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第一章
4話 親友という立場
しおりを挟む「リリ? もしかして落ち込んでいるのですか?」
一人で天井を見上げたまま、少し頭を整理するために目を閉じていると
殿下を見送り終えて戻ってきたメルリお兄様に声をかけられた。
慌てて立ち上がるとメルリお兄様に頭を下げる。
「メルリお兄様、またご迷惑をおかけしてごめんなさい」
挨拶をし忘れるという失礼なことをメルリお兄様の客人……しかも殿下にしてしまったのだ。
頭を上げないでいると、メルリお兄様に「頭をあげてください」と言われる。
「気にしないでください。
さ、リリ。ここは、冷えますから部屋へ戻りましょう」
そう言って手を差し伸べてくれる。
その手を私がとると、メルリお兄様は優雅にエスコートしてくれる。
一緒に書斎を出ると、そのまま部屋の前まで送ってくれるのかメルリお兄様は私の部屋の方へと歩みを進めた。
「それにしても、私こそリリに謝らなくてはいけませんね」
「え? どうしてです……?」
言葉の意図がわからず首を傾げると、メルリお兄様は困ったような顔で微笑んだ。
「来客が殿下だなんて思いもしなかったでしょう? 殿下も大層驚かせてしまったとおっしゃっていました」
「殿下と自分の家でまさか出会うなど予想できませんから、リリでなくても何も言えなくなってしまうのはわかります」
先ほどの私の驚きようをランベルト殿下とメルリお兄様は、突然高貴な身分である皇太子に出会ってしまったため緊張して何も言えなかったと受け取っていたようだった。
優しくフォローしてくれるお兄様や殿下の優しさと寛大さに心を撫でおろす。
(変に思われたり、失礼だと思われていなくて一安心した)
安堵で息を吐くとメルリお兄様は嬉しいような少し困ったような笑みを浮かべる。
「実は以前父上に連れられて兄さんと入城した時に、殿下と話をしたのですがとても話が合いまして……。
中々入城出来ない私に恐れ多くも殿下はお忍びで会いに来てくれているのです」
「陛下も殿下のよく友になってくれたら嬉しいとそうおっしゃってくださって……お言葉に甘えているのです」
「そうだったのですか……」
「ええ。なので、うまく挨拶が出来なかったからと言って落ち込まないでくださいね」
そこまで話すと丁度私の部屋までたどり着く。
メルリお兄様は、送り届けると心配した様子のマリアに安心するように話すと自分の部屋へと帰っていった。
…
……
部屋へと戻ると、マリアは準備してくれていたお茶とお菓子を出してくれる。
マリアに感謝を述べて、一人お菓子を食べながら先ほど思い出したこの世界――「オトセカ」について脳裏を巡らす。
オトセカのヒロインであるオリヴィアは、13歳で交通事故で両親を亡くしてしまう。
一人貧しい生活をしていたオリヴィアだが、
15歳になったある日叔父と名乗るミュズエキーユ伯爵と出会う。
ミュズエキーユ伯爵曰く、母親は屋敷で働いていた従者と恋をして駆け落ちをしたのだという。
姉が既に死んでいることを知り、悲しむミュズエキーユ伯爵だが、
忘れ形見であるオリヴィアは大切に育てると自分の養子としてミュズエキーユ家へと招き入れる。
その後、オリヴィアは色々な魅力的な男性たちと出会い、
彼らと愛の障害を乗り越えて結婚し、幸せに暮らす――……というのがゲームの大まかな流れだ。
そもそも自分がいるこの世界がゲームの世界であるとは思わなかったこともあるが――
――ゲームの本編は5年後スタートするのでゲーム内で出てきた姿よりも
幼かったことも影響して今まで気付かなかったが上の兄二人も攻略相手の一人であることを思い出す。
(ゲーム内で登場したメルリお兄様は確かに殿下の親友として出てきたけど、19歳になったゲーム本編の時では身体は病弱ではなかったはずだわ……)
(あとは……ゲーム内の「私」が初めて登場するのは……)
目を伏せながら、前世の記憶の中から、
メルリ・ヴォワトールがゲームで初登場したときの事を思い出す。
(確かあれは、物語の序盤に公爵家からお茶会にオリヴィアが誘われるんだっけ……)
突然平民から伯爵令嬢になったオリヴィアは、初めて招かれ参加したお茶会で礼儀作法がわからず戸惑っていると、
侯爵令嬢で同い年であるカメリア・ヴォワトールがフォローをしてくれるのだ。
それをきっかけに序盤は、カメリアがオリヴィアに色々なことを説明し教えてくれ、
攻略相手であるランベルト殿下や兄二人とも出会わせてくれる。
そして、日々を過ごしていく内にオリヴィアはカメリアに心をひらき、友情をはぐくみ親友となるのだ。
といっても、話が進むにつれて攻略相手とのシーンが増えていき親友であるカメリアは要所要所でちょい役としか出てこず、
主人公が攻略相手と結婚した際も祝ってくれるなかにいるものの彼女自身がどうなったのかは描かれない。
つまり、カメリア・ヴォワトールは、便利なサポート役でそれ以上でもそれ以下でもない存在ということなのだった。
(といっても……考えてみれば別に損な立場ではないのよね)
例えば、ヒロインのライバルである悪役令嬢は定番の定番だが、
主人公を虐めて最後は殺されたり他国へ島流しされたりと悲惨な運命をたどるがこの物語でも例外ではない。
最後はたいていのルートで主人公の身を危険にさらしたために処刑されて死ぬ。
あと、その取り巻きや悪い貴族達も最後は痛い目に合うのだ。
しかし、ヒロインの親友ならそんな不幸な目にはあわない……!!
変にシナリオを動かすようなことさえしなければ、
大好きなキャラクターが自分の目の前で大好きな物語を紡いでいくのが見えるはずだ。
(……そう、ちゃんと自分の課せられた役割を果たせば、安全な立場で楽しい恋物語を生で見られるはず)
そうなれば、このゲームのファンとしては嬉しいに決まっているのだ。
そして何より、一番嬉しいことは……
「……オリヴィアと親友になれるなんて嬉しすぎる!!」
実は前世の私がオトセカにはまった理由は、魅力的な攻略相手は勿論だが――主人公が可愛いだけでなく芯のある強い女性だったから嵌ったのだ。
ただ流されるだけだったり、天真爛漫なだけの主人公ではなくオリヴィアは、
礼儀作法や貴族としての常識を一からちゃんと学び、最後は妃として恥ずかしくない程の教養と美しさ兼ね備える大団円をむかえる。
そんな彼女だから、攻略相手と恋を成就させた時は嬉しかったものだ。
だからこそ、そんな彼女の親友になったり、この人生で本当に彼女の恋愛を手助け出来たら嬉しい。
それに好きな作品だったからこそ、ハッピーエンドまでの道に自分がいい方向に関われるならそれだけで嬉しいものだ。
「今は10歳だから……あと5年か。会うのが楽しみだなぁ……」
(会えるまでにゲームのカメリアのように彼女をサポートできるような女性にならなくちゃ……)
フェリクスがベットで丸くなって爆睡している可愛い姿を見つめながらそう私は、一人決意するのだった。
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