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人界編
答えを探す旅
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突如訪れた福音。大陸戦争の終結は、世界に衝撃を与えた。あるものは、家族との再会、己のせいに歓喜し、あるものは煮えたぎる復讐心を未だに抱え、あるものは英霊となった家族、恋人の死を嘆いた。戦争は両軍の損害大により一時停戦という形で小休止を迎え、しばらくの安寧を人々にもたらした。
王は長きに渡る大陸戦争から帰還した兵士たちに激励の言葉を送った。
「戦争は一時停戦を迎えた。生き残った諸君らの誉れある戦いぶりを称賛する。だが、まだ粛清が終わったわけではない。我ら人間に愚かにもまだ反撃の狼煙をあげようと足掻く者たちがいる。それら全てを徹底的に滅ぼすまで、我々の戦いは止まらない。しばしの安寧の後、また戦争は起こる。その時にも、そなたら英兵の力を借りる。人間が世界に君臨するために!諸君らの鉄血を捧げよ!」
周りの兵士たちは、その言葉に奮いあがった。まるで昨日までの戦争の恐怖を忘れてしまったかのようだ。彼らの恐怖も、王の演説の前では藻屑というわけか…
「残酷な仕打ちだな…」
ユリウスは静かに呟いた。この暴走は必ず止めなくては、改めて心に誓うのであった。
王城からしばらく先の小道でエクセラと合流する。
「どうだったの?王の言葉は。」
「恐ろしいものさ。戦争で死んだ兵士たちは数多くいた。その事実を巧妙に無視して、生き残った兵士たちをまた死地へ駆り立てようとする。こんなことがあるから、戦争も人間の傲慢も、終わることがないのかもしれないな。」
思うことは全て言った。王の間違い、そして狂気に走る人間たちの姿も。
「そう…復讐って、こうも恐ろしいのね…」
エクセラの目は明らかに恐怖を帯びていた。誇り高きドラゴニュートの血を引く彼女ですら、人間の狂気は恐怖の対象であるようだ。
「ただそれは私たちも同じ。多くの同胞が死んだから、また人間たちを滅ぼそうとしているわ…憎しみの連鎖の中にいる。このままじゃ、戦争は終わらないわ。本当に最後の1人まで血を流さなくてはならなくなる。」
彼女は続けて言った。そうだ、終わらないのだ。どちらかが止めなくてはならない。ただもう、誰にも止められない。世界の終末の仮の姿とも言えるような事態に今、人間も人外も立たされている。
「止めなくちゃいけない。もしかしたら父はその答えを持っているかもしれないんです。父はかつて私に言ったんです。世界を救うための鍵を探すと。もしかしたら今も父はそれを探して、世界を旅し続けているのかもしれない。」
エクセラは力強く言った。彼女の父が探す、
鍵。それがわかれば、この事態も止まるのだろうか。
「それなら、なおのこと君のお父さんを探さなくてはね。」
「でも、貴方には軍役があるはず。この戦争でさらに位が上がったそうじゃない。そんな貴方が私1人のために、軍を捨てるなんて、申し訳ないわ…」
彼女が下を向く。ただ、俺に迷いはない。
「実は、軍の役職を一時的に停止してもらった。つまり今俺は軍人ではあるが、戦争に出なくても、国内を警備しなくてもいい自由の身なんだ。だから今なら君のお父さんを探す旅に付き合える。
それに、今はなんとなく、軍にいたくないんだ。俺に、あの集団と仲良くやっていく自信がない。」
軍役を解除してもらったことを彼女に伝える。驚いたような表情を浮かべる彼女は、
「本当に大丈夫なの?いざという時に、あなたほどの戦力がいないなんて…」
と、俺のいない軍も案じていた。
「本当に大丈夫だ。俺は確かに自由だよ。今の俺にとっては、君のお父さんにあって、真実に迫る方が重要だ。軍の方はいざとなったらどうとでもするさ。」
俺は彼女の目を見て言った。すると彼女も了承したらしく、黙ってうなづいた。その目はまっすぐこちらを見据えていた。
「ところで、これからどこへ向かおうか。君のお父さんがどこへ行ったか検討は、付いているか?」
