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本編
第3話『"フラれた"パンデミック』
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「あたし、高嶺結衣ちゃんのことが好きです! あたしと付き合ってくれませんか?」
「……ごめんなさい。あなたと付き合うことはできません」
5月9日、木曜日。
今日も登校すると、1年2組の教室がある第2教室棟の昇降口前で、高嶺さんが告白されていた。その様子を多くの生徒が見守っている。高嶺さんの近くには友人の伊集院さんの姿が。
ただし、昨日と違って告白しているのは女子生徒。男子ほどではないけど、女子から告白されるところも定期的に目撃する。過去には、高嶺さんは後輩なのに、上級生の女子から『お姉様』と呼ばれていたことも。好きだと学年関係なくそう呼びたくなるのだろうか。何にせよ、高嶺さんの人気は凄まじい。
俺……そんな高嶺さんから、昨日の放課後に告白されたんだよな。未だに信じられない気持ちがあって。ただ、俺の匂いを獣の如く堪能する様は恐かったので、夢であってほしいという気持ちも正直ある。
「どうしてですか? 好きな人がいるって聞きましたけど、それが理由ですか?」
「はい。とても好きな人がいます」
「……そうですか。その人よりも、あたしのことを好きになってくれる確率はありますか?」
「たぶんないと思います。実は昨日、その好きな人に告白してフラれたんです。でも、その人は恋人も好きな人もいなくて。だから、その人に好きになってもらえるように頑張ろうと決意したんです。そう思えるほどに、その人のことが好きです。こんなわがままな理由で断ってしまって、本当にごめんなさい」
高嶺さんは告白してきた女子生徒に深く頭を下げる。
どうやら、昨日の放課後の告白は夢じゃなくて本当にあったことのようだ。小さくため息をついた。
フラれてしまった女子生徒は高嶺さんの手をぎゅっと掴み、
「高嶺さんにフラれたのはショックです。でも、高嶺さんの笑顔があたしは大好きです。ですから、高嶺さんが好きな人と付き合えるように応援しますね!」
涙を浮かべながらも、笑顔でそう言ったのだ。フラれたのに応援できるとは。高嶺さんがとても好きだからこそできるのだろう。
「ありがとう」
高嶺さんは優しい声でそう伝えた。それもあってか、告白が失敗する一幕ではあったけど、周りにいた生徒の多くが2人に向けて拍手を送っていた。これも、高嶺さんの人気の高さや人望の厚さがあるからこそ生み出される光景だろう。正直、これは凄いと思った。
ただ、そんなほのぼのとした空気はすぐに一変する。
「あの高嶺さんがついに告白したの? しかもフラれたなんて!」
「高嶺さんの好きな人……相当な変人かひねくれ者だよね。あの高嶺さんを振るなんて」
「どこのどいつだ! 女子なら許すけど、男子なら許さねえ! でも、高嶺さんは今でも好きみたいだし、男子でもボコボコにはできねえ……」
「こっそりとやっちまえばいいんじゃないか?」
「……それならいいか」
俺、今日からまともに学校生活を送ることができるのかどうか不安になってきた。こういう形で高嶺さんの人気の高さを実感したくなかったな。
気付けば、渦中の人である高嶺さんの姿が見えなくなっていた。伊集院さんと一緒に校舎に入って、教室へ向かったのだろうか。
「行くしかないな」
俺は高嶺さんのクラスメイトであり、友達なんだ。高嶺さんのいる1年2組の教室に行こう。そう決意して校舎に向かって歩みを再開した。
高嶺さんが好きな人にフラれたのを話してから2、3分も経っていないのに、校舎の中に入ると高嶺さんについて話す生徒が多い。
「あの高嶺さんがフラれるとは」
「彼女も俺達と同じ人間なんだな。でも、信じられないな」
