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第11話 無声の操言士と二人の動揺
5.直接攻撃(中)
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カルディッシュ城下町の南口からカルディッシュ城へと続く、ひときわ広い東国道。
その東国道に面した一角に建つ診療所は、今夜の騒ぎでけがをした民や騎士、操言士たちを受け入れ、夜間だというのに非常に慌ただしかった。
「これは操言の力による身体への直接攻撃だな。相手が使った言葉はわかるか」
診療所の所長、伊佐久は操言士で、とても珍しい職業である操言医術師だった。ベッドに運び込まれた王黎を診るなり、伊佐久は付き添いの紀更たちの顔を順々にのぞき込んだ。
「全部ではないが少し憶えている。受けた攻撃は二回で、一回目に使われた言葉は〝拭えぬ砂塵〟、二回目は〝骨を拘束する〟だったと思う」
戦闘中に王黎の傍にいたエリックが、老翁の伊佐久に答えた。
ライオスによる操言の力の攻撃の影響は今もまだ王黎に残っており、王黎は目を開けられないし自分では指ひとつ動かせない状況だ。呼吸はできているのでかろうじて命はあるが話すこともできないので、外から容体をうかがうしか王黎の身体の状況を把握する術がない。
「砂塵と骨の拘束か。単純な言葉でよかったのぅ」
伊佐久は難しい声で呟くと、寝台に仰向けになっている王黎の膝と胸に両手を置き、深呼吸をひとつしてから言葉を紡いだ。
【汝を縛る敵意に満ちし言葉は、我が癒しの言葉と溶け合い、混じり合う。拭えぬ砂塵はより細かき粒子となり、無に帰さん。骨の拘束は解かれ、何者も汝を縛りはしない】
オリジーアにおける医術師という職業は、操言士と同じように若い頃から師匠に弟子入りして学び、人々の病気やけがを適切に治療する職業だ。都市部には必ず医術師が一人はいるものだが、医術師になるには多くの勉強と修練が必要とされており、決して人数の多い職業ではない。しかしその必要性から各都市部では引く手あまたであり、特に稼ぎの良い職業のひとつである。
カルディッシュには国が作ったのではなくカルディッシュという都市が独自に作った教育学校があるが、そこには医術を専門に学べるコースがあり、ほかの都市部に比べて医術師やその卵が多くいる。そんな医術師の中でも特に珍しいのが、操言士でありながら医術も習得した「操言医術師」だ。
(これが、操言の力を使った本格的な治療……)
慎重に操言の力を使う伊佐久の波動のゆらめきを、紀更は瞬きひとつせずに見守った。
操言ブローチの刻印のうち、タイプⅡは治療を得意とする者に与えられる。そのタイプⅡを与えられた者の中で、操言士としての学びのほかに本格的に医術を学び、操言の力を使う治療も使わない治療もその両方ができるようになった者だけが操言医術師と呼ばれるのだ。
普通の医術師としての知識を学び、治療術を習得しながらなおかつ操言士として操言の力の使い方も研鑽する操言医術師は、なるのが非常に困難な職種のひとつだ。途中で挫折し、操言医術師ではなく「治癒が得意な操言士」程度で満足する者も多い。
そんな操言医術師が最も必要とされる場面が、まさに今だった。
(操言の力で直接身体に攻撃された王黎師匠……そのダメージを回復するには、ライオスさんが使った操言の力の効果を完璧に消さないといけない)
伊佐久はまだ、集中しながら言葉を紡いでいる。
ライオスの放った言葉は短く、伊佐久の言うように簡単な言葉だった。しかしその効果を身体から完全に取り除くためにはその何倍もの言葉を使い、慎重に治癒をしなければならない。へたに効果が残っていると、あとでどんな影響が出るかわからないからだ。
紀更たちは固唾を呑んで、伊佐久の治療が終わるのを待った。
「さあ、終わりだ。ゆっくりと目を開けてごらん。ゆっくりだよ」
