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ままんのために

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――――ままんとの初めての、朝。
本当にこのひとが……俺のマミーなんだよね。寝顔は強面ではない。
いや、たまに眉間にシワがよる。

恐い夢見てるわけじゃ……ないよね……?
「ばぶ……?」

「ばぶ……ちゃん」
ドキッ。寝言……だけど、それって俺のことだよね……?

「好きいいぃぃい――――――――っ!」
ひぇ――――――っ!?めちゃバリトンボイスでも好きいいぃぃいっ!!!

「は……っ、朝か。夢の中で何か叫んだ気がしたのだが」
うん……?まぁ確かに、現実でも叫んでいたけれど。

「腕の中にばぶちゃんがいると言うのは、やはり嬉しいな」
マミーが優しく微笑む。
「ばぶ……マミー……」
ついつい、そんな言葉が漏れていて……。

「今日もたーんと可愛がるからな……!」
「……っ!ばぶっ」
何だかとてつもなく嬉しいような。やはり俺もばぶなのだろう。
マミーがどうしようもなく好きなのだ。

そしてマミーにお着替えをしてもらっていれば。

「今日は事務所にも行くが、昼は戻ってくるからな、ばぶちゃん」
その事務所って明らかに危ない事務所だよね……っ!?

「ばぶ……っ、ばぶぶば……っ!?」

「寂しいのか……?そう、だよな。済まねぇ……なるだけ最速で片してくっからよぉ……?」
「ばぶ――――っ!?」
マミー、史上最悪の凶悪顔~~~~っ!しかしその恐怖の笑みも、俺のため……なんだもんね……?

「ばぶ、マミー、ばぶ」
大丈夫だよ。俺、マミーのこと、待てる。

「ばぶちゃん……っ。けなげなとこも、すごくかわいい……っ」
マミーがぎゅむと抱き締めてくれる。

「ばぶ~~っ」
しかしマミーの匂いは……落ち着く。

そしてマミーにあーんされながら朝食を済ませれば、マミーがくわっと顔の影を濃くする。相変わらずの強面だけど……でも、それがまた、心地よくなっている不思議。

「すぐ帰ってくるからな……!家の中は好きに出歩いていいし、ばぶルームも好きに過ごしていい。あぁ……あと、これを」
マミーが手渡してくれたのは……マミーの上着……っ!?
黒い上質な生地の背広……。

「ばぶ」
マミーの匂いの付いた衣服ってことだよな!?ばぶは自分のマミーの匂いの付いたものにとても落ち着くのだ。
マミーったら、俺のために……。

「ばぶ、マミー、ばぶ」
嬉しいなぁ。

「マミー」
「行ってくる」

「ばぶ」
うん、行ってらっしゃい。

※※※

マミーには好きに過ごしていいと言われたが……好き勝手にアブナイお家を歩き回るわけにも行かず、ばぶルームでパソコンを叩いていた。

「ばぶ」
そう言えば……飲み物。
何かもらいにいかなくては……。意志疎通をはかるためにスマホも持って、あとマミーの背広を羽織る。やっぱりマミーの背広……おっきいけど、マミーに包まれているようで落ち着くなぁ。

恐る恐るばぶルームを出て、水を求めて屋敷の探索に繰り出す。

出会うひとが優しいひとだといいのだけど……。

その時、廊下の先から話し声が響いてくる。何だろう……?

『受けだろう』
……ん?

『若は受けだって』
『だよなぁ?受けに決まってるから』
若……って……マミーのことだよな……!?

受け……マミーが……受け。
そう……だよね……?マミーは須く受けなのだ。やっぱり、攻めのままんなんて、いるはずがなかったのだ。

せっかく運命のままんと出会ったのに……どちらも受けだったなんて……。
あぁ……人生ってどうしてこうも……残酷なのだ。

そしてマミーが受けだったなら……。俺たちは結ばれるわけにはいかない。マミーには……攻めのばぶが必要だ。

「……ばぶ……」
さようなら。

ぐっと涙を呑み込み、スーツケースにパソコンや私物を詰め込み、屋敷を後にする。玄関までの間取りは記憶してるから、玄関にも容易に辿り着けた。こんな時にまでばぶの優秀さが役立つなんてな……。

