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プロローグ
0-3.神の住む場所
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天上の存在御座す、雲より高く星より輝く土地『神界』
傷一つない白銀の柱が立ち並び、塵すら漂わない極上の執務室。水面より透き通ったそのテーブルの前で、神としては若輩のユアは、上位神より命を賜った。
『この星を上手く導けよ』
この星とは、ルルの故郷の星である。神々の世界にも序列はあり、逆らうことなど出来ようはずがない。だからこそ、ユアはルルをどう心変わりさせるか悩むのだった。
「あの娘……どうやって言うことを聞かせるべきか」
人生の節目や強い後悔をしていた時には顔を出した。『もう一度やり直さないか』と囁いた。それでも聞かないために、故郷の星を焼き、脅すまでしてしまった。
「我であれば、いくらでも力になれたでしょうに」
上位神への定期報告を終えた帰り道、クロが話かけてくる。
クロ、こいつは元人間だが忠実な使い魔だ。この星が滅びる直接のきっかけとなった『ある事件』を引き起こした罪人でもある。罰として時計の身体にしてやったのは、人間の時と体形が近かったからだ。
「何度も試したが、変わらなかったからな」
この星を滅ぼす事件を起こしたのはクロだ。しかし、『ある事件』を避けようと、クロと何度過去に遡っても結果が変わらなかった。クロの行動を変えても、必ず『ある事件』が起こってしまう。
何度かやり直した後、『ある事件』が起こるのを避けるには、他の人物が必要と結論付けた。そして、クロやその周辺の人物の時間を洗いざらい調べた結果、ルルに行き着いた。
ルルの行動だけは、どれだけ周辺が変化しようと『変わらなかった』。もちろん、質問の仕方や会話を変えれば多少変化はある。しかし、どうやってもその結果が変わらない。
「一体、あやつはどういう星の元に生まれていることやら」
クロの口調はどこか呆れていた。しかし、ユアも同じ感想を持っている。本当に人間なのかと、半ば疑っている。
「調べた限り、普通の娘なのだがな……」
どうやっても変わらないので、試しに始末してみようと考えたこともあった。魔導士に火の魔法を暴発させ、建物から看板を落とし、馬車を突っ込ませた。もちろん、全て同時に。
普通の人間なら死ぬだろうし、亡き者に出来るとユアも思った。
しかし、ルルはどういうわけか巻き込まれずに、呑気に何かを頬張りながら歩いていた。さすがのユアも苦笑いを浮かべるしかなかった。
ゆえに、ユアはルルのことを『特異点』として扱うことにした。『ある事件』を避けるのに、ルルが必要ではないかとの考えにも至った。また、興味の対象としても見ている。
「脅しても、弱みに付け込んでも、うまくはいかない……か」
ユアは整った眉をかすかにひそめる。物憂げな表情は信仰の対象に相応しいだろう。美しい顔の横では、それとは対照的に、鏡もち体形のクロが腕を組んでいる。
恐らく、あの星にルル以外の人間や生物はほとんど残っていないであろう。権能で星の始まりまで時を戻せば、全てを『なかったこと』には出来る。しかし、小娘一人を言いくるめられないようでは、神界で後ろ指を指されてしまう。
「こうなったら、情にでも訴えかけてやるか……?」
痛めつける方向では、もう良い案が浮かばなかった。これ以上、天罰の申請書を提出して、上位神から白い眼を向けられるのも避けたい。見た目麗しく権能も強大で、なおかつ仕事の評判も良い、そんな神でありたいのだ。
神界の庭を手入れする天使たちがユアの姿を見て、歓声を上げる。隣の天使に植木鋏を押し付け、顔を見ようと急いでいる。仕える神官の男は、水を汲んだ桶を地に置き、仕事にならんと手を広げた。
にこやかに微笑みかけるユアに天使たちがみるみる目の色を変えていく。誰から声をかけるかでも争っているのだろう。よく見る光景だ。
「北風と太陽という訳ですな。いやはや、ユアさまはお心が広い。」
(頂点へ至るためには手段を選んでいられないからな……)
思わず唇が邪悪に歪んでしまう。周囲の天使や神々に気づかれないように手で覆う。だが、くくく、と蠢くような笑い声だけはこらえきれない。
「楽しみだなあ。今度、平和な街へクレープでも食べにいくとしようか。」
◇◆◇
すべてを何度でもやり直せる『時の神』に不自由などは存在しない。
目的のためには手段を選ばない麗しき男神『時の神ユア』。
彼に目を付けられてしまったルルの運命は、どこへ向かうのだろうか。
『頂点へ至る』ため、ルルに時を戻させて『星の滅び』を止めたいユア。
『何も失いたくない』から『過去を取り戻す』ことを拒否するルル。
逃げるルルと迫るユア。
お互いの考え方を知っていく内に、二人の距離は少しずつ近づいていく。
『人と神』
