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本編
第71話『二人でお風呂-前編-』
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「ユウちゃん! 結衣ちゃん! ううっ……おめでとう! 結衣ちゃん……ユウちゃんのお嫁さんになるっていう私の夢を叶えてええっ! あと、ユウちゃんいなくならないでええっ!」
結衣と一緒に帰宅すると、芹花姉さんが涙をボロボロ流しながら俺達にそう言ってきたのだ。その流れで、姉さんにぎゅっと抱きしめられた結衣はさすがに苦笑い。
両親曰く、俺達が帰ってくる15分ほど前に、芹花姉さんが大学の友人の家から帰ってきたとのこと。そのときに、俺が結衣と付き合うことになったと話したら、一瞬にして姉さんの顔から表情が抜け、自分の部屋に入ってしまったという。最近は落ち着いているけど、昔は俺の頬にキスしてくるほどのブラコンだった。結衣の恋人になったと知って、かなりショックを受けたのだろう。
抱きしめられた直後は苦笑いだった結衣も、程なくして優しい笑顔に変わり、
「任せてください、お姉様! 悠真君と幸せになって、いつか必ず悠真君のお嫁さんになって、お姉様の義理の妹になりますから!」
と言って、芹花姉さんの頭を撫でる。まったく、どっちがお姉さんなんだか。
「結衣の恋人になったけど、俺はいなくならないから。少なくとも、高校を卒業するまではここにいるさ」
「……ほんと?」
「ほんとほんと。あと、俺の姉は芹花姉さんだけだよ」
俺も芹花姉さんの頭を優しく撫でると、ようやく姉さんの涙が止まり、笑顔を見せてくれるように。何だか昔の姉さんを見ているようだった。
夕ご飯は電話で母さんが話していた通り鍋だった。今日から夏が始まったけど、夜になるとまだ涼しいし、温かいものを食べると心身共にほっとする。
結衣も美味しそうに食べていて、たまに俺に食べさせてくれた。結衣に食べさせてもらうのは何度もあるけど、家族の前だから恥ずかしかったな。
俺達が帰ってきたときに号泣していた芹花姉さんも、夕食のときにはすっかりと元気になっていた。結衣と楽しく話すときもあって。これなら、姉さんの夢を結衣が叶えて義理の姉妹になっても、仲良くやっていけるんじゃないだろうか。
「夕ご飯美味しかったね、悠真君」
「美味しかったな。夏がまだ始まったばかりだし、鍋もいいよな」
「うんっ! 締めのラーメンまで美味しかったなぁ。夏になっても温かい料理はいいよね」
「そうだな」
俺達は隣同士に置いたクッションに座り、リビングから持ってきた温かい日本茶を一緒に飲む。温かいものを飲むと気持ちがほっとする。
いつもなら、そのほっとした気持ちが続くけど、今日はすぐに去ってゆく。今日は結衣が俺の部屋に泊まるからだ。もちろん、それは初めてのこと。恋人になった初日だからというのもあって緊張するな。
隣に座っている結衣を見ると、結衣はスマホを手に取っていた。
「柚月と杏さんからメッセージ来てる。悠真君と付き合えるようになって良かったねって」
「そうか」
俺もスマホで確認すると、柚月ちゃんと杏さんからLIMEでメッセージが届いていた。
『悠真さん! お姉ちゃんと幸せになってくださいね! いつか、義理のお兄さんになってくれると嬉しいです!』
『低田君、結衣ちゃんとのお付き合いおめでとう。お幸せに。あと、これまでネット中心に胡桃と仲良くしてくれてありがとう。これからも、胡桃と友人として仲良くしてくれると嬉しいな』
2人からもメッセージをもらえるとは。特に杏さんからもらえるとは思わなかった。あと、このメッセージからして、杏さんは以前から俺が低変人だと知っていたようだ。杏さんなら、俺の正体を知っていても大丈夫だろう。
「俺にも来ていたよ」
「やっぱりね」
