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本編-ARIA-
第112話『Triangle』
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諸澄君が逮捕されたことにより、僕達も事情聴取を受けるために警視庁に行った。といっても、担当してくれたのは羽賀と浅野さんだったので気が楽だったけど。
事情聴取が終わり、美来や有紗さんと一緒に僕の家に帰ってこられたのは日が暮れてからのことだった。
とりあえず、まずはゆっくりと足を伸ばそうということで、僕は美来の紅茶と有紗さんのコーヒーを淹れる。
「何だか、ようやく一つの区切りを迎えることができた感じですね」
あれから、警察の取り調べで諸澄君は自分が『TKS』であることと、これまでやってきたことを認めた。
ただ、黒幕が逮捕されたことで、全てが元通りになるわけではない。今回の事件を通して、色々な爪跡が深く残ってしまった。
「懲戒解雇処分が撤回されればいいんだけれどな……」
「きっと大丈夫よ。無実として釈放されたし、黒幕も含めて真犯人も逮捕されたんだから。これで撤回されない方が世間から非難を浴びるんじゃない?」
「ど、どうでしょうね……」
無実であっても、一度は犯罪者として逮捕されてしまったんだ。釈放されたことにより、僕が会社にいた方がいいかどうか。メリットとデメリットを考慮して、処分を撤回するかどうかを決めるんだろうな。まだ2年目の人間だから、あっさりと切られる可能性もありそうだけど。
「ただ、こうしてまた3人でゆっくりすることができるようになって良かったです」
「それ、朝も言ってなかった?」
「言っていましたよね」
美来と有紗さんはクスクスと笑っている。
「2人は笑っていますけど、2日間も勾留されていたらこういった時間を過ごすことができることに幸せを感じるんです」
2人も2日間勾留されてみれば、僕の気持ちが分かるはずだと言ってしまいそうになってしまった。あの2日の間に、もう二度とこうした時間を過ごせないんじゃないかと思ったことは何度もあった。時間が経つに連れてそう思う頻度は増していった。
「仕事のことがどうなるかはさておき、しばらくの間はゆっくり休みたいです。みんなのおかげで僕は釈放され、世間にも無実であることが伝えることができましたけれど、身体的にも精神的にも結構きていて……」
弱い姿を見せてはまずいと思って、諸澄君と対峙するときは毅然とした態度を取っていたけれど。僕が逮捕された瞬間から、諸澄君が逮捕される瞬間までずっと心苦しくて辛い時間が続いた。
「それでも、美来と有紗さんのことを考えていたり、実際に顔を見たりしたときは、ちょっと心が軽くなりました。僕、本当に2人のことが好きなんだなって思いました」
他にも羽賀が捜査を担当し、できるだけ僕に会ってくれたというのもあるけど、美来や有紗さんのことを想うことに比べれば微々たるもので。
「初めて、智也さんが私のことを好きだと言ってくれました……」
「何だか、胸にキュンとくるね」
2人は、僕が好きだと口にしたことがとても嬉しかったみたいだ。そういえば、今まで好きだって言ったこと、一度もなかったんだな。
「今朝、有紗さんと一緒にお風呂に入っているとき、拘留中に気持ちは固まっていないと言いました。でも、2人のことは幾度となく考えていて、僕は特に2人に支えられているんだと思いました」
「支えられているのは私の方です。智也さんや有紗さんにはいじめのことで助けていただいて……2人がいなかったら、今、私はどうなっていたか分かりません」
「あたしだって、仕事では智也君に支えてもらっているし、美来ちゃんがいなかったら……こんなに智也君のことを考えていなかったと思う。好きにもなってなかったと思うよ。2人がいて良かったと思っているよ」
僕だけじゃなくて、美来も有紗さんも……支えてもらっていたと思っているのか。3人それぞれがお互いのことをこんなにも想っているのか。それがもしかしたら、愛するということなのかもしれない。
それが分かった今、これから話すことがより辛くなってしまうな。
でも、どのような決断をしても、2人にはきちんと伝えると約束したんだ。
僕自身もこの事件が解決したところで決断すると。僕の事情聴取が終わり、美来や有紗さんが事情聴取を受けている間に1人で考え、ようやく決断できた。どちらと人生を共に過ごすのか。
「……美来、有紗さん。これから……大切な話をしてもいいですか?」
僕はそう話を切り出した。
すると、美来と有紗さんは僕の言う「大切な話」が何なのか分かったようで、急に真剣な面持ちとなる。
「美来や有紗さんのおかげで、およそ1ヶ月間、とても素敵な時間になりました。美来のいじめ問題があったり、僕や羽賀が逮捕されたりしたこともありましたけど。それでも、2人とこうして一緒に過ごすことができて本当に良かったと思っています。2人は僕に好きだと言ってくれて、僕も2人のことが好きになって……」
美来と有紗さんの顔がゆらめいて見える。大事な話をしようとしているのに、僕が1人で泣いていては情けないだろう。
「2人が待っていてくれるって言ってくれて、僕も2人に真剣に向き合いたいと思いました。だから、僕は……今日、どちらと一緒に人生を過ごしていこうか決めました。それを今から2人に伝えたいんですけど、いいですか?」
大切な話だからこそ、2人には心の準備をしてほしい。
「私は大丈夫ですよ。有紗さんは?」
「あたしも大丈夫。どういう決断をしても、智也君の気持ちを聞けるのは嬉しい」
