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2大派閥のコマツナ。

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「キンバクソクバク、ムチウッテ、アァンモットォ、モットオォッ」
俺は叫んだ。これは受け男子同士にしか分からないあるあるである。

「アァン、イイシゲキィッ」
お相手の受け男ご夫人が返す。

「チョウキョウチョウキョウ、アァッサイコーッ」
そして俺も更に続ける。受け男子あるあるを。

「アッハンッ、ウッフン、イイシゲキィッ」
受け男ご夫人も受け男子あるある話にニッコニコ。

「アカローハクローポタポタジーンワリッカラノッアッツゥイシゲキガ、イイノォッ!」
「アァン、タッスルッタッスルッタッスゥルッ!!」
もう2人してノッリノリィっ!!


――――――こうして無事に国際会談が終わった。

「ありがとう、さすがユウェルちゃんね。ユウェルちゃんのお陰で今回のエスエム帝国との会談も上手くいったわ~」
「いえ、お力になれて何よりです。王妃さま」
会談の終了後、ことの成り行きを見守ってくれていた王妃さまが労ってくれた。王妃さまも俺と同じ受け男子。受け男子の悩みなんかも相談してきた仲である。その話が今回の会談でも役立った。

――――――ふぅ。それにしても、エスエム帝国の言語は特殊で、俺は特に上手だと評判であった。何故上手であったのか。それは前世日本人だったからだろうか。言葉の響きがちょっと日本語に近いんだよね。内容はともかく。だから俺が何歳の時から勉強を始め、しゃべれるようになったかはーーこの場では明言を控えさせていただこう。

「ふふっ、王妃、か」
「どうされたのです?王妃さま」
不意に王妃さまが哀愁を帯びた眼差しで微笑む。

「実はちょっとだけ、ユウェルちゃんにお母さまって呼んでもらうの、夢だったの」
「そう、だったんですか」

「でもあのクソ息子のせいで台無し」
いや王妃さま。王妃さまともあろうお方が《バカ息子》ならともかくクソ息子って。

「でも、呼んでもいいのよ?シェルもギリ息子でもイケる年齢じゃない?」
いや、シェルは陛下と歳が離れているとはいえ、王妃さまの年齢的にシェルは息子じゃギリいけませんけど。

「ほら、お母さまって」
俺は王弟であるシェルの嫁なのだし、本来王妃さまは義兄になるのだけど。でも幼い頃より王妃さまは母親代わりでもあったのだ。

「お、お母さま」
「きゃっ!!ユウェルちゃんっ!私の息子ぉっ!」
「こ、光栄です」
王妃さまことお母さまにぎゅむーされたその時だった。

「義兄上、私の許可なくユウェルとぎゅむーするなんて、何てことをっ!」
うちの嫉妬大魔神キタァ――――――ッ!

「ずるいぞ、私だってにぃにと呼ばれたいっ!」
そしてうちの旦那さまより重症な、いやこの兄あってのシェルだなと言う陛下まで来たナウ。

つか陛下。シェルだけじゃなくて俺にもにぃに呼びしてほしいの?

「シェルちゃんは私のかわいい息子同然!こんなに小さな頃から見てきた子よ!」
王妃さまが親指と人差し指でパチンと音を鳴らす。いやそのパチンな頃からってどゆこと!?普通に6歳児でしたけどぉっ!?

「あなたは公務ばかりでユウェルちゃんのことそんなに見てなかったじゃない!」
まぁ、俺の教育担当は王妃さまだったからな。陛下は陛下で公務があっただろうし。

「だからユウェルちゃんにままんって呼ばれる権利は私にあるの!」
いや、お母さまじゃなかったのぉっ!?いつの間にかままんになってるよぉっ!?この流れだと俺もままんて呼ばなきゃいけない気がしてくる王妃さまの魔力ーっ!!
(※この世界には魔法がありますが、魔法の力とは関係ありません。魔法のない世界にも存在する方の魔力です)

「だからあなたがにぃにと呼ばれる権利はないのよ!」
「ぐっ、そんなぁっ!!」
陛下が崩れ落ちる。そんなにショックだったのか?陛下。そしてささっと歩み寄るシスコン公爵こと近衛騎士隊長。

因みに正式な名称は近衛騎士団第1隊長だ。めんどいし、第1隊長は近衛騎士団の代表、トップみたいなものだから、近衛騎士隊長と記そう。みんなそう呼ぶしね。

そして、シスコン公爵と王妃さまの目が、合った。

「そのっ」
王妃さまサイドから、シスコン公爵とのコンタクトを取れなかったのには理由がある。実は王妃さまの実家の侯爵家とシスコン公爵のルベライト公爵家は派閥が違う。

更に陛下の妃の座を巡りシスコン公爵の弟と王妃さまが激しく争っていたこともあり、この二家、めちゃくちゃ仲が悪かった。
そもそもの発端は王妃の座を争うことよりもずっとずっと前から、もう建国史に遡るほどである。

だから俺がプレナイト公爵家で酷使されている間、俺は王妃さまに、ルベライト公爵から良く思われていないことを相談していた。
王妃さまはルベライト公爵家は嫌いだけども、俺の母上だけは大好きだったから俺によくしてくれたし、母が亡くなった後何もしてくれなかったルベライト公爵に怒りをあらわにしていた。

実際はプレナイト前公爵の策略でお互い思い違いをしていたわけだが。

しかしながら、そんなに関係が悪いのにシスコン公爵が近衛騎士隊長だなんて。陛下との信頼関係の為せる出世だと言えよう。

あと、王妃さまの専属護衛隊は第2近衛騎士隊なので、護衛に影響はない。

ただこの2人、目を合わせる度にピリピリするのだ。

「王妃殿下」
「えぇ、分かってる。ルベライト公爵」
そんな仲の悪い2人がいきなりどうしたんだ!?

「今回のことは私たちの確執で上手くコマツナができていなかったのが原因よ」
ホウレンソウじゃないの?そこコマツナなの?

「コこであったが百年目
マなこが合った瞬間
ツァードリフの丘で
ナぐりあおう
……素晴らしい格言が聞けたな」
と、シェル。いやどこがぁ!?なんか2つの大派閥の積年の怨みつらみ満載の果たし状みたいに聞こえんの俺だけかな!?

「これからはユウェルちゃんのために、仲良くしましょう、コマツナ」
「えぇ、ユウェルのために、コマツナ」
長らく続いた大派閥の和解が為されたその瞬間、王城内で拍手が巻き起こった。

――――――この2人、お互いに殴り合おうって言ってるけどな。

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