サラリーマンのおっさんが英雄に憧れたっていいじゃないか~異世界ではずれジョブを引いたおっさんの英雄譚~

梧桐将臣

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第2章~学園動乱編~

それぞれが目指す何か

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「あぁ!おはようエリス。それにポポロも!」

エリスに目を奪われてしまっていたが、エリスの後ろから気弱そうな青年がこちらに向かって会釈をしている。

「さっきそこで会ったんだー。それでやっぱり昨日の話になっちゃってさ。人もだいぶ減っているしナツヒ君来るかなーってポポロ君と話してたんだ。」

「うん。僕はナツヒ君が守っていてくれなかったら死んじゃってただろうし、本当はすごく怖くてオルニア学園に入学するかもすごく悩んだ。だけど、僕を必死になって守ってくれているナツヒ君の後ろ姿を見て、僕も強くなりたいなって思って・・・。」

言葉の先を濁し少し恥ずかしそうにするポポロを見て、なんとなく申し訳ない気持ちになる。

俺はレベル11のステータスを持っているし、ポポロが思うような強い人間ではないからだ。

しかし、こんな俺でも誰かに影響を与えることができているという事は素直に嬉しく思う。

「そっか。ありがとう!ポポロこそ、みんなを盾で守っていてすごかったぞ!お互いオルニア学園で頑張って強くなろうぜ!」

レベル的なアドバンテージも無いのに、ポポロ最大の武器である大盾を使い仲間を守っていたポポロの方が俺なんかより強い人間だと思う。

なにせ俺はレベル11という学園卒業の目安になるレベルを持ちつつも、悪目立ちを避ける為に戦ってもいないのだ。

やったことと言えば薬草を配っていただけ。サラリーマン的な生き方が身に染みついてしまっている。

安全かつ平和に生きる為に必要なスキルだとは思うが、それだけでは俺が目指す英雄にはなれないと、エリスたちを見て痛感した。

「エリスは、なんとなくだけど今日もちゃんといると思ったよ。でもまた会えてよかった!」

「うん。私はオルニア学園で色んなことを学んで、一人前の冒険者になって家族を見返したいんだ!だから絶対に逃げるわけにはいかないんだ。」

・・・見返す?昨日も落ちこぼれだとかなんとか言っていたな。

少し気になるがまぁ家庭の事情だろうし、今はポポロもいるし聞くのはやめておこう。

おっさんという生き物は意外とデリカシーもあるものだ。

むしろおっさんかつデリカシーが無くなったら終わりなので、紳士的な振る舞いが大事になってくる。

エリスたちと今朝食べたものや、好きな冒険者の話など他愛もない会話を続けていると、学園長が檀上に立つ。

――ちなみに前列の方から「はーーはっはっ!」という笑い声や、周囲の生徒が何やらちやほやしているような声が聞こえてきたが、意識の外に追いやりエリスたちとの会話を楽しんだ。

檀上に立った学園長は今日も白のスーツスタイルだ。素肌にジャケットを羽織るという日本ではまずお目にかかることのない、童貞が昇天してしまいそうな着こなしだ。

柔らかな煌めきの金髪と白い陶器のような肌が目に眩しい。特に丸くて大きい胸が白いジャケットの内からその存在を大いに主張してくる。

思わず昨日薬草を使う際に、その胸の先端部分まで見てしまった事を思い出してしまう。

横になっているのに、重力に負けることなく張りを保つ双丘。その頂点部分にある小ぶりな突起を彩るのは、かぎりなく淡い桃色――。

「どうしたのナツヒ君?なんか顔が赤いみたいだけど?」

「えっ!?あっ!いやなんでもない!ちょっとなんか昨日みたいな事がまたあったらどうしようと思って緊張して!」

「・・・ふ~ん。でもさすがに今日は同じようなことは起きないと思うけどな。」

「だ、だよな!ちょっと考えすぎだよな!ははっ。」

エリスにつっこまれ、しどろもどろになってしまう。中身は34歳のおっさんなのに我ながら情けない・・・。紳士的な振る舞いが大事だなんて思っていたばっかりなのに。

「諸君!今日はよくこの場にまた集まってくれた!昨日は学園側の警備の甘さや落ち度ゆえに起きてしまった事件ではあったが、諸君らの活躍のお陰で1人も死者を出すことなく乗り越えることができた。改めて諸君らには謝罪の念と感謝の意を表明する。本当にすまなかった。そしてありがとう。」

・・・あくまでも最終試験ではなく、事件だったということにするつもりか。

ただ、謝る姿やありがとうという感謝の言葉からはどうしても全てが嘘には聞こえない真摯さを感じる。

やはり、ヒルダが言っていた通り学園側にとっても不測の事態だったのだろうか。

それと、頭を下げお辞儀をした際の胸の谷間が目に入り、脳裏にアメリカの某国立公園の名前が思い浮かんだ。

「かの英雄アルバートが200年前に魔王ヴァルドーラを討ち倒した後、恒久の平和を求め建立したオルニア冒険者養成学園。冒険者としての知識、心の在り方、武力。その全ての基礎を学ぶことができる。ここオルニア学園を卒業していった者は、街や村を守り守護者と言われる者もいる。賞金稼ぎやモンスターハンターとして名を馳せる者もいる。剣豪として世界を渡り歩き自由きままに生きる者もいる。中には国と国との戦争を収め英雄と言われる者もいる。例年は300人程度いる新入生が今年は151人だ。数は少ないが精鋭が揃っていると期待している。ここオルニア学園で学友らと共に学び、冒険者として名を挙げ各々の目指す夢を掴んでいこうではないか!」

魔王がいたという事実や学園の成り立ち、卒業生の話を聞き胸が高鳴る。

そこに“英雄”という言葉が当たり前のように出てくる事も、本気で目指すべきものが間違いなくこの世界にはあるとわかり俺の夢がさらに熱を帯びる。

ふと隣を見るとエリスも、真っすぐに前を見据え何か強い決意を秘めた目つきをしている。

その横顔は美しく凛とした強さを感じさせる。

さらにその奥のポポロも気弱そうな表情は変わらずだが、両の拳を膝の上で握りしめている。

「それではこれより、昨日行うはずであったクラス分けの為の最終試験を行う。

この試験で不合格になることはない!あくまでもクラス分けの為だ。各自持てる力を存分に振るってくれ!」

エルヴィアーヌ学園長の言葉により、151人の新入生は学園内にある演習場に移動した。
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