高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

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本編

第46話『聖母と天使』

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 火曜日から、高校生になってから初めての中間試験が行なわれている。
 中学のときと同じで、試験期間中は午前のみの日程。なので、午前は学校で試験を受け、高嶺さんと華頂さん、伊集院さんと一緒にお昼ご飯を食べ、午後は誰かの家に行って翌日の科目の試験勉強をする流れが定着。中野先輩も一緒に勉強する日もあった。そのおかげもあって、得意な理系科目と英語科目はもちろんのこと、文系科目も手応えがあった。
 家で勉強しているときは、みんなが誕生日プレゼントでくれたブレンドコーヒーを飲んだ。とても美味しくて、飲む度にほっこりとした気持ちになれた。
 また、気分転換に、録画したアニメを観たり、新曲を制作したりしている。メリハリのある生活を送っているからか、調子良く制作できている。新曲は試験明けの週末、遅くても今月中にはアップしたい。

『低変人さん。今日も定期試験お疲れ様!』
『お疲れ様です。桐花さん』

 毎晩、桐花さんと試験がどうだったか軽く報告し合った。知り合ってから、定期試験の時期になると恒例になっており、活動休止期間中に行なわれた試験を除けば欠かしていない。
 桐花さんも今回の試験は調子がいいらしい。それを知る度に心が休まった。



 5月24日、金曜日。
 今日は中間試験の最終日。数学Aと英語表現Ⅰの試験が行なわれた。どちらも得意科目なので、とても手応えがあった。これなら高得点を期待できそうだ。

「終わったー!」

 2科目目である英語表現Ⅰの試験の終了を知らせるチャイムが鳴った瞬間、男子中心にそう言って喜ぶ生徒が続出。試験からの解放感はもちろんのこと、これで週末の休みに突入するからだろう。あとは部活動の再開もあるか。
 個人的に、金曜日の日程がお昼前に終わるのが嬉しい。午後にはさっそくバイトがあるけど、中野先輩と一緒だし、久しぶりなので苦だとは全く思わない。
 チャイムが鳴って2、3分ほどで、福王寺先生が教室に入ってくる。俺と目が合うと先生は微笑む。以前はクール一辺倒だったけど、最近になって今のようなことが増えた。

「みなさん、中間試験お疲れ様でした。高校生になって初めての中間試験はどうでしたか? 試験の答案は来週からの各教科の授業で返却する予定です。結果が気になる人もいると思いますが、この週末は羽を伸ばしてください。では、これにて終わりです。また月曜日に会いましょう」

 福王寺先生がそう話し、委員長である女子生徒が号令を言って今週の学校生活が終わった。ほっとした気持ちになり、俺は「ふーっ」と息を長く吐いた。

「悠真君、試験お疲れ様!」
「お疲れ様なのです、悠真君」

 スクールバッグを持った高嶺さんと伊集院さんが俺のところにやってくる。中間試験が終わったからか、2人とも嬉しそうだ。

「お疲れ様。今日の2科目はどうだった? 俺は手応えがあったけど」
「私はどっちもよくできたと思ってる!」
「数学Aはよくできたのです。英語表現Ⅰはみなさんの助けがあって、平均点くらいは取れているんじゃないかと思うのです」
「そうか。何とかなりそうで良かった」

 伊集院さんは英語が苦手な方で、英語科目の試験が翌日に控えている日は集中的に勉強していたな。高嶺さんはもちろんのこと、華頂さんや俺も伊集院さんの英語のサポートをした。それがテストに繋がったようで嬉しい。

「じゃあ、これからドニーズに行こうか」

 そう、これから武蔵金井駅近くにあるドニーズに行って、中間試験の打ち上げも兼ねてお昼ご飯を食べる予定だ。俺達3人だけではなく、華頂さんと中野先輩も一緒に。
 中間試験の初日に、試験が終わったらみんなで打ち上げをしようという話になった。ただ、中野先輩と俺が午後2時からバイトがあるため、せめてお昼ご飯は一緒に食べることになったのだ。
 芹花姉さんや母さんのウェイトレス姿を見たいという理由で、行く場所はドニーズにすぐに決まった。

「みんな、試験お疲れ様」

 教室を出ると、そこには華頂さんの姿が。華頂さんは俺達に手を振る。

「胡桃ちゃんもお疲れ様。今日の試験はどうだった?」
「英語表現Ⅰはバッチリ。数学Aもみんなに教えてもらったから結構手応えあったよ」
「それは良かった! じゃあ、校門へ行こうか」

