サラリーマンのおっさんが英雄に憧れたっていいじゃないか~異世界ではずれジョブを引いたおっさんの英雄譚~

梧桐将臣

文字の大きさ
15 / 62
第1章

レベル11になって少し強気なおっさん

しおりを挟む
その後もアリナから、冒険者ランクにまつわる逸話を聞いた。

レベル10を超えるあたりでアイアンランクになれる人が増えてくることや、レベル30を超えるあたりのシルバーランクになると、国レベルでは英雄と呼ばれる事もあると。

・・・英雄!サラリーマンの俺には縁がなく、ゲームの世界でしかなれなかったもの。

だけどその言葉が持つ響きはとても魅力的で、いくら歳を重ねても年甲斐なく憧れてしまう。

世界を救うまでいかなくても、国レベルで英雄と呼ばれるだけで俺には充分すぎる程満足できる自信がある。

なんなら街レベルとかでも英雄と言われたら嬉しい。

シルバーランクになれば国レベルで英雄と言われる事もできると、具体的に目標が見えた事によって、より英雄になりたいという気持ちに熱を帯びてくる。

また、プラチナランクの冒険者1人で1国の軍隊を壊滅させた話は中二病の心を非常にくすぐられた。

「アリナさん今日も色々と教えてもらってありがとうございました!」

「いいえー!ナツヒ君が冒険者として活躍するのを応援しているよ!わからない事があったらいつでも聞きにきてね。あっ!そういえば冒険者養成学園合格おめでとう!」

笑顔を弾けさせながらアリナが俺の前途を祝ってくれる。

胸が苦しい・・。

可愛すぎる。こんなに可愛いくて良い子にまっすぐ応援される事なんて日本ではもう長い事無かった気がする。中身が34才のおっさんには破壊力が強すぎる。アリナ、俺好きになっちゃうよ?

いや、もう恋に落ちているな。

でもここで「アリナさん好きです!」とか言ったとして、実はアリナも俺を少なからず良く思ってくれていて少し照れて頬を赤らめたりとかそんな展開は望めない。

ラノベのテンプレは実際にはなかなか起きないと、この異世界に来て俺は痛感しているからだ。

異世界転移して1ヵ月弱経つが俺を好きな女性はまだいない。

圧倒的な戦闘力が判明するとか、出会った人が全員虜になるとかわかりやすいチートにも恵まれず、入学試験では自称光の勇者クロード=アルヴェイユらにバカにされる。

唯一手にいれたチートっぽいアビリティは、インベントリに荷物がたくさん入るのと、クエスト頑張ったら報酬が増すという地味極まりないもの。

死ぬ思いで手に入れた魔法も雷の魔力をチャージして殴るというもの。あんまり魔法っぽくない。

だけど俺は英雄を目指すし、異世界の美女と恋だってしたい。

そんな決意や恋心を抱きながら、【山賊の隠れ家亭】に戻る。

今日は入学前にもうひとつやることがある。

それは今俺が住んでいる従業員寮【乙女のオアシス】にこのまま住み続けたいということだ。

今の職場である【山賊の隠れ家亭】で専属として働いている間は、タダで住まわせてくれるというヒルダとの契約だった。

しかし、冒険者養成学園に入学した後は週3のバイトになる予定だ。

学園の合格通知によると、学生寮もあるとの事だったが俺はできれば見目麗しい美女たちとの共同生活ができる【乙女のオアシス】に住んでいたい。

まだおいしい出来事は何も起こっていないが俺はハーレムもあきらめたくない。

それにイセラやシャウネ、レナをはじめとした従業員たちとは恋愛関係に発展する様子はいまだないが、一緒に住んだり働いている間に多少は仲良くなり異世界での“仲間”のような感覚もある。

そんな訳でヒルダに入学後も従業員寮である【乙女のオアシス】に住み続けたい事を伝える。

「5万コルト!ひと月5万コルトで部屋を貸してやろうじゃないか。言っとくけど破格の値段だよ。坊やへの特別価格だ!それに入学後はしっかりとおつかい士としての配達にも給料を払ってやるよ。」

ヒルダから条件を提示される。この世界の家賃の相場を知らないが、冒険者用の安宿が1泊2000コルトって事を考えるとヒルダが言うように破格の値段なのだろう。

庭も広く建物は立派だし、部屋のベッドなど家具も質の良いものだ。

何よりも美女たちとの共同生活という特典がついている。

しかもついに無給ではなく給料を払ってくれるときた。不躾に従業員たちの体を見てしまった事がようやく許された。

「本当ですか!ありがとうございます!今までよりは働く日数が少なくなってしまいますが、出勤する日は頑張って働きます!格安で家も住まわせてくれてありがとうございます!これからもよろしくお願いします!」

