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第3章 兄さまと学園生活

卒業パーティー

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――――遂に訪れた卒業パーティーの日。
俺は無事に学園を卒業した兄さまのパートナーを務める。ルーセルさんにも婚約者ができたそうで、婚約者の女性と共に来ていた。

「あ、ヴィンちゃんは初めてだよねー。婚約者のスノウなよ~~」
「初めまして。ヴィンセント・ヴェートゥルさま」
優雅に挨拶をしてくれたのは、銀色の流れるような髪にたれ目がちなスカイブルーの瞳を持つご令嬢だ。二人とも瞳が同じスカイブルーなので、お互いスカイブルーのスーツとドレスを身に纏っている。

「スノウは1歳年上で、俺の卒業と共に籍入れる予定~~」
姐さん女房ってことか。何だか頼りになりそうな女性で安心である。

「はい。隣国より嫁ぐ予定の第2王女・スノウ・グレイシャールと申します。どうぞスノウとお呼びください」
――――え、王女!?ルーセルさんったらめっちゃ軽いノリで紹介してるけど、お、王女さま!?

「お、俺もヴィンでいいです」
「はい、ヴィンさま。お話の通りとてもかわいらしいお方ですね」

「あぁ、俺の婚約者だ」
「あらあら」
何故か兄さまがスノウ姫に対抗心を燃やしているのか俺を抱き寄せて主張してきた。そんな兄さまをスノウ姫は和やかに見守っている。なんか、転生して初めてまともな王女さまに出会ったかもっ!仕方がない。ウチの国の王女はひとりしかいないから。

「本当に仲がよろしいのね」
「でしょ~~?んもぅ、シアったら嫉妬深いんだよ~~」

「普通だ」
と、豪語する兄さま。

「ヴィンちゃんの愛称を呼んだくらいで嫉妬するんだよ~~」
それは確かにそうかも。

「貴様だって……」
そう言いかけて兄さまが固まる。確かに、スノウ姫の愛称って?

「ん~~、スノウはスーでどう?」
「あら、いいかも。ルーさまっ♪」
兄さまのヤキモチのおかげで、ルーセルさんたちカップルの愛称が決まったようだ。

「兄さまったら」
そんな兄さまに苦笑していると、兄さまはきょとんと俺を見つめていた。

「ほら、今日は兄さまたちの卒業を祝う日なんだから」
「そうねぇ。美味しそうなフリューリング料理がいっぱいだわ」
スノウ姫も豪華な料理に目移りしているようだ。

「――――良かったな。気が合って」
「……へっ!?」
兄さま、それはスノウ姫が食い意地が張っているって言う意味では!?

「あらあら、バレちゃったわね」
と、悪戯っぽく微笑むスノウ姫はとてもかわいらしい王女さまで。スノウ姫に和んでいれば。

「シアさまっ!」
招かれざる客……否、王女が来てしまったぁ―――っ!

「す、すんません」
ウチの国の王女が。そう、スノウ姫を見れば。

「あらあら、いいのよ。面白くなりそう」
やっぱ悪戯っぽいひとだこのひと!ルーセルさんとめっちゃ気が合いそう!本当にいいカップルである。

「シアさま!」
兄さまが思わず渋面を作る。

「それは誰のことでしょうか、王女殿下」
兄さまはスノウ姫と話していた俺の腕を引き寄せて、ぴたりと兄さまの身体に引き寄せる。

「シアさまはシアさまです!」
何だろう。王女殿下は【シアさま】と言う架空の人物に兄さまを当てはめているように思える。かつて王女殿下が兄さま自身を否定したことは忘れることなどできない。

「王女殿下は1年生のはず。ここは卒業生のための卒業パーティーの場ですが」

「そこの情夫だって来ているではないですか!」
そう言って、王女殿下が俺を指さす。その瞬間、兄さまの足元から冷気が巻き上がった気がした。

「それに、シアさまのパートナーにはわたくしが相応しいのですわ。ですからこうしてっ」
「出て行け。俺の婚約者を貶す輩は、この場には不釣り合いだ」

「ですが、わたくしは王族で、王族がパーティーを祝いに来るのはおめでたいことです!」
「王族なら、スノウ姫がおられるので結構です」
確かに。隣国のプリンセスだし、ルーセルさんの公式なパートナーでもある。

「そうですわ、うふふふふっ」
兄さまの言葉に相槌を打つスノウ姫の笑顔が恐い気がした。

「い、いえ、わたくしはシアさまの妻になるのです!」
え?