空気を変えるため、俺はエクセラに言った。父親を探すと言っても、世界全てを歩き回るわけにはいかないと、俺は彼女がどこまで父親の足取りを掴んでいるか、聞いておくことにした。すると彼女は困ったように答えた。
「それが…父がどこへ向かったかはわからないんです。彼は私が物心ついてすぐに旅に出てしまったので…私には検討はついていません。ただ、」
そこまで言って彼女が一呼吸置いた。
「私の祖父から聞いた話によると、彼はドラゴニュートの国から、北方、魔族領地へと向かったそうです。かなり昔の話なので、もうすでにどこかへ移ったかもしれないですが…私がわかる情報はこれくらいで…」
確かにこれでは心もとなかった。ただでさえ人間のユリウスが、人外たちの領地に足を踏み入れるわけなので、戦争停戦直後ともなると余計に次の戦争を引き起こしかねない。となると、もう少し確証のある場所に行く必要がある。
「他に何か聞いていることはないかい?」
「そうですね…あとは、母の敵討ちとも言っていたような…ただ、母は私を産んですぐ死んだとは聞いていましたが、それはあくまで病死だったはず…あっ、すみません。これはあまり関係ないことですね。
とにかく、父がどこへ向かい、どこにいるのかは私にはこれ以上はわかりません…せっかく探してくださるのに、お役に立てず、申し訳ないです…」
彼女が頭を下げる。
「いや、大丈夫。とりあえず、君が聞いている情報の中で最も怪しい魔族領地へ向かってそこを調べよう。何か手がかりがあるかもしれない。」
そう言ってユリウスは、エクセラを庇う。確証がなくとも、そこにいないというわけではない。それなら探しにいく価値はある。
「魔族の統べる土地か…ここからならセルカスの街が最も近い。あそこは対魔族用の要塞もある。そこを抜ければすぐに領地に入ることはできるだろう。」
早速、街へ向かうための街を確認する。ただ一つ気がかりなのは自分が魔族の領域に入っても良いのかということだ。魔族にも人間は過酷な仕打ちを与えてきた。自分がその仇敵の統べる土地へ向かうわけだ。何も起こらないわけがない。
「私はまだいいとして、貴方は大丈夫なの?魔族は相当人間を恨んでいるはず…そこは人間のあなたが赴くなんて、人間の侵略のように映る気がして…」
案の定、彼女もそれを心配している。確かに戦闘も避けられないだろう。ただ俺は行かなくてはならない。自分一人に降りかかるリスクなど、世界を変えるためならば安いものだ。
「俺はどうにかする。とにかく今は手がかりが必要だ。それを探すためなら、俺はどこにでも行き、どんなことも犯す。それが、人間の俺の責任だ。」
ユリアスの決意は固かった。彼はただ真っ直ぐに、ここより北方の要塞を見つめていた。
セルカスの街には王都から丸2日かけて到着した。魔族たちと直接対峙するこの街は、軍事基地が多く配備されており、街の最北端には要塞がそびえ立っていた。そんな街の喧騒にもまれながら、二人は要塞へと向かった。
要塞の内部には、簡易的な軍隊が駐屯していた。あたりを見回せば、休憩を取っている兵士や、上官に報告する者、何か決め事をしている者もいる。ユリアスが要塞を進むたび、彼らは行く先々で羨望と尊敬の眼差しを送ってくる。そして同時に、隣を歩くエクセラを訝しそうに見ていた。軍の英雄であるユリアスの隣をなぜこんな可憐な少女が歩くのか…常人からすればもっともな疑問ではある。幸い彼女が、先の戦争で最も人間たちに被害を与えた、ドラゴニュートの一族であることは、バレなかったようだ。
「この要塞の責任者、確かヴァサゴといったかな。彼に合わせてくれ。」
近くの兵士に伝える。彼はすぐにヴァサゴの元へと案内した。
「ほぅこれは…なかなか素晴らしい来客だ。はるばるこのセルカスまで何のご用ですかなな?ユリアス殿。」
軍人には似合わない、丁寧な物腰で二人を出迎えたヴァサゴ。少しふっくらとした体型だが、よく鍛えられた体躯。頭の方は少々加齢を迎え薄くなりつつある。しかし、その鋭い目つきからは、決してその辺りの中年の男性とは比べ物にならないほどの覇気を感じる。彼はこの要塞の責任者であり、ユリアスの所属する王都の軍でも中佐を兼任している。何度か面識はあったものの、こうして直で会うのはユリアスにとっては初めてだった。
