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本編
第36話『華頂さんの部屋』
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玄関で夏芽さんと話をした後、華頂さんの案内で2階にある華頂さんの部屋へ向かう。
階段や廊下から既にいい匂いがしている。近くに華頂さん本人や、高嶺さん、伊集院さん、中野先輩がいるからだろうか。
「どうぞ」
ついに、華頂さんの部屋の中に足を踏み入れた。
パッと見た感じ、とても綺麗で、華頂さんの部屋らしい温かくて穏やかな空間が広がっている。ベッドシーツやふとんのカバー、クッション、絨毯などの色が暖色系で統一されているからだろうか。勉強机の上にあるノートパソコンも淡い桃色。部屋の広さは俺の部屋と同じくらいかな。
ベッドの上にぬいぐるみが置いてあったり、ドレッサーがあったり、本棚に本やCDが綺麗に並んであったりしているのは高嶺さんの部屋と同じだ。
「とても素敵なお部屋だね! 胡桃ちゃん!」
「胡桃らしい可愛い雰囲気のお部屋なのです」
「部屋を綺麗にしていて、華頂ちゃんは偉いね。あたしの部屋はこんなに綺麗じゃないから」
「そう言ってもらえて安心しました。ゆ、ゆう君はどうかな? あたしの部屋」
「いい部屋だと思う。華頂さんらしい穏やかな雰囲気で。こういう感じの部屋、俺は好きだな」
「そう言ってもらえて嬉しいな」
ふふっ、と華頂さんは頬を赤くしながら柔らかい笑みを浮かべる。
ベッドの側にあるテーブルを囲むようにして、俺達はクッションに腰を下ろす。その際、高嶺さんは俺の右隣にしっかりと座った。俺の左斜め前に華頂さん、高嶺さんの右斜め前に伊集院さん、テーブルを挟んで向かい合う形に中野先輩が座っている。
まさか、華頂さんの部屋でくつろげる日が来るとは。華頂さんに恋をしていたとき、ここに来たいと思っていたから嬉しいな。嘘の告白だと分かって傷心していたときの自分に、高校1年の春に華頂さんと友達になって、華頂さんの自宅へ行くと教えてあげたい。信じてもらえなさそうだけど。
さてと、華頂さんの部屋に到着したし、さっそく試験勉強を――。
「まずはどれから食べようか? 私はこの期間限定の抹茶マシュマロがいいな」
「あたしは一口ドーナッツを食べてみたいのです」
「後輩達のお菓子もいいけど、あたしはこの抹茶チョコレートを食べたいな。華頂ちゃんと悠真はどう思う?」
「あたしはどれも興味がありますね。さっき買ったお菓子はここで食べるためですし、いっそのこと、もう全部開けてしまうのはどうでしょうか?」
『賛成!』
華頂さんの意見に、高嶺さん、伊集院さん、中野先輩は声を揃えて賛同する。
コンビニで買ったお菓子は、試験勉強の休憩中に食べるために買ったはずなんだけどな。でも、どれも美味しそうだし、すぐに食べたくなる気持ちも分かる。
「悠真君はどうかな?」
「……みんなの意見に賛成だ。今日も学校があったからな。それに、さっきは将野さんと色々あったし、甘いものがほしい気分だ」
「うんうん! じゃあ、悠真君も一緒に食べよう!」
女子4人によってテーブルの上にお菓子が広げられる。こうして見てみると、ドーナッツにマシュマロ、チョコレート、棒状のスナック・プッキー、俺が選んだ抹茶味のベビーカステラなど色々なお菓子を買ったなぁ。そんなことを思いながら、俺は自分で買った微糖の缶コーヒーを飲む。
「あたしがおごったんだし、みんなで美味しく食べようね! いただきます!」
『いただきまーす!』
俺達は中野先輩がおごってくれたお菓子を食べ始める。
