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本編
第31話『優しいあの子』
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――2年前、嘘の告白をして、低田君を傷つけてしまってごめんなさい。
しっかりとした口調で言うと、華頂さんは俺に向かって深く頭を下げた。
それまでは周りの生徒も全然気にしていない様子だったけど、華頂さんが頭を下げたからか、こちらを見る生徒が多くなってきた。このままだと騒ぎになってしまうかもしれない。
「顔を上げてくれ、華頂さん」
俺がそう言うと、華頂さんはゆっくりと顔を上げてくれる。それもあり、周囲にいる生徒達から見られることはなくなった。
「きっと、将野さんのことが恐かったんだろう。それでも、将野さんの命令で嘘の告白をして、俺を傷つけたのは事実。それは悪いことだ。ただ、華頂さんはそれを理解して、俺に2回も謝ってくれた。罰はこの2年心苦しく思っていたことで十分だと思ってる。高嶺さんから聞いているかもしれないけど、俺は華頂さんを恨んでいない。ただ、もう二度と、誰かを傷つけるために嘘の告白はしないでくれ。それを約束できるなら、俺は華頂さんを許すよ」
そうは言うけど、華頂さんなら大丈夫だと俺は信じている。
「約束します」
華頂さんは俺を見つめながらそう言い、しっかりと首肯した。そんな華頂さんの頭を撫でると、華頂さんは再び涙を流し、微笑んだ。
「……低田君。今のあたしが言っていいのか分からないけど、あたしとお友達になってくれませんか? 席が隣同士になったときのように、また低田君と楽しくお喋りしたいです」
「……もちろんいいよ」
むしろ、初恋の人と友達になれるのが嬉しいくらいだ。
「ありがとう。これからは友達としてよろしくお願いします。……ゆ、ゆう君。……あっ」
と、はにかむ華頂さんがとても可愛らしい。
「下の名前で呼ぼうとしたのに、緊張して『ゆう君』って言っちゃった。でも、ゆう君って呼ぶのもいいかも……」
「華頂さんの好きな呼び方でいいよ」
「じゃあ、ゆう君で!」
ニッコリと笑う華頂さん。華頂さんの笑顔を見ると懐かしい気持ちになる。
華頂さんが右手を差し出してきたので、俺は華頂さんと握手を交わす。華頂さんの手は温かくて、柔らかかった。
華頂さんの方を見ると、華頂さんは嬉しそうな表情に見せる。それがとても魅力的で。初恋が蘇りそうだ。
「ところで、華頂さんは今、将野さん達とはどうしているんだ?」
そう問いかけた瞬間、口元は笑ったままだけど、華頂さんの笑顔に陰りが見えた。
「違う高校に進学したし、よつば書店でバイトを始めたから、中学のときとは違って一緒にいる時間はかなり減ったよ。それでも、放課後や週末には外で遊んだりすることはあるよ。一緒にムーンバックスにも行ったな」
そういえば、土曜日に将野さん達がムーンバックスに来たとき、将野さんが「前に胡桃が一緒に来たときはいなかった」とか「今日は胡桃がいなくて残念だったね」って言っていたな。あのときのことを思い出したらイライラしてきた。
「でも、結衣ちゃんや姫奈ちゃんと一緒にいる方が、美玲ちゃん達と一緒にいるときよりもずっと楽しいよ。きっと、ゆう君ともそんな関係になれると思ってる」
ほんのりと赤くなった華頂さんの顔に優しい笑みが浮かぶ。やっぱり、華頂さんにはこの優しい笑顔が一番いい。
「あっ、そうだ。あたしの連絡先を教えるよ。2年前から機種変更をしていないから、スマホの番号やLIMEのIDは変わっていないけど」
