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第11話 無声の操言士と二人の動揺
5.直接攻撃(上)
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操言の力で武器を作れないかと提案してきた紅雷。王黎からも、二人で戦闘スタイルを考えていくのがいいと言われた。
(結局、答えはまだ出せていない。操言の力でミズイヌ型の紅雷に与えられる武器……操言士の私と、言従士紅雷の二人のスタイル……)
懸命に進撃と後退を繰り返すルーカス、紅雷、ユルゲン。
怪魔に適宜加護を送り、一歩も引かないアンジャリ。
怪魔と違って、人間の三人には体力の限界がある。アンジャリが怪魔にそうするように紀更も三人の体力を回復できるが、微々たる量だ。早く怪魔を斃さなければ、人間に不利な持久戦になってしまう。
【二対の鉤爪】
ミズイヌ型では剣のような武器は持てない。ならば、ミズイヌ型の状態ですでにあるもの――爪を強化する。紀更はそう考えた。
人型の爪よりも丈夫で太くて鋭い爪だが、それは怪魔を攻撃するために特化しているわけではない。武器とするには短く、丈夫さも心許ない。だから、紅雷の前脚にその爪を長く伸ばしたような鉤爪を。もとからある自身の爪を認識するのと同じように違和感なく身体の一部として操り、武器にできるように。紀更はそのイメージを具体的に頭の中に思い浮かべながら操言の力を使った。
【長さは三倍、力は五倍。光を凝縮した鉱物がごとき力は悪しき魂を引き裂き滅する!】
「すごいっ! いけるっ!」
紅雷の前脚に、光り輝く鉱物のような鋭い鉤爪が延伸するように現れた。それはミズイヌ型の紅雷自身の爪よりも長く厚く丈夫で、これまでにない力強さを感じ取った紅雷は後脚で勢いよく地を蹴った。
「ハアァッ!」
そして複数の節足で攻撃してくるドサバトにひるむことなくまっすぐにドサバトの本体部分に飛び込むと、その鉤爪でドサバトを頭から引き裂いた。
「ピァァァァァァ!」
悲鳴を上げて、ドサバトの身体が霧散する。
「痛っ!」
しかし紅雷に引き裂かれる寸前に、ドサバトの節足が紅雷の脇腹を強く切りつけていた。そのため、霧散するドサバトがいた場所に着地した紅雷の身体はわずかにふらついた。
【やわく薄い保護膜よ、紅雷の傷を覆え。痛み伴う損傷よ、ゆるやかに癒え、良好なる肉に回復せよ】
紅雷の傷に気付いた紀更は、すぐに回復の加護を与える。紀更の操言の力によって紅雷の脇腹の皮膚はひとまずふさがった。
「紅雷、ルーカスさんを!」
「はいっ!」
紀更は紅雷に指示を出す。それから、ルーカスの長剣に再度操言の加護を与えた。
【剣を受け止めるは盾! 力を受け流すは壁!】
アンジャリも負けじと操言の力を使い、ルーカスが相手にしているドサバトの防御力を上げる。ルーカスがダメージを与えようとしても空中にある見えない力に阻まれて、剣の刃がドサバトに届かない。
「自分が援護します! 紅雷さん、お願いします!」
「紀更様!」
ルーカスと紅雷が叫ぶ。紀更はもう一度、操言の力で鉤爪の武器を紅雷に与えた。
「ピァア!」
紅雷に向けられたドサバトの攻撃を、ルーカスが長剣で受け止める。そしてその隙に、今度は反撃されることなく紅雷の鉤爪が二匹目のドサバトを屠った。
「紅雷は下がれ! 紀更の守りを! ルーカスくん、ユルゲンくんに加勢だ!」
王黎の指示が飛ぶ。
中央の紅雷と左方のルーカスに集中している間、ユルゲンは王黎からの加護を頼りに少しずつだが怪魔キヴィネにダメージを与えていた。
(キヴィネ……レイトの時のようにっ!)
