恋人、はじめました。

桜庭かなめ

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特別編5

第1話『ランジェリーショッピングデート』

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 俺は氷織と一緒に彼女の家を出発し、笠ヶ谷駅北口近くにあるスーパー・東友に向かって歩いている。
 今もよく晴れており、午後2時過ぎなのもあって結構暑い。氷織の部屋で冷たいスポーツドリンク飲んで正解だったな。

「この時間帯だと結構暑いですね。暑い中、屋外で陸上部の活動に参加している美羽さんと倉木さんは凄いと思います」
「そうだな。さっき、氷織の家に来る間に思った」
「ふふっ、そうですか」

 楽しげに笑いながらそう言う氷織。氷織の笑顔を見ていると、気持ちが癒やされていくよ。

「妹の七海ななみちゃんはバドミントン部だから、体育館で活動するのかな。俺の卒業した中学はエアコンがなかったけど、氷織の卒業した中学はどうだった?」
「うちの中学の体育館もエアコンはありませんでしたが、大型の冷風機がありました。ですから、暑い時期の体育館での授業や学校行事もキツくはなかったですね」
「そうなんだ。いいなぁ。じゃあ、七海ちゃんは屋外でやる部活よりは快適に活動できていそうだな」
「きっとそうだと思います」

 少しでも快適そうな環境の中で、七海ちゃんが部活動に参加できていることを知って安心した。屋内でも長い時間運動をするから、水分補給をしたり、休憩を取ったりして部活を頑張ってほしい。

「あの、明斗さん。話題がガラッと変わるのですが……」
「うん」
「明斗さんって……これまで、女性の下着を買うのに付き合った経験ってありますか?」

 そう問いかけてくる氷織の口角は上がっているものの、俺を見つめる目つきは真剣そのものだ。
 異性の下着を買うのに付き合うなんて、相当な関係でなければ滅多にないことだろう。だから、氷織は俺にそういった経験があるのかどうかが気になるのだと思う。

「母親と姉貴だけだよ。俺が小学生の頃だったかな。その頃は、週末に家族で駅前にある東友やロミネに買い物に行くことが多かったから。そういったときに何度か」

 母さんの場合は下着売り場の外で待てばいいことが多かった。
 だけど、姉貴の場合は陳列されている下着を持って「どっちがいい?」って選ばされたり、試着室の前まで連れて行かされ、試着した姿を見せられて「似合ってる?」とか訊かれたりしたな。似合っているって言うと姉貴は凄く嬉しそうにしていたっけ。今思うと、姉貴は昔から結構なブラコンなんだな。

「そうでしたか。美佳みかさんと明実あけみさんだけですか」
「ああ。家族以外だと氷織が初めてだよ」
「そうなんですねっ!」

 ふふっ、と氷織は上機嫌に笑う。きっと、家族以外に経験がないと分かって嬉しいのだろう。本当に可愛いな。
 昔の姉貴のように、氷織はお店で試着した下着姿を見せてくれるのだろうか。家を出る前に服をめくり上げて今の下着を見せてくれたし、可能性はありそう。……そんなことを考えていたら、体がより熱くなってきた。
 それから少し歩くと、笠ヶ谷駅の北口が見えてきた。
 平日のお昼過ぎだけど、今は夏休みの時期なのもあって、俺達のような学生の姿が結構見受けられる。学校のある時期がどうなのかは分からないけど、この光景は夏休みらしいなと思う。あと、氷織が隣にいるからか、男性中心にこちらを見てくる人が結構いて。俺の恋人は惹かれる見た目の持ち主であると再認識する。
 俺達は東友の中に入る。
 エアコンがかかっているからか、東友の中はとても涼しい。暑い中歩いてきたのもあってここが天国のようだ。
 氷織は笑みを浮かべ、「ふぅ」と可愛らしい声を漏らす。可愛いな。
 俺達は入口近くのある上りエスカレーターに乗り、衣服を取り扱うフロアである3階へ向かう。

「3階に着きましたね」
「ああ。このフロアに来るのは久しぶりだな」
「そうですね。先月、新しい水着を買いに来たとき以来でしょうか」
「……思い返すとそうかもしれない」

 ただ、あのときは火村さんと葉月さんと4人で来た。プールデートをより楽しみにするために、水着を一緒に選ばなかったんだよな。

「ですよね。……下着を取り扱っているエリアに行きましょう」

 俺は氷織に手を引かれる形で、3階の中を歩いていく。
 今は7月の終わり頃で、まだまだ海やプールのレジャーシーズンが続くからか、水着のコーナーが大々的に展開されている。その中には氷織がプールデートや海水浴で着た黒いビキニも売られていた。氷織の胸が大きくなったし、来年も水着を新調したいって話になったら一緒に選びたいな。
 水着のコーナーを通り過ぎて、女性向けの服のコーナーに。それもあり、周りにいる人も女性が多くなって。