「大陸戦争の戦後会合以来ですね。あまり時間の経たぬうちの再会ではございますが…今回は頼みがあってこの要塞に参りました。」
彼より立場は上ではあるが、ユリアスは丁寧に話した。
「はて…それは?」
ヴァサゴが言う。少々不思議そうな表情を浮かべている。
「この要塞の北部、魔族領土に赴きたい。そのため、出立時と帰還時の要塞の開放をお願いしたい。」
彼は手短に用件を伝えた。するとヴァサゴは驚き、目を見開いた。
「なんと…!魔族領土に自ら入ると言うわけですか…」
「はい。この子の父親を探すため、そして、少々私用で。」
そう言ってエクセラの方を見た。
「そんな…門の開放については構いませんがいくら軍の英雄たる貴方と言えども…敵の領土へたった一人で向かうとは…いささか無謀のように思われますぞ…いえ、もちろんユリアス殿の実力が並みを凌駕することは存じておりますし、実力を疑うつもりもないのですが…どうしても、貴方一人で行かれるのですか?」
彼はどこかユリアスに気をつかいながら話した。ユリアスの圧倒的な戦闘力は軍につくものならば誰もが理解することではあるが、そのユリウスが一人で敵地へ赴いて、万が一何かあれば、それは人間たちの大きな損失となりうる。それを、ヴァサゴほどの人物が憂いないはずがなかった。
「もちろん、一人で行くことが危険なのは十分承知ではあるが…どうしても、大人数で行くべきではなくてね。私とこの子のみの出立とさせてもらう。すまないね。」
「そうですか…わかりました。明日、門を開放いたします。どうかご気をつけて…ただ…先程から貴方の隣にいる少女は…一体どのものでございますかな?」
そう言ってヴァサゴはエクセラを見た。やはり彼女の存在は、ほかの者からすればかなり不思議なようだ。
「ああ。この子はエクセラ。この子の父親を探すために、魔族領土行くのだよ。」
「…よろしく、お願いします…」
エクセラが、ぎこちなくヴァサゴに挨拶をした。どうやら彼女は少々人見知りのようだ。実際、この要塞に入ってからユリアスの手を握ったままだった。大いなる力を秘める、ドラゴニュートの彼女にも、人間の女の子らしい一面があるようだ。
「そうですか。こんにちはお嬢さん。私はヴァサゴ。お父さんの無事を祈ります。」
ヴァサゴは、優しく返した。それを彼女は静かに受け止めた。
ヴァサゴとの面会を終え、明日のための買い物を済ませた二人は、兵舎の一角の部屋にいた。彼らをもてなすということで、部屋は普通のそれよりも遥かに綺麗にされていた。
ユリアスは明日からの旅に期待と不安を寄せていた。
「明日からいよいよ出立だね。何か一つでも多くの手がかりを高めるといいのだが…」
「そうね…ただ今日は少し疲れたわ。あんなに多くの人に出会ったのは初めてで。」
エクセラも同じではあったが、彼女はどちらかというと今日一日のめまぐるしさに、疲れを覚えていた。彼女からすればあれだけ多くの人に会うことは初めてだったようだ。
「そうだね…君にとっては今日は未知なことばかりだったようだね。買い物に出かけたのも初めてだったんだろう?」
「ええ、そうよ。通貨制度自体も、私たちの故郷のそれよりずっと発達しているし…人間たちの知恵の一部を垣間見た気がした。ただ私にとっては、あれだけ多くの人に会うのは少し辛いわ…」
そう言って彼女は机に突っ伏す。よほど人見知りなのか、それとも人間たちへの無意識下での拒絶か。前者であってほしいが、後者であることも否めなかった。
「とにかく、今日はしっかり休むんだ。もう寝てしまってもいい。明日から、万全の状態で旅に出られるようにしておこう。」
「ええ、じゃあ私はそろそろ休むわ。」
そう言ってエクセラは、ベットに入った。さて、そろそろ休もうか。
明日からの長き旅。その果てに何が待つのか。そして、この世界の真実は一体何を自身に突きつけるのか。全ての答えを探す旅が始まろうとしていた。
