(完結)好きな人には好きな人がいる

いちみやりょう

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辰巳視点 

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目の前でここは夢なのだと言いながら、辛い過去を話し終えた道は、辰巳のプロポーズには最後まで頷かなかった。『見つかっちゃって一緒にいられなくなっちゃう』。道はそう言った。

話の流れから言って、きっとクズな父親に見つかったのだろう。
道がそんな目にあっていたなんて何も知らずに、のうのうと生きていた自分が恨めしかったし、道を救ってくれたという夢の中の俺に嫉妬する気持ちも湧き上がる。

道のうなじに残るケロイドは、道と体の関係を持ち始めた頃は、セフレ相手か何かでベータ同士の行き過ぎたプレイで出来たのだと思っていた。
けれど道の気持ちや自分の気持ちに気がついてから付き合い始めて、道は他にセフレはいなかったのだと知った。傷について今まで聞くこともできずにいたが、間違いなく父親や兄からの虐待の跡だろう。何がきっかけになったのか分からないが、今日、道のフェロモンの匂いを嗅げたということは道はまだ誰とも番になっていないということだ。それは本当によかった。

けれども、ふつふつと怒りが湧き上がる。

なぜ、息子を犯すような犯罪者が、被害者である息子にまた接近できる。
そんなクズな奴らなど、一生牢屋に打ち込んでおけば良いのもを。

だがきっと、道の父や兄はアルファなのだろう。
辰巳は、アルファでありながら国のアルファに対する優遇や、オメガ差別に辟易していた。
そもそも、そう言った思想を持つのは、今は一部の40代以降の人間たちで、辰巳の世代ではもはや見かけることもない思想だ。辰巳の親はまさにその世代だが辰巳がそんな気持ちの悪い思想を持たずに成長できたのは、偏に両親のおかげだろう。
国を代表する様な大きな病院を経営する父親と、副作用の少ない抑制剤や不埒なアルファ撃退用のスプレーなど第二性の……主にオメガ用の製品や薬を研究する母親。両親はどちらもアルファだったが、どのような性別の相手にも態度を一ミリも変えることなく接する2人を見て、辰巳はずっと尊敬していた。

ヴーヴー……ヴーヴー

道が泥の様に眠る横で、ベッドの端に捨て置かれた道のスマホが震えていた。
悪いとは思いつつも通話ボタンを押して電話に出ると、慌てた女性の声が耳に飛び込んできた。

『道!? 大丈夫!? 電話出てくれないから心配して……、今、そこの近くの駅についたけど』
「すみません」
『っ!?』

辰巳が声を出すと、電話の向こうで女性が息を飲むのが分かった。

『あなた、誰? 道は?』
「俺は道と交際させていただいております。辰巳良英と申します。失礼ですが、あなたは?」

警戒心をあらわにする声に、辰巳は冷静に返事をした。先ほどの道を心配する言葉と慌てようからして、悪い人ではないのだろうと思う。

『私は道の義理の母よ』
「……そうですか。道は今、疲れて眠っています。どうやら父親と接触した様で、様子がおかしかったのですが、詳しい状況が分かりません。今、こちらの最寄駅にいるとおっしゃっておりましたが、明日の朝7時ごろ、状況を説明しに学校へいらしていただけませんか。不躾なお願いで申し訳ありませんが学校の方には話を通しておきますので」
『道は無事なのよね』
「はい。今は安全な場所でぐっすり眠っています」
『……分かったわ。明日、7時に行けば良いのね』

女性はしばらくの間を置いて了承した。
電話を切ると、先ほどの女性からなのだろう。通知が何件も溜まっていた。
道は父親と接触したことでスマホを確認する余裕もなかったのだろう。
道の義理の母親が、道を心配して大切にしてくれるような人でよかった。
まだ直接会ってないので信用仕切ることはできないが、そう思った。

「道、必ず助けるから。道を地獄に行かせたりはしない」

道に布団をかけ直すと、道が辰巳の服などで作った愛おしい巣の中からカサリと、紙の音が聞こえた。

「なんだ? ……これ……俺の絵?」

小さいメモ用紙に描かれている猫の絵。
幼い頃の辰巳の絵の癖が目立つ、今に比べてまだ粗の多い拙い絵だ。

ぶわりと鳥肌が立った。恐怖や嫌悪じゃない。
この感情は感動だ。

「道、だったのか。俺の大ファン一号は。そうか……」

幼い頃、父親の経営する病院で、辰巳の絵を見て涙を流していた少年を思い出す。
作り物のような綺麗な顔をして、けれど、感情を持っていないかの様な、能面のような表情をした少年だった。無表情のまま辰巳の絵を見て静かに涙を流す少年は、今にも消えてしまいそうで、何とかして彼を笑顔にしたいと思って、持っていたメモ帳に絵を描いた。

誰かのために絵を描くのも、それをプレゼントするのもあの子が初めてだったっけ。
今はよく笑うから、あの無表情の少年と全然結びつかなかった。

あの頃、学校の先生や近所の大人などからは辰巳に父親の後を継いで医者になれとうるさく言われていた頃だった。
絵の道に進みたいと思う辰巳の心を、何の悪意もなく踏みにじる大人たちにうんざりしていた頃だったから、辰巳の絵を見て涙を流すあの少年に出会えたことは辰巳の人生に置いて大きな心の支えとなっていた。
何も、医者になることだけが人を救うことではない。そんな風に言ってくれる両親の言葉を、素直に受け取れる様になったのは、幼い頃の道に出会ってからだった。

フッと息が漏れる。

「俺の恩人と初恋の人は道だったんだな……」

まぁそれが分かったところで、辰巳のするべきことは変わらない。
道だけは、何があっても守りたい。
けれど、今の辰巳にできることは本当に限られている。
自分1人では道を助けることもできない自分を情けなく思い、ため息をつきながらも、辰巳は一度両親に相談するべく自分のスマホを手に取った。
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