Rebellions

Asuka

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人界編

決意

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ギルファムへの謁見を終え、二人は宿へ戻った。だが依然としてユリアスの気は晴れずにいた。この世界の外なる者達、それらを止めるべく人間と人外が手を結ぶ必要は大いにあるだろう。ただ、その事実はギルファムに受け入れられなかった。当たり前だ。人間たちがこれまでどんな悪業を繰り返して来たか。それを思い出せばあの言葉も、協力が幻想であるということも納得がいく。彼の言うことは正しかった。正しすぎるが故にユリアスの心に深く傷をつけていた。

「大丈夫…ではないでしょうね…あの言葉を吐かれてはあなたにも感じるものはあるでしょうし…」

エクセラが彼を心配そうに見つめる。自身の目的である、父親が残した鍵と次の足取りはつかめた。ただ、ここまで協力してくれたユリアスを傷つけてしまったことに罪悪感を覚えている。

「ああ、少々身にしみた…やはり人間の犯した罪は大きかったようだね…あそこまで魔族たちが怒るとは…予想はついてはいたが。」

これまで人間が行ってきた暴挙を辿れば、むしろあの程度の怒りを受けた程度で済んだことのほうが奇跡と言える。本来ならおそらく彼の圧倒的な力を振りかざしてきていただろう。エクセラがいたからなのか、定かではないがこうして生きてここまで帰ってきたことだけでも十分なのだろう。

「とにかく、今日は休むことにする。心配かけてすまない。」

「ええ、わかったわ。無理はしないで。」

彼女の温かい声かけで、少し気が楽になる。しかし、気持ちは穏やかではなかった。

ベッドで横になっても、気は晴れなかった。あの侮蔑の目を向けられたという事実。それは、他種族の人間への怒りと憐れみを象徴していたように思う。傀儡となっている可能性があったとしても、自分たちの種族が行った数々の非道的行為が許されるはずもない。それはわかっていた。協力など、持ち出したところで怒りを買うだけだということもわかっていた。

しかし、それでもユリアスは諦めきれなかった。この世界に干渉しようとしている勢力があることはもはや事実だ。そして、ギルファムもそれに気づいていた。それならば、一時的なものだったとしても、それを倒すのに尽力してもらいたい。その力が、もしこの世界を支配しようとするならば、いずれ戦わなくてはならないのだ。遅かれ早かれ、戦いはまた起こってしまう。そして、この世界が存続するかは種族の協力にかかっている。その事実をわかってもらいたいが故に、彼は苦悩していた。

「どうすれば…」

彼は混沌の中にいた。


新しい朝を迎えても、ユリアスはまだ苦悩していた。魔族との協力は破棄してしまっても構わないのかもしれない。他種族の地を訪れ、そこで協力を仰ぐ手もある。むしろその方が賢明かもしれない。

ただ、ギルファムほど聡明な王ならば、きっとわかってくれるかもしれない。そんな希望的な推測が、彼の中によぎっていた。戦争直後にもかかわらず、彼らの領土には混乱の様子はなく、統制されていた。子供達も笑顔を見せ、異種族を恐れることもなかった。きっと彼が奔走して戦争の指揮をとり、民をまとめたのだろう。そして民もまた、王を信じたのだろう。話もわかる王であり、決して感情に任せて判断を誤る王ではないと、ユリアスは信じていた。彼の王たる誇りを信じ、もう一度話をつける。彼は決意を固めた。

「もう一度だけ、謁見しよう。」

ユリアスは、宿の部屋を出て、エクセラの部屋の戸を叩いた。彼女は今起きたばかりなのか少しばかり寝ぼけ眼だった。世界最強のドラゴニュートの血を引く者とは少々離れた一面だ。

「ごめんなさい…まだ起きたばかりで。もうここを出るの?」

「ああ、此処を出るのは確かだが、まだやり残したことがある。」

「もしかして、」彼女は真剣な目になって言った。

「王にもう一度謁見するつもり?」

彼女はやはり勘がいい。寝ぼけ眼だったはずのその目でも、ユリアスの神妙な面持ちを悟っていたようだ。

「ああ。もう一度だけ王の元へ向かう。そして、魔族の協力を仰ぐ。俺たちと協力したくても、最悪外なる者と戦ってくれるだけでいい。とにかく、もう一度会いに行く。」

彼は改めて決意した。もう一度、この一度にかけて協力を取り付ける。この世界が何かしらの力によって狂わされているならば、それを止めるのはこの世界の生きとし生けるもの全てだ。あの王ならば、すぐにそれがわかるだろう。迷っている時間などないのだ。