大半は「高嶺さんがフラれるなんて信じられない」「振った奴の気が知れない」といった内容だった。高嶺さんの人気が絶対的なものであると改めて実感する。
ただ、中には、
「いい気味だわ」
「ざまあみろって感じだよね。たくさん告白されていい気になってるから、好きな人にフラれちゃったんじゃない?」
高嶺さんがフラれたことを喜ぶ生徒もいた。いくら人気があっても、全ての人に好かれるのは不可能だ。こういう生徒もいるだろう。そして、
「あぁ、やっぱり低変人さんの最新曲『刹那』は何度聴いてもいいなぁ」
「『刹那』もいいよな。俺は処女作の『桜吹雪』が一番好きだな。桜の季節は過ぎたけど連休中はたくさん聴いた」
「俺も桜の時期にはよく聴くぜ! 今年公開された『桜吹雪2』も好きだ。低変人さんっていい曲がたくさんあるよな」
高嶺さんの話はせず、マイペースに好きな話題で盛り上がる生徒もいた。
生徒達の様子を見ていき、俺はついに1年2組の教室へ辿り着く。
中をこっそりと覗いてみると……高嶺さんがいた。伊集院さんなど数人の女子生徒と一緒に、自分の席で楽しくお喋りしている。そんな高嶺さんを、教室の中にいる生徒の多くが見ていた。さっきの高嶺さんの一件もあってか、普段よりもざわついている。
教室に入ると、いつも通り誰にも相手にされずに自分の席へと辿り着き、席に座る。一昨日の席替えで窓側の一番後ろになったけど、本当にいい席だ。
「あっ、悠真君! おはよう!」
その一言で、教室の中のざわめきがピタッと止まる。
高嶺さんは可愛らしい笑顔でこちらに向かってくる。
周りを見ると、教室の中にいる生徒達のほぼ全員が俺の方を見ていて。好意的な様子と言えるのは、高嶺さんの友人の伊集院さんくらいだ。こんなにも多くの生徒から自分に注目が集まるのは2年ぶりかもしれない。当時のことを思い出し、息が詰まる。
みんな、俺を見て「高嶺さんを振ったのはこいつか?」と思っていることだろう。今は高嶺さんだけを見ていよう。
「おはよう、高嶺さん」
「おはよう、悠真君」
高嶺さんは俺の目の前に立つと、ニッコリとした笑顔を見せてくる。それもあって、昨日の告白を思い出す。
「今日も悠真君に話せて嬉しいな。ねえ、悠真君。今日の昼休み、一緒にお昼ご飯を食べてもいいかな? いつも通りに過ごしたいなら、それでもかまわないけど。もしそうなら、ほんの少しでもいいから時間をくれないかな」
高嶺さんは両手を合わせて、申し訳なさそうな様子でそう言ってきた。
「……分かった。今日は昼ご飯を一緒に食べるか」
普段はアニメの配信や、好きな音楽のMVを見ているけれど、それは家でも楽しめるし。
すると、高嶺さんはぱあっ、と明るい笑みを浮かべ、
「ありがとう! 約束だよ!」
と言って伊集院さん達のところへと戻っていった。
おそらく、このやり取りで「高嶺さんに告白され、振った相手は低田悠真である」ということが知られてしまっただろう。これから、色々と面倒な目に遭いそうな気がする。
「おい、低田。ちょっと話を聞かせてくれよ」
さっそく面倒臭いことになりそうだ。
気付けば、俺の近くには茶髪のイケメン男子生徒が立っていた。クラスメイトで、確か高橋とかありふれた苗字だった気がする。不機嫌そうな表情だ。
「さっき高嶺さんがフラれたって噂を聞いたんだけど、その相手ってお前かよ、低田」
低い声色で高橋が問いかける。やっぱり、高嶺さんのことを訊くのか。思わずため息が出てしまう。
「……そうだ。昨日の放課後に高嶺さんに告白されて、その場で振った」
正直に答えたからか、周りが再びざわつき始める。
「低田、お前……何様のつもりだよ。学校中で人気の高嶺さんが、隅っこがお似合いのお前に告白したんだぜ? 底辺らしく有り難く受け入れろよ。そもそも、高嶺さんが俺の告白を振って、低田なんかを好きになるのが意味不明だけどな」
