恋人、はじめました。

桜庭かなめ

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夏休み小話編

『恭子さんのバイト先で初バイトです。-②-』

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 私は恭子さん達と一緒にカウンターに行きます。最初は恭子さんが私の横に立ってくれることになりました。
 お店の入口の外に、並んでいるお客様達の姿が見えます。いよいよ接客のバイトが始まると思うと緊張します。

「緊張しているかしら、氷織」
「はい。もうすぐ開店ですし、バイトは初めてですから」
「そっか。緊張するわよね。あたしも初めてカウンターに立ったときは同じだったから、氷織の気持ちはよく分かるわ」

 恭子さんや優しい笑顔でそう言ってくれます。恭子さんは明るい笑顔でテキパキと接客していますが、初めてバイトをしたときは緊張したのですね。もしかしたら、明斗さんや沙綾さんも同じだったのかもしれません。

「ただ、初めてのバイトのときは先輩がすぐ側に立っていてくれたの。その先輩のおかげで、緊張したけど何とか接客に臨めたのを覚えているわ。ミスしたときはすぐにフォローしてくれて」
「そうだったんですね」
「だから、今度はあたしがその先輩の役目になるわ。……氷織。緊張することは悪いことじゃないわ。バイトで接客するのは初めてなんだし、ミスがあっても不思議じゃない。まあ、あたしも、1年以上バイトしているのに、最近もミスしちゃうことがあるしね。何かあったらあたしがフォローするから」

 恭子さんはそう言うと、ニコッとした笑顔になりました。今の恭子さんの言葉と笑顔のおかげで安心を抱くと同時に、この緊張感が嫌なものではなくなりました。

「ありがとうございます。頑張ります、恭子さん」
「ええ。一緒に頑張りましょう」

 恭子さんはそう言い、私の背中をポンポンと優しく叩きました。

「午前10時になりました。ジュエルタカノ開店です。いらっしゃいませー」

 甘崎さんはお店の入口を開けて、外にいるお客様に向けてそう言いました。
 店内にお客様達がぞろぞろと入ってきます。
 私が担当するカウンターの前には金髪のポニーテールの女性が立ちました。若い雰囲気ですが……大学生くらいでしょうか。
 さあ、恭子さんや甘崎さんが教えてくれたことを基に接客をしましょう。

「いらっしゃいませ。店内でのご利用ですか?」
「はい。店内で」
「店内でのご利用ですね。かしこまりました。ご注文をお伺いします」
「タピオカミルクティーのレギュラーサイズをお願いします」
「タピオカミルクティーのレギュラーサイズですね」

 そう確認して、レジ打ちをしていきます。後ろから恭子さんが「そうそう、いい調子」と言ってくれて。良かったです。

「他にご注文はありますか?」
「ありません。以上で」
「かしこまりました。確認いたします。タピオカミルクティーのレギュラーサイズをお一つ。以上でよろしいでしょうか」
「はい」
「300円になります」

 私がそう言うと、お客様は500円玉をトレーに出しました。

「500円お預かりします。……200円のお渡しです」

 おつりの200円をお客様に渡します。

「少々お待ちください」

 私はそう言い、注文を受けたタピオカミルクティーを作りに行きます。

「凄いわ、氷織。バッチリよ」

 恭子さんは小声でそう褒めてくれて、右手でサムズアップしてくれました。そのことにほっとします。

「ありがとうございます。緊張しました……」
「ふふっ。じゃあ、タピオカミルクティーレギュラーサイズを作っていきましょう」
「はい」

 恭子さんが側で見守る中で、私はレギュラーサイズのタピオカミルクティーを作りました。

「これで大丈夫ですか?」
「うん、OKよ。店内でのご利用だから、ミルクティーとストローをトレーに乗せてお客様にお渡ししましょう」
「はい」

 恭子さんの教えの通り、トレーにタピオカミルクティーとストローを乗せます。

「お待たせしました。タピオカミルクティーのレギュラーサイズになります」

 そう言い、金髪のポニーテールの女性のお客様にトレーを手渡ししました。

「ありがとうございます」

 お客様は笑顔でそう言いました。ただ、その直後にお客様の視線は、私の顔と少し下の方に交互に動きます。

「……初めて見る店員さんですね。あと、名札のところに書いてある今日限定というのは?」

 お客様からそんな問いかけが。ここに初めて立ちますし、名札には『今日限定!』とも書かれているので気になったのでしょうね。

「実は色々と諸事情がございまして、今日だけ働かせてもらっているんです」
「青山は私の通う高校のクラスメイトで友人なんです。諸事情で人手が足りなくなりまして。それで、青山を含めた友人達にバイトに来てって連絡したんです。そうしたら、青山が引き受けてくれたんです」

 恭子さんは私の横に立って、ニコニコとした笑顔でそう説明してくれました。

「そうだったんですね。青山さん、バイト頑張ってください」

 お客様は納得した様子でそう言ってくださいました。そのことにとても嬉しい気持ちになります。

「ありがとうございますっ」

 私がお礼を言うと、お客様は私にニコッと笑いかけ、席がある方へ移動しました。一人で来店されたお客様なのもあってか、窓側のカウンター席に座りました。
 名札に『今日限定!』と書かれているので、今のような質問が来ることはこれから何度もあるかもしれませんね。

「いい笑顔で接客できていたわね。凄いわ」

 恭子さんはニッコリとした笑顔でそう言ってくれます。また、少し遠くからは甘崎さんがこちらに向けて優しい笑顔を向けてくれました。嬉しい気持ちと同時に、接客できたことにほっとします。

「ありがとうございます。恭子さんと甘崎さんの教えと、恭子さんが側にいてくれたおかげです。あと、名札のことで質問されたとき、フォローしてくれてありがとうございます」
「いえいえ。……この調子で接客の仕事をしていきましょう」
「はいっ。……次のお客様、どうぞ」

 その後も、数組のお客様には、恭子さんがすぐ側にいる中で接客しました。お持ち帰りのお客様、電子マネーで支払いをするお客様など様々なパターンがあり、恭子さんがフォローしてくれるときもあって。そのおかげで、大きなミスをすることなく接客できています。
 数組の接客が終わった後は、恭子さんは隣のカウンターに立って接客を始めました。1年以上接客しているのもあって、恭子さんは明るく可愛らしい笑顔でテキパキとお仕事をしています。凄いです。
 これまでこのお店で何度も接客してくれた恭子さんと同じ店員さんの立場になり、隣同士のカウンターに立って接客の仕事をしている。そのことに新鮮さや心強さを感じながら、私はお仕事をしていくのでした。
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