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祭りの夜。

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「こ、ここは、何だ」

「いや、馬小屋だろ」

「見たら分かるわぁっ!」
さすがはプロの馬。バーベキューは知らなかったが平民が使う馬小屋は判別できたか。

「何故、私はここに案内されているんだ」
バーベキュー大会が落ち着き、本日の祭りはお開きになったので、無事に磔台から解放されたアップフェルは、パンイチのまま、男衆たちに馬小屋に連れて来られていた。

「え?ここが今晩のアップフェルの宿だから」
「馬小屋宿なんて初耳なんだがっ!?」

「アップフェル……」
そんなアップフェルに、ヴィーノが声を掛ける。ヴィーノは一皮剥けたらイイコに成長したなぁー。

「お金がないときはね?馬小屋に住んで寝起きするなんて基本だよ?旅で金がない時も馬小屋、金があってもぼくは馬小屋、町に住んでいても、お家賃が払えなかったら馬小屋で夜を明かすの……」
うぐおぉぉっ!だからこのコどんな子ども時代過ごしてんだよっ!

そう言えば、公爵家に来る前は前住んでたとこから旅をしてきたんだよな?
その道中、馬小屋に泊まっていたんだろうか。

しかも、ヴィーノだけ馬小屋って……。一緒に旅をしてきたはずのヴーヴァだけ腰を振って温かい屋内にうふんあはんしながら泊まってたんだろか。

もうその頃の闇が滲み出てる!だって目がぁっ!目が深淵を宿しているぅっ!今まできゅるんきゅるん輝いていた目のハイライト消え失せてるよっ!

あまりの静寂の深淵の瞳に、アップフェルも思わず口を閉じて固まった。

「もちろん馬はいないよ。中で騒いで馬たちのストレスになったら困るし」
俺たちが乗ってきた馬車の馬たちも、別の静かに休める馬小屋で過ごしている。

「ここは磔体験中の領主用の特別馬小屋だから」
前領主をぶちこめなかったから、みんな鬱憤たまってるに違いない。今回はアップフェルを磔にできてみんな満足げだ。

あと、思いがけず前領主を磔火炙りにできたものだからみんな今回の祭りには大満足。

そしてこの馬小屋も使える。

「あぁ、水くらいは置いといてやるから、喉渇いたら、飲めよ?」
そう言って、男衆のひとりが馬用の水桶を置いてくれた。もちろん、コップなどない。プロの馬なのだから、これでも問題なく飲めるだろ。

「あの、ご飯は?」

「は?あるわけないでしょ」

「何故!?」

「いやだって。磔体験中なんだから。磔にあった領主がメシなんてもらえるわけないじゃん」

「そん、なぁっ」
馬小屋の中で膝から崩れ落ちるアップフェル。

「本当なら3日3晩磔台なところを夜だけ下ろしてもらえて、さらに水までもらえるんだから、感謝しなよ」

「いや、まぁ、それはそうだが理不尽すぎないか?」
「理不尽?じゃぁ子どものころのぼくも理不尽?ぼくにとっては馬小屋が日常だったんだぁ……」
「ひっ」
しかし、再びヴィーノの闇を覗いてしまったアップフェルが、固まった。

「それじゃ、朝まで大人しくしてろよ?あと、抜け出そうもんなら、領主狩り、磔プラス1日ボーナスの上に……」
「それはボーナスと言えるのか?なぁ?」
アップフェルが何かもごもご言っているが、大切なのは……

「足元キャンプファイアーにするから」

「ひぎぁあぁあぁっ!火炙りにされるうぅぅ――――――っ!!?」
隣で火炙りにされるレザンを見ていたからか、その恐怖が一気に押し寄せたらしい。

「だから、逃げないで大人しくしてればいいんだって」

「……うん」
項垂れるアップフェル。

「んじゃ、朝まで元気でな」
そう言って、扉を閉めて……ヴィーノが男衆に手伝ってもらいながら、がチャリと馬小屋の鍵をかける。

「懐かしいの……昔、朝まで馬小屋から出てくるなって、あのババア……」
それ、ウーヴァのことか?てか、子どもに何つーことしたんだあのババア。

十中八九自分のうっふんあっあんのためだろう。やっぱクズだなあのババア。

「まぁ、気を落とすなって。明日の朝もまた、楽しいイベントがあるからさ」
「うんっ、お義兄さま!」
ヴィーノがぱあぁっと顔を輝かせる。あぁ、ヴィーノも楽しみなのか。明日はもっと楽しいことになりそうだな~。

今夜は領主邸ーー今はカレイル一家やその部下、使用人たちが暮らす邸へお邪魔する。もちろん俺が来たときは毎年歓待してくれたなぁ。今回も里帰りだと喜んでもらえた。

俺とシェルたんは一番広い部屋だという寝室に案内された。本来は公爵夫婦の部屋だが。前領主夫婦は一度も訪れたことがないので未使用な上にすっかり模様替えも済んでいるようである。

「ヴィーノ、ここ使わなくていいの?」
現在は、夫人であるヴィーノの部屋だ。

「いいのっ!お義兄さまと師匠には一番大きなお部屋を使って欲しいから!ぼくはお義兄さまが使ってたお部屋を使うね」
あぁ、子息用の部屋ね。レザンとウーヴァがここに来なかったので、もちろんヴィーノも訪れたことがない。だからその部屋は俺に提供された。夫婦の部屋はさすがに遠慮したけどねー。

「なぬっ、ユウェルたんの部屋、だと!?」
ここまで俺に引っ付いてイイコにしていたシェルたんがいきなり声を上げる。

「ユウェルたんの部屋は、私のものだぁぁっ!!」
あぁ、俺の部屋があると知れたら、シェルたんがモノにしたくなるのは当然だった。

「俺はいつもの部屋で。ヴィーノがここ使って?」
「ひゃうっ!師匠の真意を見抜けなかった……っ!うん、ぼく、ここを使うねっ!」
いやー、シェルたんの真意見抜くのは難しいからなぁ。慣れると俺のことしか考えてないこで分かりやすけど。

そんなこんなで、ヴィーノは夫夫の部屋で、俺とシェルたんは子息用の部屋で眠ることになった。
因みにその部屋は、俺とシェルたん用として今後も保存しといてくれるらしかった。

来年の磔祭りも、是非ここに泊まらせても~らぉっ!



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