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第六章 祈りと救済
第23話 未熟者(下)
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政略結婚なので、互いの家族の名前や状況などは事前に把握しているはずだ。すなわち、キアンの母はキアンを産んで間もなく亡くなり、以後ラジルは再婚もせずキアンと父子家庭だったと。
その母の話をいまあらためてする理由がわからず、キアンはティルフィーユの続きを待った。
「キアン様のお母様は、もしかして……その……女性にしてはとても背が高くて、短い髪だった……のでしょうか」
キアンよりは背が低いが、それでも大柄な部類に入るラジルは、小柄なティルフィーユをじっと見つめた。ミリ族の前族長で、今も騎士団で現役兵士として勤めているラジルの硬い空気はとても分厚く、ティルフィーユはどうしてもおどおどしてしまう。キアンと同じで、決して怒鳴るわけでも理不尽なことをするわけでもないようには思えるが、口数が少なすぎて何を考えているのか把握しづらいのだ。
「キアンの母、ユッテは……ミリ族らしい、素晴らしい女だった」
少しの沈黙のあと、ラジルはやっと口を開いた。脳裏に思い浮かべた最愛の妻の姿を懐かしく思い、目を細めながら語る。
「乗馬が得意で、人馬一体となって振るうその長剣の素早さは男顔負けだった。少しでも髪が伸びて視界が狭まることを嫌い、しょっちゅう自分で髪を切って短くしていた」
「やっぱり……」
「ティル、俺の母がどうかしたのか?」
ラジルの答えでティルフィーユが何かを納得したのを見て、キアンが問いかける。ティルフィーユは少しだけ身体をキアンの方に向けて説明した。
「スベーク城で暴漢に襲われた日の夜……たぶん、夜中に少し目覚めたその直前のことです。私、夢を見ていて……あれはたぶん、生死の境界線をたゆたっていたんだと思うんです。すごく不安で……キアン様に会いたくて……そしたら、とても背の高いショートヘアの女性が現れて、どこかを指差してくれました。その方向へ行ったら目が覚めて、キアン様が傍にいて……」
「その女性が俺の母だと?」
「はい……だって、頼まれましたから。『息子をよろしくね』と」
「っ……!」
ティルフィーユの藍色の瞳が潤む。その潤いが溢れることはなかったが、ティルフィーユの目に浮かんだ涙はキアンにも哀愁を誘った。
「ティルが……死ぬかもしれないと……」
キアンはゆっくりと語り出した。
「それがすごく怖くて……俺は動けなくなった。聖女様から……神に祈るように言われて……祈ったんだ。神だけじゃなくて……母にも……」
キアンは片手で口元を覆った。そうしないと嗚咽が漏れ出てしまいそうだった。
「ティルを……連れていかないでくれと……」
「そう……だったんですね。だからお義母様が、私をキアン様のもとに帰してくださったんですね」
ティルフィーユはこつん、とキアンの腕に頭を寄せた。
「あんなにも早く死ぬなんて思っていなかった。ユッテ自身も思っていなかっただろう。だから、まだ乳飲み子だったキアンを遺してしまったことがひどく気掛かりだったに違いない」
ラジルは優しい口調で言った。
「ユッテが現れたのは、ウォンクゼアーザのおかげか」
「はい……そうかもしれません」
ティルフィーユは姿勢を正すと、ラジルの方を向いて頷いた。
「聖女様がおっしゃっていました。私とキアン様の祈りが神に届いたと。そして、神の御業は様々な形で私たちにもたらされると……。私はウォンクゼアーザ様とユッテ様に……お義母様に助けていただいたんです」
「そうか。心残りだったキアンのことを君に頼むことができて、ユッテもきっと、本当に心が楽になっただろう」