「それなら大丈夫だよ。華頂さんの連絡先、消さなかったから」
嘘の告白はあったけど、それよりも前に交換した連絡先を消そうとは一度も思わなかった。消してしまったら、隣同士の席になって、楽しく話した時間も嘘になってしまいそうな気がしたから。
華頂さんの顔の赤みが強くなり、笑顔が優しげなものから嬉しげなものに変わる。
「……そうなんだ。嬉しいな。あたしも消さなかった。一応、LIMEでメッセージや写真を送られるかどうか確かめてみるね」
華頂さんはスマホを制服のポケットから出し、タップをする。
――プルルッ。
すぐに俺のスマートフォンが鳴った。確認すると、LIMEを通じて『華頂胡桃』から1件のメッセージと1枚の写真が届いたという通知が。さっそく見てみると、
『ゆう君、届きましたか?』
というメッセージと、今と同じ金井高校の制服姿の華頂さんの写真が送られてきた。写真に写っている華頂さんは笑顔でピースサインをしていて可愛らしい。
「これかな、華頂さん」
「そうだよ。無事に送れて良かった。その写真を送ったのは……お、お友達になった記念といいますか。友達の写真を1枚くらい持っていてもいいと思って」
そう言いながらも、華頂さんはちょっと恥ずかしそうだった。ただ、それがとても可愛らしく思えた。
『ありがとう』
LIMEでそんな返信と、俺の入学式の日に、芹花姉さんがスマホで撮影した俺の金井高校の制服姿の写真を華頂さんに送った。
華頂さんのスマホが鳴り、華頂さんはすぐにスマホを確認する。俺の返信と写真を見たのだろう。とても晴れやかな笑みを浮かべて「ふふっ」と笑った。
「素敵な写真をありがとう。お腹も空いたし、あたし達で先に食べ始めようか」
「そうだな。高嶺さんも先に食べ始めていいって言っていたし」
そういえば、高嶺さんと伊集院さんはまだ戻ってこないな。隠れて見ていればもうすぐ戻ってきそうだけど。それとも、どんな飲み物を買おうどうか迷っているのかな。
俺と華頂さんは先にお昼ご飯を食べ始める。
今日の弁当もとても美味しそうだ。華頂さんの方をチラッと見ると、華頂さんは桃色の可愛らしい弁当を広げていた。
「……おっ、唐揚げうまい」
「ふふっ、良かったね。あたしのミートボールも美味しい。何だか、食事をしているゆう君の横顔を見ると、隣同士になったときを思い出すなぁ。懐かしい」
「俺も懐かしいって思うよ」
華頂さんとあのときのことを懐かしめるのが嬉しいな。もちろん、こうやって隣同士に座って華頂さんの笑顔を見るのも。あの告白が嘘だと分かった直後は、今のような時間を再び過ごせるとは思わなかったな。
「ゆう君。実は玉子焼きを作ってきたの。結衣ちゃんから、ゆう君は甘い玉子焼きが好きだって聞いて。なかなか謝る勇気が出ないときにもいいし、仲直りできた後に食べるにもいいからって」
俺に謝りたい華頂さんのことを考えて、高嶺さんは色々な形でサポートをしていたんだな。昨日、2年前の話をしても、高嶺さんは華頂さんが悪い子じゃないと信じているって言っていたからな。
華頂さんはランチバッグから桃色のタッパーを取り出した。その蓋を開けると、中には黄色くふんわりとした玉子焼きが入っていた。
「おっ、美味しそうだな」
「玉子焼きは得意料理の一つだから自信があるの。もちろん、心を込めて作りました。た、食べさせてあげるね」
「……えっ」
まさか、華頂さんからそう言われるとは思わなかったので、思わず声が漏れてしまった。
「お、一昨日の部活で、結衣ちゃんと白玉ぜんざいを食べさせ合うのを見て気持ちが温かくなって。あたしも……や、やってみたいなって。せっかく友達同士になれたから。……ダメかな?」
