高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

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本編

第35話『周りの大人達』

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「それじゃ、低田君達もさようなら。気を付けて帰りなさい」

 福王寺先生と別れ、俺達は華頂さんの家に向かい始める。真っ直ぐ帰れば10分もかからないそうだ。
 将野さん達と会ったときはどうなるかと思ったけど、何とかなって良かった。福王寺先生という大人が、将野さん達に『学校へ連絡』とか『警察に通報』と言ってくれたので、しばらくの間は平和に過ごせるだろう。

「さっき、ゆう君にお礼を言ったからみんなにも。本当にありがとうございました。みんなが側にいてくれて嬉しかったですし、心強かったです」
「俺からもお礼を言わせてください。ありがとうございました」
「悠真君と胡桃ちゃんの力になれたなら良かったよ」
「結衣の言う通りなのです。一件落着して、2人に笑顔が戻って良かったのです」
「そうだね。それに、悠真に頬を叩かれて悔しそうにしていた小娘を見てスカッとしたわっ!」

 3人とも、可愛い笑顔でそう答えた。この3人と福王寺先生がいてくれて心強かったな。きっと、これからも彼女達は華頂さんの支えになるだろう。
 ――プルルッ。
 スマホが鳴ったので確認してみると、俺と高嶺さんと福王寺先生のグループトークに、先生からメッセージが届いていた。

『さっきは大変だったね、低変人様! 結衣ちゃん! もし、あの将野っていう女に何かされたら、遠慮なく私に言ってね。うちの大切な生徒を傷つけたことを後悔させてやるんだから』

 言葉選びが気になるけど、福王寺先生が俺達のことを大切に思ってくれているのは伝わってくる。高嶺さんの方を向くと、先生からのメッセージを見ているのか高嶺さんもスマホの画面を眺めていた。

『ありがとうございます。福王寺先生』
『さっきは本当にかっこよかったです!』

 俺が返信した直後に、高嶺さんからもそんなメッセージが送られる。やっぱり、福王寺先生からのメッセージを見ていたんだな。

『照れちゃうけど、かっこいいって言われるのもいいね! ……低変人様はさっきの私を見てどう思った?』

 という返信が福王寺先生から届く。そういえば、俺は華頂さんと話していて、高嶺さん達みたいに先生にかっこいいとか言ってなかったな。

『確かにかっこよかったですけど、それよりも心強かった方が強いです。福王寺先生が担任で良かったです』
『私も同じことを思いました』

 えへへっ、と高嶺さんは俺のことを見ながら笑った。
 すると、すぐに福王寺先生から再びメッセージが。今、先生って休憩中なのかな。放課後だし、部活動もないからゆっくりしているのだろうか。

『2人がそう言ってくれてすっごく嬉しい! 低変人様に褒められて幸せだわ。あと、あの将野美玲っていう女の子が、低変人様と胡桃ちゃんに頬を叩かれたのを見たとき、正直、ざまあみろって思ったわ。あのとき言ったように、暴力を振るうのは良くないんだけどね』

 相変わらず長文を素早く返信してくるな。ていうか、福王寺先生はあのときにそんなことを思っていたのか。だから、華頂さんや俺が将野さんの頬を叩いても、先生はすぐに姿を表さなかったのかな。それも問題な気がするけれど。

『将野さんには色々とされましたからね。今後は気を付けます』

 将野さん以上に酷い相手は今後、そうそう出会うことはないだろうな。
 そして、福王寺先生からは『よろしくね!』というメッセージが添えられた猫のスタンプが送られた。スタンプの力って凄いな。可愛い絵柄のおかげで気持ちがほっこりとする。

「本当に素は可愛い人だよね」

 そう言う高嶺さんの笑顔もとても可愛らしいと思った。あのとき、3人がいて心強かったけど、特に高嶺さんの存在は大きかったな。それを言ったら、高嶺さんは頬にキスしてきそうなので心に留めておこう。


 途中のコンビニでお菓子や飲み物を購入する。お菓子については、

「この中で唯一の先輩だからね。あの小娘が頬を叩かれたのを見て清々しい気分だし」

 と中野先輩が奢ってくれた。
 コンビニから程なくして、俺達は華頂さんの家に到着した。淡い灰色が特徴的な落ち着いた外観だ。パッと見た感じでは、俺の自宅と同じくらいの大きさだ。周りの家も同じくらいだし。そう考えると、高嶺さんの家って大きいんだな。

「さあ、上がって」

 俺達は華頂さんについて行く形で、華頂さんの家の中に入る。

「ただいま~。高校のお友達と先輩を連れてきたよ」

 華頂さんがそう言うと、玄関の側にある扉から、ロングスカートに長袖の縦セーター姿の女性が現れた。セミロングの髪の色は華頂さんと同じだし、華頂さんのお母様かな。同じクラスだったとき、授業参観でこの女性のような方がいた記憶がある。

「おかえり、胡桃。……あら、金井高校の制服の子がずらりと」
「クラスは違うけど、スイーツ部で仲良くなった高嶺結衣ちゃんと伊集院姫奈ちゃん。中学から一緒のゆうく……低田悠真君。それで、あたし達の学校の先輩で、彼にとってはバイト先の先輩でもある中野千佳先輩だよ」