ラジルはそれ以上、妻であるユッテのことは語らなかった。もしかしたら、言葉に出して語ってしまうと、思い出がよみがえると同時に深い悲しみもよみがえってしまうのかもしれない。ティルフィーユが死ぬかもしれないと恐れたあの日のことを思い出し、その時の恐れを口にしただけでありありと絶望がよみがえったキアンは、言葉の少ない父の複雑な気持ちがなんとなくわかるような気がした。
それからほんの少しだけ互いの近況を報告し合って、ラジルは屋敷を去っていった。
「公安委員会という組織を近々立ち上げる予定だ」
その日の晩、夕餉の席でキアンはティルフィーユに説明した。
反議会派は、聖女様とティルフィーユを襲ったこと以外は明確な動きをしていない。けれども、エヴァエロン共和国を転覆させてやろうという彼らの意思は明白であり、そのために聖女様やティルフィーユという特別な地位の女性を襲うことも手段にするほどの凶悪性がある。法に抵触する罪は犯していなくとも、これまでのようにただ静観しているだけの対応では手ぬるい。
そこで、彼ら反議会派とみなされる者を見張るための組織を作るというのだ。騎士団のように表立って行動するのではなく気付かれないように行動をする組織なので仔細は表に出ないだろうが、必要がある場合は公安委員会の情報がティルフィーユにも共有されるとのことだった。
「反議会派への対応の仕方は様々な意見が出ていたんだが、聖女襲撃の件を踏まえて、レシクラオン神皇国のエングム部隊長からロイックに助言があったようだ」
「ディルク様は特殊作戦部隊という、少し変わった組織の長でしたよね。その立場からの助言……ということでしょうか」
「そうみたいだ」
「そうですか……」
「ティルフィーユが狙われることは、本当に心苦しいと思っている」
キアンはナイフとフォークを置き、眉間に皺を寄せた。
「ミリ族によって奪われた命……それがあることは承知しているつもりだった。誰かの命を奪うことの罪深さ……それを背負って生きている覚悟はしてるいつもりだった。だが、そんな俺のせいでティルに害悪が及ぶ可能性については考えてもいなかった。本当に俺は浅い……いや、未熟な若造だな」
スベーク城のあの騒ぎの場で、ヨルディやディルクは冷静さを失ってはいなかった。あの緊急事態にどう対処すべきか、己の頭でしっかりと考え、部下たちに迅速な指示を出していた。
対してキアンは、妻のティルフィーユが致命傷を負ったという事実に簡単に我を失い、動けもしないただのろくでなしでしかなかった。肝心の騎士団への指示でさえ、自分では何ひとつ出せなかったのだ。
自分はミリ族の族長で、騎士団の団長。そうした社会的地位は高い。けれども、中身はまだまだ経験不足の青二才。妻との夫婦関係さえ、最初の一歩からつまずいてしまっていたくらいの情けない男なのだ。
「キアン様、私とて同じです。聖女様が危険な目に遭う可能性は考えていましたが、自分があんな風に狙われるなんてまったく考えていませんでした。ミリ族の族長であるあなたの妻という立場がどういうものなのか、認識が浅かったのです。それにあの時だって……不用意に飛び出したりせず、騎士や兵士の皆さんが聖女様を救い出すのを待つべきでした。判断内容もそのタイミングも……未熟です」
ティルフィーユもキアンと同じように食事の手を止めた。そして、一呼吸おいてから続ける。
「でも、それは恥じる必要のないことです。出自や地位などは関係なくて、私もキアン様もただ若いんです。ヨルディ様、バイロン様、ディルク様、聖女様……私たちより年上の皆様は、私たち以上の長い人生を生きてきています。その中で、私たちがまだ経験していないことを経験し、多くの悩みや葛藤、戸惑い、決断、行動……それらを積み重ねてきていると思うのです。一方で私とキアン様はまだ、得られていない経験、過ごせていない時間が多々あります。失敗や成功の数も、積み重ねた思考の量も少ないです。浅くて未熟で……それで当然なのです。だからこそ、諦めずに精進を続けましょう」
「諦めずに……」
「そうです。自分は未熟だ、と思い知ることは大切です。でも、そこで立ち止まってはいけません。そこから成熟することも大事だと、私は思います」