華頂さんは控え目な笑みを浮かべながら、上目遣いで俺を見てくる。
白玉ぜんざいのときを含めて高嶺さんのおかげで、人前で食べさせられるのは何度も経験している。それでも恥ずかしさはあるけど、笑顔を見せる華頂さんを目の前にしたら断れない。
「ご厚意に甘えさせてもらうよ」
俺が答えると、華頂さんはとても嬉しそうな笑みを浮かべる。箸で玉子焼きを一切れ掴み、俺の口の側まで持ってくる。
「ゆう君、あ~ん」
俺は華頂さんに玉子焼きを食べさせてもらう。
噛む前から舌には玉子焼きの優しい甘味を感じられる。ゆっくり噛んでいくと、その甘味がどんどん濃くなっていって。ただ、甘ったるくは感じない。甘味の中に華頂さんの気持ちが含まれている気がする。
「どうかな? 美味しい?」
「……凄く美味しい」
正直な感想を言うと、華頂さんはほっと胸を撫で下ろしていた。
「良かった。謝る前でも後でも、ゆう君がこの玉子焼きを美味しく食べてもらえたらいいなと思って作ったから」
「……ありがとう」
「じゃあ……あたしにも食べさせてくれるかな?」
そういえば、さっき……華頂さんは部活で高嶺さんと白玉ぜんざいを「食べさせ合う」のを見て、自分もやってみたいって思ったと言っていたな。
「分かった」
「ありがとう。じゃあ、よろしくお願いします」
華頂さんは俺に玉子焼きを入ったタッパーを渡すと、ゆっくりと目を瞑って口を開いた。
「華頂さん。いくよ」
「う、うんっ。あ~ん」
自分の箸で掴んだ玉子焼きを華頂さんの口の中に入れる。
甘い玉子焼きが自分好みなのか。それとも、俺に食べさせてもらったことが嬉しいのか、華頂さんは幸せそうな笑みを浮かべた。
「……美味しい」
「ただいま~」
「2人とも、お待たせしました」
緑茶のペットボトルを持った高嶺さんと、麦茶のペットボトルを持った伊集院さんが戻ってきた。2人とも凄くいい笑顔だ。
「おかえり、高嶺さん、伊集院さん」
「2人ともおかえり。えっと、ちゃんとゆう君に謝ることができました。あと、お友達にもなりました。特に結衣ちゃんは色々とアドバイスしてくれてありがとう」
「いえいえ。高校で出会った好きな友達のためだもん。ね、姫奈ちゃん」
「ええ。結衣から胡桃が低田君に謝りたいことがあると聞きまして。それで、ここで2人きりにさせるために一芝居打ったのです」
やっぱり、伊集院さんは華頂さんが俺に謝りたがっているのを知っていたのか。
「せっかくだから、自販機で飲み物を買ってきたの。それで戻ってきたら、凄くいい雰囲気で。きっと、胡桃ちゃんが謝って、悠真君は胡桃ちゃんを許したんだろうって思ったんだけど、見入っちゃったよね」
「ええ。ただ、胡桃が低田君と玉子焼きを食べさせ合ったとき、結衣は『いいなぁ』って呟いていたのですよ」
「経験はあるけど、凄く羨ましかった。玉子焼きのことは教えたけど、まさか食べさせ合うとは思わなかったよ。あと、ゆう君っていうあだ名呼びも」
「あたしは驚いたのですが、キュンキュンしちゃったのですっ!」
伊集院さん……今までの中で一番と言っていいほどに興奮しているな。それもあってか、華頂さんは顔を真っ赤にする。
「す、すぐに謝れたからね。ゆう君にも許してもらえたし。だから、食べさせ合ったのはその……友達になった記念と仲直り記念だよ! 部活のときの結衣ちゃんが羨ましかったのもあるけど……」
「ふふっ、そうなのですかぁ」
「そんなことができるほどに2人が仲直りできて良かったよ。胡桃ちゃんを信じて良かった。さあ、姫奈ちゃん。私達もお昼ご飯を食べ始めようか!」
「そうですね!」