出立の朝、空は晴れていた。天候に問題はなく、良い旅になりそうだった。
「門を開けよ!ユリアス・アルベール殿とエクセラ殿の出立である!御二人に神のご加護あれ!」
兵士たちが二人を鼓舞する。たかが二人の旅のためによくここまで、ユリアスは感じた。 英雄の出立はいつの時代も祝われるものだ。
「答えを探す旅…ね。」
エクセラが呟いた。
「ああ…行こうか。この世界を救うため、全てを解き明かすために。」
二人は力強い一歩を踏み出した。
青空にて、1羽の鷹が悠然と舞っていた。
王は長きに渡る大陸戦争から帰還した兵士たちに激励の言葉を送った。
「戦争は一時停戦を迎えた。生き残った諸君らの誉れある戦いぶりを称賛する。だが、まだ粛清が終わったわけではない。我ら人間に愚かにもまだ反撃の狼煙をあげようと足掻く者たちがいる。それら全てを徹底的に滅ぼすまで、我々の戦いは止まらない。しばしの安寧の後、また戦争は起こる。その時にも、そなたら英兵の力を借りる。人間が世界に君臨するために!諸君らの鉄血を捧げよ!」
周りの兵士たちは、その言葉に奮いあがった。まるで昨日までの戦争の恐怖を忘れてしまったかのようだ。彼らの恐怖も、王の演説の前では藻屑というわけか…
「残酷な仕打ちだな…」
ユリウスは静かに呟いた。この暴走は必ず止めなくては、改めて心に誓うのであった。
王城からしばらく先の小道でエクセラと合流する。
「どうだったの?王の言葉は。」
「恐ろしいものさ。戦争で死んだ兵士たちは数多くいた。その事実を巧妙に無視して、生き残った兵士たちをまた死地へ駆り立てようとする。こんなことがあるから、戦争も人間の傲慢も、終わることがないのかもしれないな。」
思うことは全て言った。王の間違い、そして狂気に走る人間たちの姿も。
「そう…復讐って、こうも恐ろしいのね…」
エクセラの目は明らかに恐怖を帯びていた。誇り高きドラゴニュートの血を引く彼女ですら、人間の狂気は恐怖の対象であるようだ。
「ただそれは私たちも同じ。多くの同胞が死んだから、また人間たちを滅ぼそうとしているわ…憎しみの連鎖の中にいる。このままじゃ、戦争は終わらないわ。本当に最後の1人まで血を流さなくてはならなくなる。」
彼女は続けて言った。そうだ、終わらないのだ。どちらかが止めなくてはならない。ただもう、誰にも止められない。世界の終末の仮の姿とも言えるような事態に今、人間も人外も立たされている。
「止めなくちゃいけない。もしかしたら父はその答えを持っているかもしれないんです。父はかつて私に言ったんです。世界を救うための鍵を探すと。もしかしたら今も父はそれを探して、世界を旅し続けているのかもしれない。」
エクセラは力強く言った。彼女の父が探す、
鍵。それがわかれば、この事態も止まるのだろうか。
「それなら、なおのこと君のお父さんを探さなくてはね。」
「でも、貴方には軍役があるはず。この戦争でさらに位が上がったそうじゃない。そんな貴方が私1人のために、軍を捨てるなんて、申し訳ないわ…」
彼女が下を向く。ただ、俺に迷いはない。
「実は、軍の役職を一時的に停止してもらった。つまり今俺は軍人ではあるが、戦争に出なくても、国内を警備しなくてもいい自由の身なんだ。だから今なら君のお父さんを探す旅に付き合える。
それに、今はなんとなく、軍にいたくないんだ。俺に、あの集団と仲良くやっていく自信がない。」
軍役を解除してもらったことを彼女に伝える。驚いたような表情を浮かべる彼女は、
「本当に大丈夫なの?いざという時に、あなたほどの戦力がいないなんて…」
と、俺のいない軍も案じていた。
「本当に大丈夫だ。俺は確かに自由だよ。今の俺にとっては、君のお父さんにあって、真実に迫る方が重要だ。軍の方はいざとなったらどうとでもするさ。」
俺は彼女の目を見て言った。すると彼女も了承したらしく、黙ってうなづいた。その目はまっすぐこちらを見据えていた。
「ところで、これからどこへ向かおうか。君のお父さんがどこへ行ったか検討は、付いているか?」