結衣の方を見て目が合うと、結衣ははにかむ。そのことで緊張の中に幸せな気持ちが生まれる。唇を軽く重ねると、結衣は頬を赤くしながら「ふふっ」と可愛らしく笑った。
――コンコン。
「は、はいっ!」
何度も唇を重ねた後にノックされたので、ビックリして大きな声で返事してしまった。そのことに、結衣はくすっと笑っていた。
この時間にノックされることはあまりない。誰だろう? そう思って扉を開けると、そこにはマグカップを持った芹花姉さんが。コーヒーのいい匂いがするなぁ。
「お風呂が沸いたから、ユウちゃんと結衣ちゃんが最初に入って。恋人だし一緒に入るか、別々に入るかは自由だけど。2人とも入浴し終わったら、私に声をかけてくれるかな」
「分かった。教えてくれてありがとう」
「お先にお風呂いただきます」
「うん! ごゆっくり~」
芹花姉さんは笑顔で俺達に手を振って、隣にある自分の部屋へと入っていった。
部屋の扉を閉め、結衣を見ると一気に緊張感が跳ね上がる。結衣も同じようで、何度もキスをしたときよりも断然に顔の赤みが強くなっていた。
「……お風呂、どうしようか。先に入るか? それとも……俺と一緒に入るか?」
俺がそう問いかけると、結衣は俺の方をチラチラと見てくる。結衣はどんな返事をするんだろう。普段の変態ぶりを考えると一緒に入ると言いそうだし、たまにしおらしい部分を見せるときもあるから、別々に入る可能性も十分に考えられる。もし、別々がいいと言ったら、一番風呂には結衣に入ってもらおう。お客様でもあるし、女の子だし。
気付けば、結衣は俺の目の前に立っており、
「き、緊張はするけれど、悠真君と一緒にお風呂に入りたい! 悠真君を好きになってから、一緒に入るのも夢だったから」
大きめの声でそう言い、両手で俺の右手をぎゅっと握ってきた。その答えも、俺の手を握る行動も結衣らしいなと思えて、思わず笑い声が出た。
「分かった。正直、俺も緊張してるけど、結衣と入りたい気持ちもあってさ。だから、その……よろしくお願いします」
「こちらこそお願いします。悠真君さえよければ、洗いっこしない? 髪とか背中とか。お互いに、風邪を引いたときに汗を拭いたし……ダメ、かな?」
俺の右手を握る力を強くさせて、上目遣いは俺を見てくるのは反則じゃないだろうか。凄く可愛い。
芹花姉さんが小学生の間は特に一緒にお風呂に入って、髪や体を洗ってあげたこともたくさんあるから、その要領でやれば大丈夫かな。
「分かった。髪や背中を洗い合うか。ただ、そのときに変なことをしないでくれよ」
「もちろんだよ。恋人が嫌だと思うことはしないって」
笑顔でそう言ってくれる結衣。今までの結衣を考えるとちょっと不安だけど、恋人として付き合うようになったんだ。とりあえずは結衣の言葉を信じよう。
結衣と俺はそれぞれ替えの下着や寝間着など、必要なものをまとめ、一緒に1階にある洗面所へと向かう。
これから一緒に入浴するけど、服を脱ぐのが見えると緊張するので、俺の提案で互いに背を向けた状態で服を脱ぐことに。
結衣の姿は見えないけど、背後から布の擦れる音やたまに漏れる結衣の声が聞こえてくるな。結構ドキドキするな。この形で服を脱ぐのは失敗……だったか? そんなことを考えながら、パンツを下ろしたときだった。
「おほほほほっ、えへへへへっ」
結衣のヘンテコな笑い声が聞こえたので周りを見てみる。すると、タオルで前を隠した結衣が、俺のことを横から見ていたのだ。
そう……見ていたのだ。
結衣にはなくて、俺にはあるものを。結衣は顔を真っ赤にし、口元だけ笑っていた。結衣と目が合うと、結衣は俺から視線を逸らした。
一瞬のうちに全身が熱くなり、俺はその場でしゃがみ込んだ。
「恥ずかしい……」
一緒にお風呂に入ると決めてから、入浴中にやむを得ず見られてしまうかもしれないと覚悟していたよ? もちろん、俺が結衣の色々な部分を見てしまうことも。しかし、入浴前の服を脱ぐ段階で、しかも、しっかりと見られてしまうとは。