あははっ、と高橋は嘲笑う。まったく、黙って聞いていればいい気になりやがって。
「高橋は器の小さい人間だな」
「はあ? 低田のくせに何言ってるんだよ」
「そういう舐めた態度を取っているんだから、反論される覚悟を持て。昨日、高嶺さんにも言ったけど、俺は高嶺さんと付き合いたいと思うほどの好意は抱いていない。だから、振ったんだ。そんな俺の返答を高嶺さんは受け入れた。それを知って、どんな感想を心に抱いても自由だ。ただ、それを俺や高嶺さんに言わないでくれ。鬱陶しい」
「何だと……!」
「それよりも、俺を好きになった高嶺さんを嘲笑ったことの方が許せない」
俺は高橋のことを睨み、
「高嶺さんに告白された俺に対する嫉妬か? それとも、自分を振った高嶺さんに対する復讐か? 高嶺さんの恋を馬鹿にして。しかも、高嶺さんの見えるところ、聞こえるところで。俺はそういうことをする人間が大嫌いだし許せないんだ!」
彼に向かって大きな声で言った。そうしたのは、彼と同じようなことを考えている生徒が他にもいるかもしれないと思ったからだ。
個人的に、誰かの恋について大勢の前で馬鹿にして笑うことは、特に悪質な行為の一つだと思っている。
俺がこんな反応をするのが予想外だったのか、高橋はそれまでの馬鹿にした様子はすっかりと消え、怯えていた。
「悠真君……」
高嶺さんは赤くなった頬に両手を添え、うっとりとした様子で俺のことを見る。そんな高嶺さんを見て気持ちが落ち着いた。
「高嶺さん本人の前で嘲笑ったんだ。これから誰に何をすべきか分かるよな? 高校生になったんだから」
俺がそう言うと、高橋は素直に従って高嶺さんのところへと向かい、
「ひ……低田の言う通り、前に高嶺さんにフラれたから嫉妬や復讐の気持ちがあった。あんなことを言って本当にすまない」
高嶺さんに向かって深く頭を下げた。
すると、高嶺さんは怒るどころか落ち着いた笑みを浮かべる。
「一応、あなたの謝罪は受け取ったよ。でも、私以外にもう1人、謝る相手がいるんじゃない?」
「……ああ」
高橋は俺の目の前までやってきて、
「さっきはあんなことを言ってすまなかった」
高嶺さんのときほどではないけど、しっかり頭を下げてきた。
「……俺も一応、謝罪は受け取った。ただ、許すつもりは全くない。授業とかやむを得ない場合以外は一切関わらないでくれ」
俺がそう言うと、高橋の顔色が悪くなり始める。
「私も許さない。私の好きな悠真君に対してあそこまで見下した態度を取ったからね。私の恋も馬鹿にされちゃったしね。みんなも覚えておいて。悠真君の言う通り、心の中では何を思ってもいいよ。でも、口に出すときは気を付けて。あと、低田悠真君という私の好きな人を傷つけないで。お願いします」
高嶺さんがそう言って頭を下げると、クラスの中は自然と静かになっていった。こうなるのも、言ったのが高嶺さんだからなのだろう。
高嶺さんも高橋のことを許さないか。俺はその考えを指示するぜ。高嶺さんと目が合うと、一度頷き合った。
「低田君と高嶺さんの言う通りね」
その言葉が聞こえた次の瞬間、黒いスーツ姿の女性教師・福王寺杏樹先生が、ハーフアップの銀髪を揺らしながら教室の中に入ってきた。
福王寺先生はこの1年2組の担任で、数学Ⅰと数学Aを担当している。長身でスタイルが良く、端整な顔立ち、クールで厳しい一面があるけど、男女問わず人気がある。中には告白してフラれる生徒も。
「心で思うことは自由。自分の中だけだから。でも、口に出した瞬間、誰かに影響を及ぼす可能性が生まれる。それを考えられるようになるといいわね。私も教師として気を付けなければいけないわ。さあ、みんな自分の席に着きなさい。朝礼を始めるわよ」
