落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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二章

救いの後で

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新年祭が終わり、父様が苦労して取った休みを利用して、ラクスの町へ旅行に出かけた。本当なら、今頃は父様が用意していたものを楽しんでいるはずだった。だけど、あの夜で、全てが変わった。

僕と母様が宿で寝ていた所を、盗賊に襲われた。

母様の傍で、ただ怖くて震えているしかなかった。そんな時、銀に光る髪が風を裂くように現れたのは、兄様だった。

冷たい冬の日差しの中、兄様の銀髪は氷を散らしたみたいに輝き、赤い瞳は怒りで燃えるみたいに強かった。いつも無表情で、どこか近寄りがたく見える兄様だったけど、その瞬間の兄様は、怖いほど頼もしかった。

そこから宿へと戻る時に龍の背から見た景色は、怖かったのも忘れそうになるくらいだった。その間、兄様も僕の様子を気にかけてくれ、その優しさは、夜、宿に戻ってからも変わらなかった。だから僕は、思い切って、ずっと胸の奥でつかえていたことを聞いた。

すると、ずっと「嫌われている」と思っていたけれど、それは勘違いで、兄様は父様みたいに優しいのに、それを上手く表現できない、ちょっと不器用な人なのだと知った。

その後も宿では色々とあったけれど、緊張の糸が一度切れたせいか、気づいたら眠ってしまっていたようだった。そして、目が覚めたら既に父様達も帰って来ており、今回の事件があってはもう旅行を続けられないと判断され、予定より早く王都の屋敷に帰ることになった。

帰りの馬車では、父様は母様と話があるとかで、僕は兄様と二人、向かい合って座っている。

兄様が僕を嫌っていないと知ってからは、2人きりになっても、以前のようにぎこちしくならず、普通に接することができるようになっていた。だから、ここへ来るまでの馬車の中でも、兄様とは今まで話せなかった分、いろいろな話をした。けれど、その途中で兄様は何度か外の様子をうかがい、馬車が揺れる原因になっている道を見ては、眉間にしわを寄せていた。

外は、昨夜から降り続いた大雪で、道という道が白く覆い隠されていた。ここ最近では見ないほどの大雪だという。

そのため、兄様の召喚獣であるイグニスが、積もった雪を溶かして馬車が通れる道を作ってくれていたらしいけど、溶けた雪でぬかるんだ地面は柔らかく、車輪が溝にはまったりして、それだけでも馬車の進みを遅らせてしまっていた。

けれど、王都へ近づくにつれて雪は少なくなり、ようやく道の状態もよくなってくると、その遅れでも取り戻すように、馬車は来た時とは倍の速度で進んでいた。それもあり、多少は揺れるけれど、先ほどではないので、気にはならない。

それよりも、まるで宿で起こった出来事が夢だったかのように、落ち着いた様子の兄様の方が、やはり気にかかる。だからこそ、しっかりと手袋がはめられた右手へと視線を落とす。

「兄様、本当に大丈夫?」

「またその話か。体調はいつも通りで、何も問題ない」

「でも……」

「今回みたいなことに、もう巻き込まれない……と言い切れればいいが、世の中、何が起こるか分からない。だから、その時に使える手段が増えた、と考えておけばいい」

父様が急遽用意してくれた手袋で隠しているとはいえ、兄様の声は淡々としていて、まるで他人事みたいだ。そんな様子に、僕は宿で見た光景を思い出していた。

あの時も、慌てふためく僕と違って、兄様は静かに、自分の右手を見つめていた。

「兄様は、何でそんなに冷静なんですか!?」

「慌てても状況は変わらない。契約紋で間違いないと思う。私の召喚獣の紋とも一致している」

落ち着きや判断力も、兄様は全部凄い。

「なら、何でこうなったか分かりますか!?」

「分からん」

知識もあり、冷静に判断もできる兄様ならと訪ねてみたが、一瞬で、胸の中が不安でいっぱいになった。

「え……」

「私の時も似たようなものだったが、前例がない以上、父上でも分からないかもしれん」

「そんな……」

「だが、体調に変化はない。それに、リュカに何かあった時、すぐに駆けつけられる。それだけでも十分な価値がある」

「いや、価値って……!これから、どうやって隠すんですか!?」

「常に手袋をすれば問題ない」

(父様もそうだけど、兄様も、どうして“問題ない”って言い切れるの!?)

冬はいいけど、夏に手袋してたら熱いし、絶対おかしい。問題しかないと、モヤモヤしている僕の前で、兄様は本当に、いつも通りだった。

僕が目を覚ました時には、兄様の方から説明をしてはくれていたようだけど、父様は兄様の体調を真剣に確かめながらも、やっぱり兄様と同じで落ち着いて姿勢を崩してなかった。その横で、母様だけが不安そうにしていたけれど、そのおかげで、少し冷静になれた自分もいた。

そんなこんなありつつも、僕達の帰り支度が整い、宿を出ると、アジトにいた盗賊達はすでに全員捕縛されていた。でも、ただ一人、尋問のために王都へ先に連行されることになった盗賊だけが、最後尾の貸し馬車に乗せられていたのみたいだった。けれど、なぜか、その一台の馬車のまわりを、大勢の冒険者さん達がぐるりと取り囲み、逃がすまいと鋭い視線で見張っていた。

(こういうのって、本来は衛兵の仕事なんじゃ……?)

そう思って、近くにいた怖くなさそうな冒険者さんに尋ねてみた。

「ラクスの!いえ!冒険者達みんなの名誉がかかっていますので!どうか、私達にやらせてください!!」

僕が聞いた途端、勢いよく頭を下げられてしまった。そして、周りの冒険者達まで一緒になって頭を下げてくるものだから、僕は何も言えなくなってしまった。その様子を見ていた父様達からも「気にしなくていい」と言われ、僕は結局、そのまま馬車に乗り込んだのだった。

「…本当に良かったのかな?冒険者の人達に任せちゃって」

「これ以上信頼を失って困るのは向こうだ。もし、ここで逃してしまえば、さらに冒険者ギルドの信用を失う。だからこそ、死んでも逃がさないだろう。それに、父上も彼等に何も言っていなかっただろう」

そう言われて思い出した。僕が冒険者達に頭を下げられていた時も、父様は彼等に声を掛ける事がなかった。冒険者の人達も、父様の顔色を伺っていたようだけど、それをどこか冷めた目で見ていた気がする。

「それより、もうすぐ王都だ。休まずここまで来たが、疲れていないか?」

「はい!大丈夫です!」

行く時はこまめな休憩を取っていたけれど、今日は一度も休憩を取らずに来たから、昼過ぎには屋敷に着けそうだ。

遅い朝食だったため、お腹は減っていないけれど、それでも早く帰って、家でゆっくりしたい。でも、兄様の右手が、帰ってからどう扱われるのか。その不安だけは、馬車と同様に、まだ僕の胸の中で揺れ続けていた。
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