「ご、ごめん! 早く脱ぎ終わったから、悠真君の体を見てみたくなりまして。それで悠真君の方を見たら、パンツを下ろした直後だったから……色んな場所が見えました。本当に。あらゆるところが。……妄想よりも凄かったです」
「……そ、そうかい」
少し気持ちが落ち着いてきた中で今の結衣の言葉を聞き、ようやく結衣らしい行動だと思えるようになった。あと、俺のあらゆるところを妄想していたのかよ。
「お、お詫びに私のも見せるよ!」
「色々な意味で感情が爆発しそうだから遠慮しておくよ。さあ、一緒に浴室に入ろうか」
ゆっくりと立ち上がって、足元にあったパンツを手に取り、洗濯カゴの中に入れた。
腰にタオルを巻き、結衣と一緒に浴室の中へ。
「素敵な浴室だね」
「そう言ってくれて良かった。……ちなみに、結衣の家の浴室の広さってどのくらいなんだ? 家全体だとうちの1.5倍くらいあるからさ」
「この浴室よりもちょっと広いかな。実際にどんな感じなのかは、私の家に泊まりに来たときに確かめてくれると嬉しいな。そう遠い未来じゃないだろうし」
「……そうだな。そのときを楽しみにしているよ」
普段なら微笑ましい話だけれど、浴室にいるからかキュンとしてしまうな。
「よし、まずは結衣から洗うか」
「ありがとう。じゃあ、まずは髪を洗ってくれますか?」
「了解」
結衣をバスチェアに座らせて、俺は結衣の後ろに膝立ちをする。
白くて綺麗な背中を見ると、結衣のお見舞いに行ったときのことを思い出す。あのときもドキドキしたけれど、今はお尻まで見えているからよりドキドキしてしまう。……いかんいかん、今は結衣の髪を洗うことに集中しよう。
結衣が持参したリンスインシャンプーを使って、結衣の髪を洗い始める。
たまに、結衣の髪から香っているので、このシャンプーの匂いは知っている。ただ、うちにはないシャンプーだ。なので、ここが自宅じゃなくて、結衣の家の浴室のように思える。
「あぁ、気持ちいい」
「良かった。じゃあ、こんな感じで洗っていくよ」
「うん。洗い方が上手だけれど、お姉様の髪を洗っていたことがあるの?」
「芹花姉さんが小学生の間は特に、一緒に入ることが多かったからな。姉さんの髪や体を洗うこともあったし、手が覚えているというか」
最後に芹花姉さんの髪や体を洗ったのは3、4年くらい前だけど。当時と同じやり方で、結衣が気持ちいいと言ってくれて嬉しい。
「そうなんだね。こんなに気持ちいいことを日常的に体験できたお姉様が羨ましい」
「ははっ、そっか。まあ、結衣がしてほしいって言えば、俺はこれからも喜んで洗うけれど」
「……ちょっとキュンと来ました。私も後で悠真君の髪を気持ち良く洗わないと!」
「気合い入ってるな。楽しみにしてる。そろそろ、泡を落とすから目を瞑って」
「はーい」
シャワーで結衣の髪に付いているシャンプーの泡を流していく。
タオルで髪を拭くと、普段以上に艶やかな黒髪に。結衣が持ってきた入浴用の髪留めを使って、髪を纏めていった。
「よし、これでいいかな。次は背中だけど、普段は何を使って洗っているんだ?」
「この柔らかめのボディータオルだよ。ボディーソープはうちも同じシリーズを使ってる。ここはピーチの香りだけど」
「芹花姉さんや母親の好みで、定期的にボディーソープの香りを変えているんだ。もちろん、普通のやつを使うときもある。ピーチの香りで洗ってみるか?」
「うん! 私、この香りが大好きなの!」
「そうなんだ。じゃあ、このピーチの香りで洗うよ」
結衣からボディータオルを受け取って、ピーチの香りがするボディーソープで結衣の背中を洗い始める。ピーチの香りで、ここはうちの浴室なのだと思える。
こうしていると、風邪で引いた結衣の背中を拭いたことを思い出すな。まさか、あれから数日ほどで、恋人になって一緒にお風呂に入ることになるとは。