俺はまず、自分が選んだ抹茶ベビーカステラをいただく。……うん、美味しいな。コーヒーにも合う。
買ったお菓子が美味しいのか、女子4人はみんないい笑顔だ。将野さん達と対峙したときはどうなるかと思ったけど、すぐに平和な時間を過ごせて良かったよ。
「ゆ、ゆう君。プッキー食べる? あたしが選んだんだけど」
「ああ。とりあえず1本いただくよ」
「はい。じゃあ、あ~ん」
華頂さんにプッキーを食べさせてもらう。細長い形状だからか、それとも、周りに友人や先輩しかいないからか、こうしてもらうことにあまり恥ずかしさを感じなかった。
「美味しい?」
「うん、美味しい。プッキーは久しぶりに食べたけどいいな」
チョコがほどよく甘く、クッキーが香ばしくて。コーヒーにも結構合うと、今になって気付いた。これからたまに買ってみるか。
「悠真君。私の選んだ抹茶マシュマロも美味しいよ。はい、あ~ん」
俺は高嶺さんに抹茶マシュマロを食べさせてもらう。マシュマロ部分は甘いけど、中に入っている抹茶ソースは意外と苦味が利いているな。
「結構美味しいな」
「でしょう? 私、去年の今の時期にこれを買ったんだけど、凄く美味しくて。今年も絶対に食べたいと思っていたの」
そういえば、コンビニに行ったとき、高嶺さんはすぐにこの抹茶マシュマロを掴んでいたな。
「俺の選んだベビーカステラも食べてみて。美味しいぞ」
「分かった。あ~ん」
俺がベビーカステラを高嶺さんの口の中に入れると、高嶺さんは幸せそうな様子でもぐもぐと食べていた。
それにしても、マシュマロか。きっと、高嶺さんのことだから、『ここに大きなマシュマロが2つあるんだけど食べてみる?』とか訊いてきそうだ。ここには気心知れた人しかいないし。
「ねえ、悠真君。ここに大きなマシュマロが2つあるんだけど食べてみる?」
そう言って照れくさそうに俺を見つめてくる高嶺さん。ブラウスの第3ボタンまで外し、体を左右に振ってくる。大きなマシュマロが2つ揺れてますねぇ。
「……一語一句まで予想通りだと全くドキドキしないな。食わない」
「ええっ、食べないの? ……でも、私の言うことを想像するなんて、悠真君もえっちぃんだね」
「……今までの高嶺さんの言動を見ていれば、このくらいのことは容易に想像つくよ」
「……それだけ、今までの私のことを覚えてくれているんだね」
高嶺さんは笑顔になってペットボトルのレモンティーを一口飲む。本当にポジティブな思考の持ち主だよな。少し分けてほしいくらいだ。
「本当に低田君のことが好きなのですね、結衣は」
「あたし達がいる前なのにね。でも、高嶺ちゃんらしいよね。これまで、バイト中に悠真をじっと見ている姿を何度も見ているし」
「やっているのです。昨日も試験勉強の休憩中にバイトをしている低田君を見つめていたのですよ」
などと、伊集院さんと中野先輩はお菓子を食べながら談笑している。俺に抱く高嶺さんの好意の深さを知っているから笑っていられるんだろうな。しかし、
「大きなマシュマロが2つ……ほえっ」
高嶺さんのマシュマロ発言の真意に気付いたのか、華頂さんだけは可愛らしい声を漏らしたと同時に顔を真っ赤にする。両手で自分の胸を触ったり、持ち上げたりして。その姿が艶めかしくて。……高嶺さんよりも大きな胸だと改めて思う。
こ、このまま華頂さんを見てはまずい。素早く別の方向に視線を動かそう。
部屋に入ってきたときにも気になった本棚で視線が止まる。本が綺麗に並んでいることもあってか存在感があるな。
「ゆ、ゆう君。本棚の方が気になる?」
「あ、ああ。漫画やラノベが大好きだからさ。それに、本屋でバイトしている華頂さんがどんな作品を読むのか気になって」
