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勉強会
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「はぁ~。先輩、かっこいい」
壇上に上がっていく先輩を見つめて呟いた。
「道ってば本当、辰巳先輩のこと好きだね」
律葉には俺の辰巳先輩への想いは恋愛ではなくただの男としての憧れだと伝えてある。
それでも俺のアイドルに対するような呟きに、律葉は呆れたようにそう言った。
部活動や個人の活動で、良い成績を収めた生徒は全校集会で表彰される。
辰巳先輩は絵や学業においてよく表彰されるので、みんながだるいと騒ぐ全校集会が俺は大好きだ。名前を呼ばれ、生徒会長が待つステージに上がっていく辰巳先輩を穴が開くほどに見つめるのは幸せだ。辰巳先輩は真面目で、風紀委員長もしているから制服をきっちりと着込んでいて、かっこいい。
「道は部活何やるか決めたの? って、まぁどうせ中学と同じで美術部だろうけどさ」
「お察しの通りもちろん美術部だよ。律葉もそうでしょ?」
中学の時は先輩に近づきたい一心で美術部に入った。けれど先輩は個人でアトリエを持っていたし、美術室にはほとんど顔を見せなかったけど。俺は先輩の見ている世界を少しでも覗いてみたくて他の先輩から教えてもらいつつ絵を描き始めた。描いてみれば、ヘタクソなりにも楽しいもので、美術室に通うのは先輩だけが目的ではなくなった。その頃仲良くなった律葉を誘ったら律葉も絵を描くことにハマってくれて、一緒に部活動を楽しんだので、高校に入っても律葉も美術部だと思っていた。
「うーん。僕は、生徒会に入りたいんだよね」
「えっ。そうなの?」
「うん。でも、そのためにはもう少し成績を上げないといけないしさ。部活はちょっと難しそうだよ」
律葉は微笑んでステージの上を見ていた。
「そっか。俺、応援するよ。1年生から選ばれる生徒会役員って書記だけだよね」
「うん。競争率激しいからがんばんなきゃ」
この学校で生徒会に入るのは難しい。しかも今の生徒会長の人は、誰にでも紳士的でスパダリだと言われていてすごく人気のある先輩だから、さらに競争率は激しくなるだろう。
生徒会に入るには、学業と人望など様々なことを考慮して選ばれる。律葉は友人が多いタイプだから、人望の方は大丈夫だろう。
1年生はまず高校生活に慣れるためという名目で、4ヶ月間は部活も委員会もしない決まりだ。
4ヶ月が終了してからボチボチ参加し始める。
今は入学して3ヶ月だから、1年生から生徒会役員を決めるための選定はあと1ヶ月ほどで始まってしまう。
「あのさ律葉、勉強の方、大丈夫……?」
「それがちょっと」
律葉も不安そうな顔だ。
2週間後に控えた期末テストの結果次第では立候補すらさせてもらえないかもしれない。
「辰巳先輩に勉強見てもらったら良いと思う」
「えっ!? いや、でも辰巳先輩ってかなり忙しいでしょ?」
律葉は思いもよらなかったと言うように目を丸くした。
「頼んでみないと分からないじゃん? 一度頼んでみたら良いよ。前に1度教えてもらったことがあるけど、すごく分かりやすかったし、律葉も今はなりふりかまっていられないんじゃない?」
「んん、そうだけどぉ」
それでも律葉は気乗りしていなさそうだ。
「辰巳先輩が教えるのOKしてくれたとしても、僕、好きな人いるからさ。辰巳先輩と2人きりってのはなぁ」
「でも勉強教えてもらうだけだよ?」
俺がそう言うと律葉は困ったように「んん」と唸った。
「あ、じゃあさ、道も一緒に教えてもらおうよ! ね? いいでしょ? 道は先輩のこと、大好きだしちょうど良いじゃん!」
良い案が浮かんだと言うようにニコニコになった律葉に、両手を掴まれて揺らされて、今度は俺が唸った。
「俺はそんな成績あげなくても、今のままで十分だし」
「えー。じゃあ、僕も良いよ。なんとか自力で頑張ってみるし」
「えぇっ!?」
「だって、僕だけのために忙しそうな先輩の手を煩わせるわけにもいかないし」
「そんな。そこを可愛くお願いするのが律葉の良いところじゃんか。んんーー。分かった! やっぱり俺も教えてもらうことにする! ね? だから、律葉お願いして来てよ」
「んー……分かったよ。お願いしてみるよ」
テストに関してはかなり不安なのだろう。頷いた律葉は、その日のうちにはもう辰巳先輩に頼みに行ったらしく、OKだったと嬉々として報告された。テストまで2週間と言うこともあり、勉強会は明日から始まるらしい。辰巳先輩からすればせっかく律葉と関われるチャンスに俺の存在が邪魔すぎるだろう。どんなお願いの仕方をしたか分からないけど、律葉はちゃんと勉強会に俺もくることを伝えてくれただろうかと不安だった。