先日のお出迎えのように、人がそんなに集まっているわけではなかった。

「おい、あれ若の……」
すれ違った恐い顔のお兄さんが呟くのが聞こえたが……俺は気にせず屋敷を飛び出した。

これからどこへ行けば……。
会社に行けば治田部長がいるはずだから……助けを求めよう。ばぶ期休暇とった直後だけど、付き添ってもらえば病院へ行って抑制剤ももらえる。そして事情を話せばいい。

会社に向けて河川敷を進みながらも、思い浮かぶのはマミーの顔。

いや……もう忘れるんだ!俺とマミー……いや……長流ながるさんは決して結ばれない運命なのだ。

「おい、見つけたぞ!」
え、見つかった!?もしかして長流ながるさんの家の……と、思ったのだが、ガラの悪い連中の中心にいた人物に目を見開いた。

「ばぶ……っ」
彼は……続木つづきミカドだ……!相変わらずかわいらしい顔立ちをしているが、治田部長に気がある素振り丸出しな上に、治田部長の見えないところで俺に陰湿な嫌がらせをする。その上実家の財力権力使って、家まで奪った張本人が……何故まだ俺に用があるんだよ。

「あっははっ!本当にばぶになってる!ばぶしかしゃべれないでやんの!」
ミカドが嗤うが……それはお前の敬愛する治田部長もばぶ期にはこうなるぞ、と教えてやりたい。

因みにミカドはばぶではもちろんないし、ままんでもない。
ばぶと結ばれる運命のままんに対してもそうだが……ばぶトモ同士仲の良い俺にまで敵意を向けてくるのだ。俺が……受けばぶだから。攻めばぶの治田部長と何かかるとでも思っているのか……?あるわけないじゃないか。治田部長はばぶに理解のあるばぶ同士ってだけである。

「どうせ治田部長に匿われて、治田部長とイイコトしてたんだろ!?」
「ばぶ!?」
んなわけないじゃん!俺は長流ながるままんのところにいたし……そもそも治田部長は自分のままんと同棲しているはずだが……。

治田部長のハートを射止めるために家のコネまで使って秘書になったのに……知らないのか?
まぁ、それで治田部長のままんに手をだしたら、治田部長も大激怒だろうが。
むしろままんに手を出したとあっては、ミカドもミカドの実家も、世のばぶたちに袋叩きに遭うだろう。

ままんに手を出すやからは、ばぶの敵なのだ……!
しかし、ばぶ相手に喧嘩を売るやからまでいるなんて……。

「今度こそお前を……っ、売り飛ばしてやる!」
ほんっとに人身売買とか……嗤えないぞ。いくら治田部長に恋い焦がれているからって……っ。

「かかれ!」
ミカドが命じると、ガラの悪い連中が一斉にこちらに襲い掛かってくる。こいつら全員相手にするなんていけるか……っ!?

いや、待って……。ここで拳を振るったら、マミーの背広が肩から落ちちゃうううぅぅ――――っ!ばぶーっ!せめて腕を通し……と、思ったその時だった。

「おんどりゃぁ――――――――っ!俺のばぶちゃんに何してやがるううぅぅ――――――――っ!」
髪をオールバックにキメた長流ながるマミーが一気に男たちをなぎ払う……!ほんと……俺のマミー強すぎ……っ!あ……でももう俺のマミーじゃない……。

「ばぶぅ……」
悲しげに漏らしつつも、次の瞬間には、長流ながるマミーの優しい腕の中に包まれる。

「まみー……」
ついついそう漏らしてしまう。

「ばぶ……っ」
涙が滲むのは何故だろう。こうしてマミーが助けに来てくれても、俺はマミーと決して結ばれない仲だからだろうか……?

「もう大丈夫だ、俺のばぶちゃん」
「ばぶっ、マミー、ばぶぅっ!」
でも俺は、マミーのばぶちゃんにはなれないんだ……。悲しみの中でもマミーと呼んでしまう……。ばぶの宿命は残酷だ。

「な……何なんだよ、お前っ!」
そんな中でも響く不協和音のようなミカドの声。

「何だ……だと?」
マミーがすごみ、ミカドがひゅんと喉を鳴らす。

月人つきとばぶちゃんの長流ながるマミーに決まってるだろぉがっ!!!」
俺の……名前……っ!マミー、いつの間に知ってたの……?

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