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本編
第45話『今までと違う朝』
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5月20日、月曜日。
今日も朝からよく晴れている。天気予報によると、日中は結構温かくなるらしい。なので、制服のジャケットは着ず、ベスト姿で登校することに。ちなみに、金井高校は5月になると、ジャケットは着なくてもいい決まりになっている。
「ゆう君!」
午前8時5分。
待ち合わせ場所である近所の公園に少し早めに行くと、カーディガン姿の華頂さんが俺に向かって手を振ってくれる。俺が来たからか、華頂さんは嬉しそうな笑顔を見せる。
「おはよう、華頂さん。早めに来たんだけど、待ったかな」
「ううん、そんなことないよ。あたしもついさっき来たところ。待ち合わせして学校に行くのが初めてだから、ゆう君が来てくれて安心した」
「俺も華頂さんの姿が見えて安心したよ。あと、そのカーディガン似合ってるな」
「ありがとう。今日は結構暖かくなるらしいから、ジャケットは着なかったの。ゆう君のベスト姿も似合ってるよ」
「ありがとう」
お世辞かもしれないけど、似合っているって言われると嬉しいな。あと、学校で高嶺さんから同じことを言われそうだ。
「ねえ、ゆう君。校門のあたりまで手を繋いで歩かない?」
「へっ?」
思わず変な声が出てしまった。そんな反応をしたからか、華頂さんは頬をほんのりと赤くしながら微笑む。
「えっと、その……一緒に行こうって誘ったから、ゆう君と離れたくないといいますか。美玲ちゃん達と会ったときに一緒にいた方が心強いといいますか。結衣ちゃんの家に行くときに手を繋いだのが心地良かったといいますか……って、何を言っているんだろう、あたし……」
華頂さんはさっきよりも赤みが増した頬に両手を当てる。どうやら、色々と理由があって、俺と手を繋ぎたいようだ。この前、俺と手を繋いだのが嫌じゃないと分かって安心した。
「分かった。学校に着くまで手を繋ぐか」
「……うんっ!」
笑顔で頷く華頂さんはとても可愛らしい。
俺は華頂さんと手を繋ぎ、ドキドキしながら金井高校に向かって歩き始める。
待ち合わせをした公園からは5分も歩けば学校に到着する。見慣れた景色だけど、今までと違って見えるな。
まさか、華頂さんと一緒に登校する日が来るとは。しかも、手を繋いで。以前には考えられなかったことを、この1週間ほどでたくさん経験できている気がする。将野さん達とも一つ区切りを付けられたから、幸せな気持ちさえ抱くほど。
そういえば、高嶺さんと初めてのデートの際に手を繋いだとき、ちょっとドキドキしたな。手を繋ぐとしおらしくなる高嶺さんは可愛かった。
「歩いて学校に行けるのっていいよね。クラスの友達に電車通学の子がいて、毎朝満員電車に乗るだけで疲れるって言ってた」
「姉さんも、1限から講義がある日は満員電車が嫌だって言っていたな。そう考えると、徒歩で学校まで行けるっていいな。俺なんて数分だし。だから、ゆっくり家を出られる」
「いいよね。あたしは朝礼までの時間に友達とお話ししたいから早めに行くことが多いけど、たまにゆっくり起きてギリギリに行くこともあるよ。あたしも10分あれば確実に行けるし」
「朝ゆっくり出られるのは大きいよな」
たまに、漫画を読んだり、アニメを観たり、音楽制作したりするのに集中して、夜遅くまで起きてしまうときがあるから。近い高校に進学できて本当に良かったと思う。進路先もできるだけ家から近いところがいいな。
華頂さんと話をしていたのもあり、気付けば金井高校の校舎が見え始めていた。