紀更はぐっと肩に力を入れた。
怪魔キヴィネは、水の村レイトに出現した時に斃したことがある。その時も攻撃手はユルゲンだった。あの時と同じ戦法でいけるはずだ。
【悪しき鉄の箱は守るものを持たぬ、ただの空箱。やわらかな砂を固めた偽りの姿】
まずは硬いキヴィネの身体をやわらかくする。ユルゲンの攻撃がたやすく通るように。
紀更は早くなる自分の呼吸を無視して、必死で頭の中にイメージを思い描き、自分の発する声が形作る言葉に集中した。
【拭えぬ砂塵よ、両目を舞い襲え!】
「っうああぁっ!」
「王黎殿!?」
だがその時、誰かの操言の力が発動し、透明な砂塵が王黎の両眼を襲った。王黎は悲鳴を上げ、崩れ落ちて地面に膝を突く。すぐにエリックが駆け寄り、かがんで王黎の様子をうかがった。
「大丈夫か!?」
「だ、じょです。エリックさん、近くにもう一人!」
王黎は両目を空けていられない。風の強い日の砂埃が入ったように目の奥がじゃかじゃかして、痛みと不快感でどうしても瞼が上がらなかった。
「王黎師匠!」
王黎の異変に気付いた紀更が王黎に駆け寄ろうとする。
「ぐぁっ!」
しかしその瞬間、キヴィネの放った電撃が直撃したルーカスが強い悲鳴を上げた。全身がしびれたルーカスは前のめりになって地面に倒れ、ひくひくと身体を震わせる。
そんなルーカスの首根っこを紅雷が咥えて引きずり、中衛に下がらせた。そして動けないルーカスを守るように、しばらく彼の傍にとどまることにする。
「紀更、まずはキヴィネだ! 前を見ろ!」
開かない目をきつく閉じて王黎が叫ぶ。
負傷者を慮るのはいい心掛けだが、戦闘中に優先順位を間違えてはならない。そのことを王黎は言外に含み、紀更を叱咤する。
「紀更、頼む! 一気に片付けるぞ!」
「はっ、はい!」
ユルゲンが紀更を激励すると、紀更は拳を握って彼の隣に立った。
紀更はレイトの時以上の強いイメージと言葉を選んで、目の前のキヴィネをユルゲンが斃せるようにと操言の力を使う。
【悪しき鉄の箱はやわく脆く、聖なる光まといし刀に断罪されん!】
【聖なる光は輝きを失う! 罪にまみれたるは、二本の刀なり!】
紀更の言葉を取り込んで返すように、アンジャリもまた、操言の力を使った。
紀更とアンジャリ、二人の操言の力の波動が空中でバチンとぶつかって弾け飛ぶ。
【背後に佇む昏き思いと力は、痛みを知りて強くなる心によって懲罰される運命! その言葉、その力、我らが庇護すべき者には一切届かない!】
紀更はキヴィネではなく、キヴィネの背後にいるアンジャリに投げるつもりで言葉を放った。
(街を、人を襲い、傷つけるピラーオルド……あなたたちには負けない!)
「うらぁっ!」
紀更の付与した操言の加護をまとった両刀で、ユルゲンはキヴィネを切り裂く。その攻撃力の高さは操言の鉤爪を装着した紅雷のそれと同等か、それ以上だった。
【闇の子の骨を拘束する!】
「ぁあっ!」
キヴィネが霧散し、わずかに全員が安堵したその瞬間。アンジャリではない誰かの操言の力が再びはたらき、王黎は少しも身体を動かせなくなった。
「王黎殿!」
見えない何かによって苦しむ王黎の名前を、エリックが懸命に呼ぶ。
王黎の身体はまだそこにあるが、少しも油断できない状況だ。
「邪魔だ、どけ!」
その時、闇の中からどすを利かせた声が飛び出してきた。声の主は黒い塊――黒毛のタテガミライオン型のライオスだった。
一気に飛び出したライオスはエリックに駆け寄り体当たりをする。さすがのエリックも、人の二倍も三倍も大きいタテガミライオンのパワーには勝てず、王黎の傍から三メイほど遠くへ吹っ飛ばされてしまった。
「ライオス!」
微動すらできず目も開けられない王黎の頭を咥えようとしたタテガミライオンに、ユルゲンが怒鳴る。その声が聞こえたライオスは、王黎からユルゲンに視線を移した。そして凶悪な牙を見せつけてニヤりと笑う。
「よぉ、黒髪の傭兵。お前にはこの間の借りを返さないといけねぇな!」
「馬鹿、ライオス! さっさと闇の子を捕まえなさいよ!」
睨み合うライオスとユルゲン。そのユルゲンの背後で、怪魔という僕を失ったアンジャリが騒ぐ。