美来と有紗さんは僕の目をしっかりと見ながら、優しい笑みを浮かべていた。これなら伝えても大丈夫そうだ。
伝えよう。人生を共にすると決めた人の名を。
事情聴取が終わり、美来や有紗さんと一緒に僕の家に帰ってこられたのは日が暮れてからのことだった。
とりあえず、まずはゆっくりと足を伸ばそうということで、僕は美来の紅茶と有紗さんのコーヒーを淹れる。
「何だか、ようやく一つの区切りを迎えることができた感じですね」
あれから、警察の取り調べで諸澄君は自分が『TKS』であることと、これまでやってきたことを認めた。
ただ、黒幕が逮捕されたことで、全てが元通りになるわけではない。今回の事件を通して、色々な爪跡が深く残ってしまった。
「懲戒解雇処分が撤回されればいいんだけれどな……」
「きっと大丈夫よ。無実として釈放されたし、黒幕も含めて真犯人も逮捕されたんだから。これで撤回されない方が世間から非難を浴びるんじゃない?」
「ど、どうでしょうね……」
無実であっても、一度は犯罪者として逮捕されてしまったんだ。釈放されたことにより、僕が会社にいた方がいいかどうか。メリットとデメリットを考慮して、処分を撤回するかどうかを決めるんだろうな。まだ2年目の人間だから、あっさりと切られる可能性もありそうだけど。
「ただ、こうしてまた3人でゆっくりすることができるようになって良かったです」
「それ、朝も言ってなかった?」
「言っていましたよね」
美来と有紗さんはクスクスと笑っている。
「2人は笑っていますけど、2日間も勾留されていたらこういった時間を過ごすことができることに幸せを感じるんです」
2人も2日間勾留されてみれば、僕の気持ちが分かるはずだと言ってしまいそうになってしまった。あの2日の間に、もう二度とこうした時間を過ごせないんじゃないかと思ったことは何度もあった。時間が経つに連れてそう思う頻度は増していった。
「仕事のことがどうなるかはさておき、しばらくの間はゆっくり休みたいです。みんなのおかげで僕は釈放され、世間にも無実であることが伝えることができましたけれど、身体的にも精神的にも結構きていて……」
弱い姿を見せてはまずいと思って、諸澄君と対峙するときは毅然とした態度を取っていたけれど。僕が逮捕された瞬間から、諸澄君が逮捕される瞬間までずっと心苦しくて辛い時間が続いた。
「それでも、美来と有紗さんのことを考えていたり、実際に顔を見たりしたときは、ちょっと心が軽くなりました。僕、本当に2人のことが好きなんだなって思いました」
他にも羽賀が捜査を担当し、できるだけ僕に会ってくれたというのもあるけど、美来や有紗さんのことを想うことに比べれば微々たるもので。
「初めて、智也さんが私のことを好きだと言ってくれました……」
「何だか、胸にキュンとくるね」
2人は、僕が好きだと口にしたことがとても嬉しかったみたいだ。そういえば、今まで好きだって言ったこと、一度もなかったんだな。
「今朝、有紗さんと一緒にお風呂に入っているとき、拘留中に気持ちは固まっていないと言いました。でも、2人のことは幾度となく考えていて、僕は特に2人に支えられているんだと思いました」
「支えられているのは私の方です。智也さんや有紗さんにはいじめのことで助けていただいて……2人がいなかったら、今、私はどうなっていたか分かりません」
「あたしだって、仕事では智也君に支えてもらっているし、美来ちゃんがいなかったら……こんなに智也君のことを考えていなかったと思う。好きにもなってなかったと思うよ。2人がいて良かったと思っているよ」
僕だけじゃなくて、美来も有紗さんも……支えてもらっていたと思っているのか。3人それぞれがお互いのことをこんなにも想っているのか。それがもしかしたら、愛するということなのかもしれない。
それが分かった今、これから話すことがより辛くなってしまうな。
でも、どのような決断をしても、2人にはきちんと伝えると約束したんだ。
僕自身もこの事件が解決したところで決断すると。僕の事情聴取が終わり、美来や有紗さんが事情聴取を受けている間に1人で考え、ようやく決断できた。どちらと人生を共に過ごすのか。
「……美来、有紗さん。これから……大切な話をしてもいいですか?」
僕はそう話を切り出した。
すると、美来と有紗さんは僕の言う「大切な話」が何なのか分かったようで、急に真剣な面持ちとなる。
「美来や有紗さんのおかげで、およそ1ヶ月間、とても素敵な時間になりました。美来のいじめ問題があったり、僕や羽賀が逮捕されたりしたこともありましたけど。それでも、2人とこうして一緒に過ごすことができて本当に良かったと思っています。2人は僕に好きだと言ってくれて、僕も2人のことが好きになって……」
美来と有紗さんの顔がゆらめいて見える。大事な話をしようとしているのに、僕が1人で泣いていては情けないだろう。
「2人が待っていてくれるって言ってくれて、僕も2人に真剣に向き合いたいと思いました。だから、僕は……今日、どちらと一緒に人生を過ごしていこうか決めました。それを今から2人に伝えたいんですけど、いいですか?」
大切な話だからこそ、2人には心の準備をしてほしい。
「私は大丈夫ですよ。有紗さんは?」
「あたしも大丈夫。どういう決断をしても、智也君の気持ちを聞けるのは嬉しい」
美来と有紗さんは僕の目をしっかりと見ながら、優しい笑みを浮かべていた。これなら伝えても大丈夫そうだ。
伝えよう。人生を共にすると決めた人の名を。
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