「もうすぐ学校だね。本当にあっという間」
「ああ」
「……周りの生徒から見たら、あたし達ってカップルに見えるのかな」
華頂さんがそんなことを言ってくるので華頂さんの方を見ると、はにかむ華頂さんと目が合う。
「カップルだと思う生徒はいるだろうな。髪の色が同じだったり、顔の雰囲気が似ていたりしたら、兄妹だと思う生徒もいそうだけど」
「……そっか」
華頂さんはそう呟くだけで、俺の手を離したり、握る強さを緩めたりすることもなかった。俺もカップルという言葉にドキドキしたけど、華頂さんと手を繋ぐのが心地良くて離そうとはしなかった。
ただ、カップルを話題にしたからか、手を繋いだ直後よりもドキドキして。華頂さんも同じなのか、学校に到着するまで互いに言葉を交わさなかった。
「あれ、結衣ちゃんじゃない?」
校門に入ってすぐに華頂さんが言ったその言葉が、俺達の間の沈黙を破った。
華頂さんの指さす先には、昇降口の前で、男子生徒と向かい合う高嶺さんという普段通りの光景が。近くには伊集院さんの姿も。今日はこれから男子生徒に告白されるのかな。
「僕、高嶺結衣さんのことが好きです! 僕と付き合ってください!」
「……ごめんなさい。心に決めている人がいるので、あなたとお付き合いすることはできません。失礼します」
高嶺さんは深く頭を下げて、伊集院さんと一緒に校舎に入っていく。きっと断ると思っていても、以前に比べてこういう光景を見ると胸がざわつくようになってきた。
「凄いね、結衣ちゃんは。たまにゆっくり登校すると、今のような光景を見ることが多いよ」
「……俺はいつもゆっくり登校するから、ほぼ毎回ああいう光景を見るよ」
「ふふっ、そうなんだ。……学校に到着したから手を離そっか。あたしのわがままを聞いてくれてありがとね」
「いえいえ、こちらこそ。いつもよりもいい朝の時間になったよ」
「……そう言ってくれて良かった」
華頂さんはほっとした様子になると、俺の手をそっと離した。そして、俺達は昇降口の方へ向かう。
そういえば、先週の金曜日の帰り際に、校門前で将野さんとの一件があったんだよな。週末に勉強会や1ヶ月遅れの誕生日会があったからか、かなり前のことのように感じる。
あのときは多くの生徒に見られる中で、将野さんに色々と言って、将野さんの頬を叩いた。そのことで、以前よりも俺に変なことを言ったり、非難したりする生徒が増えそうだ。俺は慣れているからまだしも、同じく頬を叩いた華頂さんが耐えられるかどうか。そんなことを考えながら、昇降口で上履きに履き替えた。
「金髪の彼だよね。四鷹東高校の女子を叩いたのって」
「そうだよ。あたし、その瞬間をはっきり見てた。あの赤紫色の子も叩いていたけど、彼女よりも強く叩いていたよ。彼のときは鈍い音がしたし、倒れたから。酷いよね」
さっそく、女子生徒達による金曜日のことについての話し声が聞こえてくる。こればかりは仕方ない。
華頂さんの方を見ると、華頂さんは普段と変わりない様子だった。
「……頬を叩いたんだもん。今みたいに話されるのは覚悟してる」
「……そうか。何かあったら、遠慮なく俺や高嶺さん達に言ってくれ」
「うん、ありがとう」
華頂さんは俺に微笑んでくれる。この様子ならとりあえずは大丈夫そうか。
俺も特に教室では覚悟しておかないと。高嶺さんや伊集院さん、福王寺先生がフォローしてくれるかもしれないけど。
周りの生徒にジロジロ見られ、コソコソ話されるという俺にとっては普段と変わらない雰囲気の中、1年3組の教室の前まで辿り着いた。
「じゃあ、また後でね、ゆう君」
「ああ、また後で」
一旦、華頂さんと別れる。華頂さんも同じクラスだったら良かったのにと思う。
