよね?
と、私はロウと竜神さまを交互に見た。
「さすが、ロザリーですね」
「いらない、いらない。すぐに捨ててしまえ」
ロウが減らず口を叩いた瞬間に、竜神さまとロウに火花が散った。
「ロザリー……」
「落ち着いてきたみたいね」
「ご迷惑をかけてすみませんでした。また暴走して、ロザリーを傷付けるところでした……」
まず出てきたのは謝罪の言葉。
竜神さまの反省の色は濃い。すっかり正気に戻ったようだ。
二度目の暴走があったら、さすがの私でもロウと一緒に邪神として討伐するところだったわ!
そうならなくて本当に良かった。
「弟が泣いたときは、よくこうやって背中を撫でたの」
「弟、ですか……」
私は種明かしするように言って、竜神さまからそっと離れる。
竜神さまは私の言葉に、ショックを受けた様子だった。
きっと竜神さまは私たちよりもずっと長く生きているはずなんだけど、どうも弟の姿とダブってしまうのよね。冷静になろうとしているけれど、すぐ感情的になってしまうからかしら。
「いつまでロザリーを独占するつもりだ。彼女を返してもらおうか」
ずっと我慢してくれたのだろう、ロウは竜神さまに睨みを効かせた。
ありがとう。信頼して待ってくれて。
私はロウのもとに駆け寄る。
「ロウ、お待たせ。二人で地上へ帰ろう」
「ああ」
帰ろうとした私たちを、竜神さまは慌てた様子で止める。
「湖の中には人喰いワニもいます。危ないので私に案内させてください」
「俺たちを誰だと思っている? 俺は大魔法使いさま、ロザリーは英雄さまと呼ばれている。人喰いワニくらい敵じゃない」
「えっ、大魔法使いさまと英雄さまだったんですか……」
竜神さまは目を見開く。世間の私たちの評判を知らなかったようだ。
人間の世界とは別で生きているんだもの、情報が入って来ないのは仕方がないわよね。
「ロザリーは昔から魔力が強いと思っていましたが、ロウも戦い慣れしている印象でした。どうりで、ロウはこの竜の宮へ入って来られたんですね……」
「やっとわかったか。竜神さまの助けは必要ない」
「……でしたら、ロザリー。これを受け取ってください」
竜神さまが胸元から何かを取り出した。
彼の手のひらに乗っていたのは、小指のサイズくらいの笛だった。
「私の幼少期に抜けた竜の角で作られた笛です。これを吹いたら、どんなときでも駆けつけて、私の竜の背中に乗せましょう」
「それなら……俺たちの結婚式の見せ物として呼ぼうか」
ロウは話に割って入って、意地悪な微笑みを浮かべた。
結婚式⁉︎ ちょっと……というか大きく話が飛躍しすぎじゃない⁉︎
「それはショックが大き過ぎるのでやめてください」
結婚式の見せ物は……さすがの竜神さまも断ってきた。
ふうん? とロウは竜神さまに詰め寄る。
「どんなときでもって話は嘘なのか?」
「そ、それは……」
うん。本格的なイジメが始まってしまいそうなので、仲裁に入ろう。
「二人とも喧嘩しない! お守りがわりにもらうわ。もらったのは私だから、使い道はしっかり考えます。竜の笛を吹く状況がないのが一番だけど、もしそうなったら誰かを助けるために使うわ」
これで文句はないわよね?
と、私はロウと竜神さまを交互に見た。
「さすが、ロザリーですね」
「いらない、いらない。すぐに捨ててしまえ」
ロウが減らず口を叩いた瞬間に、竜神さまとロウに火花が散った。
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