福王寺先生のその一言で、教室の中にいたクラスメイトは自分の席に座る。それによって、普段と違っていた教室内の空気が少しずつ元に戻っていった。
一時はどうなるかと思ったけど、高嶺さんのおかげで平穏な学校生活を送ることができそうだ。
「……ごめんなさい。あなたと付き合うことはできません」
5月9日、木曜日。
今日も登校すると、1年2組の教室がある第2教室棟の昇降口前で、高嶺さんが告白されていた。その様子を多くの生徒が見守っている。高嶺さんの近くには友人の伊集院さんの姿が。
ただし、昨日と違って告白しているのは女子生徒。男子ほどではないけど、女子から告白されるところも定期的に目撃する。過去には、高嶺さんは後輩なのに、上級生の女子から『お姉様』と呼ばれていたことも。好きだと学年関係なくそう呼びたくなるのだろうか。何にせよ、高嶺さんの人気は凄まじい。
俺……そんな高嶺さんから、昨日の放課後に告白されたんだよな。未だに信じられない気持ちがあって。ただ、俺の匂いを獣の如く堪能する様は恐かったので、夢であってほしいという気持ちも正直ある。
「どうしてですか? 好きな人がいるって聞きましたけど、それが理由ですか?」
「はい。とても好きな人がいます」
「……そうですか。その人よりも、あたしのことを好きになってくれる確率はありますか?」
「たぶんないと思います。実は昨日、その好きな人に告白してフラれたんです。でも、その人は恋人も好きな人もいなくて。だから、その人に好きになってもらえるように頑張ろうと決意したんです。そう思えるほどに、その人のことが好きです。こんなわがままな理由で断ってしまって、本当にごめんなさい」
高嶺さんは告白してきた女子生徒に深く頭を下げる。
どうやら、昨日の放課後の告白は夢じゃなくて本当にあったことのようだ。小さくため息をついた。
フラれてしまった女子生徒は高嶺さんの手をぎゅっと掴み、
「高嶺さんにフラれたのはショックです。でも、高嶺さんの笑顔があたしは大好きです。ですから、高嶺さんが好きな人と付き合えるように応援しますね!」
涙を浮かべながらも、笑顔でそう言ったのだ。フラれたのに応援できるとは。高嶺さんがとても好きだからこそできるのだろう。
「ありがとう」
高嶺さんは優しい声でそう伝えた。それもあってか、告白が失敗する一幕ではあったけど、周りにいた生徒の多くが2人に向けて拍手を送っていた。これも、高嶺さんの人気の高さや人望の厚さがあるからこそ生み出される光景だろう。正直、これは凄いと思った。
ただ、そんなほのぼのとした空気はすぐに一変する。
「あの高嶺さんがついに告白したの? しかもフラれたなんて!」
「高嶺さんの好きな人……相当な変人かひねくれ者だよね。あの高嶺さんを振るなんて」
「どこのどいつだ! 女子なら許すけど、男子なら許さねえ! でも、高嶺さんは今でも好きみたいだし、男子でもボコボコにはできねえ……」
「こっそりとやっちまえばいいんじゃないか?」
「……それならいいか」
俺、今日からまともに学校生活を送ることができるのかどうか不安になってきた。こういう形で高嶺さんの人気の高さを実感したくなかったな。
気付けば、渦中の人である高嶺さんの姿が見えなくなっていた。伊集院さんと一緒に校舎に入って、教室へ向かったのだろうか。
「行くしかないな」
俺は高嶺さんのクラスメイトであり、友達なんだ。高嶺さんのいる1年2組の教室に行こう。そう決意して校舎に向かって歩みを再開した。
高嶺さんが好きな人にフラれたのを話してから2、3分も経っていないのに、校舎の中に入ると高嶺さんについて話す生徒が多い。
「あの高嶺さんがフラれるとは」
「彼女も俺達と同じ人間なんだな。でも、信じられないな」
大半は「高嶺さんがフラれるなんて信じられない」「振った奴の気が知れない」といった内容だった。高嶺さんの人気が絶対的なものであると改めて実感する。
