このたびゲスの極み上司に脅されまして

猫田けだま

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事実は小説よりも

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* * *


その後、銀田一さんは坂本の元に戻り、更に話し合いを重ねてくれた。


警察沙汰になった以上、おそらく彼は病院を解雇される。
あの場では興奮していた坂本だったが、ようやくことの重大さに気が付いたのだろう。別人のように大人しくなり、二度と私に迷惑をかけないと約束してくれたそうだ。


もう怖くない……といえば嘘になる。
でも怖がっている暇はない。


今、考えるべきは、最後に残った最重要ミッション。クールンルン発表会までに、真相を世間に知らしめ、商品をヒットさせること――なんだけど。


「うーん、坂本の個人情報やゴシップを晒せないとなると……引けを取らないネタを用意……って、ないよなあ……」


パソコンの前でジュンピーさんが、深いため息をついた。


他の皆はそれぞれの自宅に帰ったので、今夜は私と類さんを含めた三人で、ちゃぶ台を囲んでいる。


「商品発表会まで、あと二日だっけ?」
「ああ、厳しいよな」


三人寄れば文殊の知恵、なんていうけれど、私たちは完全に煮詰まり切っていた。
類さんも腕を組み、眉間に皺を寄せる。


「発表会の日にちをずらす……っても、設楽もこれ以上、動けねえしなあ」


自宅謹慎中も、設楽さんたちチームの皆とは連絡を取り合っている。


幸い小森さんの会見のおかげで、商品自体は予定通り発売されることになった。
ただし発表会の中止や広告規模の縮小、大幅な減産調整など、上層部から様々な提案がなされているらしい。
それを設楽さんたちが、なんだかんだと理由をつけて、食い止めてくれているのだけど……これ以上の時間稼ぎは難しいだろう。


「暴露系ミューチューバ―のレゴ山くんと一緒に『女の嫉妬による卑劣な画策』みたいなタイトルで、ドーンと炎上させようと思ってたんだけどねえ」


それはあくまで、犯人が松本凛だったときの話だ。
ストーカー坂本を刺激しないように……となると、当然世間の注目も集めづらい。


実際、すでに関係者には真相を報告している。企画部のメンバーによって、社内にも広めてもらっている。
けれども、ストーカーの嫌がらせでした……という漠然とした情報だけでは、当事者に近いエデンパック社員の間でさえ、いまいち話題になっていないという。


人気者のジュンピーさんでも、当初の炎上を上回る火をつけ、一気に世間のイメージを覆すのは難しいだろう。


「例えばですけど、私がジュンピーさんの番組にお邪魔して、真実を訴えるっていうのは」
「ダメに決まってんだろ」


私の提案は、類さんにバッサリ切り捨てられる。


「うん、確かにインパクトはあるけと、坂本の反応が怖いよね」


ジュンピーさんもそれに同調し、いよいよ追い詰められた私たちの間に、重くるしい空気が流れた。


と、グループチャットに英輔さんからメッセージが入る。


英輔:大事件、これどういうこと?
   Vライバー、ピンキーちゃんの生配信!


メッセージに続いて、URLが貼られてくる。


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