その時、ルーカスの傍で待機していた紅雷が機転をきかせてユルゲンの背後に走った。ユルゲンと背中合わせになって、アンジャリがへたに動かないように睨みを利かせて牽制する。ライオスに吹き飛ばされたエリックもよろよろと立ち上がり、剣を抜いてライオスに向けた。
「お前らは相当王黎がお好きなようだな。なぜそこまでこだわる? どこへ連れていく気だ?」
両刀を構えたままのユルゲンがライオスに尋ねた。
「まあ、大方ピラーオルドの本拠地とかなんだろうが、それはどこだ? サーディアか? フォスニアか?」
「ふん、質問が多すぎておつむの弱いオレには答えられねぇな」
「ならひとつだけにするか。お前らの言う闇神様ってのはヤオディミスのことなのか」
「なっ……」
その時、アンジャリの表情に動揺が走ったのを紅雷は見逃さなかった。その問いかけは、どうやら彼らピラーオルドの何かに触れる質問のようだ。
「ハッ! 闇神様と呼べと言われたからそう呼んでいるだけだ。レプティのしすぎでもはや人間じゃなくなりかけているからな」
「ライオス! 余計なことを喋らないでよ!」
アンジャリが大声を出してライオスを制止する。
アンジャリが少しでも襲い掛かってくる素振りを見せたら飛びかかろうと、紅雷は四本の脚に力を入れた。
「こっちだ!」
「光球の明かりを目指せ!」
その時、城下町を背にしたエリックの背後から複数人の声が近付き、最初に王黎が作り出した光の玉と同じくらいの明るさが迫ってきた。
「もういいわ! ライオス、撤退よ!」
「チッ、覚えてろよ、傭兵! 必ず借りは返す!」
ライオスが地を蹴り、ウガラスノ樹林の方へと走り去っていく。アンジャリもまた、紀更たちに聞こえない声で操言の力を使ったらしく、その場でジャンプすると二十メイほどの高さに飛び上がり、樹林の中へと飛び込むようにして退散した。
「まっ、待ちなさい!」
紀更が駆け寄って二人を追いかけようとしたが、すぐに二人の姿が見えなくなったのでその駆け足は歩き足に変わって早々に止まった。
「闇神様は人間じゃなくなりかけてる……どういうこと? 神様じゃなくて人間なの?」
闇夜と化している樹林に、紀更の呟きが吸い込まれる。
「おい、大丈夫か!」
エリックの背後から近付いてきたのはカルディッシュの操言士と騎士たちだった。紀更たちの戦闘に気付いて応援に来てくれたようだ。
その操言士たちに保護されるように、紀更たちはカルディッシュ城下町にある診療所に場所を移した。
(結局、答えはまだ出せていない。操言の力でミズイヌ型の紅雷に与えられる武器……操言士の私と、言従士紅雷の二人のスタイル……)
懸命に進撃と後退を繰り返すルーカス、紅雷、ユルゲン。
怪魔に適宜加護を送り、一歩も引かないアンジャリ。
怪魔と違って、人間の三人には体力の限界がある。アンジャリが怪魔にそうするように紀更も三人の体力を回復できるが、微々たる量だ。早く怪魔を斃さなければ、人間に不利な持久戦になってしまう。
【二対の鉤爪】
ミズイヌ型では剣のような武器は持てない。ならば、ミズイヌ型の状態ですでにあるもの――爪を強化する。紀更はそう考えた。
人型の爪よりも丈夫で太くて鋭い爪だが、それは怪魔を攻撃するために特化しているわけではない。武器とするには短く、丈夫さも心許ない。だから、紅雷の前脚にその爪を長く伸ばしたような鉤爪を。もとからある自身の爪を認識するのと同じように違和感なく身体の一部として操り、武器にできるように。紀更はそのイメージを具体的に頭の中に思い浮かべながら操言の力を使った。
【長さは三倍、力は五倍。光を凝縮した鉱物がごとき力は悪しき魂を引き裂き滅する!】
「すごいっ! いけるっ!」
紅雷の前脚に、光り輝く鉱物のような鋭い鉤爪が延伸するように現れた。それはミズイヌ型の紅雷自身の爪よりも長く厚く丈夫で、これまでにない力強さを感じ取った紅雷は後脚で勢いよく地を蹴った。
「ハアァッ!」
そして複数の節足で攻撃してくるドサバトにひるむことなくまっすぐにドサバトの本体部分に飛び込むと、その鉤爪でドサバトを頭から引き裂いた。
「ピァァァァァァ!」
悲鳴を上げて、ドサバトの身体が霧散する。
「痛っ!」