ただ、中には、
「いい気味だわ」
「ざまあみろって感じだよね。たくさん告白されていい気になってるから、好きな人にフラれちゃったんじゃない?」
高嶺さんがフラれたことを喜ぶ生徒もいた。いくら人気があっても、全ての人に好かれるのは不可能だ。こういう生徒もいるだろう。そして、
「あぁ、やっぱり低変人さんの最新曲『刹那』は何度聴いてもいいなぁ」
「『刹那』もいいよな。俺は処女作の『桜吹雪』が一番好きだな。桜の季節は過ぎたけど連休中はたくさん聴いた」
「俺も桜の時期にはよく聴くぜ! 今年公開された『桜吹雪2』も好きだ。低変人さんっていい曲がたくさんあるよな」
高嶺さんの話はせず、マイペースに好きな話題で盛り上がる生徒もいた。
生徒達の様子を見ていき、俺はついに1年2組の教室へ辿り着く。
中をこっそりと覗いてみると……高嶺さんがいた。伊集院さんなど数人の女子生徒と一緒に、自分の席で楽しくお喋りしている。そんな高嶺さんを、教室の中にいる生徒の多くが見ていた。さっきの高嶺さんの一件もあってか、普段よりもざわついている。
教室に入ると、いつも通り誰にも相手にされずに自分の席へと辿り着き、席に座る。一昨日の席替えで窓側の一番後ろになったけど、本当にいい席だ。
「あっ、悠真君! おはよう!」
その一言で、教室の中のざわめきがピタッと止まる。
高嶺さんは可愛らしい笑顔でこちらに向かってくる。
周りを見ると、教室の中にいる生徒達のほぼ全員が俺の方を見ていて。好意的な様子と言えるのは、高嶺さんの友人の伊集院さんくらいだ。こんなにも多くの生徒から自分に注目が集まるのは2年ぶりかもしれない。当時のことを思い出し、息が詰まる。
みんな、俺を見て「高嶺さんを振ったのはこいつか?」と思っていることだろう。今は高嶺さんだけを見ていよう。
「おはよう、高嶺さん」
「おはよう、悠真君」
高嶺さんは俺の目の前に立つと、ニッコリとした笑顔を見せてくる。それもあって、昨日の告白を思い出す。
「今日も悠真君に話せて嬉しいな。ねえ、悠真君。今日の昼休み、一緒にお昼ご飯を食べてもいいかな? いつも通りに過ごしたいなら、それでもかまわないけど。もしそうなら、ほんの少しでもいいから時間をくれないかな」
高嶺さんは両手を合わせて、申し訳なさそうな様子でそう言ってきた。
「……分かった。今日は昼ご飯を一緒に食べるか」
普段はアニメの配信や、好きな音楽のMVを見ているけれど、それは家でも楽しめるし。
すると、高嶺さんはぱあっ、と明るい笑みを浮かべ、
「ありがとう! 約束だよ!」
と言って伊集院さん達のところへと戻っていった。
おそらく、このやり取りで「高嶺さんに告白され、振った相手は低田悠真である」ということが知られてしまっただろう。これから、色々と面倒な目に遭いそうな気がする。
「おい、低田。ちょっと話を聞かせてくれよ」
さっそく面倒臭いことになりそうだ。
気付けば、俺の近くには茶髪のイケメン男子生徒が立っていた。クラスメイトで、確か高橋とかありふれた苗字だった気がする。不機嫌そうな表情だ。
「さっき高嶺さんがフラれたって噂を聞いたんだけど、その相手ってお前かよ、低田」
低い声色で高橋が問いかける。やっぱり、高嶺さんのことを訊くのか。思わずため息が出てしまう。
「……そうだ。昨日の放課後に高嶺さんに告白されて、その場で振った」
正直に答えたからか、周りが再びざわつき始める。
「低田、お前……何様のつもりだよ。学校中で人気の高嶺さんが、隅っこがお似合いのお前に告白したんだぜ? 底辺らしく有り難く受け入れろよ。そもそも、高嶺さんが俺の告白を振って、低田なんかを好きになるのが意味不明だけどな」
あははっ、と高橋は嘲笑う。まったく、黙って聞いていればいい気になりやがって。
「高橋は器の小さい人間だな」
「はあ? 低田のくせに何言ってるんだよ」
