Rebellions

Asuka

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人界編

幻想

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ついに二人は、人間の土地を抜け、魔族の土地へとやってきた。はじめのうちはあまり人間の土地と差異はなかったが、進むにつれてだんだんと辺りは薄暗くなっていく。ユリアスとエクセラもその違いに気づいていた。
「やはり、異界の土地となると、変化が激しいな。魔力も、闘気も人間のそれと明らかに違う。」
「そうね…なんとなく冷たい感じがするわ…魔族達の気は。」
彼らは歩みを続けたが、広大な平野ばかりのその土地は一向に景色を変えない。人間達よりもはるかに広大な土地を持っているのか、それとも未開の土地が多く、ここもその一部なのか。どちらにせよ、魔族達の都市は遠そうである。
「すまないが、最悪は野宿になるかもしれない。食料と水には十分留意してくれ。」
「わかったわ。あたりには動物もいそうにないし…狩りもできそうにないわね。この食料が命綱か。」
あたりには動物がおらず、狩りができない分余計にこの食料が大切になってくる。できることなら、建物を見つけたい。ただ、やはりどこまでも広がる平野ばかりで、一向にその光景は変わりそうになかった。
「仕方ない、少し休むかい?」
ユリアスは、エクセラに聞いた。
「ええ…少し疲れたわ。ごめんなさい…」
「大丈夫さ。まだ焦らなくていい。」
二人は一度休憩を取ることにした。この旅において、焦りは禁物だ。じっくりと情報を集め、真実を解き明かす。何か間違えれば、この不毛な世界の争いが止まらなくなってしまう。それだけは絶対に阻止しなくてはならない。
「この辺りで休憩だ。食料は少しなら食べても構わない。無理はしないようにね。」
エクセラはうなづいて、食料のパンを一欠片とった。
それにしても、あまりにもおかしい。エクセラの中に疑念が起こる。すぐそばには人間達が構える要塞がある。故に人間たちはいつ侵攻してきてもおかしくないはずなのだ。そんな危険をはらんでいながら、この辺りには要塞どころか、まともに人も住んでいない。戦争で浪費したのを差し引いても、この警備のなさはおかしい。何か…

その時だった。ユリアスとエクセラはここより北方に大きな闘気を感じた。かなり多くの兵士たちといったところか…その闘気は確実にこちらに近づいて来ていた。
「エクセラ、戦闘の準備を。大きな闘気だ。こちらに近づいてきている。」
「ええ…私たちに気づいたのかしら…」
彼女も緊張の面持ちで闘気の方向を見据えている。杖を持ち、どうやらルーン魔術で対抗するようだ。ユリアスも剣を構える。見えない以上、弓は不適切だ。
すると、闘気の方向か、魔族の兵士がやって来た。かなりの大軍が来ている。彼の予想通りだった。
「ぐぁぁぉぁぉぉぉあ!」
「ギィィィァアィィィィ!」
どれも奇声をあげながらこちらに近づいてくる。ゴブリンのような見た目のものから、オークのようなもの、大きいものはオーガもいた。
「どうやらやる気らしい。殺さない程度に、応戦だ。いくぞ!」
「ええ!」
迫り来る大軍に、二人は戦争を開始した。