しかし紅雷に引き裂かれる寸前に、ドサバトの節足が紅雷の脇腹を強く切りつけていた。そのため、霧散するドサバトがいた場所に着地した紅雷の身体はわずかにふらついた。
【やわく薄い保護膜よ、紅雷の傷を覆え。痛み伴う損傷よ、ゆるやかに癒え、良好なる肉に回復せよ】
紅雷の傷に気付いた紀更は、すぐに回復の加護を与える。紀更の操言の力によって紅雷の脇腹の皮膚はひとまずふさがった。
「紅雷、ルーカスさんを!」
「はいっ!」
紀更は紅雷に指示を出す。それから、ルーカスの長剣に再度操言の加護を与えた。
【剣を受け止めるは盾! 力を受け流すは壁!】
アンジャリも負けじと操言の力を使い、ルーカスが相手にしているドサバトの防御力を上げる。ルーカスがダメージを与えようとしても空中にある見えない力に阻まれて、剣の刃がドサバトに届かない。
「自分が援護します! 紅雷さん、お願いします!」
「紀更様!」
ルーカスと紅雷が叫ぶ。紀更はもう一度、操言の力で鉤爪の武器を紅雷に与えた。
「ピァア!」
紅雷に向けられたドサバトの攻撃を、ルーカスが長剣で受け止める。そしてその隙に、今度は反撃されることなく紅雷の鉤爪が二匹目のドサバトを屠った。
「紅雷は下がれ! 紀更の守りを! ルーカスくん、ユルゲンくんに加勢だ!」
王黎の指示が飛ぶ。
中央の紅雷と左方のルーカスに集中している間、ユルゲンは王黎からの加護を頼りに少しずつだが怪魔キヴィネにダメージを与えていた。
(キヴィネ……レイトの時のようにっ!)
紀更はぐっと肩に力を入れた。
怪魔キヴィネは、水の村レイトに出現した時に斃したことがある。その時も攻撃手はユルゲンだった。あの時と同じ戦法でいけるはずだ。
【悪しき鉄の箱は守るものを持たぬ、ただの空箱。やわらかな砂を固めた偽りの姿】
まずは硬いキヴィネの身体をやわらかくする。ユルゲンの攻撃がたやすく通るように。
紀更は早くなる自分の呼吸を無視して、必死で頭の中にイメージを思い描き、自分の発する声が形作る言葉に集中した。
【拭えぬ砂塵よ、両目を舞い襲え!】
「っうああぁっ!」
「王黎殿!?」
だがその時、誰かの操言の力が発動し、透明な砂塵が王黎の両眼を襲った。王黎は悲鳴を上げ、崩れ落ちて地面に膝を突く。すぐにエリックが駆け寄り、かがんで王黎の様子をうかがった。
「大丈夫か!?」
「だ、じょです。エリックさん、近くにもう一人!」
王黎は両目を空けていられない。風の強い日の砂埃が入ったように目の奥がじゃかじゃかして、痛みと不快感でどうしても瞼が上がらなかった。
「王黎師匠!」
王黎の異変に気付いた紀更が王黎に駆け寄ろうとする。
「ぐぁっ!」
しかしその瞬間、キヴィネの放った電撃が直撃したルーカスが強い悲鳴を上げた。全身がしびれたルーカスは前のめりになって地面に倒れ、ひくひくと身体を震わせる。
そんなルーカスの首根っこを紅雷が咥えて引きずり、中衛に下がらせた。そして動けないルーカスを守るように、しばらく彼の傍にとどまることにする。
「紀更、まずはキヴィネだ! 前を見ろ!」
開かない目をきつく閉じて王黎が叫ぶ。
負傷者を慮るのはいい心掛けだが、戦闘中に優先順位を間違えてはならない。そのことを王黎は言外に含み、紀更を叱咤する。
「紀更、頼む! 一気に片付けるぞ!」
「はっ、はい!」
ユルゲンが紀更を激励すると、紀更は拳を握って彼の隣に立った。
紀更はレイトの時以上の強いイメージと言葉を選んで、目の前のキヴィネをユルゲンが斃せるようにと操言の力を使う。
【悪しき鉄の箱はやわく脆く、聖なる光まといし刀に断罪されん!】
【聖なる光は輝きを失う! 罪にまみれたるは、二本の刀なり!】
紀更の言葉を取り込んで返すように、アンジャリもまた、操言の力を使った。
紀更とアンジャリ、二人の操言の力の波動が空中でバチンとぶつかって弾け飛ぶ。
【背後に佇む昏き思いと力は、痛みを知りて強くなる心によって懲罰される運命! その言葉、その力、我らが庇護すべき者には一切届かない!】
紀更はキヴィネではなく、キヴィネの背後にいるアンジャリに投げるつもりで言葉を放った。
(街を、人を襲い、傷つけるピラーオルド……あなたたちには負けない!)