「あぁ、気持ちいい。背中を洗ってもらうと、悠真君にお見舞いに来てもらったときのことを思い出すよ」
「結衣も思い出していたんだ」
「悠真君も? 3日前のことだもんね。汗を拭いてもらったとき、悠真君の優しさが凄く伝わってきたの。悠真君のことがより好きになったよ」
「……そう言われると、何だか照れるな」
「ふふっ。今もそうだよ。悠真君、私の背中を優しく洗ってくれて。きっと、お姉様の背中を洗っていたときもこんな感じだったんだろうなって。お姉様がより羨ましくなっちゃう」
そう言って、顔をこちらに向けてくる結衣。
「悠真君に髪や背中を洗ってもらえて凄く幸せだよ。もっと好きになった」
至近距離でニッコリと笑いながらそう言うのは反則だ。幸せだと言ってくれた結衣から幸せをもらった気分になり、結衣にキスした。
「もっともっと好きになったよ。ねえ、悠真君。背中の下にある私のピーチも洗ってみる? 悠真君なら素手で洗ってくれてもいいけど」
「そこまで洗ったらのぼせてしまうかもしれない。ましてや、素手だったら」
「まだ湯船に入っていないのに。じゃあ、今日は背中だけでいいよ」
ふふっ、結衣は楽しげに笑いながら再び鏡の方を向いた。
それからも、結衣の背中を丁寧に洗っていく。
当たり前だけど、結衣の背中は記憶に残っている芹花姉さんの背中よりも広い。今の姉さんの背中ってどんな感じなんだろうな。
背中を洗い終わり、俺はボディータオルを結衣に渡した。一歩下がって、洗い終わるまで、泡の付いた結衣の後ろ姿を眺める。鼻歌を歌う結衣がとても可愛かった。
結衣と一緒に帰宅すると、芹花姉さんが涙をボロボロ流しながら俺達にそう言ってきたのだ。その流れで、姉さんにぎゅっと抱きしめられた結衣はさすがに苦笑い。
両親曰く、俺達が帰ってくる15分ほど前に、芹花姉さんが大学の友人の家から帰ってきたとのこと。そのときに、俺が結衣と付き合うことになったと話したら、一瞬にして姉さんの顔から表情が抜け、自分の部屋に入ってしまったという。最近は落ち着いているけど、昔は俺の頬にキスしてくるほどのブラコンだった。結衣の恋人になったと知って、かなりショックを受けたのだろう。
抱きしめられた直後は苦笑いだった結衣も、程なくして優しい笑顔に変わり、
「任せてください、お姉様! 悠真君と幸せになって、いつか必ず悠真君のお嫁さんになって、お姉様の義理の妹になりますから!」
と言って、芹花姉さんの頭を撫でる。まったく、どっちがお姉さんなんだか。
「結衣の恋人になったけど、俺はいなくならないから。少なくとも、高校を卒業するまではここにいるさ」
「……ほんと?」
「ほんとほんと。あと、俺の姉は芹花姉さんだけだよ」
俺も芹花姉さんの頭を優しく撫でると、ようやく姉さんの涙が止まり、笑顔を見せてくれるように。何だか昔の姉さんを見ているようだった。
夕ご飯は電話で母さんが話していた通り鍋だった。今日から夏が始まったけど、夜になるとまだ涼しいし、温かいものを食べると心身共にほっとする。
結衣も美味しそうに食べていて、たまに俺に食べさせてくれた。結衣に食べさせてもらうのは何度もあるけど、家族の前だから恥ずかしかったな。
俺達が帰ってきたときに号泣していた芹花姉さんも、夕食のときにはすっかりと元気になっていた。結衣と楽しく話すときもあって。これなら、姉さんの夢を結衣が叶えて義理の姉妹になっても、仲良くやっていけるんじゃないだろうか。
「夕ご飯美味しかったね、悠真君」
「美味しかったな。夏がまだ始まったばかりだし、鍋もいいよな」
「うんっ! 締めのラーメンまで美味しかったなぁ。夏になっても温かい料理はいいよね」
「そうだな」
俺達は隣同士に置いたクッションに座り、リビングから持ってきた温かい日本茶を一緒に飲む。温かいものを飲むと気持ちがほっとする。
いつもなら、そのほっとした気持ちが続くけど、今日はすぐに去ってゆく。今日は結衣が俺の部屋に泊まるからだ。もちろん、それは初めてのこと。恋人になった初日だからというのもあって緊張するな。