一度、深呼吸をして俺は1年2組の教室に入っていく。高嶺さんと伊集院さんが先に登校してきているのは分かっているけど、いつになく緊張する。
「おっ、噂をすれば何とやら。低田が来たじゃねえか!」
そんな声が聞こえて、数人の男子生徒と女子生徒が俺に近寄ってくる。
クラスの中を見ると、男女問わず明るい表情で俺を見てくるクラスメイトが多い。こんな状況は人生初なので恐いし寒気がする。遠くから俺を睨む男子生徒がいることに安心感を覚えるほどだ。
「俺、金曜日の放課後に他校の女子生徒と言い合う低田を見てさ。そのときの低田の様子が凄く熱いなって思ったんだ。低田のことを見直したよ!」
「頬を叩くのはさすがにまずいと思うけど、あの女子の態度じゃ、一発くらい叩きたくなるよな!」
「俺はいいと思うけどな。ムカムカし始めたときだったから、あの瞬間はスカッとしたぜ! クラスや部活の知り合いが何人も見ていたから、週末に一緒に試験勉強するときとか、今日学校に来たら、低田の話題になることが多くてさ」
「高嶺さんが低田君に惚れる理由が分かったよ! あのときの低田君かっこいいって思ったもん! さすがは高嶺さん! 前から見抜いていたんだね!」
などと、俺に近寄ってきた生徒達が言う。
あのときは多くの生徒に見られていた。クラスメイトが何人も見ていてもおかしくはないか。それに、俺は1年生中心に悪い意味で有名だから、金曜日のことも広まりやすいのかも。
あと、こういうときでも高嶺さんの評判が上がるのはさすがだと思う。
「そうだったのか。第一中学出身の生徒から聞いているかもしれないけど、あの女子とは同じ中学で。中学時代に彼女と色々とあってさ。隣のクラスの女子も苦しんでいたから、気持ちが収まらなかったんだ。ただ、それだけだよ」
低変人としてネット上で称賛の声を浴びるのは慣れているけど、低田悠真としてリアルでたくさんの人に褒められるのは初めてだ。嬉しさよりも照れくささの方が勝る。
俺は自分の席へ向かい、椅子に腰を下ろした。それでも、未だに俺に好奇の視線が向けられるとは。今までよりも悪化するかと思いきや、まさか評判が上がるなんて。
いつも通り、高嶺さんと伊集院さんが俺のところにやってくる。
「おっ、ベスト姿似合ってるね、悠真君。あと、金曜日の一件で悠真君の評判がうなぎ登りだね」
「胡桃を守る姿勢や、あの女に対する態度が良かったからだと思うのです」
「まさか、こうなるとは思わなかったよ。むしろ悪化すると思ってた。実際、華頂さんと登校しているときに、将野さんの頬を叩いたことを非難する女子達の会話が耳に入ったから」
「頬を叩くのは確かに良くないね。それでも、悠真君の真面目さや、胡桃ちゃんを守りたい気持ちが多くの生徒に伝わったんじゃないかな。実は、週末の間に友達から『悠真君に惚れたのは納得!』っていう旨のメッセージをいくつかもらってた」
「そうだったのか」
何にせよ、今までと変わらずに学校生活を送ることができそうなので一安心だ。
また、朝礼が始まる直前にLIMEで華頂さんから、
『みんな、中学時代から大変だったんだねとか、ゆう君や結衣ちゃん、姫奈ちゃんが側にいてくれて良かったねって言ってくれた。頬を叩いたことについては、注意してくれた子はいたけど、悪く言う子は今のところいないよ』
というメッセージが届いた。どうやら、華頂さんの方も大丈夫そうだな。このことには高嶺さんと伊集院さんも嬉しそうにしていた。
「みんな、おはよう。席に着きなさい。朝礼を始めるわよ」
福王寺先生が教室にやってくる。クールモードだけど、俺と目が合った瞬間、先生の口角が上がり小さく頷いた。お誕生日おめでとう……ってことかな。