伊佐久が王黎に声をかける。王黎は言われたとおり、緩慢な動作で瞼を持ち上げた。
「見えるか?」
「はい」
「目の奥に痛みや違和感は?」
「ありません」
「よろしい。次に手の指から動かそうか。拳を握ったり、手のひらを開いたり……そうだ、ゆっくりだ。急ぐでないぞ」
伊佐久の指示に従い、王黎は両手のひらをゆっくりと動かす。自分の骨に異常がないか確かめているようだ。
「深呼吸をしてごらん。胸骨にも問題がなければ、呼吸が楽にできるはずだ」
王黎は仰向けのまま、深く呼吸をする。伊佐久の言うとおり、先ほどよりも胸は自然と上下に動いて空気を取り込んだ。
「大丈夫ならゆっくりと起き上がるんだ。ほれ、そこの騎士さん、ちょっと手を貸しなされ」
伊佐久がエリックを手招く。エリックは王黎の背中に左手を添えると、ゆっくりと王黎の身体を持ち上げた。
「うわあ……なんか全身がバキバキする。怖いですね」
「さっきまでほぼ全身の骨が動かせんかったからな。動かすのはくれぐれも慎重に、無理せずにだ。相手の操言士が未熟だったのか、全身の骨すべてが拘束されていたわけではない。運が良かったのぅ」
エリックに支えられて指、腕、足、首を少しずつ動かしていく王黎は、自分の身体なのに動かしてよいのかどうか、感覚が迷子になっていた。
「で、次に重症なのはそっちの騎士さんかいな」
伊佐久は治療室内の椅子にぐったりと座っているルーカスに近付いた。
キヴィネの電撃を食らったルーカスは、カルディッシュの操言士たちに抱えられてここまでやって来て、なんとか椅子に座っていられる程度には回復していた。しかしその全身はまだ、バチバチと弾けるような感覚に包まれていた。
「彼はキヴィネの電撃を食らいました」
「キヴィネか。即死はせんが、このダメージは早くても半日は残るな」
(半日……)
紀更は水の村レイトでのことを思い出す。あの時はユルゲンがキヴィネの電撃を食らい、やはりしばらくの間はダメージが残っていた。
ルーカスよりもユルゲンの身体の方が強靭なのか、それとも今夜出くわしたキヴィネの方がレイトに現れたキヴィネよりも強かったのか、ルーカスの方が重症には見える。
【全身にはびこる電の悪意よ、そなたは役目を終え、消え失せよ】
伊佐久が操言の力を使ってルーカスを治療する。操言士である紀更には、伊佐久が思い描くイメージと伊佐久の持つ操言の力の波動が見えるようにとらえられた。
「それから、そこのお嬢さんもか」
次に伊佐久は、紀更の隣に立っていた紅雷に顔を向けた。
「えっ、あたしは……」
「傷はふさがっているように見えるだろうが、せっかくだから少し治癒しておくよ」
ためらう紅雷の声を伊佐久は無視する。
ドサバトに攻撃された紅雷の脇腹は、服が割けて傷跡が見えていた。ふさがってはいるが周囲には乾いた血が付いているし、そこに傷を受けたことは明らかだ。
伊佐久は紅雷の傷口の下、裂傷した組織の再生をうながすようなイメージを思い描き、操言の力を使った。
紀更ではない操言士の力を受けることに、紅雷は抵抗があった。しかし皮膚の下に感じていたにぶい痛みや違和感が軽減され、恐れていたよりも伊佐久の操言の力が不快には感じなかったので、ほっと安堵する。
「ほかはかすり傷程度だな? 薬師に言って軟膏でももらっておくんだな。動けるなら全員、診療所は出ておくれな」
伊佐久はそう言うと隣の治療室に足を向けた。怪魔と戦って負傷し、治療がまだの騎士がそちらにいるらしい。
「じゃあ、宿に戻って今夜はもう休もうか。ユルゲンくん、宿まで手を貸してもらってもいいかな。一人で歩行するにはまだちょっと怖いんだ」
「ああ、お安い御用だ」
苦笑する王黎にユルゲンが手を貸す。同じようにエリックがルーカスの身体を支え、六人は宿に戻ってどうにか就寝するのだった。
◆◇◆◇◆
「馬鹿! あと少しだったのに!」
ウガラスノ樹林を抜けてキアシュ山脈の麓に来たアンジャリは、力の限りライオスを怒鳴りつけた。