「ここです」

 レディースの服のコーナーに入ってから少し歩いたところで、氷織はそう言い、立ち止まった。
 俺達のすぐ横には女性向けの下着がズラリ。ここが女性向けの下着コーナーか。その中にいるのは女性のみ。

「こ、ここなんだ。男性のお客さんがいないけど、俺……入っても大丈夫だよな?」
「ふふっ、大丈夫ですよ。私が一緒なんですから。今は女性しかいませんけど、私達のようにカップルだったり、夫婦だったりする男性がいることも普通にありますし」
「そうか。それなら良かった。氷織から離れないようにするよ」
「ふふっ。では、とりあえず結構買うことが多い下着があるところまで行きましょう」
「ああ」

 再び、俺は氷織に手を引かれる形で、女性向けの下着コーナーの中を歩く。
 なるべく氷織を見るようにしているけど、それでもブラジャーやパンツ、キャミソールといった下着が視界の中に入ってくる。様々な色やデザインがあるんだなぁ。男性向けよりも多い。
 あと、女性向けの下着コーナーに来るのは小学生のとき以来なので、ちょっと懐かしい感覚に。当時の姉貴も、今の氷織のように俺の手を引いていたっけ。

「ここら辺にある下着ですね」

 そう言って氷織が指し示す場所を見てみると……家で氷織が見せてくれたようなレースの下着が、ハンガーラックにズラリと掛かっている。様々な色があるので、思わず「おおっ」と声が漏れてしまった。そんな俺の反応を見てか、氷織は「ふふっ」と楽しそうに笑う。

「いつもは見ない凄い光景だからさ」
「ふふっ、そうですか」
「ここにあるのは、氷織が今付けている下着に似たデザインだね」
「ええ。結構好きなブランドでして。デザインも付け心地もいいですし。今の下着もこのブランドです」
「そうなんだ。俺も氷織に似合っているなって思ったよ。ここにある下着も花柄の刺繍が可愛い感じだし、氷織に似合いそう」

 素直な考えを伝えると、氷織は俺に向かってニコッと笑う。

「そう言ってもらえて嬉しいです。私もいいデザインだと思っていましたし」

 弾んだ声でそう言う氷織。彼氏から、自分のお気に入りのブランドの下着をいいと言ってもらえたら嬉しいか。

「では、ここにある下着から3着ほど買いましょうか。家にある下着もまだ付けられる下着はいくつかありますから。3着ならお母さんからもらったお金で買えますし。あと、デザインがいいなと思えたら、色違いで買うことが多くて」
「そうなんだ。分かるなぁ。俺もシャツとか、気に入ったものがあると色違いで何着か買うことあるし」
「そうなんですね。じゃあ、明斗さんの好きな色や私に似合いそうな色をいくつか選んでもらって、試着してみましょう」
「分かった」

 3着買うって言っていたから、少なくとも3色は選ばないと。
 改めて、俺は下着が掛かっているハンガーラックを見てみる。赤、ピンク、オレンジ、黄色、青、水色、黒、白、ベージュ……などなどたくさんの色が陳列されている。氷織はどの色でも似合いそうだ。ただ、その中でも特に良さそうなのは、

「水色と青、黒、ピンクあたりが氷織にいいなって思う」
「水色と青、黒、ピンクですね。どれもいいですね」
「そうか。でも、たくさん言っちゃったかな」
「いえいえ。3着買いますし、少し多めに言ってもらえて助かりますよ。じゃあ、この4色を試着してみて、明斗さんがいいと思った3色を選びましょうか」
「分かった」

 氷織はハンガーラックから、俺がリクエストした水色、青、黒、ピンクの下着を手に取る。どの色も氷織のバストに合うサイズがあったので、予定通り、この4色について試着することに。
 俺達は試着室へと向かう。4着あるので、俺が水色と青の下着を持って。こうして見てみると、ブラのカップはかなり大きいな。あの大きくて柔らかなFカップの胸を包んで支えるんだもんな。
 下着コーナーの端にある試着室に到着した。試着室は3つあり、向かって左側の部屋のみ扉の鍵が閉まっている。どうやら、あそこだけは使用中のようだ。

「では、右側の試着室で試着しますね」
「ああ、分かった」
「試着したらちょっと扉を開けますので、私の下着姿を見てください」
「うん。俺はここで待ってるよ」
「はいっ」