壇上に上がっていく先輩を見つめて呟いた。
「道ってば本当、辰巳先輩のこと好きだね」
律葉には俺の辰巳先輩への想いは恋愛ではなくただの男としての憧れだと伝えてある。
それでも俺のアイドルに対するような呟きに、律葉は呆れたようにそう言った。
部活動や個人の活動で、良い成績を収めた生徒は全校集会で表彰される。
辰巳先輩は絵や学業においてよく表彰されるので、みんながだるいと騒ぐ全校集会が俺は大好きだ。名前を呼ばれ、生徒会長が待つステージに上がっていく辰巳先輩を穴が開くほどに見つめるのは幸せだ。辰巳先輩は真面目で、風紀委員長もしているから制服をきっちりと着込んでいて、かっこいい。
「道は部活何やるか決めたの? って、まぁどうせ中学と同じで美術部だろうけどさ」
「お察しの通りもちろん美術部だよ。律葉もそうでしょ?」
中学の時は先輩に近づきたい一心で美術部に入った。けれど先輩は個人でアトリエを持っていたし、美術室にはほとんど顔を見せなかったけど。俺は先輩の見ている世界を少しでも覗いてみたくて他の先輩から教えてもらいつつ絵を描き始めた。描いてみれば、ヘタクソなりにも楽しいもので、美術室に通うのは先輩だけが目的ではなくなった。その頃仲良くなった律葉を誘ったら律葉も絵を描くことにハマってくれて、一緒に部活動を楽しんだので、高校に入っても律葉も美術部だと思っていた。
「うーん。僕は、生徒会に入りたいんだよね」
「えっ。そうなの?」
「うん。でも、そのためにはもう少し成績を上げないといけないしさ。部活はちょっと難しそうだよ」
律葉は微笑んでステージの上を見ていた。
「そっか。俺、応援するよ。1年生から選ばれる生徒会役員って書記だけだよね」
「うん。競争率激しいからがんばんなきゃ」
この学校で生徒会に入るのは難しい。しかも今の生徒会長の人は、誰にでも紳士的でスパダリだと言われていてすごく人気のある先輩だから、さらに競争率は激しくなるだろう。
生徒会に入るには、学業と人望など様々なことを考慮して選ばれる。律葉は友人が多いタイプだから、人望の方は大丈夫だろう。
1年生はまず高校生活に慣れるためという名目で、4ヶ月間は部活も委員会もしない決まりだ。
4ヶ月が終了してからボチボチ参加し始める。
今は入学して3ヶ月だから、1年生から生徒会役員を決めるための選定はあと1ヶ月ほどで始まってしまう。
「あのさ律葉、勉強の方、大丈夫……?」
「それがちょっと」
律葉も不安そうな顔だ。
2週間後に控えた期末テストの結果次第では立候補すらさせてもらえないかもしれない。
「辰巳先輩に勉強見てもらったら良いと思う」
「えっ!? いや、でも辰巳先輩ってかなり忙しいでしょ?」
律葉は思いもよらなかったと言うように目を丸くした。
「頼んでみないと分からないじゃん? 一度頼んでみたら良いよ。前に1度教えてもらったことがあるけど、すごく分かりやすかったし、律葉も今はなりふりかまっていられないんじゃない?」
「んん、そうだけどぉ」
それでも律葉は気乗りしていなさそうだ。
「辰巳先輩が教えるのOKしてくれたとしても、僕、好きな人いるからさ。辰巳先輩と2人きりってのはなぁ」
「でも勉強教えてもらうだけだよ?」
俺がそう言うと律葉は困ったように「んん」と唸った。
「あ、じゃあさ、道も一緒に教えてもらおうよ! ね? いいでしょ? 道は先輩のこと、大好きだしちょうど良いじゃん!」
良い案が浮かんだと言うようにニコニコになった律葉に、両手を掴まれて揺らされて、今度は俺が唸った。
「俺はそんな成績あげなくても、今のままで十分だし」
「えー。じゃあ、僕も良いよ。なんとか自力で頑張ってみるし」
「えぇっ!?」
「だって、僕だけのために忙しそうな先輩の手を煩わせるわけにもいかないし」
「そんな。そこを可愛くお願いするのが律葉の良いところじゃんか。んんーー。分かった! やっぱり俺も教えてもらうことにする! ね? だから、律葉お願いして来てよ」
「んー……分かったよ。お願いしてみるよ」
テストに関してはかなり不安なのだろう。頷いた律葉は、その日のうちにはもう辰巳先輩に頼みに行ったらしく、OKだったと嬉々として報告された。テストまで2週間と言うこともあり、勉強会は明日から始まるらしい。辰巳先輩からすればせっかく律葉と関われるチャンスに俺の存在が邪魔すぎるだろう。どんなお願いの仕方をしたか分からないけど、律葉はちゃんと勉強会に俺もくることを伝えてくれただろうかと不安だった。
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