サラリーマンのおっさんが英雄に憧れたっていいじゃないか~異世界ではずれジョブを引いたおっさんの英雄譚~

梧桐将臣

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第1章

レベル11になって少し強気なおっさん

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その後もアリナから、冒険者ランクにまつわる逸話を聞いた。

レベル10を超えるあたりでアイアンランクになれる人が増えてくることや、レベル30を超えるあたりのシルバーランクになると、国レベルでは英雄と呼ばれる事もあると。

・・・英雄!サラリーマンの俺には縁がなく、ゲームの世界でしかなれなかったもの。

だけどその言葉が持つ響きはとても魅力的で、いくら歳を重ねても年甲斐なく憧れてしまう。

世界を救うまでいかなくても、国レベルで英雄と呼ばれるだけで俺には充分すぎる程満足できる自信がある。

なんなら街レベルとかでも英雄と言われたら嬉しい。

シルバーランクになれば国レベルで英雄と言われる事もできると、具体的に目標が見えた事によって、より英雄になりたいという気持ちに熱を帯びてくる。

また、プラチナランクの冒険者1人で1国の軍隊を壊滅させた話は中二病の心を非常にくすぐられた。

「アリナさん今日も色々と教えてもらってありがとうございました!」

「いいえー!ナツヒ君が冒険者として活躍するのを応援しているよ!わからない事があったらいつでも聞きにきてね。あっ!そういえば冒険者養成学園合格おめでとう!」

笑顔を弾けさせながらアリナが俺の前途を祝ってくれる。

胸が苦しい・・。

可愛すぎる。こんなに可愛いくて良い子にまっすぐ応援される事なんて日本ではもう長い事無かった気がする。中身が34才のおっさんには破壊力が強すぎる。アリナ、俺好きになっちゃうよ?

いや、もう恋に落ちているな。

でもここで「アリナさん好きです!」とか言ったとして、実はアリナも俺を少なからず良く思ってくれていて少し照れて頬を赤らめたりとかそんな展開は望めない。

ラノベのテンプレは実際にはなかなか起きないと、この異世界に来て俺は痛感しているからだ。

異世界転移して1ヵ月弱経つが俺を好きな女性はまだいない。

圧倒的な戦闘力が判明するとか、出会った人が全員虜になるとかわかりやすいチートにも恵まれず、入学試験では自称光の勇者クロード=アルヴェイユらにバカにされる。

唯一手にいれたチートっぽいアビリティは、インベントリに荷物がたくさん入るのと、クエスト頑張ったら報酬が増すという地味極まりないもの。

死ぬ思いで手に入れた魔法も雷の魔力をチャージして殴るというもの。あんまり魔法っぽくない。

だけど俺は英雄を目指すし、異世界の美女と恋だってしたい。

そんな決意や恋心を抱きながら、【山賊の隠れ家亭】に戻る。

今日は入学前にもうひとつやることがある。

それは今俺が住んでいる従業員寮【乙女のオアシス】にこのまま住み続けたいということだ。

今の職場である【山賊の隠れ家亭】で専属として働いている間は、タダで住まわせてくれるというヒルダとの契約だった。

しかし、冒険者養成学園に入学した後は週3のバイトになる予定だ。

学園の合格通知によると、学生寮もあるとの事だったが俺はできれば見目麗しい美女たちとの共同生活ができる【乙女のオアシス】に住んでいたい。

まだおいしい出来事は何も起こっていないが俺はハーレムもあきらめたくない。

それにイセラやシャウネ、レナをはじめとした従業員たちとは恋愛関係に発展する様子はいまだないが、一緒に住んだり働いている間に多少は仲良くなり異世界での“仲間”のような感覚もある。

そんな訳でヒルダに入学後も従業員寮である【乙女のオアシス】に住み続けたい事を伝える。

「5万コルト!ひと月5万コルトで部屋を貸してやろうじゃないか。言っとくけど破格の値段だよ。坊やへの特別価格だ!それに入学後はしっかりとおつかい士としての配達にも給料を払ってやるよ。」

ヒルダから条件を提示される。この世界の家賃の相場を知らないが、冒険者用の安宿が1泊2000コルトって事を考えるとヒルダが言うように破格の値段なのだろう。

庭も広く建物は立派だし、部屋のベッドなど家具も質の良いものだ。

何よりも美女たちとの共同生活という特典がついている。

しかもついに無給ではなく給料を払ってくれるときた。不躾に従業員たちの体を見てしまった事がようやく許された。

「本当ですか!ありがとうございます!今までよりは働く日数が少なくなってしまいますが、出勤する日は頑張って働きます!格安で家も住まわせてくれてありがとうございます!これからもよろしくお願いします!」