高嶺さんと伊集院さんもベンチに座って、4人並んでお昼ご飯を食べ始める。
華頂さんが俺に玉子焼きを食べさせたのが羨ましかったのか、高嶺さんが俺にハンバーグを食べさせることもあったけど、楽しい昼休みになった。
しっかりとした口調で言うと、華頂さんは俺に向かって深く頭を下げた。
それまでは周りの生徒も全然気にしていない様子だったけど、華頂さんが頭を下げたからか、こちらを見る生徒が多くなってきた。このままだと騒ぎになってしまうかもしれない。
「顔を上げてくれ、華頂さん」
俺がそう言うと、華頂さんはゆっくりと顔を上げてくれる。それもあり、周囲にいる生徒達から見られることはなくなった。
「きっと、将野さんのことが恐かったんだろう。それでも、将野さんの命令で嘘の告白をして、俺を傷つけたのは事実。それは悪いことだ。ただ、華頂さんはそれを理解して、俺に2回も謝ってくれた。罰はこの2年心苦しく思っていたことで十分だと思ってる。高嶺さんから聞いているかもしれないけど、俺は華頂さんを恨んでいない。ただ、もう二度と、誰かを傷つけるために嘘の告白はしないでくれ。それを約束できるなら、俺は華頂さんを許すよ」
そうは言うけど、華頂さんなら大丈夫だと俺は信じている。
「約束します」
華頂さんは俺を見つめながらそう言い、しっかりと首肯した。そんな華頂さんの頭を撫でると、華頂さんは再び涙を流し、微笑んだ。
「……低田君。今のあたしが言っていいのか分からないけど、あたしとお友達になってくれませんか? 席が隣同士になったときのように、また低田君と楽しくお喋りしたいです」
「……もちろんいいよ」
むしろ、初恋の人と友達になれるのが嬉しいくらいだ。
「ありがとう。これからは友達としてよろしくお願いします。……ゆ、ゆう君。……あっ」
と、はにかむ華頂さんがとても可愛らしい。
「下の名前で呼ぼうとしたのに、緊張して『ゆう君』って言っちゃった。でも、ゆう君って呼ぶのもいいかも……」
「華頂さんの好きな呼び方でいいよ」
「じゃあ、ゆう君で!」
ニッコリと笑う華頂さん。華頂さんの笑顔を見ると懐かしい気持ちになる。
華頂さんが右手を差し出してきたので、俺は華頂さんと握手を交わす。華頂さんの手は温かくて、柔らかかった。
華頂さんの方を見ると、華頂さんは嬉しそうな表情に見せる。それがとても魅力的で。初恋が蘇りそうだ。
「ところで、華頂さんは今、将野さん達とはどうしているんだ?」
そう問いかけた瞬間、口元は笑ったままだけど、華頂さんの笑顔に陰りが見えた。
「違う高校に進学したし、よつば書店でバイトを始めたから、中学のときとは違って一緒にいる時間はかなり減ったよ。それでも、放課後や週末には外で遊んだりすることはあるよ。一緒にムーンバックスにも行ったな」
そういえば、土曜日に将野さん達がムーンバックスに来たとき、将野さんが「前に胡桃が一緒に来たときはいなかった」とか「今日は胡桃がいなくて残念だったね」って言っていたな。あのときのことを思い出したらイライラしてきた。
「でも、結衣ちゃんや姫奈ちゃんと一緒にいる方が、美玲ちゃん達と一緒にいるときよりもずっと楽しいよ。きっと、ゆう君ともそんな関係になれると思ってる」
ほんのりと赤くなった華頂さんの顔に優しい笑みが浮かぶ。やっぱり、華頂さんにはこの優しい笑顔が一番いい。
「あっ、そうだ。あたしの連絡先を教えるよ。2年前から機種変更をしていないから、スマホの番号やLIMEのIDは変わっていないけど」
「それなら大丈夫だよ。華頂さんの連絡先、消さなかったから」
嘘の告白はあったけど、それよりも前に交換した連絡先を消そうとは一度も思わなかった。消してしまったら、隣同士の席になって、楽しく話した時間も嘘になってしまいそうな気がしたから。