「ふふっ、そうなんだ。本棚の前に行って、じっくりと見ていいよ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
俺はクッションから立ち上がって、本棚の前まで行き、上から順番に見ていく。俺も知っている作品がずらっと並んでいるな。シリーズものはしっかりと1巻から順番に収納されてある。
気付けば、華頂さんが俺のすぐ側に立っていた。さっきに比べると、顔の赤みが取れている。
「おぉ……『俺達、受験に勝ってみせます!』、『七つ子ヒロインズ』、『きっとあなたになる。』とか俺も好きな作品が多いな」
「ラブコメや百合作品が大好きで。あと、日常系も好きだよ。この『うさぎと美少女カフェ』とか『なないろサンセット』とかもゆう君って好きだよね?」
「ああ、美少女系の4コマ漫画も好きだ」
「私もその2作品の漫画は持ってるし、大好きだよ!」
「高嶺さんの部屋の本棚にもあったな。それにしても、華頂さんは俺がそういう作品も好きだってよく知ってたな」
「へっ?」
華頂さんはそんな間の抜けた声を漏らすと、頬を赤くしながらはにかんだ。
「え、ええと……バイトをしているときに、新刊を持ってレジに行くゆう君を見かけたから。2作品とも、先月に最新巻が発売されたし。あと、中学のとき、昼休みにスマホでアニメを観ていたのを覚えていて」
「ああ、そういうことか」
確かに、先月に『うさぎと美少女カフェ』と『なないろサンセット』の新刊が発売されて、すぐに華頂さんのバイトするよつば書店に買いに行ったな。2作品とも連載が何年も続く人気シリーズで、アニメも中学のときに放送されていた。昼休みにスマホでアニメを観るのが学校生活での癒しの一つだった。その様子を華頂さんは覚えていたのか。
そういえば、桐花さんも『うさぎと美少女カフェ』と『なないろサンセット』が大好きだって言っていたな。華頂さんの本棚を見ると、これまでに桐花さんが名前を挙げた作品が多い。同い年の女の子だからかな。
「おっ、『鬼刈剣』もあるんだな」
「胡桃ちゃんも『鬼刈剣』好きなんだ!」
「あたしも結衣に勧められて、先週末に最新巻まで読みました!」
「2人とも『鬼刈剣』が好きなんだね。あたしも好きでアニメも観てるよ。よつば書店では、アニメが始まってから漫画の売れ行きが好調で。あたしがバイトを始めてからも、『鬼刈剣』を買う人がたくさんいて。少年漫画だけど、特に若い女性が買ってる。来月発売の新刊も予約が結構されているよ」
さすがは書店でバイトしているだけのことはあるな。ネットでも『鬼刈剣』は若い女性を中心に人気が高いという記事を見たことがあるけど、現役の書店員がそう言うので本当なのだと分かる。
「『鬼刈剣』かぁ。あたしのクラスに大ファンの友達がいるよ。ゴールデンウィークにその子の家に遊びに行ったときに、一緒にアニメを観たなぁ。それをきっかけにちょっと興味は出てきたんだけど、原作漫画は持ってないんだよね」
「では、中野先輩。とりあえず第1巻を読んでみますか?」
「ありがとう! 面白かったら、華頂ちゃんがバイトしてるよつば書店で買うよ。あたし、ベッドで漫画を読むことが多いんだけど、ベッド借りてもいい?」
「いいですよ」
「サンキュー」
中野先輩は華頂さんから『鬼刈剣』の第1巻を借り、ベッドでうつ伏せになった状態で読み始める。こりゃ、先輩は試験勉強をしそうにないな。あと、たまに両脚をバタバタさせるのが可愛らしい。
「華頂さん。本棚見せてくれてありがとう。俺も読んでいる作品が意外に多くて驚いたよ」
「……うん。きっと、ゆう君となら、漫画やラノベのことでも楽しくお喋りできると思う」