「うるっせぇな! お前だってあんなチビ女に負けてんじゃねぇよ!」
「負けてないわよ!」
暗闇の中、はっきりとこちらを睨んできた操言士――紀更と呼ばれていた少女の生意気な瞳を思い出して、アンジャリは下唇を噛む。
闇の子の弟子であるらしい少女は、操言士になりたての未熟者のはずだ。その証拠に、戦闘中に操言士がすべき支援の手順に甘さが見て取れた。
「負けてただろうが! お前の操言の力であいつの妨害をしきれなかっただろ!」
アンジャリは、確かに紀更の操言の力を妨害した。しかし紀更はその妨害を超える量の力を使ってきたのだ。
「あ……あんただってあの娘に負けたんじゃないの!」
「はぁ?」
「エイルーで負けて、傷まで負ったのはあんたの方じゃない!」
「腕の傷は小娘じゃなくて黒髪の傭兵だ! あの野郎、次こそ絶対殺ってやる!」
ライオスは黒髪の傭兵ユルゲンの面を思い出して苦々しい表情を浮かべた。
傷は傭兵野郎にもらったものだが、二日前のエイルー付近での戦闘時、操言の力の攻防で紀更に押されたのは事実だ。アンジャリのことを言えた口ではない。
「あんたの力でも、完全に意表を突いて拘束はできたのよ? あのまま闇の子をウガラスノ樹林に連れ去れば完璧だったのに!」
「なあ、馬龍を呼ぼうぜ。できるならカギソもだ。あいつら、次はどこに移動するかわからねぇ。カルディッシュにいる間にもっと大人数で襲えばいい」
ライオスが雑な提案をする。
向こうは六人、こちらは二人。せめてもう少しこちらの人数を増やせば、護衛が多くとも闇の子である王黎を攫う隙は作れるはずだ。
「カギソは来ないわよ。闇神様に言われた任務がまだ終わってないんだから」
「ニドミーの練成か? それは順調なんだろ? あいつも少しは手を貸せっての」
「馬龍を呼ぶのは賛成よ。ローベルとかいう操言士もまあまあ使えるしね。ひとまず、あたしたちはこのままこの付近にいて、闇の子を見失わないようにするわよ。ライオス、あんたの鼻は使えるんだからしっかりしてよね」
アンジャリはそう言うと改具月石を手に持ち、操言の力を使うべく言葉を紡いだ。
◆◇◆◇◆
その東国道に面した一角に建つ診療所は、今夜の騒ぎでけがをした民や騎士、操言士たちを受け入れ、夜間だというのに非常に慌ただしかった。
「これは操言の力による身体への直接攻撃だな。相手が使った言葉はわかるか」
診療所の所長、伊佐久は操言士で、とても珍しい職業である操言医術師だった。ベッドに運び込まれた王黎を診るなり、伊佐久は付き添いの紀更たちの顔を順々にのぞき込んだ。
「全部ではないが少し憶えている。受けた攻撃は二回で、一回目に使われた言葉は〝拭えぬ砂塵〟、二回目は〝骨を拘束する〟だったと思う」
戦闘中に王黎の傍にいたエリックが、老翁の伊佐久に答えた。
ライオスによる操言の力の攻撃の影響は今もまだ王黎に残っており、王黎は目を開けられないし自分では指ひとつ動かせない状況だ。呼吸はできているのでかろうじて命はあるが話すこともできないので、外から容体をうかがうしか王黎の身体の状況を把握する術がない。
「砂塵と骨の拘束か。単純な言葉でよかったのぅ」
伊佐久は難しい声で呟くと、寝台に仰向けになっている王黎の膝と胸に両手を置き、深呼吸をひとつしてから言葉を紡いだ。
【汝を縛る敵意に満ちし言葉は、我が癒しの言葉と溶け合い、混じり合う。拭えぬ砂塵はより細かき粒子となり、無に帰さん。骨の拘束は解かれ、何者も汝を縛りはしない】
オリジーアにおける医術師という職業は、操言士と同じように若い頃から師匠に弟子入りして学び、人々の病気やけがを適切に治療する職業だ。都市部には必ず医術師が一人はいるものだが、医術師になるには多くの勉強と修練が必要とされており、決して人数の多い職業ではない。しかしその必要性から各都市部では引く手あまたであり、特に稼ぎの良い職業のひとつである。
