高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

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2学期編3

第13話『文化祭デート-前編-』

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 午後0時半過ぎ。
 俺、結衣、伊集院さんはシフト通りに、今日の接客の仕事が終わった。今は着替えるために、着替えを持って更衣室へと向かっている。

「悠真君、姫奈ちゃん、お疲れ様!」

 結衣はニッコリとした笑顔で労いの言葉を掛けてくれた。文化祭が始まってからずっと接客をしていたけど元気いっぱいだ。俺や伊集院さん、福王寺先生などと一緒に接客したり、家族や友達などが来てくれたりしたからかな。あとは、これから俺と文化祭デートするのも元気いっぱいな理由の一つかもしれない。

「ありがとう。お疲れ様、結衣。伊集院さんもな」
「ありがとうございます。2人ともお疲れ様なのです」

 結衣と伊集院さんと一緒に接客の仕事をして、こうしてお互いに「お疲れ様」って労い合うのは気持ちがいいな。2人の笑顔を見ていると特に。接客係の仕事の疲れがいくらか取れた感じがした。

「悠真君や結衣ちゃんや杏樹先生達と一緒に接客の仕事をして楽しかった! 家族や友達や先輩とかが来てくれたし。あと、萌え萌えきゅんっておまじないをかけるのも楽しかったな」
「そうか。結衣、楽しそうに接客していたもんなぁ」

 メイドとして接客していた結衣のことをたくさん思い出すよ。

「俺も楽しかったよ。結衣や伊集院さんや福王寺先生達とは初めて一緒に接客したし。家族や友達とかがたくさん来てくれたから。執事らしい口調やおまじないを言うのも新鮮で良かった」
「あたしも楽しかったのです! みんなと一緒に接客して、家族や友達がたくさん来てくれたのですから。メイドさんとして振る舞うのも楽しかったのです」
「2人もそう言ってくれて嬉しいよ!」

 結衣は言葉通りの嬉しそうな笑顔でそう言った。結衣は接客中にたくさんの笑顔を見せていたけど、今の笑顔が一番可愛くて素敵だなって思う。

「明日の接客も楽しみだよ! 明日は悠真君に接客する予定だし」
「楽しみにしてるよ、結衣。あと、シフトが重なっている時間もあるし、明日も一緒に接客を頑張ろうな、結衣、伊集院さん」
「うんっ!」
「頑張るのですっ!」

 結衣と伊集院さんはニコッとした笑顔で返事をしてくれた。
 2人は素敵な笑顔の持ち主だし、今日の接客ぶりは見事だった。きっと、明日のメイド&執事喫茶でもいい接客をしてくれることだろう。
 更衣室の前に到着した。
 ここで待ち合わせをすることを約束して、俺は一人で男子更衣室の中に入った。
 男子更衣室の中には男子生徒が数人ほどいる。制服や衣装に着替えていて。
 俺は執事服を脱ぎ、下は学校の制服のスラックス、上はクラスTシャツという服装になる。執事服は結構着込んだ服装だったので、今の服装だと身軽に感じる。
 男子更衣室を出ると……結衣と伊集院さんはまだいないか。2人が来るまで気軽に待っていよう。
 このエリアは更衣室や自習室くらいしかないから、特別な装飾はほとんどなく、いつもの学校と変わらない雰囲気だ。男女それぞれの更衣室から何度か出入りがあるくらい。文化祭の喧騒からちょっと離れた感じだ。
 昇降口や教室のある方に視線を向けると……結構賑わっている。行き交う人の顔は笑顔だったり、明るかったりする人が多い。いい雰囲気だ。
 スマホを取り出し、学校のホームページからダウンロードした文化祭の電子版のパンフレットを見て、出し物を確認する。色々な出し物があるなぁ。胡桃や中野先輩のクラス、スイーツ部の屋台は絶対に行きたい。

「お待たせ、悠真君」
「お待たせなのです」

 女子更衣室から結衣と伊集院さんが出てきた。下は制服のスカートで、上はクラスTシャツ姿だ。今までメイド服姿だったのもあり、結構ラフな印象を抱かせる。シャツが水色なので爽やかな雰囲気もあって。
 結衣と伊集院さんは俺に向かって手を振ってくる。そんな2人に俺も手を振る。

「2人ともクラスTシャツ似合ってるな」
「ありがとう! 悠真君も似合ってるよ!」
「どうもなのです。低田君も似合っていますよ」
「ありがとう」

 俺がそう言うと、結衣は嬉しそうな様子で俺の手を繋いできた。
 一旦、教室のバックヤードに戻って、衣装が入っている段ボール箱に執事服やメイド服を入れた。

「これからデートだね!」
「そうだな」

 教室を出たところで、結衣と俺はそう言葉を交わした。ワクワクとした様子の結衣を見ていると、俺もワクワクとした気持ちになっていく。

「2人ともデート楽しんでください。あたしはスイーツ部の友達と一緒に文化祭を廻るのです。胡桃のお化け屋敷のシフトが終わったら、胡桃と合流する予定なのです」
「そっか。伊集院さんも楽しんで」
「楽しんでね。校内で会うかもしれないけど、とりあえずはスイーツ部の屋台の担当のときに……また」
「ええ。では、また後で」