そう言って、俺に見せてくれる華頂さんの笑顔にキュンとなった。可愛い笑顔は2年前から変わらないと改めて思う。
それからは1年生だけで試験勉強を始めるのであった。
階段や廊下から既にいい匂いがしている。近くに華頂さん本人や、高嶺さん、伊集院さん、中野先輩がいるからだろうか。
「どうぞ」
ついに、華頂さんの部屋の中に足を踏み入れた。
パッと見た感じ、とても綺麗で、華頂さんの部屋らしい温かくて穏やかな空間が広がっている。ベッドシーツやふとんのカバー、クッション、絨毯などの色が暖色系で統一されているからだろうか。勉強机の上にあるノートパソコンも淡い桃色。部屋の広さは俺の部屋と同じくらいかな。
ベッドの上にぬいぐるみが置いてあったり、ドレッサーがあったり、本棚に本やCDが綺麗に並んであったりしているのは高嶺さんの部屋と同じだ。
「とても素敵なお部屋だね! 胡桃ちゃん!」
「胡桃らしい可愛い雰囲気のお部屋なのです」
「部屋を綺麗にしていて、華頂ちゃんは偉いね。あたしの部屋はこんなに綺麗じゃないから」
「そう言ってもらえて安心しました。ゆ、ゆう君はどうかな? あたしの部屋」
「いい部屋だと思う。華頂さんらしい穏やかな雰囲気で。こういう感じの部屋、俺は好きだな」
「そう言ってもらえて嬉しいな」
ふふっ、と華頂さんは頬を赤くしながら柔らかい笑みを浮かべる。
ベッドの側にあるテーブルを囲むようにして、俺達はクッションに腰を下ろす。その際、高嶺さんは俺の右隣にしっかりと座った。俺の左斜め前に華頂さん、高嶺さんの右斜め前に伊集院さん、テーブルを挟んで向かい合う形に中野先輩が座っている。
まさか、華頂さんの部屋でくつろげる日が来るとは。華頂さんに恋をしていたとき、ここに来たいと思っていたから嬉しいな。嘘の告白だと分かって傷心していたときの自分に、高校1年の春に華頂さんと友達になって、華頂さんの自宅へ行くと教えてあげたい。信じてもらえなさそうだけど。
さてと、華頂さんの部屋に到着したし、さっそく試験勉強を――。
「まずはどれから食べようか? 私はこの期間限定の抹茶マシュマロがいいな」
「あたしは一口ドーナッツを食べてみたいのです」
「後輩達のお菓子もいいけど、あたしはこの抹茶チョコレートを食べたいな。華頂ちゃんと悠真はどう思う?」
「あたしはどれも興味がありますね。さっき買ったお菓子はここで食べるためですし、いっそのこと、もう全部開けてしまうのはどうでしょうか?」
『賛成!』
華頂さんの意見に、高嶺さん、伊集院さん、中野先輩は声を揃えて賛同する。
コンビニで買ったお菓子は、試験勉強の休憩中に食べるために買ったはずなんだけどな。でも、どれも美味しそうだし、すぐに食べたくなる気持ちも分かる。
「悠真君はどうかな?」
「……みんなの意見に賛成だ。今日も学校があったからな。それに、さっきは将野さんと色々あったし、甘いものがほしい気分だ」
「うんうん! じゃあ、悠真君も一緒に食べよう!」
女子4人によってテーブルの上にお菓子が広げられる。こうして見てみると、ドーナッツにマシュマロ、チョコレート、棒状のスナック・プッキー、俺が選んだ抹茶味のベビーカステラなど色々なお菓子を買ったなぁ。そんなことを思いながら、俺は自分で買った微糖の缶コーヒーを飲む。
「あたしがおごったんだし、みんなで美味しく食べようね! いただきます!」
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俺達は中野先輩がおごってくれたお菓子を食べ始める。
俺はまず、自分が選んだ抹茶ベビーカステラをいただく。……うん、美味しいな。コーヒーにも合う。