そして、今週も学校生活が始まる。高校最初の中間試験があるので、今週はいつもより頑張らないといけないな。
今日も朝からよく晴れている。天気予報によると、日中は結構温かくなるらしい。なので、制服のジャケットは着ず、ベスト姿で登校することに。ちなみに、金井高校は5月になると、ジャケットは着なくてもいい決まりになっている。
「ゆう君!」
午前8時5分。
待ち合わせ場所である近所の公園に少し早めに行くと、カーディガン姿の華頂さんが俺に向かって手を振ってくれる。俺が来たからか、華頂さんは嬉しそうな笑顔を見せる。
「おはよう、華頂さん。早めに来たんだけど、待ったかな」
「ううん、そんなことないよ。あたしもついさっき来たところ。待ち合わせして学校に行くのが初めてだから、ゆう君が来てくれて安心した」
「俺も華頂さんの姿が見えて安心したよ。あと、そのカーディガン似合ってるな」
「ありがとう。今日は結構暖かくなるらしいから、ジャケットは着なかったの。ゆう君のベスト姿も似合ってるよ」
「ありがとう」
お世辞かもしれないけど、似合っているって言われると嬉しいな。あと、学校で高嶺さんから同じことを言われそうだ。
「ねえ、ゆう君。校門のあたりまで手を繋いで歩かない?」
「へっ?」
思わず変な声が出てしまった。そんな反応をしたからか、華頂さんは頬をほんのりと赤くしながら微笑む。
「えっと、その……一緒に行こうって誘ったから、ゆう君と離れたくないといいますか。美玲ちゃん達と会ったときに一緒にいた方が心強いといいますか。結衣ちゃんの家に行くときに手を繋いだのが心地良かったといいますか……って、何を言っているんだろう、あたし……」
華頂さんはさっきよりも赤みが増した頬に両手を当てる。どうやら、色々と理由があって、俺と手を繋ぎたいようだ。この前、俺と手を繋いだのが嫌じゃないと分かって安心した。
「分かった。学校に着くまで手を繋ぐか」
「……うんっ!」
笑顔で頷く華頂さんはとても可愛らしい。
俺は華頂さんと手を繋ぎ、ドキドキしながら金井高校に向かって歩き始める。
待ち合わせをした公園からは5分も歩けば学校に到着する。見慣れた景色だけど、今までと違って見えるな。
まさか、華頂さんと一緒に登校する日が来るとは。しかも、手を繋いで。以前には考えられなかったことを、この1週間ほどでたくさん経験できている気がする。将野さん達とも一つ区切りを付けられたから、幸せな気持ちさえ抱くほど。
そういえば、高嶺さんと初めてのデートの際に手を繋いだとき、ちょっとドキドキしたな。手を繋ぐとしおらしくなる高嶺さんは可愛かった。
「歩いて学校に行けるのっていいよね。クラスの友達に電車通学の子がいて、毎朝満員電車に乗るだけで疲れるって言ってた」
「姉さんも、1限から講義がある日は満員電車が嫌だって言っていたな。そう考えると、徒歩で学校まで行けるっていいな。俺なんて数分だし。だから、ゆっくり家を出られる」
「いいよね。あたしは朝礼までの時間に友達とお話ししたいから早めに行くことが多いけど、たまにゆっくり起きてギリギリに行くこともあるよ。あたしも10分あれば確実に行けるし」
「朝ゆっくり出られるのは大きいよな」
たまに、漫画を読んだり、アニメを観たり、音楽制作したりするのに集中して、夜遅くまで起きてしまうときがあるから。近い高校に進学できて本当に良かったと思う。進路先もできるだけ家から近いところがいいな。
華頂さんと話をしていたのもあり、気付けば金井高校の校舎が見え始めていた。
「もうすぐ学校だね。本当にあっという間」
「ああ」
「……周りの生徒から見たら、あたし達ってカップルに見えるのかな」