華頂さんの顔の赤みが強くなり、笑顔が優しげなものから嬉しげなものに変わる。
「……そうなんだ。嬉しいな。あたしも消さなかった。一応、LIMEでメッセージや写真を送られるかどうか確かめてみるね」
華頂さんはスマホを制服のポケットから出し、タップをする。
――プルルッ。
すぐに俺のスマートフォンが鳴った。確認すると、LIMEを通じて『華頂胡桃』から1件のメッセージと1枚の写真が届いたという通知が。さっそく見てみると、
『ゆう君、届きましたか?』
というメッセージと、今と同じ金井高校の制服姿の華頂さんの写真が送られてきた。写真に写っている華頂さんは笑顔でピースサインをしていて可愛らしい。
「これかな、華頂さん」
「そうだよ。無事に送れて良かった。その写真を送ったのは……お、お友達になった記念といいますか。友達の写真を1枚くらい持っていてもいいと思って」
そう言いながらも、華頂さんはちょっと恥ずかしそうだった。ただ、それがとても可愛らしく思えた。
『ありがとう』
LIMEでそんな返信と、俺の入学式の日に、芹花姉さんがスマホで撮影した俺の金井高校の制服姿の写真を華頂さんに送った。
華頂さんのスマホが鳴り、華頂さんはすぐにスマホを確認する。俺の返信と写真を見たのだろう。とても晴れやかな笑みを浮かべて「ふふっ」と笑った。
「素敵な写真をありがとう。お腹も空いたし、あたし達で先に食べ始めようか」
「そうだな。高嶺さんも先に食べ始めていいって言っていたし」
そういえば、高嶺さんと伊集院さんはまだ戻ってこないな。隠れて見ていればもうすぐ戻ってきそうだけど。それとも、どんな飲み物を買おうどうか迷っているのかな。
俺と華頂さんは先にお昼ご飯を食べ始める。
今日の弁当もとても美味しそうだ。華頂さんの方をチラッと見ると、華頂さんは桃色の可愛らしい弁当を広げていた。
「……おっ、唐揚げうまい」
「ふふっ、良かったね。あたしのミートボールも美味しい。何だか、食事をしているゆう君の横顔を見ると、隣同士になったときを思い出すなぁ。懐かしい」
「俺も懐かしいって思うよ」
華頂さんとあのときのことを懐かしめるのが嬉しいな。もちろん、こうやって隣同士に座って華頂さんの笑顔を見るのも。あの告白が嘘だと分かった直後は、今のような時間を再び過ごせるとは思わなかったな。
「ゆう君。実は玉子焼きを作ってきたの。結衣ちゃんから、ゆう君は甘い玉子焼きが好きだって聞いて。なかなか謝る勇気が出ないときにもいいし、仲直りできた後に食べるにもいいからって」
俺に謝りたい華頂さんのことを考えて、高嶺さんは色々な形でサポートをしていたんだな。昨日、2年前の話をしても、高嶺さんは華頂さんが悪い子じゃないと信じているって言っていたからな。
華頂さんはランチバッグから桃色のタッパーを取り出した。その蓋を開けると、中には黄色くふんわりとした玉子焼きが入っていた。
「おっ、美味しそうだな」
「玉子焼きは得意料理の一つだから自信があるの。もちろん、心を込めて作りました。た、食べさせてあげるね」
「……えっ」
まさか、華頂さんからそう言われるとは思わなかったので、思わず声が漏れてしまった。
「お、一昨日の部活で、結衣ちゃんと白玉ぜんざいを食べさせ合うのを見て気持ちが温かくなって。あたしも……や、やってみたいなって。せっかく友達同士になれたから。……ダメかな?」
華頂さんは控え目な笑みを浮かべながら、上目遣いで俺を見てくる。