迫ってくる魔族の大軍の正面を二人は突き進んだ。エクセラは遠くからルーン魔術を放つ。氷撃だ。軍の群れに命中すると、あたりが凍りつく。氷上級魔法、アイスワールド。周囲を凍らせ、敵の動きを封じる魔法か。
行軍の止まった敵に対し、ユリアスは剣で攻撃を開始する。一体ずつ確実に倒していく。何体かが、襲ってくるがそれらも全て倒してしまう。剣で斬った後、拳で次を殴る、そしてまた斬撃。すぐ近くではエクセラも近接戦闘を始めていた。流麗な格闘術は、時折自分を超えているように、ユリアスの目に映る。彼女もまた一流の戦士なのだと改めて思い知らされる。
またやってくる敵を倒し、軍の半分以上を壊滅させた。すると、近くに大きな闘気を感じる。この軍のボスのお出ましだ。オーガの姿をした、軍の長は、重装備で、大きな剣を持っていた。ユリアスの身長ほどあるだろうか。それを軽々と持っている。
そして、奴はその剣を抜いた。エクセラが真下にいる。それをめがけ、力ずくで剣を振り下ろした。爆音とともに地面が割れる。オーガは手応えを感じたように不敵に笑う。しかし次の瞬間、その表情が引きつった。剣が、全く微動だにしない。まるで、魔法で固められたかのように動かなくなっていた。なぜか。
簡単な理由がすぐ足元で判明する。エクセラは彼女よりもずっと大きなオーガの斬撃を、
素手で受け止めたのだ。そうだ、彼女はドラゴニュートであり、力は人間をはるかに凌駕する。オーガの斬撃を止めるなどおそらく造作もないのだろう。ユリアスは近くの敵を相手取りながら、その光景を見ていた。そしてエクセラの未知数の力に目を輝かせた。まさか、これほどとは…彼は改めてドラゴニュートの強大さを理解した。
斬撃を止めたエクセラは、剣ごとオーガを投げ飛ばした。地面に叩きつけられたオーガは恐怖の目でエクセラに向ける。反撃されれば殺される。本能でそう理解するオーガは、自然と逃げようとしていた。
「待ちなさい!」
エクセラが言う。オーガは震えながら彼女を見た。ただ、彼女に殺意はなく、彼女は穏やかな目で奴を見る。
「王城、あなたたちの王様に会いたいの。お父さんのことを探すために、ここにいる。連れて行ってくれるなら仲間も蘇生するし、命もとらないわ。だから、安心して。」
優しい声でオーガに言う。すると、オーガは安堵したように彼女にこうべを垂れた。
「グ、アウ…ワカッタ…」
たどたどしい言葉で返事をする。
「ユリアスさん。もういいわ。王城まで行ける。だから、彼の背中に乗って。」
どうやら背中に乗って進むらしい。歩く必要がなくなるのは純粋に嬉しいことだった。
「じゃあ、約束通り、仲間たちは蘇生するわ。手荒な真似をして、ごめんなさいね。」
そう言って彼女はルーン魔術を開始する。周囲回復魔法を発動させると、瞬く間に傷ついた兵士たちが復活していった。
「…ア、アリガ…ド、」
オーガは、たどたどしい礼をした。彼らは、多少言葉を話すらしい。戦場では断末魔と咆哮しか聞かなかったため、意外な一面を見た気がした。
「それじゃあ、行きましょう。」
「ああ。」
オーガの背中に乗って、二人は王城を目指した。

魔族たちのはじめの街は、かなり遠くにあった。昼間だったはず時間が、すでに夕方にまでなっている。オーガたちはここで二人を下ろした。
「ありがとう。他の仲間たちにもよろしくね。」
エクセラは礼を言った。オーガはうなづいてその場を去る。
街には、出店が並んでいる。人間たちのそれと比べると、やや簡素ではあるが、一応ちゃんとした文明が栄えていることは見て取れた。店を一軒見てみると、買い物をする魔族たちがいる。彼らに通貨の概念はないようで、欲しいものと物々交換をしている。どうやら通貨はなくてもいいようだ。金銭面に困ることがないだけまだいい。ただ、交換に値するものを探さないといけないのは、いささか手間取りそうではあるが。
「街はそれなりに栄えているようだね。とりあえず君のお父さんの手がかりを探そう。」
「ええ。父は、魔族の土地へ赴いた後、王城へ向かったと聞いているわ。とりあえずそこを目指しましょう。」
二人は王城を探すことにした。
街には、普通に話をしているもの達もいた。会話は独特の訛りを除けばほぼ人間のそれと変わりなく、単語もところどころを除けば人間も使うものとほぼ同じものだった。ユリアスは近くのゴブリン二匹に尋ねた。
「すまない、ここから王城にはどう進めばいいだろうか?」
すると二匹は珍しそうに彼を見た。そして、やや難しそうな表情をして言った。
「オウジョウ?なんだそれ?」
言葉が難しかっただろうか…いや、そもそも王という概念が魔族にあるかどうか…ユリアスは思考を巡らせる。こう言う時に少し難しく考えてしまうのが、ユリアスの悪い癖だ。
ユリアスが返答に困っていると、エクセラが言った。
「ごめんなさいね。あなた達にとって一番偉い人は、どこに住んでいるの?その場所を教えてほしいの。」
すると二匹は了解したような表情を浮かべ、
「偉い人…そっか!王様だ!ギルファム様だ!」
と、はしゃいで言う。どうやら子供らしい。そうなれば小難しいことを言われてキョトンとするのも納得いく。
「ギルファム様は、あの丘!あの丘のおーきなお城に住んでるぞ!すっごいんだぞ!」
「すっごい!すーごいんだぞ!」
子供ながらにはしゃぐ二匹。その様子を微笑ましく見ていたエクセラは彼らに
「ありがとう。そのすごい王様によろしく言っておくわ。はい。お姉さん達に教えてくれたお礼。」
と言い、食料の中にあった飴を一つずつ彼らに与えた。二匹は喜んでそれを受け取り、走ってその場を去っていった。
「まるで母親だな。」
ユリアスが言う。
「子どもには優しくしないといけないわ。たとえ、別の種族であってもね。」
エクセラが優しい声で返す。彼女の社交力の高さをユリアスは少し羨ましく思った。

