わたしの愛する黒い狼

三谷玲

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エンディング

物語の終幕

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 大公自らこの地を訪れるのは、コースティ家がこのファンデラント公国では公家と同等に近い地位を授かっていることの証。

 熊のような体躯の大公がわたしを待っていた。その後ろには茶色い髪をした小柄な大公妃。彼女はアライグマの獣人でドレスの足元には茶色の縞のしっぽが揺れていた。
 ちなみに大公は熊に見えるが、ただの人間である。

 わたしは大公の前にひざまずき、頭をたれた。

「ここに、アビゲイル・コースティをセミラーザン伯爵と認め――」

 大公の言葉とともにわたしの首に章飾が下げられた。
 翡翠を中心に四方に伸びる花弁が二重になった重みのあるものだった。
 その重みはそのまま、立ち上がったわたしの頭を下げさせた。なんという重圧。
 伯でこれなら辺境伯になったら、さらに重くのしかかるだろう。

 公太子はもっと重いのだろうか。

 視界に見えるリボンが揺れていた。風かと思ったが違った。わたしは怯えていた。

 小刻みに震えるわたしの足に温かなものが触れた。
 ふわりふわりとわたしの気持ちを落ち着かせるために動く、慣れた感触。

「セミラーザン伯爵には申し訳ないが、こちらで勝手に婚約者を決めさせてもらった。彼には二度の婚約解消の過去があり、あまり女性には縁がなくてな」

 大公の言葉は芝居がかっていた。

「しかも、先日解消した相手は隣国の王女。さすがに解消した後、そのままお咎めなしというわけにはいかなくてな」

 つい最近、どこかで聞いたような話だ。
 わたしの足先を撫でていたものがパタパタと音を立て始めた。ちょっと痛い。

「ついてはセミラーザン伯爵のもとへ降下させたいのだが、了承してもらえるだろうか」
「閣下、それはわたしの一存で決められることではございません。議会で一致したのであればわたしのほうから否は――」

 言い切る前にわたしの唇は彼に奪われた。

 背後では大公のやれやれといった声とともに群衆からの歓声が鳴り響く。

 瞳を閉じるまもなく口付けられたわたしの目に映るのは、少し長い黒髪に金の瞳。
 わたしの愛する黒い狼。

「……いいの? こんなことして」
「アビーがいつまでも僕を見ないのが悪い」
「それに、公太子だって……」
「僕の代わりはジェスリーでも出来る」
「でも……」

 困惑するわたしをよそに彼はまた唇を寄せた。

 頭の先から爪先まで雷撃が走るような、強く、熱く、でも、とろけるような甘い口づけ。

 わたしたちが飽きもせずに口づけを交わしている間、空からはいたずら好きのシルフ達が色とりどりの花びらを降り注いでいた。

 めでたしめでたし。







 この話の続きが知りたい?
 おめでたくないかもしれないわよ?
 それでもいいならまたいつか、おとぎ話を教えてあげる。
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