立場が異なるこの二人には、過去と未来を経た先に、大きな決断が待っている。
『やり直す』そんな選択をすぐに選べるほど、ルルの運命は優しくないのだった。
傷一つない白銀の柱が立ち並び、塵すら漂わない極上の執務室。水面より透き通ったそのテーブルの前で、神としては若輩のユアは、上位神より命を賜った。
『この星を上手く導けよ』
この星とは、ルルの故郷の星である。神々の世界にも序列はあり、逆らうことなど出来ようはずがない。だからこそ、ユアはルルをどう心変わりさせるか悩むのだった。
「あの娘……どうやって言うことを聞かせるべきか」
人生の節目や強い後悔をしていた時には顔を出した。『もう一度やり直さないか』と囁いた。それでも聞かないために、故郷の星を焼き、脅すまでしてしまった。
「我であれば、いくらでも力になれたでしょうに」
上位神への定期報告を終えた帰り道、クロが話かけてくる。
クロ、こいつは元人間だが忠実な使い魔だ。この星が滅びる直接のきっかけとなった『ある事件』を引き起こした罪人でもある。罰として時計の身体にしてやったのは、人間の時と体形が近かったからだ。
「何度も試したが、変わらなかったからな」
この星を滅ぼす事件を起こしたのはクロだ。しかし、『ある事件』を避けようと、クロと何度過去に遡っても結果が変わらなかった。クロの行動を変えても、必ず『ある事件』が起こってしまう。
何度かやり直した後、『ある事件』が起こるのを避けるには、他の人物が必要と結論付けた。そして、クロやその周辺の人物の時間を洗いざらい調べた結果、ルルに行き着いた。
ルルの行動だけは、どれだけ周辺が変化しようと『変わらなかった』。もちろん、質問の仕方や会話を変えれば多少変化はある。しかし、どうやってもその結果が変わらない。
「一体、あやつはどういう星の元に生まれていることやら」
クロの口調はどこか呆れていた。しかし、ユアも同じ感想を持っている。本当に人間なのかと、半ば疑っている。
「調べた限り、普通の娘なのだがな……」
どうやっても変わらないので、試しに始末してみようと考えたこともあった。魔導士に火の魔法を暴発させ、建物から看板を落とし、馬車を突っ込ませた。もちろん、全て同時に。
普通の人間なら死ぬだろうし、亡き者に出来るとユアも思った。
しかし、ルルはどういうわけか巻き込まれずに、呑気に何かを頬張りながら歩いていた。さすがのユアも苦笑いを浮かべるしかなかった。
ゆえに、ユアはルルのことを『特異点』として扱うことにした。『ある事件』を避けるのに、ルルが必要ではないかとの考えにも至った。また、興味の対象としても見ている。
「脅しても、弱みに付け込んでも、うまくはいかない……か」
ユアは整った眉をかすかにひそめる。物憂げな表情は信仰の対象に相応しいだろう。美しい顔の横では、それとは対照的に、鏡もち体形のクロが腕を組んでいる。
恐らく、あの星にルル以外の人間や生物はほとんど残っていないであろう。権能で星の始まりまで時を戻せば、全てを『なかったこと』には出来る。しかし、小娘一人を言いくるめられないようでは、神界で後ろ指を指されてしまう。
「こうなったら、情にでも訴えかけてやるか……?」
痛めつける方向では、もう良い案が浮かばなかった。これ以上、天罰の申請書を提出して、上位神から白い眼を向けられるのも避けたい。見た目麗しく権能も強大で、なおかつ仕事の評判も良い、そんな神でありたいのだ。
神界の庭を手入れする天使たちがユアの姿を見て、歓声を上げる。隣の天使に植木鋏を押し付け、顔を見ようと急いでいる。仕える神官の男は、水を汲んだ桶を地に置き、仕事にならんと手を広げた。
にこやかに微笑みかけるユアに天使たちがみるみる目の色を変えていく。誰から声をかけるかでも争っているのだろう。よく見る光景だ。
「北風と太陽という訳ですな。いやはや、ユアさまはお心が広い。」
(頂点へ至るためには手段を選んでいられないからな……)
思わず唇が邪悪に歪んでしまう。周囲の天使や神々に気づかれないように手で覆う。だが、くくく、と蠢くような笑い声だけはこらえきれない。
「楽しみだなあ。今度、平和な街へクレープでも食べにいくとしようか。」
◇◆◇
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目的のためには手段を選ばない麗しき男神『時の神ユア』。
彼に目を付けられてしまったルルの運命は、どこへ向かうのだろうか。
『頂点へ至る』ため、ルルに時を戻させて『星の滅び』を止めたいユア。
『何も失いたくない』から『過去を取り戻す』ことを拒否するルル。
逃げるルルと迫るユア。
お互いの考え方を知っていく内に、二人の距離は少しずつ近づいていく。
『人と神』
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