ああ、そうかもしれない。キアンは思った。
ティルフィーユを悲しませ続けた最初の一カ月。あれは己が自己保身に走り、情けないから引き起こしたことだと思っていた。だが、ティルフィーユとの夫婦関係を改善することを自分は「諦めていた」のではないか。「嫌われている」という誤解をしたところで足を止めて、そこから動こうとはしなかった。もし本当にティルフィーユに快く思われていなかったとしても、少しずつでも互いの距離を縮めるための何かしらの努力はできたはずだ。それなのにそうした努力を一切放棄して、冷えた夫婦関係で仕方ないと諦めていた。楽な道に逃げていたのだ。
今回のことも、年長者たちに比べて役立たずだった自分のろくでなしっぷりを反省することはしたが、そこから成長しようという考えにはまだ至っていなかった。ミリ族の族長、そして騎士団の団長という地位を与えられたことで、自分の成長はもう終わったと、そんな風に慢心をしていたのだろう。
自分はまだまだ完成された人間ではない。そのことを受け止めて、ティルフィーユの言うようにこれから成熟できるよう、まだまだこの先も精進しなければならない。諦めて足を止めるのではなく、不格好でも歩き続けなければならないのだ。
「本当に……ティルは俺にはもったいない妻だ」
「まあっ! もったいなくて申し訳ないからグントバハロンに帰れと、またそうおっしゃるんですか!?」
「いや、それはもう言わない。許してくれ」
キアンは苦笑した。
実年齢は自分の方が九歳も年上のはずなのだが、精神年齢はもしかしたらティルフィーユと同じか、彼女の方が上かもしれない。本当に自分は未熟者だ。
「ティル、俺はこの先もたぶん、君に情けない姿を見せると思う。それでも俺を見捨てないでくれ。君にふさわしい夫になれるように……男になれるように、諦めずに精進するから」
「はい……承知いたしました。でも、今だってキアン様は素敵な男性ですよ?」
「そうやって簡単に持ち上げないでくれ。すぐ図に乗ってしまうから」
「あら……もうっ、難しいですね」
ティルフィーユは不服そうな表情をする。
そんなティルフィーユが愛らしくて、キアンはくすりとほほ笑むのだった。
その母の話をいまあらためてする理由がわからず、キアンはティルフィーユの続きを待った。
「キアン様のお母様は、もしかして……その……女性にしてはとても背が高くて、短い髪だった……のでしょうか」
キアンよりは背が低いが、それでも大柄な部類に入るラジルは、小柄なティルフィーユをじっと見つめた。ミリ族の前族長で、今も騎士団で現役兵士として勤めているラジルの硬い空気はとても分厚く、ティルフィーユはどうしてもおどおどしてしまう。キアンと同じで、決して怒鳴るわけでも理不尽なことをするわけでもないようには思えるが、口数が少なすぎて何を考えているのか把握しづらいのだ。
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少しの沈黙のあと、ラジルはやっと口を開いた。脳裏に思い浮かべた最愛の妻の姿を懐かしく思い、目を細めながら語る。
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「やっぱり……」
「ティル、俺の母がどうかしたのか?」
ラジルの答えでティルフィーユが何かを納得したのを見て、キアンが問いかける。ティルフィーユは少しだけ身体をキアンの方に向けて説明した。
「スベーク城で暴漢に襲われた日の夜……たぶん、夜中に少し目覚めたその直前のことです。私、夢を見ていて……あれはたぶん、生死の境界線をたゆたっていたんだと思うんです。すごく不安で……キアン様に会いたくて……そしたら、とても背の高いショートヘアの女性が現れて、どこかを指差してくれました。その方向へ行ったら目が覚めて、キアン様が傍にいて……」
「その女性が俺の母だと?」
「はい……だって、頼まれましたから。『息子をよろしくね』と」
「っ……!」