「そう…あの王さまに話をつけるのね。私も昨日考えた。あのまま貴方をほっておくわけにはいかないと思ったわ。この世界が何者かによって牛耳られていると、父が言ったならそれを止める必要があるもの。貴方に協力する。王さまを説得しましょう。」

彼女も、ユリアスの覚悟を認めたようだ。すぐに準備をする、と彼女は部屋に入った。この選択が正しいかはわからない。もしかしたら火に油を注ぐだけかもしれない。しかし、動き出さなければ負けなのだ。この世界を変えるためなら、これくらいの賭けはどうということはない。この命、いくらでも賭そう。

程なくしてエクセラが準備を整えた。行こうか、とユリアスが彼女の手を取り、二人は宿を後にした。


王城には、昨日と変わらず警備の兵がいた。
彼らは昨日の一件を知っており、ユリアスを見るやすぐに尋問を始めた。どうしても話をつけたいが、彼らをどうにかしないと、話をつける以前に門前払いを食らってしまう。ユリアスは落ち着いて、彼らに言った。

「ギルファム王に、もう一度だけ謁見したい。その謁見が終わったらすぐに此処を去るつもりだ。」

「貴様…一体何の話をするつもりだ?」

「魔族と、我々との協定だ。一時的な協力関係を結び、外なる者たちを倒す。」

警備の兵は、眉をひそめて言った。

「昨日の王の言葉を忘れたか?貴様ら人間が我々にしてきた仕打ちを忘れるな!協力関係などふざけたことを抜かすなら今すぐに此処を去れ!」

やはり、彼らも簡単に聞くつもりはないようだ。

「それでも、せめて謁見だけでも頼めないだろうか?少しだけでも話をしたい。」

「私からもお願いします。どうか、彼に話をさせてあげてほしい。」

エクセラも懇願する。警備の兵はそれでも譲らなかった。ユリアスはもどかしさを感じていた。すると、

「何をしている?人間。」

突如誰かが声をかけた。城の中からだ。全員がその方向を向くと、そこにはギルファムがいた。城門が開き、中の広間や王の間への道も開けている。

「ギルファム殿下!彼らが話をしたいと懇願するのです。貴方のお考えは昨日と変わらないでしょう?」

警備の兵は跪いていう。

「なるほど、その人間が我に謁見を。つまりは、昨日と同じ戯言を吐きに来たということか。」

ギルファムは、昨日と同じ侮蔑の目を向けてきた。しかしユリアスは怯まない。

「はい、無礼は承知の上でございます。ただどうしても貴殿に、話をつけたい。貴殿の聡明さを信じ、此処へ参りました。」

「ほう、貴様もなかなか言うではないか。ただ、我はそのような誉め殺しでもなびくつもりはない。」

彼の目は変わらない。やはり、話はできないのだろうか。しかし、彼は言った。

「だがまあ、その心意気に免じて、条件をつけて話を聞いてやろう。何、簡単なことだ。我と一戦交えるのだ。そして我を認めさせてみろ。その上で話を聞いてやる。戦いこそが、覚悟を見定める上で最もいい。」

突然の難題に、ユリアスは狼狽した。あの王と戦う。初めて出会った時から、彼の異常な闘気を感じていた。圧倒的な、別次元にいるような闘気だ。一つの種族を治め頂点に立つ者の覇気とでも言おうか。出会った中でも一二を争う強さであることは間違いない。

だが、此処で引き下がるわけにはいかなかった。むしろ、話を聞くとさえ言われているなら答えないわけにはいかない。これはチャンスなのだ。

「はい、その決闘。受けて立ちましょう。」

ユリアスは決意を固めた。目の前に立ちはだかるは、魔族最強の男。彼を制し、世界を変える足がかりを作る。そのための一歩が始まろうとしていた。
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