ゴブリンの子供達が言った丘までは少々距離があるように思われた。丘の上に小さくも存在感を放つ建物が見える。おそらくあれが、王城なのだろう。
「どうやら、少し距離があるらしい。ゆっくり街を見ながら進んでいこう。泊まるべき宿もついでに見つかると良いのだが…」
ユリアスには一つ疑問があった。魔族達は、いや、全ての人外達は人間らによって残酷な仕打ちを受け、先の戦争でも多くの命を奪われたはず…その人間を目の前にして、あれほど街が平然としているものだろうか…やはり何かおかしい。そう感じていると、まるでそれを読んでいたかのようにエクセラが言う。
「ごめんなさい、言い忘れていたことなんだけれど…実はあなたに魔法をかけてるわ。王城では解除しようとも思っているのだけれどこの街にいる間あなたの姿が魔族になるようにしてあるの。だから、騒動にはならないと思うし、実際なんのトラブルもなく円滑にここまで進んでる。だから、そうなっていることだけ知っておいて。ごめんなさいね、こんなタイミングで言い出して。」
なるほど、だからさっきの魔族達、いや、街に入ってからずっと自分は気づかれなかったのか。彼女の機転には毎度助けられるばかりだ。ただ、こう言うことは秘密にはして欲しくはない。変な心労をかけてしまう。
「そう言うことなら安心だ。とにかく今は王城を目指そう。」

城へ向かう途中に、宿があったためそこに泊まることにした。先に伝えておけば部屋は確保するとのことだったので、そのまま用件を済ませて、王城までの道のりを再開した。先ほどよりもかなり丘が近く、城の存在感も大きくなっているように思われた。
「改めて見ると、大きな城なのね…」
エクセラが思わず呟く。確かに、魔族達が作ったとは思えないほど荘厳な城だった。この城に、彼女の父の手がかりがある…ユリウスは固唾を飲んだ。
「行こうか、もうすぐで城に着くはずだ。」
「ええ。」
二人はまた歩き始める。
その歩みは一歩一歩、確実に強くなっていった。

「これが…王城…」
ユリアスは驚いていた。近くで見るとその雄大さが一際目出つ。要塞、とも呼べるようなそれは、魔族を統べる王がいかに偉大なものかを容易に想像させた。
「そこのもの。一体何の用でここへ来た!」
ユリアス達が城の前で立っていると、遠くから門番らしい兵士たちに呼び止められた。
先ほど戦った兵士たちとは比べ物にならないほど強力な武器を持っている。知性も他の魔族達とは違い、言葉も流暢に話している。
「あなた達の長に会いに来ました。魔族を統べる王様に、私の父のことを聞きに来たんです。この城に来たことのある父を。」
エクセラが答えた。門番は訝しそうな目をしている。
「貴様の父親だと?貴様…いったい何者だ?見るからに魔族ではなさそうだが…」
「私は、エクセラ・モルフォンド。ドラゴニュートよ。私の父がこの城を訪ねたと、昔聞いたから、ここへ。」
彼女は毅然として答えた。ただ門番はまだ疑いをかけている。
「そこの隣のものは…」
そう言ってユリアスの方を向いた。彼にはまだエクセラのかけた魔法が効いている。現にまだこの門番もユリアスが人間であることに気づいていない。
「ユリアス・アルベールだ。この子の父親を探すのを手伝っている。」
「私は、父のことを知りたいのです。そして、その事実が欲しい。父がどうしているのか。父の残したものをこの人も求めている。だから、この城にも訪れたのです。」
エクセラが必死に言う。すると門番も事情を察したのか、
「わかった、城内には入れよう。ただまだ王は帰還していない。それまで、勝手な行動は慎め。」
と、城に入れる許可を下ろした。
「ありがとうございます。」
エクセラは礼をいう。ひとまず、王に会うことはできる。第一の課題はクリアしたようだ。あとはいかに情報を聞き出すか。そこにかかってくる。
「いよいよだな。」
ユリアスは言った。