 氷織は水色と青の下着を俺から受け取ると、向かって右側の試着室へと入っていった。その直後に、カチッと鍵の施錠する音が聞こえた。俺がここに立っているけど、誰かが間違えて入ってしまうことはないだろう。
 自分一人になった瞬間、急に心細くなってきたな。試着室の前にいるし、店員さんや他のお客さんから変な目で見られていないだろうか。さっきまで氷織と一緒にいたし、それを覚えていると思いたい。
 何食わぬ様子で周りをチラッと見てみると……何人かの女性がこちらを見ているな。ただ、嫌悪感を顔に出している人はいない。とりあえずは安心かな。
 試着室の中から、布の擦れる音が聞こえてくる。きっと、シャツや下着を脱いだり、俺が選んだ下着を試着しているのだろう。お泊まりのときなどに氷織の着替えているところを見ているので、試着室の中の様子を鮮明に妄想してしまう。あぁ、ドキドキしてきた。

「明斗さん。1着目、試着してみました」
「分かった。扉の前に立っているから、少しだけ開けてくれ」
「はーい」

 1着目を試着したか。どの色なのか。どんな感じなのか楽しみだな。
 鍵を解錠する音が聞こえ、扉が少しだけ開かれる。すると、そこには水色のブラジャーを身に付けた氷織が立っていた。ちなみに、試着しているのはブラジャーだけなので、スカートはそのまま穿いている。さっきよりも素肌を晒しているのもあり、扉が開けた瞬間に氷織の甘い匂いがふわりと香った。

「まずは水色を試着しました。どうですか?」

 下着姿なのもあってか、頬をほのかに赤らめながら氷織はそう問いかけてくる。
 氷織の肌が白くて透明感があることや、髪が銀色なのもあって凄く爽やかな印象だ。

「……水色だから爽やかな雰囲気でいいね。好きだな」
「ありがとうございます。今日の下着が水色だったので、まずは水色の下着を付けてみたんです。私も爽やかでいいなって思いますね。下着を付けてみて、改めて可愛いデザインだと思いました」
「そうか。サイズの方は大丈夫?」
「はいっ! とても心地いいです」
「良かった」

 陽子さんがちゃんと測ってくれたおかげだな。氷織の胸のサイズに合って安心した。

「明斗さん。スマホで今の私を撮ってください。4着ありますし、比較のためにも。もちろん、その写真は持っていていいですよ」
「分かった」

 俺はパーカーのポケットからスマホを取り出し、水色のブラジャーを付けた氷織を撮影する。持っていていいと言ったからか、ただ立っているだけの姿以外にも、笑顔でピースサインする姿も撮らせてくれた。
 写真を撮った後、氷織は扉を閉めて2着目の下着を試着する。今度は何色の下着をつけるだろう。楽しみだ。

「明斗さん、2着目を試着しました」
「……おおっ」

 次に試着した下着の色は……青。結構濃い青だから、水色のときと比べて艶やかな印象を抱かせる。氷織の肌の白さが映えて。あと、氷織と初めて肌を重ねたときに身に付けていた下着の色が青だったので、そのことを思い出してドキッとする。

「明斗さん、今度は青ですが……どうですか?」
「凄くいいよ。爽やかな水色もいいけど、この濃い青は大人っぽさがあって。似合っているよ」
「そうですか! 私も青は大人っぽくていいなと思っていました。青系の色は好きですし」
「服や下着だけじゃなくて、部屋にあるものも青系の色が多いもんな。青系の色は氷織らしさを感じるよ」
「ふふっ、そうですか」

 俺の言葉が嬉しかったのか、氷織はニコニコとした笑顔に。大人っぽい姿の中、可愛らしさを感じられて結構ドキッとする。

「じゃあ、この姿も写真に撮ってください」
「ああ」

 さっきと同じように、俺のスマホで氷織の下着姿を撮影した。写真で水色の下着姿と比較すると……水色は爽やかさ、青は大人っぽさや艶やかさとそれぞれの良さがある。
 その後もピンク、黒の順に氷織は下着を試着していった。この2色も氷織に結構似合っているな。
 スマホで撮った写真を見比べているけど、どの色の下着も似合っているし魅力的だ。そう思えるのも、氷織の顔の美しさやスタイルの良さ、肌の白さなどがあってのことだろう。

「明斗さん、どうですか? 3色決まりましたか?」

 気付けば、元の服に着替えた氷織が試着室から出てきていた。

「水色と青は決まった。どの色も似合っているけど、青系の2色は特にいいと思ったから」
「そうですか。私も水色と青はとてもいいなと思いました」
「そうか。あと1色は……ピンクかなぁ。4色の中で、可愛らしい雰囲気なのはピンクだけだし。黒もいいけど。氷織はどうかな?」
「私もピンクいいなって思います。黒は青の下着と雰囲気が似ていますし。可愛いって思ってくれる下着も買いたいですから」
「そうか。じゃあ、水色と青とピンクで」
「はいっ、分かりました!」

 氷織はとても元気良く、そして嬉しそうに返事した。
 その後、黒い下着だけは元の場所に戻して、俺達は水色、青、ピンクの下着を持ってレジへと向かうのであった。
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