高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

文字の大きさ
31 / 279
本編

第30話『この上ない場所』

しおりを挟む
 5月15日、水曜日。
 昨日とは違い、朝からずっと青空が広がっている。再び暖かい気候になった。寒いよりかはよっぽどいい。
 今日も登校時に、昇降口前で高嶺さんが告白されているところを見た。もちろん、高嶺さんはその告白を断った。すっかりと見慣れた光景になったのに、少し胸がざわつく。この1週間で、高嶺さんと一緒にいる時間が急に増えたからだろうか。
 告白を遠くから見届けた後、俺は1人で1年2組の教室へ向かう。ただ、その途中で、

「あっ、低田君」

 女子用のお手洗いから出てきた華頂さんと出くわした。華頂さんにとっても予想外のことだったのか、華頂さんは見開いた目で俺を見ている。
 昨日の放課後に、告白された場面を見たり、高嶺さんに2年前の話をしたりしたから何だか気まずいな。華頂さんを直視しづらい。

「おはよう」

 華頂さんは微笑みながら挨拶してくれた。
 2年前の嘘告白があってから、中学を卒業するまでは今のような挨拶さえもしなかった。それを考えれば、今は結構マシになったと思える。
 俺は華頂さんの目をしっかりと見る。

「おはよう、華頂さん」
「……うん、おはよう」

 微笑む華頂さんの顔がほんのりと赤く色づいた。
 俺は華頂さんと一緒に、お手洗いから1年3組までの僅かな道のりを歩く。

「あ、あのっ! 低田君!」

 普段よりも大きな声で俺の名前を呼ぶと、華頂さんは緊張しい様子で立ち止まった。もしかして、昨日の放課後について話したいことがあるのかな。

「きょ、今日も授業頑張ってね! またね!」

 華頂さんは小走りで1年3組の教室に入ってしまった。
 俺に何か話したいことがあったように見えたけど、華頂さんの後を追いかけてまで訊く勇気はなかった。中学のときに連絡先は交換したけど、スマホで訊く勇気もない。そもそも、俺の持っている華頂さんの連絡先が現役なのかも分からないし。
 1年2組の教室に到着すると、高嶺さんと伊集院さんが俺のところにやってくる。高嶺さんはとっても嬉しそうだ。

「おはよう、悠真君!」
「おはようございます、低田君」
「……おはよう。高嶺さん、伊集院さん」

 昨日の放課後に2年前の話をしたからか、こうしてクラスメイトが自ら挨拶してくれるのが嬉しい。あと、高嶺さんが俺に笑顔を向けてくれることにほっとする自分がいた。


 昼休み。
 今日も高嶺さんと伊集院さんと一緒にお昼ご飯を食べるんだろう。そう思いながら、弁当と水筒を机の上に出したときだった。

「悠真君。今日は天気がいいし、屋上でお昼ご飯を食べようよ!」
「……うちの高校って屋上に行けるんだ。初めて知った」
「昼休みと放課後だけだけどね」

 てっきり、屋上に行ける高校は創作の中にしかないと思っていた。ただ、思い返してみると、芹花姉さんが在学中に、屋上で友達とお昼ご飯を食べたと言っていた気がする。

「来月には梅雨になってしまいますし、今を逃したら、外で気持ち良く食べられる時期は1学期の間にはないと思うのです。胡桃も誘っているので、4人で食べましょう?」
「華頂さんも一緒なのか。……分かった。今日は屋上で食べるか」

 高嶺さんと伊集院さんも一緒なら、華頂さんとお昼ご飯を食べても大丈夫か。
 俺は弁当と水筒を持ち、高嶺さんと伊集院さんと一緒に教室を後にする。
 教室を出たところにランチバッグを持った華頂さんが待っていた。華頂さんは可愛らしい笑みを浮かべながら小さく手を振る。その際、俺のことはチラッと見る程度だった。
 3人と一緒に第2教室棟の屋上に行くと、そこにはベンチやテーブルなど、生徒や職員がくつろげる施設がしっかりと備わっていた。だからか、生徒がちらほらといるな。

「あぁ、陽差しと風が気持ちいい!」
「絶好のお弁当日和なのです」
「そうだね! ここからでもいい景色が見られるし、お昼ご飯を食べるにはこの上ない場所だよね! 屋上だけに」
「ふふっ、結衣ちゃん上手だね」

 華頂さんは上品に笑う。
 屋上だからこの上ない……か。そこまで面白くはないけど、高嶺さんらしいギャグだと感心した。
 テーブルは全て埋まっていたので、俺達はベンチに座ってお昼ご飯を食べることに。華頂さん、俺、高嶺さん、伊集院さんという並びで座る。