城内は派手な装飾や豪華なもので溢れていた。王都の城と遜色ないほど、絢爛たるその城は、改めて王の力の強さを思わせた。
「ここで待て。」
門番はそう告げると、二人を大きな扉の前で待たせた。どうやらこの先が王のいる場所らしい。
「なかなか、素晴らしい城だな。」
ユリアスは思わず感動していた。人によって迫害を受けていた魔族達も、このような城を作っている。やはり、誇りは捨てられないのだろう。
すると、遠くから門の開く音がした。
「王の帰還だ!」
さっきの門番の声がした。すると、階下より、何人かの歩く音がする。その中に一つ、大きく、強い闘気が感じられた。おそらくこの正体が、魔族を統べる王、ギルファムだ。
その足音はこちらまで近づくと、ユリアス達の前で止まった。
「ギルファム様のお見えだ。」
一人の兵士がそういうと、その間を縫って大きな冠を被った魔族が現れた。
煌めく鎧に、マント。そして王にふさわしい荘厳な冠を白髪の上に被った男。圧倒的な闘気を待とうその姿は歴戦の勇士のそれを思わせる。
彼こそが、魔族を統べる王、ギルファム。
「これは、はるばる遠くからよくこの城までお見えになったものだ。話は門番から聞いております。では、中へ。」
丁寧な言葉遣いで、二人を中へ案内する。王としては少々おかしくもあるが、彼らは気にせずに王の間へと入った。