「そういう舐めた態度を取っているんだから、反論される覚悟を持て。昨日、高嶺さんにも言ったけど、俺は高嶺さんと付き合いたいと思うほどの好意は抱いていない。だから、振ったんだ。そんな俺の返答を高嶺さんは受け入れた。それを知って、どんな感想を心に抱いても自由だ。ただ、それを俺や高嶺さんに言わないでくれ。鬱陶しい」
「何だと……!」
「それよりも、俺を好きになった高嶺さんを嘲笑ったことの方が許せない」
俺は高橋のことを睨み、
「高嶺さんに告白された俺に対する嫉妬か? それとも、自分を振った高嶺さんに対する復讐か? 高嶺さんの恋を馬鹿にして。しかも、高嶺さんの見えるところ、聞こえるところで。俺はそういうことをする人間が大嫌いだし許せないんだ!」
彼に向かって大きな声で言った。そうしたのは、彼と同じようなことを考えている生徒が他にもいるかもしれないと思ったからだ。
個人的に、誰かの恋について大勢の前で馬鹿にして笑うことは、特に悪質な行為の一つだと思っている。
俺がこんな反応をするのが予想外だったのか、高橋はそれまでの馬鹿にした様子はすっかりと消え、怯えていた。
「悠真君……」
高嶺さんは赤くなった頬に両手を添え、うっとりとした様子で俺のことを見る。そんな高嶺さんを見て気持ちが落ち着いた。
「高嶺さん本人の前で嘲笑ったんだ。これから誰に何をすべきか分かるよな? 高校生になったんだから」
俺がそう言うと、高橋は素直に従って高嶺さんのところへと向かい、
「ひ……低田の言う通り、前に高嶺さんにフラれたから嫉妬や復讐の気持ちがあった。あんなことを言って本当にすまない」
高嶺さんに向かって深く頭を下げた。
すると、高嶺さんは怒るどころか落ち着いた笑みを浮かべる。
「一応、あなたの謝罪は受け取ったよ。でも、私以外にもう1人、謝る相手がいるんじゃない?」
「……ああ」
高橋は俺の目の前までやってきて、
「さっきはあんなことを言ってすまなかった」
高嶺さんのときほどではないけど、しっかり頭を下げてきた。
「……俺も一応、謝罪は受け取った。ただ、許すつもりは全くない。授業とかやむを得ない場合以外は一切関わらないでくれ」
俺がそう言うと、高橋の顔色が悪くなり始める。
「私も許さない。私の好きな悠真君に対してあそこまで見下した態度を取ったからね。私の恋も馬鹿にされちゃったしね。みんなも覚えておいて。悠真君の言う通り、心の中では何を思ってもいいよ。でも、口に出すときは気を付けて。あと、低田悠真君という私の好きな人を傷つけないで。お願いします」
高嶺さんがそう言って頭を下げると、クラスの中は自然と静かになっていった。こうなるのも、言ったのが高嶺さんだからなのだろう。
高嶺さんも高橋のことを許さないか。俺はその考えを指示するぜ。高嶺さんと目が合うと、一度頷き合った。
「低田君と高嶺さんの言う通りね」
その言葉が聞こえた次の瞬間、黒いスーツ姿の女性教師・福王寺杏樹先生が、ハーフアップの銀髪を揺らしながら教室の中に入ってきた。
福王寺先生はこの1年2組の担任で、数学Ⅰと数学Aを担当している。長身でスタイルが良く、端整な顔立ち、クールで厳しい一面があるけど、男女問わず人気がある。中には告白してフラれる生徒も。
「心で思うことは自由。自分の中だけだから。でも、口に出した瞬間、誰かに影響を及ぼす可能性が生まれる。それを考えられるようになるといいわね。私も教師として気を付けなければいけないわ。さあ、みんな自分の席に着きなさい。朝礼を始めるわよ」
福王寺先生のその一言で、教室の中にいたクラスメイトは自分の席に座る。それによって、普段と違っていた教室内の空気が少しずつ元に戻っていった。
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