「ふざけるな。俺の婚約者のヴィンを侮辱する気か。俺のつまになるのはヴィン、ただひとりだ」

「いえ、わたくしです!それにそのヴィンセントは、お兄さまの妻になるのですわ!」
は?王女殿下のお兄さま=王太子殿下は結婚してるぞ?何言ってんの?

「お兄さまはかねてより、ヴィンセントが前世からの魂で結ばれた運命の相手だと仰っておりましたわ!今は隣国の学園に留学中ですが、卒業すれば帰国され、ヴィンセントと結ばれるのだと!」
え、隣国?留学?――――ってまさかその“お兄さま”ってすっかり忘れていた第2王子!?

「いや、マジで意味わかんない。俺は兄さまの嫁だし」
「そうだ。そんなアホなシナリオは永遠に来ない」

「で、ですけどお兄さまがっ」
それでもあきらめないローズリーゼ王女殿下の言葉を遮るように凛とした声が響く。

「ローズリーゼ。ここで何をしている」
現れたのは、淡い金色にエメラルドグリーンの瞳を持ったすらりとした青年で、その隣にはスイートブラウンの髪にピンクゴールドの瞳を持つ美女が並んでいる。

「お前は今日この場に招かれてはいないはずだ」
「ジュードお兄さま!?」
ローズリーゼ王女殿下のその言葉で、淡い金髪の青年が誰だかわかった。実際に見たことはなかったけれど、その名前は知っている。ジュード・フリューリング王太子殿下。そして隣は恐らくコーラル・フリューリング王太子妃殿下だ。

「その上、国を守る礎である魔法師団長のご子息たちになんて失礼なことを」
「いえ、だけど。シアさまはわたくしのっ!」

「それはシアのことかな?シアの婚約者はそこのヴィンセントくんであり、それは我が父上も認めている。お前は国王である父上の決定に意見すると言うことか?」
「いえ、そんな、ことは」

「それに、お前が言っているミシェルのことだが。ミシェルは一生、このフリューリング王国に戻ってくることはない」

「えっ!?」
寝耳に水だったのか、王女殿下が呆然としていた。

「全く。今年は騎士団長のご子息と魔法師団長のご子息が参加する卒業パーティーだからと呼ばれて来たものの、こんな醜態を見せつけられるとは全く思わなかったよ。ローズリーゼ」
そう、王太子殿下が冷静に告げつつも、エメラルドグリーンの双眸の奥には仄かな怒りが見て取れる。やれやれ。弟妹2人が残念系なら、きっとこのひとの苦労も相当なものだろうなぁと、ちょっとばかり同情してしまう。

「まず、お前の兄であるミシェルについてだが」
自分の弟だと言わない辺り、何だか棘があるなぁ。

「1年前より隣国グレイシャール王国へ留学並びに花嫁修業に赴いている」
え、花嫁修業!?あのひと、留学だけじゃなくって花嫁修業してたの!?

「そして卒業と共に、グレイシャール王国王太子殿下の側妃となる」

「(因みに、グレイシャール王国の王族は一夫多妻。多夫でも可能なのです。兄さまには正妻と、他に2人の男の側妃がおりますのよ)」
スノウ姫がこっそり教えてくれた。うわぁ、隣国すごっ。王族の配偶者がたくさんいるのは知っていたけども。ついでに兄妹も多いんだっけ?隣のお国の王太子殿下も結構すごいなぁ。やっぱり、側妃相手でも掘る側なんだろうか。……いや、そこは別にいいか。何か兄さまからめっちゃ視線を感じたし。

「以降、一切我が国への入国はできない」
つまり、一生祖国へ帰ることができないってこと?