ティルフィーユの藍色の瞳が潤む。その潤いが溢れることはなかったが、ティルフィーユの目に浮かんだ涙はキアンにも哀愁を誘った。
「ティルが……死ぬかもしれないと……」
キアンはゆっくりと語り出した。
「それがすごく怖くて……俺は動けなくなった。聖女様から……神に祈るように言われて……祈ったんだ。神だけじゃなくて……母にも……」
キアンは片手で口元を覆った。そうしないと嗚咽が漏れ出てしまいそうだった。
「ティルを……連れていかないでくれと……」
「そう……だったんですね。だからお義母様が、私をキアン様のもとに帰してくださったんですね」
ティルフィーユはこつん、とキアンの腕に頭を寄せた。
「あんなにも早く死ぬなんて思っていなかった。ユッテ自身も思っていなかっただろう。だから、まだ乳飲み子だったキアンを遺してしまったことがひどく気掛かりだったに違いない」
ラジルは優しい口調で言った。
「ユッテが現れたのは、ウォンクゼアーザのおかげか」
「はい……そうかもしれません」
ティルフィーユは姿勢を正すと、ラジルの方を向いて頷いた。
「聖女様がおっしゃっていました。私とキアン様の祈りが神に届いたと。そして、神の御業は様々な形で私たちにもたらされると……。私はウォンクゼアーザ様とユッテ様に……お義母様に助けていただいたんです」
「そうか。心残りだったキアンのことを君に頼むことができて、ユッテもきっと、本当に心が楽になっただろう」
ラジルはそれ以上、妻であるユッテのことは語らなかった。もしかしたら、言葉に出して語ってしまうと、思い出がよみがえると同時に深い悲しみもよみがえってしまうのかもしれない。ティルフィーユが死ぬかもしれないと恐れたあの日のことを思い出し、その時の恐れを口にしただけでありありと絶望がよみがえったキアンは、言葉の少ない父の複雑な気持ちがなんとなくわかるような気がした。
それからほんの少しだけ互いの近況を報告し合って、ラジルは屋敷を去っていった。
「公安委員会という組織を近々立ち上げる予定だ」
その日の晩、夕餉の席でキアンはティルフィーユに説明した。
反議会派は、聖女様とティルフィーユを襲ったこと以外は明確な動きをしていない。けれども、エヴァエロン共和国を転覆させてやろうという彼らの意思は明白であり、そのために聖女様やティルフィーユという特別な地位の女性を襲うことも手段にするほどの凶悪性がある。法に抵触する罪は犯していなくとも、これまでのようにただ静観しているだけの対応では手ぬるい。
そこで、彼ら反議会派とみなされる者を見張るための組織を作るというのだ。騎士団のように表立って行動するのではなく気付かれないように行動をする組織なので仔細は表に出ないだろうが、必要がある場合は公安委員会の情報がティルフィーユにも共有されるとのことだった。
「反議会派への対応の仕方は様々な意見が出ていたんだが、聖女襲撃の件を踏まえて、レシクラオン神皇国のエングム部隊長からロイックに助言があったようだ」
「ディルク様は特殊作戦部隊という、少し変わった組織の長でしたよね。その立場からの助言……ということでしょうか」
「そうみたいだ」
「そうですか……」
「ティルフィーユが狙われることは、本当に心苦しいと思っている」
キアンはナイフとフォークを置き、眉間に皺を寄せた。
「ミリ族によって奪われた命……それがあることは承知しているつもりだった。誰かの命を奪うことの罪深さ……それを背負って生きている覚悟はしてるいつもりだった。だが、そんな俺のせいでティルに害悪が及ぶ可能性については考えてもいなかった。本当に俺は浅い……いや、未熟な若造だな」
スベーク城のあの騒ぎの場で、ヨルディやディルクは冷静さを失ってはいなかった。あの緊急事態にどう対処すべきか、己の頭でしっかりと考え、部下たちに迅速な指示を出していた。
対してキアンは、妻のティルフィーユが致命傷を負ったという事実に簡単に我を失い、動けもしないただのろくでなしでしかなかった。肝心の騎士団への指示でさえ、自分では何ひとつ出せなかったのだ。