華頂さんがそんなことを言ってくるので華頂さんの方を見ると、はにかむ華頂さんと目が合う。
「カップルだと思う生徒はいるだろうな。髪の色が同じだったり、顔の雰囲気が似ていたりしたら、兄妹だと思う生徒もいそうだけど」
「……そっか」
華頂さんはそう呟くだけで、俺の手を離したり、握る強さを緩めたりすることもなかった。俺もカップルという言葉にドキドキしたけど、華頂さんと手を繋ぐのが心地良くて離そうとはしなかった。
ただ、カップルを話題にしたからか、手を繋いだ直後よりもドキドキして。華頂さんも同じなのか、学校に到着するまで互いに言葉を交わさなかった。
「あれ、結衣ちゃんじゃない?」
校門に入ってすぐに華頂さんが言ったその言葉が、俺達の間の沈黙を破った。
華頂さんの指さす先には、昇降口の前で、男子生徒と向かい合う高嶺さんという普段通りの光景が。近くには伊集院さんの姿も。今日はこれから男子生徒に告白されるのかな。
「僕、高嶺結衣さんのことが好きです! 僕と付き合ってください!」
「……ごめんなさい。心に決めている人がいるので、あなたとお付き合いすることはできません。失礼します」
高嶺さんは深く頭を下げて、伊集院さんと一緒に校舎に入っていく。きっと断ると思っていても、以前に比べてこういう光景を見ると胸がざわつくようになってきた。
「凄いね、結衣ちゃんは。たまにゆっくり登校すると、今のような光景を見ることが多いよ」
「……俺はいつもゆっくり登校するから、ほぼ毎回ああいう光景を見るよ」
「ふふっ、そうなんだ。……学校に到着したから手を離そっか。あたしのわがままを聞いてくれてありがとね」
「いえいえ、こちらこそ。いつもよりもいい朝の時間になったよ」
「……そう言ってくれて良かった」
華頂さんはほっとした様子になると、俺の手をそっと離した。そして、俺達は昇降口の方へ向かう。
そういえば、先週の金曜日の帰り際に、校門前で将野さんとの一件があったんだよな。週末に勉強会や1ヶ月遅れの誕生日会があったからか、かなり前のことのように感じる。
あのときは多くの生徒に見られる中で、将野さんに色々と言って、将野さんの頬を叩いた。そのことで、以前よりも俺に変なことを言ったり、非難したりする生徒が増えそうだ。俺は慣れているからまだしも、同じく頬を叩いた華頂さんが耐えられるかどうか。そんなことを考えながら、昇降口で上履きに履き替えた。
「金髪の彼だよね。四鷹東高校の女子を叩いたのって」
「そうだよ。あたし、その瞬間をはっきり見てた。あの赤紫色の子も叩いていたけど、彼女よりも強く叩いていたよ。彼のときは鈍い音がしたし、倒れたから。酷いよね」
さっそく、女子生徒達による金曜日のことについての話し声が聞こえてくる。こればかりは仕方ない。
華頂さんの方を見ると、華頂さんは普段と変わりない様子だった。
「……頬を叩いたんだもん。今みたいに話されるのは覚悟してる」
「……そうか。何かあったら、遠慮なく俺や高嶺さん達に言ってくれ」
「うん、ありがとう」
華頂さんは俺に微笑んでくれる。この様子ならとりあえずは大丈夫そうか。
俺も特に教室では覚悟しておかないと。高嶺さんや伊集院さん、福王寺先生がフォローしてくれるかもしれないけど。
周りの生徒にジロジロ見られ、コソコソ話されるという俺にとっては普段と変わらない雰囲気の中、1年3組の教室の前まで辿り着いた。
「じゃあ、また後でね、ゆう君」
「ああ、また後で」
一旦、華頂さんと別れる。華頂さんも同じクラスだったら良かったのにと思う。
一度、深呼吸をして俺は1年2組の教室に入っていく。高嶺さんと伊集院さんが先に登校してきているのは分かっているけど、いつになく緊張する。