カルディッシュには国が作ったのではなくカルディッシュという都市が独自に作った教育学校があるが、そこには医術を専門に学べるコースがあり、ほかの都市部に比べて医術師やその卵が多くいる。そんな医術師の中でも特に珍しいのが、操言士でありながら医術も習得した「操言医術師」だ。
(これが、操言の力を使った本格的な治療……)
慎重に操言の力を使う伊佐久の波動のゆらめきを、紀更は瞬きひとつせずに見守った。
操言ブローチの刻印のうち、タイプⅡは治療を得意とする者に与えられる。そのタイプⅡを与えられた者の中で、操言士としての学びのほかに本格的に医術を学び、操言の力を使う治療も使わない治療もその両方ができるようになった者だけが操言医術師と呼ばれるのだ。
普通の医術師としての知識を学び、治療術を習得しながらなおかつ操言士として操言の力の使い方も研鑽する操言医術師は、なるのが非常に困難な職種のひとつだ。途中で挫折し、操言医術師ではなく「治癒が得意な操言士」程度で満足する者も多い。
そんな操言医術師が最も必要とされる場面が、まさに今だった。
(操言の力で直接身体に攻撃された王黎師匠……そのダメージを回復するには、ライオスさんが使った操言の力の効果を完璧に消さないといけない)
伊佐久はまだ、集中しながら言葉を紡いでいる。
ライオスの放った言葉は短く、伊佐久の言うように簡単な言葉だった。しかしその効果を身体から完全に取り除くためにはその何倍もの言葉を使い、慎重に治癒をしなければならない。へたに効果が残っていると、あとでどんな影響が出るかわからないからだ。
紀更たちは固唾を呑んで、伊佐久の治療が終わるのを待った。
「さあ、終わりだ。ゆっくりと目を開けてごらん。ゆっくりだよ」
伊佐久が王黎に声をかける。王黎は言われたとおり、緩慢な動作で瞼を持ち上げた。
「見えるか?」
「はい」
「目の奥に痛みや違和感は?」
「ありません」
「よろしい。次に手の指から動かそうか。拳を握ったり、手のひらを開いたり……そうだ、ゆっくりだ。急ぐでないぞ」
伊佐久の指示に従い、王黎は両手のひらをゆっくりと動かす。自分の骨に異常がないか確かめているようだ。
「深呼吸をしてごらん。胸骨にも問題がなければ、呼吸が楽にできるはずだ」
王黎は仰向けのまま、深く呼吸をする。伊佐久の言うとおり、先ほどよりも胸は自然と上下に動いて空気を取り込んだ。
「大丈夫ならゆっくりと起き上がるんだ。ほれ、そこの騎士さん、ちょっと手を貸しなされ」
伊佐久がエリックを手招く。エリックは王黎の背中に左手を添えると、ゆっくりと王黎の身体を持ち上げた。
「うわあ……なんか全身がバキバキする。怖いですね」
「さっきまでほぼ全身の骨が動かせんかったからな。動かすのはくれぐれも慎重に、無理せずにだ。相手の操言士が未熟だったのか、全身の骨すべてが拘束されていたわけではない。運が良かったのぅ」
エリックに支えられて指、腕、足、首を少しずつ動かしていく王黎は、自分の身体なのに動かしてよいのかどうか、感覚が迷子になっていた。
「で、次に重症なのはそっちの騎士さんかいな」
伊佐久は治療室内の椅子にぐったりと座っているルーカスに近付いた。
キヴィネの電撃を食らったルーカスは、カルディッシュの操言士たちに抱えられてここまでやって来て、なんとか椅子に座っていられる程度には回復していた。しかしその全身はまだ、バチバチと弾けるような感覚に包まれていた。
「彼はキヴィネの電撃を食らいました」
「キヴィネか。即死はせんが、このダメージは早くても半日は残るな」
(半日……)
紀更は水の村レイトでのことを思い出す。あの時はユルゲンがキヴィネの電撃を食らい、やはりしばらくの間はダメージが残っていた。
ルーカスよりもユルゲンの身体の方が強靭なのか、それとも今夜出くわしたキヴィネの方がレイトに現れたキヴィネよりも強かったのか、ルーカスの方が重症には見える。