買ったお菓子が美味しいのか、女子4人はみんないい笑顔だ。将野さん達と対峙したときはどうなるかと思ったけど、すぐに平和な時間を過ごせて良かったよ。
「ゆ、ゆう君。プッキー食べる? あたしが選んだんだけど」
「ああ。とりあえず1本いただくよ」
「はい。じゃあ、あ~ん」
華頂さんにプッキーを食べさせてもらう。細長い形状だからか、それとも、周りに友人や先輩しかいないからか、こうしてもらうことにあまり恥ずかしさを感じなかった。
「美味しい?」
「うん、美味しい。プッキーは久しぶりに食べたけどいいな」
チョコがほどよく甘く、クッキーが香ばしくて。コーヒーにも結構合うと、今になって気付いた。これからたまに買ってみるか。
「悠真君。私の選んだ抹茶マシュマロも美味しいよ。はい、あ~ん」
俺は高嶺さんに抹茶マシュマロを食べさせてもらう。マシュマロ部分は甘いけど、中に入っている抹茶ソースは意外と苦味が利いているな。
「結構美味しいな」
「でしょう? 私、去年の今の時期にこれを買ったんだけど、凄く美味しくて。今年も絶対に食べたいと思っていたの」
そういえば、コンビニに行ったとき、高嶺さんはすぐにこの抹茶マシュマロを掴んでいたな。
「俺の選んだベビーカステラも食べてみて。美味しいぞ」
「分かった。あ~ん」
俺がベビーカステラを高嶺さんの口の中に入れると、高嶺さんは幸せそうな様子でもぐもぐと食べていた。
それにしても、マシュマロか。きっと、高嶺さんのことだから、『ここに大きなマシュマロが2つあるんだけど食べてみる?』とか訊いてきそうだ。ここには気心知れた人しかいないし。
「ねえ、悠真君。ここに大きなマシュマロが2つあるんだけど食べてみる?」
そう言って照れくさそうに俺を見つめてくる高嶺さん。ブラウスの第3ボタンまで外し、体を左右に振ってくる。大きなマシュマロが2つ揺れてますねぇ。
「……一語一句まで予想通りだと全くドキドキしないな。食わない」
「ええっ、食べないの? ……でも、私の言うことを想像するなんて、悠真君もえっちぃんだね」
「……今までの高嶺さんの言動を見ていれば、このくらいのことは容易に想像つくよ」
「……それだけ、今までの私のことを覚えてくれているんだね」
高嶺さんは笑顔になってペットボトルのレモンティーを一口飲む。本当にポジティブな思考の持ち主だよな。少し分けてほしいくらいだ。
「本当に低田君のことが好きなのですね、結衣は」
「あたし達がいる前なのにね。でも、高嶺ちゃんらしいよね。これまで、バイト中に悠真をじっと見ている姿を何度も見ているし」
「やっているのです。昨日も試験勉強の休憩中にバイトをしている低田君を見つめていたのですよ」
などと、伊集院さんと中野先輩はお菓子を食べながら談笑している。俺に抱く高嶺さんの好意の深さを知っているから笑っていられるんだろうな。しかし、
「大きなマシュマロが2つ……ほえっ」
高嶺さんのマシュマロ発言の真意に気付いたのか、華頂さんだけは可愛らしい声を漏らしたと同時に顔を真っ赤にする。両手で自分の胸を触ったり、持ち上げたりして。その姿が艶めかしくて。……高嶺さんよりも大きな胸だと改めて思う。
こ、このまま華頂さんを見てはまずい。素早く別の方向に視線を動かそう。
部屋に入ってきたときにも気になった本棚で視線が止まる。本が綺麗に並んでいることもあってか存在感があるな。
「ゆ、ゆう君。本棚の方が気になる?」
「あ、ああ。漫画やラノベが大好きだからさ。それに、本屋でバイトしている華頂さんがどんな作品を読むのか気になって」
「ふふっ、そうなんだ。本棚の前に行って、じっくりと見ていいよ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