 伊集院さんはニコッと笑って、俺達の元から立ち去っていった。
 これから文化祭デートの始まりだ。

「まずは……胡桃のクラスのお化け屋敷に行くか? 目の前にあるし」
「そうだねっ」

 結衣は明るい笑顔で返事をする。先月、遊園地デートに行ったとき、結衣は「心霊系はちょっと苦手。お化け屋敷は定番だから行くけど」と言っていた。ただ、胡桃のクラスだし、胡桃も何らかの形で驚かせる役とのことなので、楽しみな気持ちの方が強いのかもしれない。
 胡桃のクラスのお化け屋敷の列に並ぶ。10人近く並んでいる。
 時々、受付にいる女子生徒がか細い声で「次の方……どうぞ。呪いの教室へ……」とアナウンスして教室前方の扉を開け、お客さんにランタンを渡して中に入れている。懐中電灯じゃなくてランタンなんだな。

「どんな感じか楽しみだね」
「そうだな。胡桃がどう驚かせてくるのが楽しみだ」
「そうだねっ」

 結衣はニコッとした笑顔でそう言ってくる。

「あぁ、怖かった……」
「怖かったねぇ」

 後ろからそんな声が聞こえてきたので振り返ってみる。
 教室後方の扉が開いており、そのすぐ近くにはうちの制服姿の女子2人がほっとした様子になっていて。きっと、お化け屋敷から出てきたのだろう。お化け屋敷はなかなか怖いようだ。

「ど、どんな感じか楽しみだね……」

 結衣は依然として顔に笑みを浮かべているけど、さっきに比べて硬くなっている。顔色もちょっと悪くなっていて。あの2人の女子の反応を見て怖くなってきたのかもしれない。

「そうだな。……俺が側にいるからな」
「うんっ」

 結衣はニコッと笑って返事をすると、俺の手を離して、俺の腕をぎゅっと抱きしめてきた。いつもよりも抱きしめる力が強いな。
 それからも定期的に列が進んでいき、

「次は……カップルさんですね」

 並び始めてから10分ほどで俺と結衣の番になった。結衣が俺の腕を抱きしめているのもあり、受付にいる女子生徒は俺にランタンを渡してきた。

「さあ、どうぞ。呪いの教室へ……」

 受付の女子生徒はか細い声でそう言い、教室の扉を開けた。呪いの教室……モチーフは学校か。
 俺達は1年3組のお化け屋敷の中に入る。
 窓を暗幕で覆っているのだろうか。教室の中はかなり暗い。ランタンの明かりはあるけど、足元や少し先が見える程度だ。お化け屋敷に合いそうなBGMが小さい音で流れていて。

「行くか」
「う、うん。行こう」

 俺達はゆっくりと歩き出す。
 机なのか段ボールがベースなのかは分からないけど、両側には黒い壁が。俺の背よりも高い。それが前方に続いている。
 赤い文字で『殺』と書かれたノートや壊れたボールペンが机に置かれていたり、赤く汚れた白衣を着たマネキンがこちらに向いて置かれていたりと怖い雰囲気になっている。ランタンの灯りでそれらを見つけると、結衣は「ひぃっ」と声を上げていて。

「結構雰囲気出てるなぁ」
「そ、そだねー」

 さっそく棒読みになっている結衣。怖がっているなぁ。
 あと、他のお客さんなのか「きゃあっ」と叫び声が聞こえることもあって。それに結衣が体をピクッと震わせることも。暗い中で悲鳴が聞こえるのも怖いか。
 それから程なくして、通路は曲がり角に差し掛かる。

「ま、曲がり角だよ。こういう曲がり角って……で、出る確率が高いんだよ、悠真君」

 そう言って、結衣は俺の右腕を抱きしめる力を強くする。
 確かに、曲がった瞬間にお化けが出てくることってあるよなぁ。

「……言われてみれば、そうだな。まあ……行ってみるか」
「う、うん」

 引き続き、ゆっくりとした歩みで通路を進んでいく。
 そして、曲がり角を曲がったところで、

「せーいかーい……」
「きゃああっ!」

 ボロボロのワイシャツを着た男子生徒が立っていた。男子生徒はニタッとした薄気味悪い笑顔で俺達のことを見ていて。男子生徒を見つけた瞬間、結衣は絶叫した。

「いた! 悠真君、いた!」
「いたなぁ」

 結衣が絶叫したし、ちょっとビックリした。暗くてランタンの灯りしかないから、お化け役の男子生徒も不気味に見えるし。

「いたんだよ……。あるあるな形でいたんだよ……。あと、高嶺の花の高嶺を驚かせられて、お化け役として嬉しいぜ……」

 男子生徒は満足そうな笑顔でそう言ってくる。驚かせるのが仕事だから、結衣の反応を見るとお化け役冥利に尽きるのだろう。しかも、高嶺の花と言われるほどに有名で人気者な結衣を驚かせられたのだから。
 あと、高嶺と言われたからか、結衣は体をピクッと震わせて。自分の名字を呼ばれると怖いのかもしれない。
 笑顔になっているお化け役の男子生徒の横を通り、俺達は順路を進んでいく。

