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俺の大事な抱き枕【side 類】
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* * *
「遅い!」
三時間後、俺はひとり、ちゃぶ台に置いたおでんを睨みつけていた。
七海ちゃんと飲むのが楽しみだった――わけではないが、あれから後処理を終えた俺は、大急ぎで帰宅した。
焼き鳥ばかりでは飽きるだろうと、おでんをテイクアウトし、隠し持っていた虎の子の日本酒を引っ張り出した。そうして律義にも、先に飲み食いをすることなく、あいつの帰宅を待っている。
だというのに、十時を回っても連絡ひとつよこしやしねえ。
『今から帰る』『七海ちゃんは、何時ごろ帰れそうなんだ?』
俺が送ったメッセージは既読にもならないし、外は大雨だ。
傘がないなら、駅前まで迎えに行ってやらんでもない。とまで思っているのに、あいつはいったい、いつまでこの俺を待たせる気だ。
「こんなことなら、五反田に行けばよかった――」
女の戻りを待って、イラつくなんて柄じゃねえ。
ごろりと畳の腕に寝そべって、目を閉じる。
『エデンパック社員、痴情のもつれによる刺殺事件か!?』
と――突然、瞼の裏にゴシップ記事の文面が浮かび、ハッとして目を開ける。
いやさすがに、それは――。
己の想像力の逞しさに自嘲し、伸びたスエットのポケットから煙草を取り出した。寝転がったままニコチンを胸いっぱいに吸い込むと、いくぶん気持ちが落ち着いてくる。
おおかた、市原が謝り倒して、七海ちゃんは絆された……ってところか。
「雨も降っているし今日は泊まっていけよ」とかなんとか言われて、今ごろイチャついているんだろう。
「ま、別にいいけど」
口に出したものの、気持ちはイライラと落ち着かない。
俺はさっきの電話で「酒を買って、待っている」と言ったはずだ。
いくらただの同居人とはいえ、帰らないなら帰らないと連絡するべきじゃないのか?
起き上がって煙草をもみ消した俺は、胸糞の悪さを振り払うように未開封のボトルに手をかける。
そのとき――ちゃぶ台のスマホが振えた。
反射的にボトルを放り出し、画面に指を滑らせるが。
「……なんだ、英輔かよ」
英輔というのは、パチンコ仲間でもあり、この家の元住人。
七海ちゃんの兄貴が、こいつの妹と結婚して……つまり、俺たちが同居するきっかけを作った男だ。
「なんだとは、ご挨拶だな……元気にしてっか?」
「おかげさまで」
「高円寺のスターダストで来週、新台イベントがあるらしいぜ」
「あっそ」
「どうしたんだよ、いつもなら食いつくくせに」
英輔の言うとおり、新台イベントは大好物だか、どうも今日は気乗りしない。
「悪いな、取り込み中だ。また連絡するわ」
言い捨てて、勝手に通話を終わらせようとする俺に、英輔が妙なことを口走る。
「てことは、あの子……七海ちゃんだっけ? 彼女も一緒?」
「……いや、ひとりだけど」
なぜそんなことを?
訝しみながら答えると、英輔はとんでもないことを言った。
「遅い!」
三時間後、俺はひとり、ちゃぶ台に置いたおでんを睨みつけていた。
七海ちゃんと飲むのが楽しみだった――わけではないが、あれから後処理を終えた俺は、大急ぎで帰宅した。
焼き鳥ばかりでは飽きるだろうと、おでんをテイクアウトし、隠し持っていた虎の子の日本酒を引っ張り出した。そうして律義にも、先に飲み食いをすることなく、あいつの帰宅を待っている。
だというのに、十時を回っても連絡ひとつよこしやしねえ。
『今から帰る』『七海ちゃんは、何時ごろ帰れそうなんだ?』
俺が送ったメッセージは既読にもならないし、外は大雨だ。
傘がないなら、駅前まで迎えに行ってやらんでもない。とまで思っているのに、あいつはいったい、いつまでこの俺を待たせる気だ。
「こんなことなら、五反田に行けばよかった――」
女の戻りを待って、イラつくなんて柄じゃねえ。
ごろりと畳の腕に寝そべって、目を閉じる。
『エデンパック社員、痴情のもつれによる刺殺事件か!?』
と――突然、瞼の裏にゴシップ記事の文面が浮かび、ハッとして目を開ける。
いやさすがに、それは――。
己の想像力の逞しさに自嘲し、伸びたスエットのポケットから煙草を取り出した。寝転がったままニコチンを胸いっぱいに吸い込むと、いくぶん気持ちが落ち着いてくる。
おおかた、市原が謝り倒して、七海ちゃんは絆された……ってところか。
「雨も降っているし今日は泊まっていけよ」とかなんとか言われて、今ごろイチャついているんだろう。
「ま、別にいいけど」
口に出したものの、気持ちはイライラと落ち着かない。
俺はさっきの電話で「酒を買って、待っている」と言ったはずだ。
いくらただの同居人とはいえ、帰らないなら帰らないと連絡するべきじゃないのか?
起き上がって煙草をもみ消した俺は、胸糞の悪さを振り払うように未開封のボトルに手をかける。
そのとき――ちゃぶ台のスマホが振えた。
反射的にボトルを放り出し、画面に指を滑らせるが。
「……なんだ、英輔かよ」
英輔というのは、パチンコ仲間でもあり、この家の元住人。
七海ちゃんの兄貴が、こいつの妹と結婚して……つまり、俺たちが同居するきっかけを作った男だ。
「なんだとは、ご挨拶だな……元気にしてっか?」
「おかげさまで」
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「あっそ」
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「悪いな、取り込み中だ。また連絡するわ」
言い捨てて、勝手に通話を終わらせようとする俺に、英輔が妙なことを口走る。
「てことは、あの子……七海ちゃんだっけ? 彼女も一緒?」
「……いや、ひとりだけど」
なぜそんなことを?
訝しみながら答えると、英輔はとんでもないことを言った。
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