俺はこれからも一緒に働くことや住まわせてくれることへの感謝の意を伝えた。

これからは、はたらいた分はお金をもらい、住んでいる家に家賃を払うという日本で生活していた俺にとってはとてもわかりやすい形となった。



この日も配達の仕事を終え、ヒルダの絶品なまかないを頂き【乙女のオアシス】に帰宅する。

今日は兎の獣人イセラと猫の獣人シャウネ、ハーフエルフのレナと一緒だ。

「来週から学園に通うんですね。おつかい士さんもここ数週間で少しは強くなったでしょうから死ぬことは無いと思いますが気をつけて下さいね!」

今日あった楽しい事を話すようなノリで物騒な事をイセラが言う。どうやら、実践的な授業では死者も出る事があるらしい。

え?なにそれ?聞いてないんですが。少し学園に通うのが怖くなる。

「わたしたちは山の中、お頭のスパルタで育ったからにゃー。あの特訓の日々は思い出したくないにゃ。冒険者になる為に学園に行けるなんて羨ましいにゃー。」

シャウネが身をさすりながら言う。ヒルダのスパルタ・・・。少し興味はあるが、受けたいとは思わないな。

「オルニアの冒険者養成学園は、特に優れた冒険者を輩出する事でも有名です。その分厳しい事もあるでしょうが卒業まで死なずに頑張って下さい。」

死なずに?レナさんも真面目な顔で、さらりと怖い事を言ってくる。

ただ俺は卒業の目安になるレベル10に達している。

冒険者の学校だから多少危ない事もあるのだろうが、高見の見物をさせてもらおう。

それよりも俺は学園生活を満喫したいのだ。

入学試験の時の女戦士ちゃんと仲良くしたいし、その他にも可愛い子がたくさんいるかもしれない。

日本で高校生だった時には、思春期まっただなかで無駄に格好つけてクールぶってみたり、あふれ出る性欲が全面にでてしまったりしたせいであまりモテなかった。

だが、サラリーマン生活を経て34才になった俺は、女性とそれなりにスマートに接する事もできるはずだ。

外見は16才だが中身は34才なので、16才の女子に本気で恋する事も無い気がする。

大人の余裕ってやつでしっかりモテて学園生活をバラ色に飾ってやる。

いけ好かないクロード=アルヴェイユみたいなやつもいるだろうが、性根が腐っていないようなら仲良くなってもいいとさえ思う。

ただ、相手の出方もあるので天誅を下す方の可能性もしっかりと残しておく。

サラリーマン生活で常に一番悪かった時の事を考えておくことの重要性を俺は学んだ。

イセラたちと楽しいおしゃべりをしながら、オルニアの夜道を歩き【乙女のオアシス】に着く。

この後、それぞれ入浴などを終えた後は、リビングで会話や簡単な晩酌を楽しむこともあれば、そのまま寝る事もある。

ちなみに、空いている時なら自由に使っていいと言われた大浴場はまだ使っていない。

嬉しいハプニングが起きそうな気もするが、それ以上に何か起きたあとにただで済む気がしない。俺はこの家を追い出されたくない。

だけど一緒に入浴なんてして体を洗ってもらったり、逆に洗ってみたりなんてことも俺は諦めていない。

まだ種まきの段階だ。しっかりと時間をかけて必ず野望を果たしてやる。



その後何日間かの早朝のモンスターとの戦闘と、弁当配達を終え俺はレベル11に上がった。

また、雷魔法のアーツ【レヴィンチャージ】以外にも刀スキルと、体術スキルのアーツもひとつずつ覚えた。

装備も【鉄刀】を買えるだけのコルトは貯まったが、色々考え結局買うのはやめた。

ヒルダからの「そんなもんぶら提げて学園に行ったら坊やがレベル10以上あるってすぐにばれちまうだろ。それでも良いんなら買えばいいんじゃないかい?」という言葉がきっかけだった。

――能ある鷹は爪を隠す。

日本人にとっては馴染みあることわざでサラリーマン生活においてその大事さは身に染みた。

その経験は異世界の学園生活においてもしっかりと活かしていきたい。

レベルが低いふりをして弱者を演じていた方が、何かと都合が良さそうだしクロード=アルヴェイユに『ざまぁ』をする事になった場合にもレベルが高いとバレているのはデメリットになると判断した。

俺は学園の卒業基準であるレベル10を超すレベル11になっており、スキルやアーツも覚え入学試験の時に比べたら格段に戦闘力はあがっている。

また、ギフテッドアビリティであるクエスト報酬のボーナスとインベントリのボーナスがある。

そしてサラリーマン時代に培った知識と経験がある。

自分の持っている武器を使って学園生活を満喫する。

――明日からついに異世界での俺の学園生活が始まる!
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

処理中です...