「此度は何の用でこの地へとやってきたのだ?」
ギルファムは、二人を中入れるや否やすぐに尋ねた。エクセラが答える。
「私の父、ヴィーラが、かつてこの地を訪れて、王に謁見したと聞き、その真実を確かめるために来ました。その足取りを掴めば、この世界の真実がわかるかもしれない。父が遺したものはそれほど大きなものだと聞きました。ですから、まず訪れたとされるここへ、私も赴いたのです。」
彼女は手短に理由を述べた。すると王は何かを思い出したような表情を浮かべた。
「モルフォンド……もしや貴様、あのモルフォンドの一族か?」
「それは一体…」
エクセラは疑問を浮かべる。周囲の誰もがその言葉の真意を測りかねた。
「そうか…お前は知らないのか…貴様の一族、モルフォンド家は世界最強のドラゴニュートの一族だった。今のドラゴン達の強大さの元は全てモルフォンドの力によるものだ。その末裔…いや、直系がお前に当たるのだ。お前の父もまた、強大な力を持っていた。この私が初めて敗北を喫したほどにな。」
その言葉に衝撃が走る。目の前のこの男が、敗けた。そして、モルフォンドの名を聞いた瞬間に思い出した。暴威を振るい人外達を迫害してきた人間がドラゴンとは中立保った理由、それこそがこの強大なモルフォンド家との衝突を避けるためだったということを。おそらく、今の人間達の力を持ってしても、あの一族には勝てない。そうはっきりわかるほど権勢を振るっていた一族だったのだ。
「お前を見たときから、あの男のことを思い出していた。まさか、娘がいたとはな…」
「父は…それほどの存在だったのですか?」
「馬鹿を言え、いくら身内とてそれほどという言葉で片付けるな。あの男はその最強のモルフォンド家の中でも最高傑作と称するのにふさわしい男だった。まさに神に最も近い男だったさ。」
ギルファムは言った。その言葉にエクセラは驚愕した。まさか自分の父が、いや自らの一族が最強の一族だったとは思いもよらなかっただろう。
ただ、問題はそれではない。父がここで何をしたのか、そして何を遺したのか。この事実を探らなくては。
「父の偉大さはよく分かりました。本題に戻りましょう。父は、ここで何を遺したのですか?父について何をあなたは知っていますか?」
「ほう…」
ギルファムは興味深そうな目で彼女を見た。
「あの男が遺したもの…それで、世界の真実がわかると…」
「はい。」
「ならば教えよう。ただ一つその前に、そこのもの。」
そう言ってユリアスを見たギルファム。
「貴様のその姿、偽りのものだな?」
彼はユリアスにかかった魔法を見破っていた。やはり、この男までは欺かなかったか…ただ、人間であることが露見すればどうなるか。彼女の話はうまくいくだろうか…
「早く姿を現せ、それとも、できない理由があるのか?」
「…分かりました。」
そう言ってユリアスは魔法を解いた。するとその姿を見た周りの兵士たちが驚きの表情を浮かべる。
「貴様!人間であったか!我らを欺き、王の下まで来たということか!」
一人が怒りを露わに言った。そして一斉に武器を構えてきた。しかしギルファムが制する
「待て。まだ何もしていないだろう。しかし貴様、なぜ姿を偽った?」
その目は明らかに穏やかではなかった。
「私がこのまま魔族の地へ赴けば、混乱を招き、更なる戦争を引き起こす可能性があった故このような手を取りました…無礼を認めましょう…」
「ほう…あの大陸戦争もあったが人間はつくづく我らを苦しめた故な、貴様がその姿であればきっと民は怒り狂っていただろうよ。その判断は賢明であったな。」
ギルファムは侮蔑に似た表情で彼を見た。
「私が偽りを働いたことに対する処分は自由です。ただ彼女の話は最後までお聞きください。彼女は人間ではない。ですから、私の責任を負わせることだけはどうかご容赦ください。」
ユリアスは懇願した。ここで何も引き出せなくては、旅をした意味がない。
「よかろう。この娘の話は聞く。貴様もそこで話を聞いていろ。」
ギルファムは承諾した。話のわかる王であったことに、ユリアスは安堵した。
「では続けよう、エクセラ。」
「はい。」
「まず貴様の父、ヴィーラ・モルフォンドは、我の元へ来るとこう告げた。いずれ世界を翻す事態が起こるとな。我も初めは何を言っているのかわからなかった。彼の言い分では、我ら以外の何か別の勢力が、この世界に干渉しようとしているとのことだった…にわかには信じられんことだ。ただ、奴の予言は的中した。人間達の暴走による世界の変化。これは間違いなく奴の言う通り、世界に何者かが干渉したと言うわけだ。ただ何がこの世界に干渉し、そして何を目的としているのか、それは分からなかった。ただ今の事実でわかること、それはいずれまた人間と人外同士の対決が始まると言うことだ…もしかするとそれを狙っている外なる者らによって今まさにこの世界は転がされているのかもしれぬ。貴様の父の恐れている事態はもうすでに起こってしまったのかもしれない。」
ギルファムの言った、外なる者ら。人間はそれに踊らされていると言うことか?では、王の暴走もまた、それが原因か…?
ユリアスは口を開いた。
「もしそれが本当なら、我らは争っている場合ではないのでは?平和のために人外と人間が協力し合うべきでは…」
「たわけ!」
ギルファムが叫んだ。
「いくら外なるものが干渉した可能性があるとはいえ、貴様らが我らにしたことをゆめ忘れるな!貴様らと手を取るだと…ふざけおって。どれだけの民が苦しみ、嘆き、絶望したと思っている…そのことを棚に上げ今こそ協力とは…身勝手も大概にしておけ。」
「申し訳ありません…」
ユリアスは謝罪した。そうか、いくら傀儡であったとはいえ、自分たちの犯した罪は消えないと言うことか。
「たしかに人間達は愚かなことをしました。現にまだ、先の戦争に決着をつけようと王が民を戦地へ送りつけています。本当に人間が愚かなだけなのかもしれない。ただもし、これが外なる者達の仕業であったとしたら、種族間が対立しあい、互いに浪費し合っているこの状況こそ、付け入られる隙だと考えております…協力とまで申し上げるつもりはございませんが…どうか、外なる者らを倒すために力を貸していただけないだろうか…その真実は必ず私たちが示しましょう。」
ユリアスは懇願する。ただギルファムの目は変わらず冷めていた。
「ふんっ…戯言を吐きおって…我らが手を取り合うなど、所詮は幻想。そしてその幻想を作り上げたのはお前達人間だ。幻想に過ぎぬぞ。貴様の尽力もな。」
非常に言葉を投げつける。幻想…やはり手を取り合うなど不可能なのか。ユリアスは絶望した。
エクセラも、彼の神妙な面持ちを心配していた。魔族はドラゴニュートには友好的であったため、この人間の否定は種族の壁を感じることであった。人間達の犯したことがいかに大きなことであったか、彼女もまた思い知らされた。
「エクセラよ。貴様の父はここより西、夜族達の地へと向かっていたな…貴様の父はおそらくこのことを世界に説いて回ったに違いない。行先を気をつけよ。あと、その男にはくれぐれも気をつけることだな。」
ギルファムが言った。そして彼は、次の件というわけでその場を去っていった。

二人残ったその場には重い空気が流れていた。人間たち人外が手を取り合うのは、幻想だという事実。それがユリアスの心に重くのしかかっていた。
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