 華頂さん、母親の前では俺のことをあだ名呼びはしないんだな。言い直すところが可愛らしい。

「初めまして、高嶺結衣といいます。胡桃ちゃんとはスイーツ部で知り合って仲良くなりました。ちなみに、姫奈ちゃんと悠真君は私と同じクラスです。最近は一緒にお昼ご飯も食べるようになったよね」
「そうですね。私、伊集院姫奈と申します。初めまして」
「初めまして、低田悠真といいます。中学2年のときに華頂さんとは同じクラスになったので、名前はご存じかもしれませんが。高校生になって、少しずつ華頂さんとまた関わることが増えました」
「初めまして、中野千佳といいます」
「素敵な子と高校で仲良くなったのね。約1名は中学のときに知り合っているけれど。初めまして、胡桃の母の華頂夏芽かちょうなつめといいます。いつも娘の胡桃がお世話になっております。これからも胡桃と仲良くしてくれると嬉しいわ」

 そう言って優しい笑みを浮かべる夏芽さんは、まさに華頂さんのお母さんって感じがする。とても可愛らしい顔立ちをしているし。華頂さんはきっと母親似だろうな。優しい雰囲気も……む、胸も。すごく……大きいです。……いかんいかん、あまり見ては。

「胡桃は高校でいい友達と出会えたって杏が言っていたけれど、本当にそうみたいね。女の子はどの子も可愛いし、男の子の低田君はとても素敵ね。あなたが中学生のとき、授業参観で見たことがあるけれど、当時よりも大人っぽくなった気がするわ」
「そうですか。俺のこと、よく覚えていましたね。俺なんて、夏芽さんのこと……授業参観のときにいた気がするなぁとしか」
「あの頃も、その金色の髪がとても綺麗だったからね。それに、低田君を見ている子は多かったから覚えていたの、もちろん、胡桃もよく見ていたわ」
「お、お母さん……」

 華頂さん、頬を赤らめている。俺と目が合うと、恥ずかしいのかすぐに視線を逸らした。華頂さんは違うと思うけど、俺を見ていた当時の生徒の多くは俺のことを金髪とか、オタクとか、変人とかって馬鹿にしていただろう。

「ふふっ、胡桃ったら可愛い。朧気にでも私のことを覚えていてくれたなんて。お母さん、キュンときちゃった」

 夏芽さんはそう言うと、ほんのりと頬を赤らめて俺のことを見つめてくる。そして、両手で俺の右手を握る。

「お、お母さん! お父さんもいるのに、娘の友達にときめかないで!」
「いくら顔が可愛くて、ここにいる女性の中で一番胸が大きいからって、人妻に手を出しちゃダメだからね、悠真君! そうなる前に私の胸の中に顔を埋めてみない?」
「胡桃のお母様を不倫の道に導いてはいけないのですよ!」

 華頂さんは俺の右手を夏芽さんから引き離す。
 というか、1年生女子3人に本気で怒られてしまったんだけど。俺、そんなに年上好きで、モラルに欠ける行為をするような人間に思われているのだろうか。
 あと、高嶺さん。君だけ願望を言っているね。それに「胸が大きい」と「人妻」って言葉を一度に言ったら、凄く厭らしく感じるよ。

「夏芽さんって、高校生や大学生の子どもがいるとは思えないくらい可愛いけど、さすがに悠真も旦那さんのいる人と付き合ったりはしないでしょ」

 中野先輩は微笑みながらそう言った。
 今までの中で一番、中野先輩に出会えて良かったと思った。これからもこの人についていこうと思えるくらいに。思わず先輩の頭を撫でてしまう。
 俺に撫でられるとは思わなかったのか、中野先輩は見開いた目で俺を見る。ただ、すぐに先輩は柔らかい笑みを浮かべ「ふふっ」と声に出して笑った。

「キュンとはなったけど、低田君と付き合う展開にはならないわ。安心して。ふふっ、3人とも本気になっちゃって可愛い」
「さっきのお母さんの顔を見たら、ゆう君と付き合う展開も考えちゃったよ」

 そう言う華頂さんはもちろんのこと、高嶺さんと伊集院さんもほっと胸を撫で下ろしていた。そんな反応をされると、切ない気持ちになるな。

「あらあら。……こちらの4人と一緒にいる胡桃、中学生のときと比べるととてもいい表情になっているわ。お母さん、とても安心した」
「素敵な4人だからね。それに、美玲ちゃん達と縁を切ったから」

 はっきりとそう言う華頂さん。しかも、清々しい笑顔で。将野さん達と一緒にいるのが相当苦痛だったことが窺える。今の華頂さんの言葉を聞いても夏芽さんは穏やかな笑みを浮かべていることからして、夏芽さんも理解しているのだろう。

「胡桃がそれで幸せになれると思ったのなら、お母さんは尊重するわ。あと、この4人のことを大切にしなさいね」
「うんっ!」
「あと……」

 夏芽さん……華頂さんの耳元で何か言っているな。何を話しているのか全然分からないけど、華頂さんが頬を赤くして頷いているのが印象的だった。
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