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第19話 軽い勧誘

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「しかし驚いたね。ここまで戦えるとは……負けるとは思ってもみなかったよ」 
 
 ジュリアが笑顔でそう言った。 
  
 そこには敗北した事による恨みとか憎しみとか、そういうものは一切なく、ただ私をたたえてくれる、そんな感情だけが浮かんでいて、あぁ、やっぱりさっぱりとしていていいな、と思わせてくれる。 
 
 むしろ私の方が嫌な女であろう。 
 
 ただ、そこのところは仕方が無い。 
 
 そういうところがなければ、あの宮廷や学院で、生き残ることは難しかったのだから。 
 
 しかしもう今の私には関係のない空間なので、これからはジュリアのような精神を見習っていきたい、と思う。 
 
 今はまだ難しいが、いずれはもう少し心が綺麗な人間になりたい。 
 
 そんなことを思いながら、ジュリアに言う。 
 
「ジュリアも本気じゃなかったでしょう?」 
 
 これは戦いながら感じたことだ。 
 
 彼女は私相手に手加減をしていた。 
 
 その気になればもっと使える手がある、切り札を持っている、そう感じる動きや場面がいくつかあった。 
 
 私のこの指摘に、彼女は苦笑して、 
 
「おや、バレていたか。でもそれはあんたもだろう、ユーリ?」 
 
「えっ……」 
 
「私が気付いていないとでも思ったかい? あんたの魔力量なら、もっと強力な身体強化が出来るはずだ。それに、無詠唱での障壁……あれが張れるのなら、攻撃魔術だって同様に無詠唱で撃てるはず。それをしなかった時点で、手加減だと分かったよ」 
 
 これは鋭い指摘であり、まさに正しい。 
  
 だから私はため息をついて、答えた。 
 
「……バレないようにやろう、と思っていたけれど、駄目だったようね。でも本当は障壁も使うつもりがなかったのよ? でもジュリアは反応が早すぎたから……出さざるを得なかった。それでバレちゃったみたいね」 
 
 そう、ジュリアが気付いたのは私が無詠唱で障壁を張ったからだろう。 
 
 つまりあれさえなければ気付かれなかった可能性は高い。 
 
 けれどそれは出来なかった。 
 
 ジュリア相手にあれを使わなかったら、多分私は負けていたからだ。 
 
 まぁ、負けてもいい、と考えて、あえて使わないというやり方もあったのだが……そこは私の負けず嫌いな部分、子供な部分が出てしまったな。 
 
 反射的にというか、つい使ってしまったのだった。 
 
「あんたにある程度本気を出させただけ、十分だったと見るべきかね……いつかは、お互いに本気でやってみたいところだよ」 
 
「それは私も。ただ、武器が借り物なのよね……それもあって、あんまり無茶は出来なくて」 
 
 これは正直なところだ。 
 
 剣も防具も、ブレンカからの借り物で、彼からは別に壊してもいいと言われているのだが、自分から壊しにいくわけにはいかない。 
 
 それに魔物と戦ってやむを得ず壊すのならともかく、同道する冒険者と、実力をお互いに確認するための模擬戦で熱くなりすぎてぶっ壊した、ではブレンカも流石に呆れるだろう。 
 
 だからこそ、本当の本気を出すわけにはいかなかった。 
 
 そもそもの目的からして、ある程度戦えることを示せれば良いのだから、そこまでの必要もなかったことだし、これでいいのだ。 
 
 私の言葉にジュリアは頷いて、 
 
「なるほどね。流石に私も借り物の武器で本気でやり合うような度胸はないね……ま、ともかく、あんたの実力はしっかりと理解したよ。これなら、同格として依頼にあたって問題ない。そうだね、ジェイク、リスタン」 
 
 見物側に回っていた二人にそう尋ねた。 
 
 これにまず、ジェイクが、 
 
「それなりに戦えるだろう、とは思っていたが、ジュリアとまともに打ち合えるほどとは思っていなかった。当然、その戦闘力に何の問題もないだろう」 
 
 と答え、続いてリスタンが、 
 
「僕らこれで魔法銀級なんだけど……どうして駆け出しがここまで強いのかって感じだねぇ……もちろん、問題ないのは僕も同感だよ。それどころか、この依頼が終わったら僕らのパーティーに入るかい? ユーリ」 
 
 そう言ってくる。 
  
 ちなみに、魔法銀級とは、冒険者のランクである。 
 
 竜金、神鉄、に続く上から三番目の位であるが、一番上の竜金級は公表されている限り世界に一人もいないので、実質的には上から二番目の位になる。 
 
 神鉄級にしたところで、国に一人二人いれば良い方、とまで言われる位であるから、魔法銀級とは相当な実力者であると考えて間違いない。 
 
 正確な位を今始めて聞いたので、私は驚く。 
 
 冒険者は自分の冒険者としての位を喧伝する者とあえてあまり言わない者に分かれるが、ジュリアたちはそこまで喧伝しない方のようだった。 
  
 位は冒険者組合が把握していればそれで足りるし、言う必要があるのは依頼主相手までに限られる。 
 
 あとは……街に入る前の身分確認に冒険者証を出す場合とかに言うこともあるくらいか。 
 
 なぜそのようになっているのかと言えば、あまり喧伝すると面倒くさい輩が寄ってくる場合もあるからだ。 
 
 これは、位が低くても高くても起こる。 
 
 駆け出し相手に不当に金銭や物資を奪いにくるとか、逆に高位冒険者をうらやんで絡みに来るとか、色々な問題がだ。 
 
 だからこそ、用心深い者ほど隠す傾向があるわけだ。 
 
 つまり、それを私に言ってくれた、ということはある程度信用してくれたということに他ならない。 
 
 私は少し嬉しくなって、リスタンに言う。 
 
「魔法銀級の冒険者にそう誘ってもらえるのはとっても嬉しいわ」 
 
「おっ、ということは可能性ありかい?」 
 
「いえ……私、ずっとジュールに居着くつもりはないから、どこかにパーティーに、っていうのは難しいかも」 
 
「へぇ……でも、僕らもジュールを拠点としているわけじゃないしね」 
 
「そうなの?」 
 
 首を傾げた私に、ジュリアが言う。 
 
「あぁ、それは本当だね。たまたま旅の途中で寄っただけさ」 
 
「その割には組合長と旧知の仲のようだったけど」 
 
「それは、ジェイクがジュールの出身だからさ。あと、私も昔ちょっとね……」 
 
「そうなの……」 
 
「まっ、リスタンの勧誘は適当に聞いておいて良いよ。私らも人の自由を縛ったりはしないからさ。気が向いたらってことでね」 
 
「ええ、ありがとう、ジュリア」
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