 華頂さんも調子が良さそうで良かった。1年生みんなは赤点の心配はないんじゃないだろうか。
 いつも通り、中野先輩とは校門近くで待ち合わせしているため、俺達は4人で校門へと向かう。
 人気の高い高嶺さんと華頂さんが一緒だからか、今日も多くの生徒に見られている。
 ただ、将野さんとの一件があってから、「何であいつが一緒に……」などと、俺について悪く言う声が格段に減った。クラスでも、以前のように蔑まれることも数えるくらいになったし。まさか、あの出来事で周りの雰囲気が好転するとは思わなかった。
 校舎を出て校門の方へ向かうと、既に校門近くに中野先輩がいた。俺達に気付いたのか、先輩は俺達に向かって笑顔で手を振る。

「みんな、試験お疲れ様! 高校最初の定期試験はどうだったかな?」
「一緒に勉強した甲斐もあって、私達はみんな手応えがありました。千佳先輩はどうでしたか?」
「文系科目と英語はバッチリ! 理系科目は平均点くらいかなぁ。まあ、試験なんて赤点じゃなければいいんだよ!」

 あははっ、と中野先輩は快活に笑っている。さすがに文系を選択しただけあって、文系科目はよくできたようだ。点数は高いに越したことはないけど、中間試験だし、赤点じゃなければとりあえずいいのかな。
 俺達は5人で武蔵金井駅近くにあるドニーズへと向かい始める。
 今は11時半だけど、お腹も空いてきているし昼食を食べるにはいい時間か。それに、先輩と俺は2時からバイトがあるから、少しでもみんなとゆっくりとした時間を過ごしたい。

「ねえ、悠真君。今日ってお姉様とお母様のシフトは入っているの?」
「ああ。2人とも開店からシフトに入ってるよ。母さんは夕方までで、芹花姉さんも今日は夕方の講義だけだから、昼過ぎまでバイトしてるって」
「じゃあ、ウェイトレス姿の二人に会えるんだね! 楽しみだなぁ」

 高嶺さん、文字通りの楽しげな表情を浮かべている。高嶺さんと同じなのか、それとも試験が終わった解放感からか、華頂さん達も凄くいい笑顔を浮かべていた。

「そういえば、高嶺さん。今更かもしれないけど、気になることがあって」
「どんなことかな? スリーサイズ? それともバストだけ? 前に私の胸の中に埋もれていたもんね」
「そ、そんなことがあったんだ」

 華頂さんは頬を真っ赤にして、俺と高嶺さんを交互に見る。まったく、高嶺さんは外で何を訊いているんだか。

「体のことじゃないよ。高嶺さんって、俺に告白してから、バイトのある日はほとんどムーンバックスに来てくれているじゃないか。お金とか大丈夫かなって」
「お金のことね。実はゴールデンウィーク中に姫奈ちゃんと買い物をしていたら、駅前で有名なファッションブランドで働く方に、新作の服の宣材モデルにならないかってスカウトされて。それで、姫奈ちゃんと一緒にモデルの仕事をしたんだよね」
「そうですね。それぞれ違う服を着たのですが楽しかったのです。たっぷりと報酬をいただきましたし」
「たーっぷりといただいたよね。諭吉さん、何人いたかなぁ」

 高嶺さんと伊集院さん、不適な笑みを浮かべている。
 ゴールデンウィーク中に単発のアルバイトをしたのか。高嶺さんは背が高く、スタイルが良くて美人だからな。伊集院さんもとても可愛らしい雰囲気の子だから、2人ともスカウトされる理由も分かる。有名なブランドだから、バイト代もたっぷりと出たのだろう。

「あと、連休の間に、私は金井公園で行なわれたイベントのキャンペーンガールもやって。元々やる予定だった方が急病で倒れて。それで、その……悠真君のことを遠くから見ているときにスカウトされて。緊急で、しかも休日だからってたっぷりとバイト代をもらって」
「そうだったのか。2度もスカウトされるのは凄いな、高嶺さん」

 そのうちの一度が、俺のストーカー中だから何とも言えないが。
 連休中にたっぷりとお金をもらえるバイトを2度もすれば、ムーンバックスに来て毎度コーヒーや紅茶を飲む程度なら、お金の心配はする必要はないのかな。

「でも、入学した直後から、学校生活に慣れてきたらバイトしたいなって考えていたの。中間の後か、遅くても夏休みのあたりから」
「あたしも夏休みに短期のバイトはしたいですね」
「それもいいね、姫奈ちゃん」