隣に座っている結衣を見ると、結衣はスマホを手に取っていた。
「柚月と杏さんからメッセージ来てる。悠真君と付き合えるようになって良かったねって」
「そうか」
俺もスマホで確認すると、柚月ちゃんと杏さんからLIMEでメッセージが届いていた。
『悠真さん! お姉ちゃんと幸せになってくださいね! いつか、義理のお兄さんになってくれると嬉しいです!』
『低田君、結衣ちゃんとのお付き合いおめでとう。お幸せに。あと、これまでネット中心に胡桃と仲良くしてくれてありがとう。これからも、胡桃と友人として仲良くしてくれると嬉しいな』
2人からもメッセージをもらえるとは。特に杏さんからもらえるとは思わなかった。あと、このメッセージからして、杏さんは以前から俺が低変人だと知っていたようだ。杏さんなら、俺の正体を知っていても大丈夫だろう。
「俺にも来ていたよ」
「やっぱりね」
結衣の方を見て目が合うと、結衣ははにかむ。そのことで緊張の中に幸せな気持ちが生まれる。唇を軽く重ねると、結衣は頬を赤くしながら「ふふっ」と可愛らしく笑った。
――コンコン。
「は、はいっ!」
何度も唇を重ねた後にノックされたので、ビックリして大きな声で返事してしまった。そのことに、結衣はくすっと笑っていた。
この時間にノックされることはあまりない。誰だろう? そう思って扉を開けると、そこにはマグカップを持った芹花姉さんが。コーヒーのいい匂いがするなぁ。
「お風呂が沸いたから、ユウちゃんと結衣ちゃんが最初に入って。恋人だし一緒に入るか、別々に入るかは自由だけど。2人とも入浴し終わったら、私に声をかけてくれるかな」
「分かった。教えてくれてありがとう」
「お先にお風呂いただきます」
「うん! ごゆっくり~」
芹花姉さんは笑顔で俺達に手を振って、隣にある自分の部屋へと入っていった。
部屋の扉を閉め、結衣を見ると一気に緊張感が跳ね上がる。結衣も同じようで、何度もキスをしたときよりも断然に顔の赤みが強くなっていた。
「……お風呂、どうしようか。先に入るか? それとも……俺と一緒に入るか?」
俺がそう問いかけると、結衣は俺の方をチラチラと見てくる。結衣はどんな返事をするんだろう。普段の変態ぶりを考えると一緒に入ると言いそうだし、たまにしおらしい部分を見せるときもあるから、別々に入る可能性も十分に考えられる。もし、別々がいいと言ったら、一番風呂には結衣に入ってもらおう。お客様でもあるし、女の子だし。
気付けば、結衣は俺の目の前に立っており、
「き、緊張はするけれど、悠真君と一緒にお風呂に入りたい! 悠真君を好きになってから、一緒に入るのも夢だったから」
大きめの声でそう言い、両手で俺の右手をぎゅっと握ってきた。その答えも、俺の手を握る行動も結衣らしいなと思えて、思わず笑い声が出た。
「分かった。正直、俺も緊張してるけど、結衣と入りたい気持ちもあってさ。だから、その……よろしくお願いします」
「こちらこそお願いします。悠真君さえよければ、洗いっこしない? 髪とか背中とか。お互いに、風邪を引いたときに汗を拭いたし……ダメ、かな?」
俺の右手を握る力を強くさせて、上目遣いは俺を見てくるのは反則じゃないだろうか。凄く可愛い。
芹花姉さんが小学生の間は特に一緒にお風呂に入って、髪や体を洗ってあげたこともたくさんあるから、その要領でやれば大丈夫かな。
「分かった。髪や背中を洗い合うか。ただ、そのときに変なことをしないでくれよ」
「もちろんだよ。恋人が嫌だと思うことはしないって」
笑顔でそう言ってくれる結衣。今までの結衣を考えるとちょっと不安だけど、恋人として付き合うようになったんだ。とりあえずは結衣の言葉を信じよう。
結衣と俺はそれぞれ替えの下着や寝間着など、必要なものをまとめ、一緒に1階にある洗面所へと向かう。