「来るんじゃないかって思っていても、実際にいると怖いね……」
「俺もちょっとビックリした。暗いし、ランタンの灯りしかないから」
「ビックリするよね……」

 はあっ……と、結衣はため息をつく。さっきの男子生徒が本当に怖かったんだな。
 その後も順路を進んでいく。
 壁には墨汁で『呪』『死』『恨』などといったネガティブな漢字が書かれている半紙が何枚も乱雑に貼られている。

「うわあっ、あそこ曲がり角だよ」

 結衣は歩みを止める。それに伴い俺も立ち止まる。
 結衣は正面にある曲がり角を指さす。結衣は嫌そうな表情になっていて。さっきの曲がり角ではお化け役の生徒がいたから、次の曲がり角でも出てくるんじゃないかと不安になっているのだろう。

「曲がったところでありそうな感じがするよな」
「うん」
「まあ、怖かったら、曲がるときに目を瞑るのがいいな。ゆっくり歩くし、俺の腕にしがみついていれば大丈夫だから」
「……そうだね。そうする。行こう」

 俺達は再び歩き始める。
 次の曲がり角では何かあるのか。それともないのか。普段よりもだいぶ遅い歩みで曲がり角に差し掛かろうとしたときだった。

 ――バサッ!
「きゃああっ!」
「おおっ」

 曲がり角の手前のところで、ずっと壁だと思っていた右側の壁から急に手が飛び出してきたのだ! その瞬間に結衣は絶叫! 予想外だったのもあり、ビックリして俺も声が出てしまった。
 まさか曲がり角の手前で手が出てくるとは思わなかったな。おそらく、暗幕とか黒いカーテンを掛けて壁に見せかけて、その隙間から手を出せるように細工してあるのだろう。
 出てきた手は小刻みに震えている。その手の動きも怖い。ただ、

「驚いたね。ゆう君、結衣ちゃん」

 胡桃の声が聞こえてきた。その瞬間、俺達の前に出てきた手は普通の手の振り方に。
 胡桃の声が聞こえたからか、結衣の体の震えが収まっていく。

「こっちこっち」

 胡桃がそう言うので、手が出てきた方にランタンを向けると、黒い幕の隙間からクラスTシャツ姿の胡桃の姿が見えた。胡桃はいつもの穏やかな笑顔で手を振ってきた。

「何らかの形で驚かせるって聞いていたけど、手を急に出してきたか」
「そうだよ。演出を考えた子が、このタイミングで手が飛び出してきたら怖いんじゃないかって言ってね」
「怖かったし驚いたよ、胡桃ちゃん……」
「俺も驚いた」
「そっか。怖がって、驚かせることができて良かった。……これまでにも友達や家族も来たけど、強がかったり、驚いたりした人多かったな。芹花さんと彩乃さんは特に」

 芹花姉さんも結衣と同じで、心霊系は苦手な方だからな。お化け屋敷は王道だから、文化祭とか遊園地とかに行くと必ず一度は入るけども。姉さんが怖がったり、驚いたりする姿は想像できる。あと、月読さんも心霊系は苦手なのだろうか。

「あと、ゆう君も結衣ちゃんも喫茶店の接客お疲れ様。デート楽しんでね」
「ああ。ありがとう」
「ありがとう、胡桃ちゃん。あとで姫奈ちゃんとも一緒にスイーツ部の屋台のシフトを頑張ろうね」
「うんっ」

 胡桃は可愛らしい笑顔で返事をした。また、今のやり取りのおかげか、結衣の顔には笑みが戻る。
 あと……今更だけど、驚かし役の人とこんなに喋っていいものなのだろうか。個人的には文化祭のお化け屋敷らしくていいと思うけど。友達同士だし。

「じゃあ、またね。この後のお化け屋敷も楽しんでね」

 胡桃はそう言うと、俺達に手を振って黒ビニールの壁の向こうに姿を消した。

「胡桃ちゃんのおかげで気持ちが軽くなったよ! ちょっと元気出た」
「そうか。こういう形だけど、胡桃と話せて良かったよ」
「そうだね。じゃあ、行こうか」
「ああ」

 その後も俺と結衣はお化け屋敷の中を歩いていく。
 胡桃と話せたおかげもあって、結衣は歩き始めた直後は笑顔であり、最初に出てきた怖い仕掛けには「きゃっ」と小声を漏らす程度だった。しかし、お化けや怖い仕掛けが次々と出てくるので、お化け屋敷を出るまでの間に何度も、

「きゃあっ!」

 と叫び、俺の腕にしがみついていたのであった。
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