空気を変えるため、俺はエクセラに言った。父親を探すと言っても、世界全てを歩き回るわけにはいかないと、俺は彼女がどこまで父親の足取りを掴んでいるか、聞いておくことにした。すると彼女は困ったように答えた。
「それが…父がどこへ向かったかはわからないんです。彼は私が物心ついてすぐに旅に出てしまったので…私には検討はついていません。ただ、」
そこまで言って彼女が一呼吸置いた。
「私の祖父から聞いた話によると、彼はドラゴニュートの国から、北方、魔族領地へと向かったそうです。かなり昔の話なので、もうすでにどこかへ移ったかもしれないですが…私がわかる情報はこれくらいで…」
確かにこれでは心もとなかった。ただでさえ人間のユリウスが、人外たちの領地に足を踏み入れるわけなので、戦争停戦直後ともなると余計に次の戦争を引き起こしかねない。となると、もう少し確証のある場所に行く必要がある。
「他に何か聞いていることはないかい?」
「そうですね…あとは、母の敵討ちとも言っていたような…ただ、母は私を産んですぐ死んだとは聞いていましたが、それはあくまで病死だったはず…あっ、すみません。これはあまり関係ないことですね。
とにかく、父がどこへ向かい、どこにいるのかは私にはこれ以上はわかりません…せっかく探してくださるのに、お役に立てず、申し訳ないです…」
彼女が頭を下げる。
「いや、大丈夫。とりあえず、君が聞いている情報の中で最も怪しい魔族領地へ向かってそこを調べよう。何か手がかりがあるかもしれない。」
そう言ってユリウスは、エクセラを庇う。確証がなくとも、そこにいないというわけではない。それなら探しにいく価値はある。
「魔族の統べる土地か…ここからならセルカスの街が最も近い。あそこは対魔族用の要塞もある。そこを抜ければすぐに領地に入ることはできるだろう。」
早速、街へ向かうための街を確認する。ただ一つ気がかりなのは自分が魔族の領域に入っても良いのかということだ。魔族にも人間は過酷な仕打ちを与えてきた。自分がその仇敵の統べる土地へ向かうわけだ。何も起こらないわけがない。
「私はまだいいとして、貴方は大丈夫なの?魔族は相当人間を恨んでいるはず…そこは人間のあなたが赴くなんて、人間の侵略のように映る気がして…」
案の定、彼女もそれを心配している。確かに戦闘も避けられないだろう。ただ俺は行かなくてはならない。自分一人に降りかかるリスクなど、世界を変えるためならば安いものだ。
「俺はどうにかする。とにかく今は手がかりが必要だ。それを探すためなら、俺はどこにでも行き、どんなことも犯す。それが、人間の俺の責任だ。」
ユリアスの決意は固かった。彼はただ真っ直ぐに、ここより北方の要塞を見つめていた。
セルカスの街には王都から丸2日かけて到着した。魔族たちと直接対峙するこの街は、軍事基地が多く配備されており、街の最北端には要塞がそびえ立っていた。そんな街の喧騒にもまれながら、二人は要塞へと向かった。
要塞の内部には、簡易的な軍隊が駐屯していた。あたりを見回せば、休憩を取っている兵士や、上官に報告する者、何か決め事をしている者もいる。ユリアスが要塞を進むたび、彼らは行く先々で羨望と尊敬の眼差しを送ってくる。そして同時に、隣を歩くエクセラを訝しそうに見ていた。軍の英雄であるユリアスの隣をなぜこんな可憐な少女が歩くのか…常人からすればもっともな疑問ではある。幸い彼女が、先の戦争で最も人間たちに被害を与えた、ドラゴニュートの一族であることは、バレなかったようだ。
「この要塞の責任者、確かヴァサゴといったかな。彼に合わせてくれ。」
近くの兵士に伝える。彼はすぐにヴァサゴの元へと案内した。
「ほぅこれは…なかなか素晴らしい来客だ。はるばるこのセルカスまで何のご用ですかなな?ユリアス殿。」
軍人には似合わない、丁寧な物腰で二人を出迎えたヴァサゴ。少しふっくらとした体型だが、よく鍛えられた体躯。頭の方は少々加齢を迎え薄くなりつつある。しかし、その鋭い目つきからは、決してその辺りの中年の男性とは比べ物にならないほどの覇気を感じる。彼はこの要塞の責任者であり、ユリアスの所属する王都の軍でも中佐を兼任している。何度か面識はあったものの、こうして直で会うのはユリアスにとっては初めてだった。