これから一緒に入浴するけど、服を脱ぐのが見えると緊張するので、俺の提案で互いに背を向けた状態で服を脱ぐことに。
結衣の姿は見えないけど、背後から布の擦れる音やたまに漏れる結衣の声が聞こえてくるな。結構ドキドキするな。この形で服を脱ぐのは失敗……だったか? そんなことを考えながら、パンツを下ろしたときだった。
「おほほほほっ、えへへへへっ」
結衣のヘンテコな笑い声が聞こえたので周りを見てみる。すると、タオルで前を隠した結衣が、俺のことを横から見ていたのだ。
そう……見ていたのだ。
結衣にはなくて、俺にはあるものを。結衣は顔を真っ赤にし、口元だけ笑っていた。結衣と目が合うと、結衣は俺から視線を逸らした。
一瞬のうちに全身が熱くなり、俺はその場でしゃがみ込んだ。
「恥ずかしい……」
一緒にお風呂に入ると決めてから、入浴中にやむを得ず見られてしまうかもしれないと覚悟していたよ? もちろん、俺が結衣の色々な部分を見てしまうことも。しかし、入浴前の服を脱ぐ段階で、しかも、しっかりと見られてしまうとは。
「ご、ごめん! 早く脱ぎ終わったから、悠真君の体を見てみたくなりまして。それで悠真君の方を見たら、パンツを下ろした直後だったから……色んな場所が見えました。本当に。あらゆるところが。……妄想よりも凄かったです」
「……そ、そうかい」
少し気持ちが落ち着いてきた中で今の結衣の言葉を聞き、ようやく結衣らしい行動だと思えるようになった。あと、俺のあらゆるところを妄想していたのかよ。
「お、お詫びに私のも見せるよ!」
「色々な意味で感情が爆発しそうだから遠慮しておくよ。さあ、一緒に浴室に入ろうか」
ゆっくりと立ち上がって、足元にあったパンツを手に取り、洗濯カゴの中に入れた。
腰にタオルを巻き、結衣と一緒に浴室の中へ。
「素敵な浴室だね」
「そう言ってくれて良かった。……ちなみに、結衣の家の浴室の広さってどのくらいなんだ? 家全体だとうちの1.5倍くらいあるからさ」
「この浴室よりもちょっと広いかな。実際にどんな感じなのかは、私の家に泊まりに来たときに確かめてくれると嬉しいな。そう遠い未来じゃないだろうし」
「……そうだな。そのときを楽しみにしているよ」
普段なら微笑ましい話だけれど、浴室にいるからかキュンとしてしまうな。
「よし、まずは結衣から洗うか」
「ありがとう。じゃあ、まずは髪を洗ってくれますか?」
「了解」
結衣をバスチェアに座らせて、俺は結衣の後ろに膝立ちをする。
白くて綺麗な背中を見ると、結衣のお見舞いに行ったときのことを思い出す。あのときもドキドキしたけれど、今はお尻まで見えているからよりドキドキしてしまう。……いかんいかん、今は結衣の髪を洗うことに集中しよう。
結衣が持参したリンスインシャンプーを使って、結衣の髪を洗い始める。
たまに、結衣の髪から香っているので、このシャンプーの匂いは知っている。ただ、うちにはないシャンプーだ。なので、ここが自宅じゃなくて、結衣の家の浴室のように思える。
「あぁ、気持ちいい」
「良かった。じゃあ、こんな感じで洗っていくよ」
「うん。洗い方が上手だけれど、お姉様の髪を洗っていたことがあるの?」
「芹花姉さんが小学生の間は特に、一緒に入ることが多かったからな。姉さんの髪や体を洗うこともあったし、手が覚えているというか」
最後に芹花姉さんの髪や体を洗ったのは3、4年くらい前だけど。当時と同じやり方で、結衣が気持ちいいと言ってくれて嬉しい。
「そうなんだね。こんなに気持ちいいことを日常的に体験できたお姉様が羨ましい」
「ははっ、そっか。まあ、結衣がしてほしいって言えば、俺はこれからも喜んで洗うけれど」
「……ちょっとキュンと来ました。私も後で悠真君の髪を気持ち良く洗わないと!」
「気合い入ってるな。楽しみにしてる。そろそろ、泡を落とすから目を瞑って」
「はーい」
シャワーで結衣の髪に付いているシャンプーの泡を流していく。