自分はミリ族の族長で、騎士団の団長。そうした社会的地位は高い。けれども、中身はまだまだ経験不足の青二才。妻との夫婦関係さえ、最初の一歩からつまずいてしまっていたくらいの情けない男なのだ。
「キアン様、私とて同じです。聖女様が危険な目に遭う可能性は考えていましたが、自分があんな風に狙われるなんてまったく考えていませんでした。ミリ族の族長であるあなたの妻という立場がどういうものなのか、認識が浅かったのです。それにあの時だって……不用意に飛び出したりせず、騎士や兵士の皆さんが聖女様を救い出すのを待つべきでした。判断内容もそのタイミングも……未熟です」
ティルフィーユもキアンと同じように食事の手を止めた。そして、一呼吸おいてから続ける。
「でも、それは恥じる必要のないことです。出自や地位などは関係なくて、私もキアン様もただ若いんです。ヨルディ様、バイロン様、ディルク様、聖女様……私たちより年上の皆様は、私たち以上の長い人生を生きてきています。その中で、私たちがまだ経験していないことを経験し、多くの悩みや葛藤、戸惑い、決断、行動……それらを積み重ねてきていると思うのです。一方で私とキアン様はまだ、得られていない経験、過ごせていない時間が多々あります。失敗や成功の数も、積み重ねた思考の量も少ないです。浅くて未熟で……それで当然なのです。だからこそ、諦めずに精進を続けましょう」
「諦めずに……」
「そうです。自分は未熟だ、と思い知ることは大切です。でも、そこで立ち止まってはいけません。そこから成熟することも大事だと、私は思います」
ああ、そうかもしれない。キアンは思った。
ティルフィーユを悲しませ続けた最初の一カ月。あれは己が自己保身に走り、情けないから引き起こしたことだと思っていた。だが、ティルフィーユとの夫婦関係を改善することを自分は「諦めていた」のではないか。「嫌われている」という誤解をしたところで足を止めて、そこから動こうとはしなかった。もし本当にティルフィーユに快く思われていなかったとしても、少しずつでも互いの距離を縮めるための何かしらの努力はできたはずだ。それなのにそうした努力を一切放棄して、冷えた夫婦関係で仕方ないと諦めていた。楽な道に逃げていたのだ。
今回のことも、年長者たちに比べて役立たずだった自分のろくでなしっぷりを反省することはしたが、そこから成長しようという考えにはまだ至っていなかった。ミリ族の族長、そして騎士団の団長という地位を与えられたことで、自分の成長はもう終わったと、そんな風に慢心をしていたのだろう。
自分はまだまだ完成された人間ではない。そのことを受け止めて、ティルフィーユの言うようにこれから成熟できるよう、まだまだこの先も精進しなければならない。諦めて足を止めるのではなく、不格好でも歩き続けなければならないのだ。
「本当に……ティルは俺にはもったいない妻だ」
「まあっ! もったいなくて申し訳ないからグントバハロンに帰れと、またそうおっしゃるんですか!?」
「いや、それはもう言わない。許してくれ」
キアンは苦笑した。
実年齢は自分の方が九歳も年上のはずなのだが、精神年齢はもしかしたらティルフィーユと同じか、彼女の方が上かもしれない。本当に自分は未熟者だ。
「ティル、俺はこの先もたぶん、君に情けない姿を見せると思う。それでも俺を見捨てないでくれ。君にふさわしい夫になれるように……男になれるように、諦めずに精進するから」
「はい……承知いたしました。でも、今だってキアン様は素敵な男性ですよ?」
「そうやって簡単に持ち上げないでくれ。すぐ図に乗ってしまうから」
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ティルフィーユは不服そうな表情をする。
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