(完結)好きな人には好きな人がいる

いちみやりょう

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ストーカー

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次の日、自習室に向かっている際、俺は律葉の様子がおかしいことに気がついた。
なんだかそわそわしている様子だし、あたりをキョロキョロ見回している。

「どうした?」
「え? あ、いや。なんでもない。いや、なんでもなくはないかも……。なんか最近、見られてる気がするっていうか」

そう言って不安そうにしている。
いつも元気な律葉が怯えているのがかわいそうで、俺はその視線の相手に怒りを覚えた。

「まじ? 大丈夫? ストーカーとかだったり」
「いや、本当大丈夫。多分気のせいだと思う」
「いや、気のせいで済ませてて、何かあったらどうするの? 昨日は俺、寝ちゃったけど今日はちゃんと一緒に帰ろう。もしも寝ちゃってたら叩き起こして」
「そこは寝ちゃわないでよ」

呆れ顔になった律葉は、俺への呆れのおかげで先ほどまでのソワソワが少しおさまったようだ。

そして自習室で始まった2回目の勉強会。
辰巳先輩に褒めてもらいたいので頑張りたいのだが、数学の問題集を開いた俺は、またも問題の意味すらわからない状態に寝そうになって来た。

「道、寝るな。分からないところがあるなら教えてやるから」
「……でも」

チラリと横を見れば、律葉は真剣な顔で黙々と問題を解いていた。
とりあえず今のところ質問する箇所はないようだ。
けれど、それならばそれで俺のことなど放っておいて、真剣な顔をして頑張る律葉の顔でも眺めていれば良いのに、先輩は本当にお人好しだ。

「ほら、どこが分からないんだ」

さらに続けた先輩は、ついには俺の正面の席に移動して来た。

「あの……。どこが分からないっていうか、問題の意味も分からない」

そう答えてから、俺は唇を噛み締めた。呆れられただろうな。
もとから特に好かれてはいないだろうが、嫌われてはいないと思っていたけど、問題の意味すらわからない馬鹿な俺はたった今嫌われたかもしれない。

「じゃあ、算数からやった方が良いな。馬鹿にしているわけではないぞ。基礎が分からなければ先には進めない。最後までちゃんと教えてやるから、諦めるな」
「ぇ……」

先輩は困惑する俺をよそに、ルーズリーフを1枚取って、俺のために算数の問題を作ってくれた。そして、その問題の解き方を、本当に俺を馬鹿にすることなく1から教えてくれた。
先輩の教え方は本当に分かりやすくて、まるで自分じゃないみたいに、問題がサクサク解けた。

「よし、全問正解だ……。っと、そろそろ時間だな」
「あ、はい。本当、分かりやすかったです。ありがとうございました」

気がつけば勉強を始めてから2時間ほど経っていた。

「本当、辰巳先輩のおかげで僕、今までで一番良い点数とれそうです」

律葉も嬉しそうにお礼を言った。

「じゃあ、暗くなる前に帰らないと」

俺がそう言うと先輩は「このあと何かあるのか?」と首を傾げた。

「僕の考えすぎかもしれないんですけど、ストーカーされてるかもしれなくて」

律葉が不安そうに答えると、先輩は眉を潜めた。

「ストーカー? 学園内で?」
「最近よく視線を感じて。あと、下駄箱とか引き出しとかに、その……、あれがついたティッシュが入っていたりとか」

それは俺も初めて知ったのでギョッとした。

「それは明らかに考えすぎじゃないじゃないか。先生に相談は?」
「先生には……。僕、オメガだから」

律葉はそう言い澱んだ。
どうして言い澱んだのか、俺には分かった。
先生の世代は特にオメガへの差別意識が強い。
ここの学園の教師がオメガを差別しているかは定かではないが、それでも律葉も何もなしに大人を信用できはしないのだろう。
先輩も思うところがあったのか、ただ頷いて「そうか」と言った。

「なら、律葉と道の2人で帰すわけにはいかないな。これから勉強が終わったら、俺が2人を部屋の前まで送り届けよう」

先輩はそう言って本当に、困惑する俺たちと一緒に自習室を出た。

けれど、そのタイミングで俺のスマホがヴーヴーと震えた。

スマホに表示されたのは『義母さん』の文字。

「あの、先帰っててもらえますか?」

俺は少し前を歩く2人にそう告げた。

「え、どうしたの? 道」
「義母さんから電話。心配してくれてるんだ。電話したらすぐ追いつくから先行ってて」
「だが、物騒だろう」

先輩がまた眉を潜めた。

「あはは。俺は大丈夫だよ。律葉みたいに可愛くないし、そもそも、今ストーカーされてるのは律葉なんだから。でも、心配してくれてありがとうございます」
「……。分かった。すぐに来いよ」

帰っていく2人を見送って、俺はすぐに義母さんに電話をかけなおした。
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