「おっ、噂をすれば何とやら。低田が来たじゃねえか!」
そんな声が聞こえて、数人の男子生徒と女子生徒が俺に近寄ってくる。
クラスの中を見ると、男女問わず明るい表情で俺を見てくるクラスメイトが多い。こんな状況は人生初なので恐いし寒気がする。遠くから俺を睨む男子生徒がいることに安心感を覚えるほどだ。
「俺、金曜日の放課後に他校の女子生徒と言い合う低田を見てさ。そのときの低田の様子が凄く熱いなって思ったんだ。低田のことを見直したよ!」
「頬を叩くのはさすがにまずいと思うけど、あの女子の態度じゃ、一発くらい叩きたくなるよな!」
「俺はいいと思うけどな。ムカムカし始めたときだったから、あの瞬間はスカッとしたぜ! クラスや部活の知り合いが何人も見ていたから、週末に一緒に試験勉強するときとか、今日学校に来たら、低田の話題になることが多くてさ」
「高嶺さんが低田君に惚れる理由が分かったよ! あのときの低田君かっこいいって思ったもん! さすがは高嶺さん! 前から見抜いていたんだね!」
などと、俺に近寄ってきた生徒達が言う。
あのときは多くの生徒に見られていた。クラスメイトが何人も見ていてもおかしくはないか。それに、俺は1年生中心に悪い意味で有名だから、金曜日のことも広まりやすいのかも。
あと、こういうときでも高嶺さんの評判が上がるのはさすがだと思う。
「そうだったのか。第一中学出身の生徒から聞いているかもしれないけど、あの女子とは同じ中学で。中学時代に彼女と色々とあってさ。隣のクラスの女子も苦しんでいたから、気持ちが収まらなかったんだ。ただ、それだけだよ」
低変人としてネット上で称賛の声を浴びるのは慣れているけど、低田悠真としてリアルでたくさんの人に褒められるのは初めてだ。嬉しさよりも照れくささの方が勝る。
俺は自分の席へ向かい、椅子に腰を下ろした。それでも、未だに俺に好奇の視線が向けられるとは。今までよりも悪化するかと思いきや、まさか評判が上がるなんて。
いつも通り、高嶺さんと伊集院さんが俺のところにやってくる。
「おっ、ベスト姿似合ってるね、悠真君。あと、金曜日の一件で悠真君の評判がうなぎ登りだね」
「胡桃を守る姿勢や、あの女に対する態度が良かったからだと思うのです」
「まさか、こうなるとは思わなかったよ。むしろ悪化すると思ってた。実際、華頂さんと登校しているときに、将野さんの頬を叩いたことを非難する女子達の会話が耳に入ったから」
「頬を叩くのは確かに良くないね。それでも、悠真君の真面目さや、胡桃ちゃんを守りたい気持ちが多くの生徒に伝わったんじゃないかな。実は、週末の間に友達から『悠真君に惚れたのは納得!』っていう旨のメッセージをいくつかもらってた」
「そうだったのか」
何にせよ、今までと変わらずに学校生活を送ることができそうなので一安心だ。
また、朝礼が始まる直前にLIMEで華頂さんから、
『みんな、中学時代から大変だったんだねとか、ゆう君や結衣ちゃん、姫奈ちゃんが側にいてくれて良かったねって言ってくれた。頬を叩いたことについては、注意してくれた子はいたけど、悪く言う子は今のところいないよ』
というメッセージが届いた。どうやら、華頂さんの方も大丈夫そうだな。このことには高嶺さんと伊集院さんも嬉しそうにしていた。
「みんな、おはよう。席に着きなさい。朝礼を始めるわよ」
福王寺先生が教室にやってくる。クールモードだけど、俺と目が合った瞬間、先生の口角が上がり小さく頷いた。お誕生日おめでとう……ってことかな。
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