俺はクッションから立ち上がって、本棚の前まで行き、上から順番に見ていく。俺も知っている作品がずらっと並んでいるな。シリーズものはしっかりと1巻から順番に収納されてある。
気付けば、華頂さんが俺のすぐ側に立っていた。さっきに比べると、顔の赤みが取れている。
「おぉ……『俺達、受験に勝ってみせます!』、『七つ子ヒロインズ』、『きっとあなたになる。』とか俺も好きな作品が多いな」
「ラブコメや百合作品が大好きで。あと、日常系も好きだよ。この『うさぎと美少女カフェ』とか『なないろサンセット』とかもゆう君って好きだよね?」
「ああ、美少女系の4コマ漫画も好きだ」
「私もその2作品の漫画は持ってるし、大好きだよ!」
「高嶺さんの部屋の本棚にもあったな。それにしても、華頂さんは俺がそういう作品も好きだってよく知ってたな」
「へっ?」
華頂さんはそんな間の抜けた声を漏らすと、頬を赤くしながらはにかんだ。
「え、ええと……バイトをしているときに、新刊を持ってレジに行くゆう君を見かけたから。2作品とも、先月に最新巻が発売されたし。あと、中学のとき、昼休みにスマホでアニメを観ていたのを覚えていて」
「ああ、そういうことか」
確かに、先月に『うさぎと美少女カフェ』と『なないろサンセット』の新刊が発売されて、すぐに華頂さんのバイトするよつば書店に買いに行ったな。2作品とも連載が何年も続く人気シリーズで、アニメも中学のときに放送されていた。昼休みにスマホでアニメを観るのが学校生活での癒しの一つだった。その様子を華頂さんは覚えていたのか。
そういえば、桐花さんも『うさぎと美少女カフェ』と『なないろサンセット』が大好きだって言っていたな。華頂さんの本棚を見ると、これまでに桐花さんが名前を挙げた作品が多い。同い年の女の子だからかな。
「おっ、『鬼刈剣』もあるんだな」
「胡桃ちゃんも『鬼刈剣』好きなんだ!」
「あたしも結衣に勧められて、先週末に最新巻まで読みました!」
「2人とも『鬼刈剣』が好きなんだね。あたしも好きでアニメも観てるよ。よつば書店では、アニメが始まってから漫画の売れ行きが好調で。あたしがバイトを始めてからも、『鬼刈剣』を買う人がたくさんいて。少年漫画だけど、特に若い女性が買ってる。来月発売の新刊も予約が結構されているよ」
さすがは書店でバイトしているだけのことはあるな。ネットでも『鬼刈剣』は若い女性を中心に人気が高いという記事を見たことがあるけど、現役の書店員がそう言うので本当なのだと分かる。
「『鬼刈剣』かぁ。あたしのクラスに大ファンの友達がいるよ。ゴールデンウィークにその子の家に遊びに行ったときに、一緒にアニメを観たなぁ。それをきっかけにちょっと興味は出てきたんだけど、原作漫画は持ってないんだよね」
「では、中野先輩。とりあえず第1巻を読んでみますか?」
「ありがとう! 面白かったら、華頂ちゃんがバイトしてるよつば書店で買うよ。あたし、ベッドで漫画を読むことが多いんだけど、ベッド借りてもいい?」
「いいですよ」
「サンキュー」
中野先輩は華頂さんから『鬼刈剣』の第1巻を借り、ベッドでうつ伏せになった状態で読み始める。こりゃ、先輩は試験勉強をしそうにないな。あと、たまに両脚をバタバタさせるのが可愛らしい。
「華頂さん。本棚見せてくれてありがとう。俺も読んでいる作品が意外に多くて驚いたよ」
「……うん。きっと、ゆう君となら、漫画やラノベのことでも楽しくお喋りできると思う」
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