このたびゲスの極み上司に脅されまして

猫田けだま

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まさかの真相にガクブルです

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* * *

シトシト、シト――。


いつの間に降り始めたのだろう。雨の音がする。


「……す……はい……え、そんな」


誰かと会話をしているのだろうか。優しい水滴の調べに交じって、類さんの声が聞こえた。


「ええ、そうですね、俺も工藤さんと同じ意見です……はい」


電話――相手は工藤さんか。


それにしても温かい、ふかふかの布団と安心する匂い。目を開けなくても、類さんのベッドで眠っていることが分かった。
このまま眠っていたいけど、じわじわと意識がすくい上げられていく。


「実は、軽い過呼吸を起こして……いえ、今は治まっています」


私の話?……ああそうか、坂本さんのことを聞いて、息苦しくなったんだ。
霞みがかっていた頭の中に、眠る前の出来事が蘇る。と、同時に羞恥心が湧き上がってくる。


どうしよう、はっきりと覚えている訳ではないけど、醜態をさらしたのは間違いない。
カッと頬が熱くなり、布団の中に深く潜り込むと、衣擦れの音に気付いたのだろう。彼が近づいてくる足音がした。


「……七海ちゃん?」


ほんの小さな声で呼ばれる。
恥ずかしくてシーツの中で息を殺し続けていると、今度は足音が遠ざかって行く。


「いえ……昨日から気を張り続けていたんでしょう、よく眠っていますよ……はい、起きたら俺から説明します……それじゃあ、工藤さんも気を付けて」


カタン――。
スマートフォンをテーブルに置く音がする。続いて足音が近づいてきて、彼がベッドの端に座ったのが分かった。


「きついよなあ、どうしておまえばかり、こんな目に合うんだろうなあ」


掛け布団越しに聞こえた独り言。その声が酷く悲し気で、私まで切なくなった。
類さんの手が私の体を優しく叩く。ポンポン、ポンポンと、まるで子供を寝かしつけるみたいに。


心配……かけちゃったな。


同居して以来、類さんには迷惑ばかりかけている。
出ていくなんて宣言した癖に、泣き喚いて縋りついて、何処にも行かないで――なんて、恥ずかしくて、もう顔を見られない。


ギュッとシーツを掴んで、体を丸めると、ふと彼の手が止まった。


「……起きたのか?」


いつまでも寝たふりをしている訳にもいかない。
そろそろと掛け布団から顔を出すと、不安げに私を見下ろす彼の眼差しとぶつかった。


「あの……色々と――」
「具合は、苦しい所かないか?」


ご迷惑をおかけしました――という言葉は、彼の質問に遮られる。


「はい、お陰さまで、もうすっかり」


照れくさくて、どんな顔をしたらいか分からなかったから、ふにゃりと笑う。
すると彼は脱力したように項垂れて。


「ああ、よかった」


長く、深いため息を吐きだした。

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