俺はこれからも一緒に働くことや住まわせてくれることへの感謝の意を伝えた。

これからは、はたらいた分はお金をもらい、住んでいる家に家賃を払うという日本で生活していた俺にとってはとてもわかりやすい形となった。



この日も配達の仕事を終え、ヒルダの絶品なまかないを頂き【乙女のオアシス】に帰宅する。

今日は兎の獣人イセラと猫の獣人シャウネ、ハーフエルフのレナと一緒だ。

「来週から学園に通うんですね。おつかい士さんもここ数週間で少しは強くなったでしょうから死ぬことは無いと思いますが気をつけて下さいね!」

今日あった楽しい事を話すようなノリで物騒な事をイセラが言う。どうやら、実践的な授業では死者も出る事があるらしい。

え?なにそれ?聞いてないんですが。少し学園に通うのが怖くなる。

「わたしたちは山の中、お頭のスパルタで育ったからにゃー。あの特訓の日々は思い出したくないにゃ。冒険者になる為に学園に行けるなんて羨ましいにゃー。」

シャウネが身をさすりながら言う。ヒルダのスパルタ・・・。少し興味はあるが、受けたいとは思わないな。

「オルニアの冒険者養成学園は、特に優れた冒険者を輩出する事でも有名です。その分厳しい事もあるでしょうが卒業まで死なずに頑張って下さい。」

死なずに?レナさんも真面目な顔で、さらりと怖い事を言ってくる。

ただ俺は卒業の目安になるレベル10に達している。

冒険者の学校だから多少危ない事もあるのだろうが、高見の見物をさせてもらおう。

それよりも俺は学園生活を満喫したいのだ。

入学試験の時の女戦士ちゃんと仲良くしたいし、その他にも可愛い子がたくさんいるかもしれない。

日本で高校生だった時には、思春期まっただなかで無駄に格好つけてクールぶってみたり、あふれ出る性欲が全面にでてしまったりしたせいであまりモテなかった。

だが、サラリーマン生活を経て34才になった俺は、女性とそれなりにスマートに接する事もできるはずだ。

外見は16才だが中身は34才なので、16才の女子に本気で恋する事も無い気がする。

大人の余裕ってやつでしっかりモテて学園生活をバラ色に飾ってやる。

いけ好かないクロード=アルヴェイユみたいなやつもいるだろうが、性根が腐っていないようなら仲良くなってもいいとさえ思う。

ただ、相手の出方もあるので天誅を下す方の可能性もしっかりと残しておく。

サラリーマン生活で常に一番悪かった時の事を考えておくことの重要性を俺は学んだ。

イセラたちと楽しいおしゃべりをしながら、オルニアの夜道を歩き【乙女のオアシス】に着く。

この後、それぞれ入浴などを終えた後は、リビングで会話や簡単な晩酌を楽しむこともあれば、そのまま寝る事もある。

ちなみに、空いている時なら自由に使っていいと言われた大浴場はまだ使っていない。

嬉しいハプニングが起きそうな気もするが、それ以上に何か起きたあとにただで済む気がしない。俺はこの家を追い出されたくない。

だけど一緒に入浴なんてして体を洗ってもらったり、逆に洗ってみたりなんてことも俺は諦めていない。

まだ種まきの段階だ。しっかりと時間をかけて必ず野望を果たしてやる。



その後何日間かの早朝のモンスターとの戦闘と、弁当配達を終え俺はレベル11に上がった。

また、雷魔法のアーツ【レヴィンチャージ】以外にも刀スキルと、体術スキルのアーツもひとつずつ覚えた。

装備も【鉄刀】を買えるだけのコルトは貯まったが、色々考え結局買うのはやめた。

ヒルダからの「そんなもんぶら提げて学園に行ったら坊やがレベル10以上あるってすぐにばれちまうだろ。それでも良いんなら買えばいいんじゃないかい?」という言葉がきっかけだった。

――能ある鷹は爪を隠す。

日本人にとっては馴染みあることわざでサラリーマン生活においてその大事さは身に染みた。

その経験は異世界の学園生活においてもしっかりと活かしていきたい。

レベルが低いふりをして弱者を演じていた方が、何かと都合が良さそうだしクロード=アルヴェイユに『ざまぁ』をする事になった場合にもレベルが高いとバレているのはデメリットになると判断した。

俺は学園の卒業基準であるレベル10を超すレベル11になっており、スキルやアーツも覚え入学試験の時に比べたら格段に戦闘力はあがっている。

また、ギフテッドアビリティであるクエスト報酬のボーナスとインベントリのボーナスがある。

そしてサラリーマン時代に培った知識と経験がある。

自分の持っている武器を使って学園生活を満喫する。

――明日からついに異世界での俺の学園生活が始まる!
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