白玉ぜんざいのときを含めて高嶺さんのおかげで、人前で食べさせられるのは何度も経験している。それでも恥ずかしさはあるけど、笑顔を見せる華頂さんを目の前にしたら断れない。
「ご厚意に甘えさせてもらうよ」
俺が答えると、華頂さんはとても嬉しそうな笑みを浮かべる。箸で玉子焼きを一切れ掴み、俺の口の側まで持ってくる。
「ゆう君、あ~ん」
俺は華頂さんに玉子焼きを食べさせてもらう。
噛む前から舌には玉子焼きの優しい甘味を感じられる。ゆっくり噛んでいくと、その甘味がどんどん濃くなっていって。ただ、甘ったるくは感じない。甘味の中に華頂さんの気持ちが含まれている気がする。
「どうかな? 美味しい?」
「……凄く美味しい」
正直な感想を言うと、華頂さんはほっと胸を撫で下ろしていた。
「良かった。謝る前でも後でも、ゆう君がこの玉子焼きを美味しく食べてもらえたらいいなと思って作ったから」
「……ありがとう」
「じゃあ……あたしにも食べさせてくれるかな?」
そういえば、さっき……華頂さんは部活で高嶺さんと白玉ぜんざいを「食べさせ合う」のを見て、自分もやってみたいって思ったと言っていたな。
「分かった」
「ありがとう。じゃあ、よろしくお願いします」
華頂さんは俺に玉子焼きを入ったタッパーを渡すと、ゆっくりと目を瞑って口を開いた。
「華頂さん。いくよ」
「う、うんっ。あ~ん」
自分の箸で掴んだ玉子焼きを華頂さんの口の中に入れる。
甘い玉子焼きが自分好みなのか。それとも、俺に食べさせてもらったことが嬉しいのか、華頂さんは幸せそうな笑みを浮かべた。
「……美味しい」
「ただいま~」
「2人とも、お待たせしました」
緑茶のペットボトルを持った高嶺さんと、麦茶のペットボトルを持った伊集院さんが戻ってきた。2人とも凄くいい笑顔だ。
「おかえり、高嶺さん、伊集院さん」
「2人ともおかえり。えっと、ちゃんとゆう君に謝ることができました。あと、お友達にもなりました。特に結衣ちゃんは色々とアドバイスしてくれてありがとう」
「いえいえ。高校で出会った好きな友達のためだもん。ね、姫奈ちゃん」
「ええ。結衣から胡桃が低田君に謝りたいことがあると聞きまして。それで、ここで2人きりにさせるために一芝居打ったのです」
やっぱり、伊集院さんは華頂さんが俺に謝りたがっているのを知っていたのか。
「せっかくだから、自販機で飲み物を買ってきたの。それで戻ってきたら、凄くいい雰囲気で。きっと、胡桃ちゃんが謝って、悠真君は胡桃ちゃんを許したんだろうって思ったんだけど、見入っちゃったよね」
「ええ。ただ、胡桃が低田君と玉子焼きを食べさせ合ったとき、結衣は『いいなぁ』って呟いていたのですよ」
「経験はあるけど、凄く羨ましかった。玉子焼きのことは教えたけど、まさか食べさせ合うとは思わなかったよ。あと、ゆう君っていうあだ名呼びも」
「あたしは驚いたのですが、キュンキュンしちゃったのですっ!」
伊集院さん……今までの中で一番と言っていいほどに興奮しているな。それもあってか、華頂さんは顔を真っ赤にする。
「す、すぐに謝れたからね。ゆう君にも許してもらえたし。だから、食べさせ合ったのはその……友達になった記念と仲直り記念だよ! 部活のときの結衣ちゃんが羨ましかったのもあるけど……」
「ふふっ、そうなのですかぁ」
「そんなことができるほどに2人が仲直りできて良かったよ。胡桃ちゃんを信じて良かった。さあ、姫奈ちゃん。私達もお昼ご飯を食べ始めようか!」
「そうですね!」
高嶺さんと伊集院さんもベンチに座って、4人並んでお昼ご飯を食べ始める。
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