【全身にはびこる電の悪意よ、そなたは役目を終え、消え失せよ】
伊佐久が操言の力を使ってルーカスを治療する。操言士である紀更には、伊佐久が思い描くイメージと伊佐久の持つ操言の力の波動が見えるようにとらえられた。
「それから、そこのお嬢さんもか」
次に伊佐久は、紀更の隣に立っていた紅雷に顔を向けた。
「えっ、あたしは……」
「傷はふさがっているように見えるだろうが、せっかくだから少し治癒しておくよ」
ためらう紅雷の声を伊佐久は無視する。
ドサバトに攻撃された紅雷の脇腹は、服が割けて傷跡が見えていた。ふさがってはいるが周囲には乾いた血が付いているし、そこに傷を受けたことは明らかだ。
伊佐久は紅雷の傷口の下、裂傷した組織の再生をうながすようなイメージを思い描き、操言の力を使った。
紀更ではない操言士の力を受けることに、紅雷は抵抗があった。しかし皮膚の下に感じていたにぶい痛みや違和感が軽減され、恐れていたよりも伊佐久の操言の力が不快には感じなかったので、ほっと安堵する。
「ほかはかすり傷程度だな? 薬師に言って軟膏でももらっておくんだな。動けるなら全員、診療所は出ておくれな」
伊佐久はそう言うと隣の治療室に足を向けた。怪魔と戦って負傷し、治療がまだの騎士がそちらにいるらしい。
「じゃあ、宿に戻って今夜はもう休もうか。ユルゲンくん、宿まで手を貸してもらってもいいかな。一人で歩行するにはまだちょっと怖いんだ」
「ああ、お安い御用だ」
苦笑する王黎にユルゲンが手を貸す。同じようにエリックがルーカスの身体を支え、六人は宿に戻ってどうにか就寝するのだった。
◆◇◆◇◆
「馬鹿! あと少しだったのに!」
ウガラスノ樹林を抜けてキアシュ山脈の麓に来たアンジャリは、力の限りライオスを怒鳴りつけた。
「うるっせぇな! お前だってあんなチビ女に負けてんじゃねぇよ!」
「負けてないわよ!」
暗闇の中、はっきりとこちらを睨んできた操言士――紀更と呼ばれていた少女の生意気な瞳を思い出して、アンジャリは下唇を噛む。
闇の子の弟子であるらしい少女は、操言士になりたての未熟者のはずだ。その証拠に、戦闘中に操言士がすべき支援の手順に甘さが見て取れた。
「負けてただろうが! お前の操言の力であいつの妨害をしきれなかっただろ!」
アンジャリは、確かに紀更の操言の力を妨害した。しかし紀更はその妨害を超える量の力を使ってきたのだ。
「あ……あんただってあの娘に負けたんじゃないの!」
「はぁ?」
「エイルーで負けて、傷まで負ったのはあんたの方じゃない!」
「腕の傷は小娘じゃなくて黒髪の傭兵だ! あの野郎、次こそ絶対殺ってやる!」
ライオスは黒髪の傭兵ユルゲンの面を思い出して苦々しい表情を浮かべた。
傷は傭兵野郎にもらったものだが、二日前のエイルー付近での戦闘時、操言の力の攻防で紀更に押されたのは事実だ。アンジャリのことを言えた口ではない。
「あんたの力でも、完全に意表を突いて拘束はできたのよ? あのまま闇の子をウガラスノ樹林に連れ去れば完璧だったのに!」
「なあ、馬龍を呼ぼうぜ。できるならカギソもだ。あいつら、次はどこに移動するかわからねぇ。カルディッシュにいる間にもっと大人数で襲えばいい」
ライオスが雑な提案をする。
向こうは六人、こちらは二人。せめてもう少しこちらの人数を増やせば、護衛が多くとも闇の子である王黎を攫う隙は作れるはずだ。
「カギソは来ないわよ。闇神様に言われた任務がまだ終わってないんだから」
「ニドミーの練成か? それは順調なんだろ? あいつも少しは手を貸せっての」
「馬龍を呼ぶのは賛成よ。ローベルとかいう操言士もまあまあ使えるしね。ひとまず、あたしたちはこのままこの付近にいて、闇の子を見失わないようにするわよ。ライオス、あんたの鼻は使えるんだからしっかりしてよね」
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