「あっ! バッグに水筒ない。どうりで軽いと思ったよ」
「……普通、もっと早く気付かないのですか?」
「うっかりしちゃった。お財布はあるし、せっかくだから自販機で買おうかな。姫奈ちゃん、ついてきてくれない?」
「仕方ないのです。胡桃と低田君、何か飲みたいものがあれば買ってくるのですよ」
「俺はいいよ、水筒あるし」
「あたしも。2人ともいってらっしゃい」
「うん! 先に食べ始めていいからね!」

 高嶺さんと伊集院さんは飲み物を買いに屋上を後にする。その際、高嶺さんはこちらを向いてウインクをした。どういうことだろう。
 それにしても、華頂さんと2人きりか。昨日の放課後に告白された場面を見ていたこともあって、緊張するし気まずいな。

「……た、高嶺さんがいいって言っていたから、先にお昼ご飯を食べ始めるか」
「……その前に低田君に話したいことがあるんだけど、いいかな?」

 そう言われたので、弁当箱の蓋を開けるのを止める。
 華頂さんの方を見ると、華頂さんは真剣な表情をして俺を見つめてくる。

「……2年前。あたしが嘘の告白したことを謝りたくて」
「……もしかして、高嶺さんに謝れって言われたのか? 実は昨日の放課後、高嶺さんにそのことを話したから、それで……」

 さっきのウインクが、謝れというサインだったのだろうか。

「ううん、違うよ。あたしから結衣ちゃんに頼んだの。その……低田君に謝りたいから、2人きりで話せる時間を作ってくれないかって。結衣ちゃんなら、低田君もあたしも一緒にいる機会を作りやすいし。あと、飲み物を忘れたっていう口実で、あたし達を2人きりにする状況を作るのは、結衣ちゃんのアイデアなの」
「そうだったのか」

 さっきの飲み物の件はわざとなのか。高嶺さんから2年前の話を聞いているかどうかはともかく、伊集院さんもきっと、華頂さんが俺と2人きりで話したいことがあるのは知っているだろう。

「昨日、告白を断ったときに見えた低田君の切なそうな様子が気になって。だから、昨日の夜、一緒にいた結衣ちゃんに訊いてみたの。あの後、低田君はどんな感じだったのか。結衣ちゃんの話によると、あの後、結衣ちゃんと家に帰って、2年前のことを話したそうだね」
「……告白を断った場面を見たとき、将野さんから嘘の告白だって嘲笑われたことと、華頂さんが凄く申し訳なさそうに、ごめんって言ってくれたことを思い出したんだ。だから、胸が苦しくなって」
「……そうだったんだね」

 そう呟くと、華頂さんはあのときと同じく申し訳なさそうな表情になり、両眼には涙を浮かべる。そんな華頂さんを見ると、昨日ほどではないけど心苦しくなる。

「ごめん。あたし、泣いちゃいけないのに……」
「気にするな。それに、その涙は……嘘じゃないだろう?」

 2人きりになってからの華頂さんの言葉も表情も、嘘じゃないと信じている。2年前のあのとき、嘲笑う声の中で聞こえた『ごめん』って言葉も。
 華頂さんは右手で涙を拭う。

「あのとき、『ごめん』って言ったけど、改めて謝りたくて。でも、低田君にどんな反応されるか恐くて。もし、謝ることができても、それを美玲ちゃん達に知られたら何をされるのか恐くて。臆病なあたしは結局何もできなかった。中学を卒業するまで、声を交わすことすらほとんどできなかった。それが心苦しくて」

 華頂さんは将野さんがリーダーのグループに入っていた。だから、嘘の告白について俺に謝罪することは、グループに造反するとも言える。そのことで、リーダーの将野さんやグループのメンバーからどんな罰を受けるのかが恐かったのだろう。

「それでも、高校生になったら、少しずつだけど話すようになったよな」
「うちの高校に美玲ちゃんがいないしね。入学したのをいい機会に、少しずつ状況を変えようと思って。そのためには、まずは挨拶するのがいいと思って。だから、入学式の日に低田君に声をかけたの。そのとき、低田君が返事をしてくれたのが嬉しかった。バイト中に会ったときは、お互いに頑張ってって言い合えるようになったことも嬉しくて」

 そう言う華頂さんの口角は上がっているから、今の言葉が本当なのが分かった。
 高校に入学した日、華頂さんから声をかけられて、今までと違う時間が流れ始めたと思った。それは華頂さんの勇気のおかげだったんだ。あのとき、きっと俺からは挨拶できなかったと思うから。

「連休が明けて、結衣ちゃんと姫奈ちゃんが低田君と楽しそうに話しているのを見ていいな……って。あたしも、隣同士の席になったとき、低田君と話したのが楽しかったから。そのためにも、まずはちゃんと謝らないといけないって思ったの」

 華頂さんは再び真剣な様子になって俺のことを見つめてくる。

「2年前。嘘の告白をして、低田君を傷つけてしまってごめんなさい」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

処理中です...