「大陸戦争の戦後会合以来ですね。あまり時間の経たぬうちの再会ではございますが…今回は頼みがあってこの要塞に参りました。」
彼より立場は上ではあるが、ユリアスは丁寧に話した。
「はて…それは?」
ヴァサゴが言う。少々不思議そうな表情を浮かべている。
「この要塞の北部、魔族領土に赴きたい。そのため、出立時と帰還時の要塞の開放をお願いしたい。」
彼は手短に用件を伝えた。するとヴァサゴは驚き、目を見開いた。
「なんと…!魔族領土に自ら入ると言うわけですか…」
「はい。この子の父親を探すため、そして、少々私用で。」
そう言ってエクセラの方を見た。
「そんな…門の開放については構いませんがいくら軍の英雄たる貴方と言えども…敵の領土へたった一人で向かうとは…いささか無謀のように思われますぞ…いえ、もちろんユリアス殿の実力が並みを凌駕することは存じておりますし、実力を疑うつもりもないのですが…どうしても、貴方一人で行かれるのですか?」
彼はどこかユリアスに気をつかいながら話した。ユリアスの圧倒的な戦闘力は軍につくものならば誰もが理解することではあるが、そのユリウスが一人で敵地へ赴いて、万が一何かあれば、それは人間たちの大きな損失となりうる。それを、ヴァサゴほどの人物が憂いないはずがなかった。
「もちろん、一人で行くことが危険なのは十分承知ではあるが…どうしても、大人数で行くべきではなくてね。私とこの子のみの出立とさせてもらう。すまないね。」
「そうですか…わかりました。明日、門を開放いたします。どうかご気をつけて…ただ…先程から貴方の隣にいる少女は…一体どのものでございますかな?」
そう言ってヴァサゴはエクセラを見た。やはり彼女の存在は、ほかの者からすればかなり不思議なようだ。
「ああ。この子はエクセラ。この子の父親を探すために、魔族領土行くのだよ。」
「…よろしく、お願いします…」
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「そうですか。こんにちはお嬢さん。私はヴァサゴ。お父さんの無事を祈ります。」
ヴァサゴは、優しく返した。それを彼女は静かに受け止めた。
ヴァサゴとの面会を終え、明日のための買い物を済ませた二人は、兵舎の一角の部屋にいた。彼らをもてなすということで、部屋は普通のそれよりも遥かに綺麗にされていた。
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「そうね…ただ今日は少し疲れたわ。あんなに多くの人に出会ったのは初めてで。」
エクセラも同じではあったが、彼女はどちらかというと今日一日のめまぐるしさに、疲れを覚えていた。彼女からすればあれだけ多くの人に会うことは初めてだったようだ。
「そうだね…君にとっては今日は未知なことばかりだったようだね。買い物に出かけたのも初めてだったんだろう?」
「ええ、そうよ。通貨制度自体も、私たちの故郷のそれよりずっと発達しているし…人間たちの知恵の一部を垣間見た気がした。ただ私にとっては、あれだけ多くの人に会うのは少し辛いわ…」
そう言って彼女は机に突っ伏す。よほど人見知りなのか、それとも人間たちへの無意識下での拒絶か。前者であってほしいが、後者であることも否めなかった。
「とにかく、今日はしっかり休むんだ。もう寝てしまってもいい。明日から、万全の状態で旅に出られるようにしておこう。」
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兵士たちが二人を鼓舞する。たかが二人の旅のためによくここまで、ユリアスは感じた。 英雄の出立はいつの時代も祝われるものだ。
「答えを探す旅…ね。」
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