 高嶺さんや伊集院さんもいずれはバイトするのか。特に高嶺さんは俺と一緒にムーンバックスでバイトをしそうだ。今もブラックコーヒーを飲めないけど。

「4月中からバイトを始めた悠真君や胡桃ちゃんは偉いし、凄いなって思ってるよ」
「そう言われると照れるな。あたしは本が好きだからできるのもあるかな」
「俺もそんな感じだな。バイト代はいいのはもちろんだけど、コーヒーや紅茶好きだからできるっていうのはあるな。あと、中野先輩っていう学校の先輩がいるのは運がいいよ」
「仕事の覚えが早い後輩であたしも運がいいと思っているよ。ただ、3人や杏さん、杏樹先生とカウンターで長めに話すことがあるのが玉に瑕だけど」
「……気を付けます」

 友人や知り合いが来店すると嬉しい気持ちになっちゃうんだ。
 そんなことを話していると、武蔵金井駅の南口にあるドニーズへあっという間に到着する。久しぶりだなぁ。何年ぶりだろう? 姉さんがバイトを始めてからなのは確かだけど。
 俺達はドニーズの中に入る。
 店内を見ると、金井高校の生徒のグループがちらほらいるな。

「いらっしゃいませ!」
「ドニーズ武蔵金井駅前店へようこそ~」

 物凄く聞き覚えのある2人の声が聞こえたすぐ後、ウェイトレスの制服に身を包んだ女性2人がこちらにやってくる。その2人というのは、

「あっ、ユウちゃん達だ! ちゃんと来てくれた!」
「前に悠真が試験最終日にみんなと来るって言っていたじゃない、芹花。みんな、中間試験お疲れ様」

 もちろん、母さんと芹花姉さんである。2人のウェイトレス姿は久しぶりに見たな。こうして見てみると……2人が可愛い笑顔なのもあって、黄金色の聖母と天使って呼ばれているのも納得できる。

「ありがとうございます! お母様とお姉様、ウェイトレス姿とっても可愛いですね! まさに聖母と天使です!」
「お姉ちゃんが言っていた通りだ。本当に可愛いです!」
「親子なのが嘘のようです。真梨恵さんも低田君のお姉さんのように見えるのです。2人ともスタイルが良くて羨ましいのです……」
「伊集院ちゃんの言う通りだね。うちの母親と違って、大人の色気があるのに若々しい。今まで、どちらか1人だけ働いている姿は見たことがありますけど、並ぶと圧巻ですね」

 4人とも、母さんと芹花姉さんのウェイトレス姿にご満悦のようである。4人と同じような感想を持っているのか、店内にいる多くのお客さんが母さんと姉さんのことを見ている。一部の人はニヤニヤしているけど。
 あと、若々しいとか姉のようだと言われたからか、芹花姉さんよりも母さんの方が喜んでいるな。

「似合っているって言われると嬉しいね、お母さん」
「そうね!」

 嬉しさのあまりか、母さんはその場でクルリと一回転。

「現役の女子高生からそういう言葉を言われると、気持ちが若返った感じがするわ。聖母って言われるのもいいけどね。芹花と悠真のお母さんだから」

 そう言って、母さんは芹花姉さんと俺の頭を優しく撫でてくれる。みんながいる前だから恥ずかしいな。

「そして、いずれは私の義理のお母さんになることを願っています」

 凛とした笑みになり、低いトーンでそう言う高嶺さん。母さんから攻めていくつもりなのだろうか。『将を射んと欲すればまず馬を射よ』の考えで。あと、今の高嶺さんの声もなかなかいいな。そんな高嶺さんに華頂さん達はクスクスと笑っている。
 高嶺さんが母さんの左手を掴むと、母さんはニッコリと笑って、

「ふふっ、義理の娘になる気満々ね、結衣ちゃんは。もしかしたら、胡桃ちゃんや姫奈ちゃん、千佳ちゃんが娘になる未来もあるかもしれないけど」
「つ、つまりそれって……ほえっ」
「ちょっとドキドキしまうのです」
「こ、後輩としてはいい子だよ、悠真は。仕事の覚えも早いし、よく働いてくれるし」

 華頂さんは真っ赤な顔、伊集院さんはドキドキすると言った割にはいつもと変わらず、中野先輩はほんのりと頬を赤くしてそれぞれ言った。

「ふふっ、みんな可愛いわね」
「もう、お母さんったら。……いつまでもここにいさせたらまずいね。5名様、ご案内いたします」

 俺達は芹花姉さんによって席へ案内されるのであった。
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