タオルで髪を拭くと、普段以上に艶やかな黒髪に。結衣が持ってきた入浴用の髪留めを使って、髪を纏めていった。
「よし、これでいいかな。次は背中だけど、普段は何を使って洗っているんだ?」
「この柔らかめのボディータオルだよ。ボディーソープはうちも同じシリーズを使ってる。ここはピーチの香りだけど」
「芹花姉さんや母親の好みで、定期的にボディーソープの香りを変えているんだ。もちろん、普通のやつを使うときもある。ピーチの香りで洗ってみるか?」
「うん! 私、この香りが大好きなの!」
「そうなんだ。じゃあ、このピーチの香りで洗うよ」
結衣からボディータオルを受け取って、ピーチの香りがするボディーソープで結衣の背中を洗い始める。ピーチの香りで、ここはうちの浴室なのだと思える。
こうしていると、風邪で引いた結衣の背中を拭いたことを思い出すな。まさか、あれから数日ほどで、恋人になって一緒にお風呂に入ることになるとは。
「あぁ、気持ちいい。背中を洗ってもらうと、悠真君にお見舞いに来てもらったときのことを思い出すよ」
「結衣も思い出していたんだ」
「悠真君も? 3日前のことだもんね。汗を拭いてもらったとき、悠真君の優しさが凄く伝わってきたの。悠真君のことがより好きになったよ」
「……そう言われると、何だか照れるな」
「ふふっ。今もそうだよ。悠真君、私の背中を優しく洗ってくれて。きっと、お姉様の背中を洗っていたときもこんな感じだったんだろうなって。お姉様がより羨ましくなっちゃう」
そう言って、顔をこちらに向けてくる結衣。
「悠真君に髪や背中を洗ってもらえて凄く幸せだよ。もっと好きになった」
至近距離でニッコリと笑いながらそう言うのは反則だ。幸せだと言ってくれた結衣から幸せをもらった気分になり、結衣にキスした。
「もっともっと好きになったよ。ねえ、悠真君。背中の下にある私のピーチも洗ってみる? 悠真君なら素手で洗ってくれてもいいけど」
「そこまで洗ったらのぼせてしまうかもしれない。ましてや、素手だったら」
「まだ湯船に入っていないのに。じゃあ、今日は背中だけでいいよ」
ふふっ、結衣は楽しげに笑いながら再び鏡の方を向いた。
それからも、結衣の背中を丁寧に洗っていく。
当たり前だけど、結衣の背中は記憶に残っている芹花姉さんの背中よりも広い。今の姉さんの背中ってどんな感じなんだろうな。
背中を洗い終わり、俺はボディータオルを結衣に渡した。一歩下がって、洗い終わるまで、泡の付いた結衣の後ろ姿を眺める。鼻歌を歌う結衣がとても可愛かった。
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紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。
明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。
ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。
「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」
「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」
明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。
一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!
※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)
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