このたびゲスの極み上司に脅されまして

猫田けだま

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イケてる上司の裏の顔

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「骨の髄まで最低ですね」
「最高のほめ言葉だな」


フンと鼻で笑う横顔の、憎たらしいことったら。この姿を盗撮して、会社中にばら撒いてやろうかしら。


よからぬ想像を巡らせていると、二階堂部長はポケットから煙草を取り出し、自然な仕草で火を点ける。


「ちょっ……」


嫌煙家というわけではないけど、ムッとしてしまう。


「断りもなく吸うなんて、マナー違反じゃないですか!?」


私の抗議に、彼は棒読みの言葉を吐きだした。


「煙草を吸ってもいいですか」
「いやです」


食い気味に答えた。
すると彼は、傍らの灰皿に煙草を置き、体ごと私に向き直る。


「なあ、頼むよ」


な……なによ、その目付き。
縋るように見つめられ、思わずゴクンと息をのむ。


「綺麗な月と美味い酒があって、隣には可愛い七海ちゃんが居るんだぜ。煙草でも吸わなきゃ、唇が疼いて堪んねえんだよ」


言っていることは、まったく意味が分からない。
けど、その目は甘く緩んでいて。乱れきった素行と、ボロ雑巾みたいな恰好のくせに……。
いや、だからこそなのかもしれない。月明りに照らされた彼から、退廃的な色気が匂うように立ち昇る。


「なあ、いいだろう?」


駄目押しの一言が決定打となった。


「わっ、分かりましたよ、どうぞ何本でも吸ってくださいっ!」


怖っ、イケメン怖っ!
あと3秒見つめられていたら、正直あぶなかった。


濡れ犬みたいにブルブルと首を振って、邪念を追い払う。



「とにかく話しを戻しましょう、住居権のことですが――」
「俺は出て行かねえぞ」
「私だって、行くところがないんです!」
「なら一緒に住むしかないじゃないか」
「死んでも嫌です!」


断固とした拒否に、彼は煙をくゆらせながら「あっそ」と投げやりに答えた。


いったいこの男は、なにを考えているんだろう。近場で三人もの女に手を出して、言うに事欠いて風俗のかわりだとか。不誠実にもほどがある。
ああ、だけど。結局は男なんて、皆そうなのかもしれない。六年も付き合った陽介でさえ、あっさりと他の女に乗り換えたんだから。


はあ……きつい。
色々ありすぎて麻痺してたけど、今になってじわじわと悲しみがこみ上げてくる。


それでも、泣いたら負けだと必死に涙を堪えた。なのに二階堂のバカは、最悪のタイミングで傷口を抉ってきた。


「つかさ、お前、一人暮らしなんかしなくても、市原の部屋に転がり込めばいいだろう。付き合いも長いんだからそろそろ結婚――って、ええ!? なんだよ、なに泣いてんだよ」
「泣いてません!」
「いや、どう見ても泣い――」
「泣いてないって、言ってるでしょ!!」


あんなクズのために泣くなんて、水分の無駄遣いだ。だいたい、気持ち悪いのよ。


帰ってくれ、俺は凛を愛してるんだ!
なーんて、今時昼ドラでもやんないっつーの。


「なんだ、あのキメ顔、うすら寒いわ!」
「どうした、なにがあったんだ?」


突然の豹変に動揺する二階堂部長を、ジロリと睨みつけた。


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