「うらぁっ!」
紀更の付与した操言の加護をまとった両刀で、ユルゲンはキヴィネを切り裂く。その攻撃力の高さは操言の鉤爪を装着した紅雷のそれと同等か、それ以上だった。
【闇の子の骨を拘束する!】
「ぁあっ!」
キヴィネが霧散し、わずかに全員が安堵したその瞬間。アンジャリではない誰かの操言の力が再びはたらき、王黎は少しも身体を動かせなくなった。
「王黎殿!」
見えない何かによって苦しむ王黎の名前を、エリックが懸命に呼ぶ。
王黎の身体はまだそこにあるが、少しも油断できない状況だ。
「邪魔だ、どけ!」
その時、闇の中からどすを利かせた声が飛び出してきた。声の主は黒い塊――黒毛のタテガミライオン型のライオスだった。
一気に飛び出したライオスはエリックに駆け寄り体当たりをする。さすがのエリックも、人の二倍も三倍も大きいタテガミライオンのパワーには勝てず、王黎の傍から三メイほど遠くへ吹っ飛ばされてしまった。
「ライオス!」
微動すらできず目も開けられない王黎の頭を咥えようとしたタテガミライオンに、ユルゲンが怒鳴る。その声が聞こえたライオスは、王黎からユルゲンに視線を移した。そして凶悪な牙を見せつけてニヤりと笑う。
「よぉ、黒髪の傭兵。お前にはこの間の借りを返さないといけねぇな!」
「馬鹿、ライオス! さっさと闇の子を捕まえなさいよ!」
睨み合うライオスとユルゲン。そのユルゲンの背後で、怪魔という僕を失ったアンジャリが騒ぐ。
その時、ルーカスの傍で待機していた紅雷が機転をきかせてユルゲンの背後に走った。ユルゲンと背中合わせになって、アンジャリがへたに動かないように睨みを利かせて牽制する。ライオスに吹き飛ばされたエリックもよろよろと立ち上がり、剣を抜いてライオスに向けた。
「お前らは相当王黎がお好きなようだな。なぜそこまでこだわる? どこへ連れていく気だ?」
両刀を構えたままのユルゲンがライオスに尋ねた。
「まあ、大方ピラーオルドの本拠地とかなんだろうが、それはどこだ? サーディアか? フォスニアか?」
「ふん、質問が多すぎておつむの弱いオレには答えられねぇな」
「ならひとつだけにするか。お前らの言う闇神様ってのはヤオディミスのことなのか」
「なっ……」
その時、アンジャリの表情に動揺が走ったのを紅雷は見逃さなかった。その問いかけは、どうやら彼らピラーオルドの何かに触れる質問のようだ。
「ハッ! 闇神様と呼べと言われたからそう呼んでいるだけだ。レプティのしすぎでもはや人間じゃなくなりかけているからな」
「ライオス! 余計なことを喋らないでよ!」
アンジャリが大声を出してライオスを制止する。
アンジャリが少しでも襲い掛かってくる素振りを見せたら飛びかかろうと、紅雷は四本の脚に力を入れた。
「こっちだ!」
「光球の明かりを目指せ!」
その時、城下町を背にしたエリックの背後から複数人の声が近付き、最初に王黎が作り出した光の玉と同じくらいの明るさが迫ってきた。
「もういいわ! ライオス、撤退よ!」
「チッ、覚えてろよ、傭兵! 必ず借りは返す!」
ライオスが地を蹴り、ウガラスノ樹林の方へと走り去っていく。アンジャリもまた、紀更たちに聞こえない声で操言の力を使ったらしく、その場でジャンプすると二十メイほどの高さに飛び上がり、樹林の中へと飛び込むようにして退散した。
「まっ、待ちなさい!」
紀更が駆け寄って二人を追いかけようとしたが、すぐに二人の姿が見えなくなったのでその駆け足は歩き足に変わって早々に止まった。
「闇神様は人間じゃなくなりかけてる……どういうこと? 神様じゃなくて人間なの?」
闇夜と化している樹林に、紀更の呟きが吸い込まれる。
「おい、大丈夫か!」
エリックの背後から近付いてきたのはカルディッシュの操言士と騎士たちだった。紀更たちの戦闘に気付いて応援に来てくれたようだ。
その操言士たちに保護されるように、紀更たちはカルディッシュ城下町にある診療所に場所を移した。
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