「な、何故ですっ!?」
ローズリーゼ王女殿下は驚愕しながら王太子殿下を見上げる。

「当然のことをあれはしたのだ。それすらも理解できていないとは。我が妹であることが恥ずかしくてならないよ。ローズリーゼ」

「……な、な、なっ。でも!お兄さまはわたくしを応援してくださいました! わたくしの運命のお方について」
そう言って、ローズリーゼが頬を赤らめ、兄さまをちらりと見やるが。兄さまは威圧を込めた双眸でぎろりと睨む。

「ひっ。どうして、どうしてそんな目を。あぁ、わかりましたわ!ヴィンセント・ヴェートゥル!おまえがシアさまを狂わせてっ!」

「俺は、俺だ。俺以外の何者でもない。貴様が俺に対してどんな幻想を抱いているかは知らんが、紛れもなく、これが俺であり、俺はヴィンだけを愛する」
そう言う兄さまの周囲には冷気が立ち込める。しかし、不思議と俺が寒くなることはなく、兄さまの魔力は不思議と温かかった。

「いや―――っ!!こんなのわたくしのシアさまじゃないわああぁぁぁ―――っっ!!!」
ローズリーゼ王女殿下の金切り声が響き渡る。

「ローズリーゼを連れて行きなさい。彼女はこのパーティーへの参加資格を持たない」
そう、王太子殿下が告げれば、女性の騎士たちがずるずるとローズリーゼ王女殿下を会場の外へと連れ出していく。その間も彼女の金切り声が響き渡り、パーティー会場の扉が閉まって暫く経つと、パーティー会場が静けさで包まれた。

「さて、王立学園の栄えある卒業生たち。此度は王族の末席が大変失礼した。だが、君たちの新たな門出を祝いたい気持ちに変わりはない。どうかパーティーを楽しんでくれ」
そう、王太子殿下が仕切り直せば、みな躊躇いがちではあるものの、会話や食事を再開し始める。

「君たちには、重ね重ねすまないね。公爵には私からも話を付けておこう」

「お心遣い、感謝いたします。王太子殿下」
兄さまが淡々と答える。そこには嫌悪も好意もない。少しピリピリしてしまうのは、仕方がないよね。

「一時はどうなることかと思ったぁ~~」
けれど朗らかに笑うルーセルさんに、場の空気が一気に和むのがわかった。
「あらあら、ご自身の兄君のことなのに、ご存じなかったのね」
そうスノウ姫が続け、苦笑を漏らす。それに王太子殿下が困ったように笑んだ。

「度々、それは教え込んだはずだったのだが。あの子は妄想をやめられなかったらしい。せっかくの祝いの場なのに、すまないね」

「いえいえ、なんか面白かったしいいっすよ~~」
と、ルーセルさん。相変わらずだなぁ。兄さまはむすっとしてるけどー。

「そうだ。我が王国ではありませんが、妄想好きな方でしたら、いい伝手があるのですよ?同じ妄想好き仲間として、とても気が合うと思いますの」
そう言って、スノウ姫が微笑む。

「それは興味深そうだ。後程お伺いしてもいいかな?」
「えぇ、もちろんですわ」
その時は、スノウ姫と王太子殿下の会話の真意は分からなかったのだが。

後日聞いた話だと、ローズリーゼ王女殿下は学園を中退し、グレイシャール王国とは別の隣国の王族に嫁がされたらしい。何でも、特殊な妄想趣味を持つらしく、きっと気が合うと王室のみなが大賛成したのだとか。
――――いや、特殊な妄想趣味って何だよ。でも、詳しくはツッコまない方がいいような気がした。
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